第369話 富豪たちのお願い1
六島全ての大枠の開拓は終了した。後はその中身を充実させていくだけである。
竜郎や愛衣が学校に行き、両親たちが仕事や家事をやっている間に、仲間たちが空いた時間を使ってのんびりと手を加えていってくれていた。
そして竜郎たちもまた一週間経ち休日になると、島へと出向いて開拓の続きをしていくことに。
やってきたのは嵐島。嵐島ととりあえず名付けた島だが、魔道具で結界のドームを張っているため雨風に吹かれることなく、島の上は穏やかなものだ。
「ねぇ、パパ。ここで何をするんだっけ?」
「ここではウリエルから頼まれていた魔物の創造をして、嵐島の畜産施設に加えるのがメインだな。
量産体制に入りたいから、早めに作っておきたい」
「確かお客さんに、これはないですか、これの代わりになるようなのはないですかって聞かれたんだっけ」
「そうみたいだな。まぁこっちとしても食材の種類が増えるに越したことはないから、別にいいんだが」
「また美味しいの作るの!? やったぁ!!」
「「うまま!?」」
「ふふっ、本当に期待を裏切らない反応だね、この子たちは」
一緒に来ているのは愛衣と菖蒲、楓、そしてニーナ。
こういう反応になることは分かっていたので、愛衣と一緒に微笑みながらさっそく注文されていた魔物の創造をはじめていく。
今回創造するのは、全て準美味しい魔物たちだ。
竜郎たちが頑張って集めている美味しい魔物ほどではなく、地球の似たような食材でも張り合えないほどではないレベルの食材。
だが準美味しい魔物の素晴らしさは、竜郎であれば簡単に繁殖させ量産できるという点にある。
準美味しい魔物といえど、それと地球産の食材で張り合おうとするのであれば、最高級の品質のものでなければ同じ土俵に立つことすら許されない。
美味しい魔物ほど復活させるのに要求される魔物の種類も簡単……あくまで竜郎たち基準の話ではあるが、《魔物大辞典》で検索してみた際にこんなものでいいのかと竜郎身拍子抜けしてしまったほどである。
「たまたま今回作ろうとしているのが、簡単だった説もないわけじゃないがな」
「でも直ぐ集まっちゃったしね。こういうのばっかりなら、空いた時間で適当に集められそう」
地球では手塩にかけて大事に育てなければならない最高級食材でも、同等以上の食材が大量に簡単に手に入るのならやらない手はない。
頼まれたものではあるが、なんだかんだと竜郎も愛衣も乗り気である。
「わざわざこのために、学校帰りに一度異世界に行って素材収集までしてきたからな。どんどん作っていくぞ」
「たつろー、がんばれー」
「がんばって~」
「「ぱっぱ、ばんばー」」
愛衣の左右の膝に座り手を振る楓と菖蒲、頭の上に乗るニーナに見守られながら数匹分の素材を置き終わり、創造系スキルを用いて生み出していく。
「あははははっ、何この子っ、かっ、可愛いかも、ふふひっ」
「「「「「グワッグワァ~~」」」」」
愛衣が何やら爆笑しているが、基本的には同じ食材になるので続けてもう一種も同様に生み出していく。
素材も一部流用できて、苦労もない。
「「「「「クゥワ~~~」」」」」
「あははははははっ」
「「きゃっきゃっ、ぶーぶー!! ぶーぶー!」」
「ぶーぶーってブタのこと? これブタじゃないよね、パパ」
「そうだぞ。これは豚じゃなくて、こっちの動物で例えるならガチョウと鴨…………なんだが、なんというか……すっとぼけた顔してるなぁ」
「「「「「ガァ~~~?」」」」」
「「「「「クァ~~~?」」」」」
「あはっ、あはははっ、ははっはははははっ」
「愛衣に大ウケしてるからまぁ良いか」
生み出されたのは、どこぞのゆるキャラにでもいそうな、目が大きくとぼけた表情に見える顔に、太りすぎてほぼ体の形が球体になってしまっているガチョウの魔物と鴨の魔物。
大きさは体高3メートルはありそうな、それら二種の鳥類と比べればとんでもなく大きな魔物だ。
両者はかなり似通っているが、ガチョウ版の魔物の方が大きくより丸々と球体に近い。
鴨はかろうじて首がある程度には、ガチョウと比べればスマート……といえなくもない。クチバシも鴨の方が細長いので、両者を並べれば余計に細身に見える。
また一番分かり易い見分け方は色だろう。ガチョウの魔物は真っ白なのに対して、鴨の魔物は白ベースに黒や茶色の模様や斑点がついているので一目瞭然だ。
とぼけた顔の魔物がコロコロ転がったり、翼をパタパタさせて数センチ浮く姿は本当にギャグアニメでも見ているかのような面白さと可愛さがあった。
愛衣はツボに入ってしまったからか爆笑し、母の笑いに釣られたように楓や菖蒲、ニーナも一緒になって笑っていた。
しばらくたってようやく落ち着き、愛衣も普通に話せるようになった。
「えっとこれは鳥肉……というよりも、肝臓の方だよね、いるのって」
「こう見えて肉も美味いみたいだけど、本命はその通りだ」
この二種ときて察するのは容易いように、この魔物たちを生み出した目的はいわゆる『フォアグラ』。
舌の肥えた富豪たちや、料理人として雇われた者たちから、似たようなそちらの食材をなんとか用意できないかと要望があったのだ。
「うぅ、でもなんか可愛いし愛嬌あるし、殺しちゃうの可愛そうになってきちゃった……けど、仕方ないよね」
「どうしても愛衣がペットにしたいっていうなら新しくもう何体か創るが、元来の目的は食材のため──だからな。初志貫徹といこう。
畜産農家の人たちだって、別に生き物を殺したくて殺してるわけじゃないんだしな。
とはいえ他の食材になってくれる魔物同様に、できるだけ苦しまず一瞬で逝けるように気をつけるつもりではいるが」
「ニーナは可愛くても食べ物なら余裕だよ」
「「あう!」」
愛衣と違いドラゴン娘たちは美味しいと分かっているだけに、このガチョウや鴨に対しては割り切りが良かった。
殺気を感じたのか、ガーガークゥークゥー鳴いていた二種が石化したように動かなくなってしまったので、竜郎は落ち着くようになだめておいた。
「最近はご時世的にフォアグラは残酷だって作らせないようにする方向に、世界が動き出してるみたいだしな。アニマルウェルフェアとかだったか」
「無理やり食べさせて太らせてってやつだしね。人間って本当にいろいろ考えるもんだよねぇ」
「富豪さん方も本格的に取り締まわれて駄目となってからも平気で食べているのがバレれば、世間からの風当たりも悪くなるだろうしな」
「そこで私らに代わりのものを用意してもらえないか、頼んできたってわけだ」
「俺たちが用意したレストランなら、絶対に人目にさらされることもなく、それぞれのプライベートも完璧に守られている。
だからそっちなら、お金がある限り食べにくることが出来るわけだからな。
フォアグラが好きな人も結構いるみたいだし、そういう人は是非とも食べるための方法は確保しておきたいって思うのも分からない話じゃない」
世界三大珍味と持て囃されるうちの一つだけあり、フォアグラは富豪たちからの要望も高かった。
フローラにも料理の幅が広がるからと頼まれたので、きっちりと今日の食材分も持ち帰る予定だ。
「それじゃあ、俺たちは生産者の特権として、ちょっとだけ試食というか味見をさせてもらうとしよう」
「世界の大富豪たちがこぞって食べたいっていうくらいだし、ちょっと気になるもんね」
「やったー!」
「「うー!」」
ということで早速二体ずつ死んだことすら気づかないほど速やかに屠殺し、残り三体はこの二種のために用意していた繁殖用の水の張った人工池に入って行ってもらう。
竜郎たちはフローラと違って処理の仕方も分からないため、すぐさま《無限アイテムフィールド》にしまって、血肉や内蔵を細かく内部で分けて取り出した。
「味見だからこれくらいでいいな」
「えー」「ううぅー」
「ちゃんと美味しく料理してくれたのはお夕飯で食べられるから、今は我慢しておこうね」
「はーい」
「「あう」」
竜郎や愛衣が適当に作るよりも、フローラが最初から最後までやったほうがずっと美味しくなるに決まっている。
なので本当に味見程度の量だけ切り取ると、鮮度が落ちないよう再び《無限アイテムフィールド》の中で時を止めて保存しておく。
取り出したのはフォアグラと呼ばれている肝臓の部分と、その肉。
3メートル級の鳥たちなため、肝臓も肉の部位も大きく、それだけでかなりの人の分を1匹だけで賄えそうだ。
「さすが太ってるってだけあって、かなり白っぽいお肉だね。油分たっぷりって感じ。太らない体になっててよかったぁ」
「こんなの日常的に食べたら、メタボまっしぐらだろうしな。けど鴨のほうが若干赤身が多いか」
メインのフォアグラは後にとっておき、まずはその肉から食べていくことにした。
赤い部分がかなり少なく、見事にカロリーが跳ね上がりそうな脂がたっぷりのった肉。
それを適当にガチョウ魔物の肉と鴨魔物の肉と二つのフライパンに分けて乗せ、最初は弱火で様子を見ながら皮目を下にし焼いていく。
「油も引かなくて良いとは言われてたけど、ちょっと焼いただけで凄い油が出てきたね」
「でもこの匂いはなかなか美味しそうだ」
「早く食べたーい!」
「「あうあうあ!」」
愛衣はフライパン担当で、竜郎は魔法で火の担当。二人で焦げないように仲良く見張る。
準美味しい魔物食材なのだがニーナと楓と菖蒲は、その香りだけでヨダレを垂らしそうな勢いだ。
素人すぎて火加減も適当ではあるが、味付けも塩コショウをシンプルに少し振ってできあがり。
スペルツ由来の合成スパイスを使えば手軽にもっと美味しく出来るだろうが、本来の味が知りたいのでこれでいい。
お皿に少しずつ切り分けて配膳していき、行き渡ったところでいざ実食。
「わっ、柔らかくて美味しいね。でも食べすぎると、くどく感じるかも」
「濃厚で柔らかな肉質に、しっとり広がる味って感じか。塩コショウだけだったのに、濃い味だな。確かに、これくらいの量で正解だったかも知れない。
ガチョウの方が味は濃厚だが、もっと量を食べるなら俺は鴨の方が好みかな」
「ニーナはどっちも好きー」
「「あぅ♪」」
美味しい魔物には及ばないが、それでもこれだけ適当に素人が焼いただけでも分かるほど、やはり普通の食材とは一線を画した味わいだった。
となれば大本命のフォアグラの方も期待ができると、二つのフライパンを綺麗にしてから、今度は切り出したガチョウの鴨のフォアグラを分けて同じように焼いていく。味付けもほんの少しの塩コショウだけと、素材の味を重視して……といえば聞こえは良いが、それ以上たいしたこともできないからこうなったとも言える。
「ん~なるほどねぇ。確かに美味しいかも。それに同じフォアグラでも、ガチョウと鴨で、味の違いがしっかり分かるもんなんだね。
ガチョウの方が味が特徴的というかなんというか、それでいて舌触りはなめらかでちょっと硬めかな?」
「確かに鴨のほうが柔らかく感じたな。とろけてくようなガチョウのフォアグラと、じゅわっと溶けてくみたいな鴨のフォアグラみたいな感じで。
にしてもちゃんとしたフォアグラを食べたことはなかったが、結構いけるもんなんだな。正直舐めてたよ。
クリームソースみたいに濃厚なガチョウに、まろやかなチーズソースみたいな味わいの鴨。これはどっちが好きかは個人で分かれそうだぞ」
「たつろーはどっちが好き?」
「意外とガチョウのほうが好きかな。ちょっとクセになる味をしている」
「それも分からなくはないけど、私は鴨の方が好きかなぁ。こっちの方が食べやすい味してる気がする。ガチョウも美味しいんだけどね」
「ぎゃう♪ 美味しー!」
「「まぅまぅ!」」
「………………まぁ、どっちでもいいよな」
「だねぇ。美味しいは美味しいんだし」
二人で真面目に味について語っている横で、パクリと食べて美味しい美味しいと連呼するだけのドラゴン娘たち。
ちゃんと味わって食べてくれているのか疑問が湧いてくるが、本人たちが幸せそうなら別にいいかと、それ以上語るの止めて残りの試食分も美味しく頂いていった。
「でも分かってたけど、やっぱり美味しい魔物には勝てないね」
「流石にな。俺たちの舌のハードルが上がってるっていうのもあるかも知れないが、感動するほどってわけではなかったし」
「私とたつろーっていう、料理担当の力不足ってのもあるかもだけどねぇ……」
「それは言わない約束だぞ。自分でも分かってるから。
だがあの広い異世界に、15種しか美味しい魔物は存在しないんだ。
こういう準美味しい魔物食材も充実させていって、様々な組み合わせを作れるようにすることで、料理の種類も幅も広がっていくはずだ」
「そういうのも異世界の方にも卸せば、ますます食い倒れ街道が盛り上がってくれるかも知れないしね!」
「そうなったら最高だな。これは残りの創造予定の魔物も、早く作りたくなってきた」
「だね! それじゃあ、次の魔物もさくっと作ってこー」
「よっしゃ、任せてくれ」
まだフォアグラや肉を食べたそうにしている3人の頭を切り替えさせる意味も兼ねて、二人は元気よく次の魔物の創造のための準備をはじめていった。
次も木曜日更新予定です!




