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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十九章 無人島開拓編

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第370話 富豪たちのお願い2

 続いて竜郎が創造したのは、全長8メートル以上もある巨体を持つ白い魚。長くクチバシ状に突き出した鼻に、大きな歯のない下向きの口。その周りには左右2対の太いヒゲが生えている。

 だが魚と言うにはあまりにも、その見た目は魚らしからぬ部位も多かった。

 体の側面や背中にはゴツゴツとしたトゲのような攻撃的な鎧を纏い、魚類でありながらエラ呼吸と肺呼吸を両立し、水掻きと鋭い爪を持つトカゲのような四つの脚で陸上も平気で這い回れる異形の姿を持つ。



「かなり厳つい子が出てきたね。男の子とか、こういうの好きそうかも」

「恐竜っぽさがあって、なかなかかっこいい見た目をしてるしな」

「でもパパ。あんまり美味しそうじゃないけど、お煎餅みたいにボリボリ食べれば良いのかな?」

「「あう?」」

「骨の鎧みたいなのは食べないぞ。その中の身の方は美味しいらしいが」

「けどこの子の場合は、身を食べるのがメインってわけでもないんだよね? たつろー」

「もちろん。とはいえ殺したからには、しっかり余すことなく身の方もいただかせてもらうけどな。

 身の方がこっちの世界で受けなくても、異世界の方ならいくらでも需要はあるだろうし」

「あれ? じゃあニーナたちはどこを食べればいいの?」

「「あうあう」」



 まだハッキリと何を言っているのか分からないはずなのだが、相変わらず食べ物の話になるとすこぶる察しのいい楓と菖蒲も、「それそれ」とばかりにニーナの言葉に相槌を打つ。



「いちおうこっちのお客からの要望ってことで、ニーナたちが食べるためってわけではないんだが……結果的には俺たちも美味しければ食べるんだから変わらないか」

「だねぇ。このお魚はね、地球ではキャビアって言われてる卵巣……? というか、卵だね。卵が美味しいらしいんだよ」

「卵! ニーナ卵も大好き!」

「「うー!」」

「いつも食べてるニワトリの卵とは違うけどな」



 この魚の卵を地球のものに置き換えるなら、それはフォアグラに続き世界三大珍味と評されるキャビアにあたる。

 つまりこの脚の生えた厳めしい鎧魚のような魔物は、チョウザメという魚が一番地球の生物では近いともいえるだろう。


 年々天然のチョウザメの数も減っていき、その漁獲量も減少の一途をたどっている。

 フォアグラとは別の理由で食べられなくなる日もくるのではと心配になった一部の富豪が、早めに手を打とうとウリエルたちへとキャビアに似た食材を頼み込んできたというわけである。



「チョウザメは淡水魚だが、こっちは海水魚……っていうのが関係してるかどうかはよく分からないが、こっちのキャビアは塩漬けしなくても最初からある程度、塩漬けしたような味がするらしい」

「へぇ、じゃあ卵を取り出したら、あとはもう食べるだけって感じでいいの?」

「寄生虫の心配も魔物ならないからな。こっちで普通に海の方の生簀で泳がせていおいても問題ない。

 ただ所謂いわゆるキャビアって言われてるのは、チョウザメの卵を塩漬けにしてからさらに熟成させる必要があるんだ。

 だからちゃんと綺麗に取り出せばそのまま食べられそうではあるが、それだといわゆるフレッシュキャビアってやつになる」

「じゃあ基本熟成させてからって感じなのかな」

「俺もキャビアなんて食べ慣れてないからよく分からないが、そのへんの差配はウリエルたちがやってくれるみたいだから、俺たちはなんかそういう違いがあるんだな程度に思っておけばいいさ。

 てなわけで早速で悪いが試食させてもらうとしよう──」



 繁殖用の個体は海の方に用意した生簀に入って泳いでもらい、試食用の個体を屠殺して肉や卵を《無限アイテムフィールド》内で綺麗に分けていく。



「まずはやっぱり本命は後にして、刺し身で身の方を食べてみよう」

「白くて綺麗なお肉だね。脂も乗ってて美味しそうかも」

「わーい! ニーナお魚も大好きなんだ。はやく食べさせて!」

「「あう!」」

「慌てなくてもすぐ渡すから、ちょっと待っててくれ」



 ぐいぐいと身を乗り出してくるドラゴン娘たちを愛衣に押しやって貰っている間に、竜郎は肉を薄く切ってそれぞれの皿に盛り付けていく。

 白身の魚ではあるがこうして切り分けていくと、透明感ある魚肉に薄っすらと脂の層が見えほど脂肪分の多い魚だと教えてくれる。

 ニーナと菖蒲、楓たちは好きに食べてもらいつつ、竜郎と愛衣は味わうように一切れ箸でつまんで、まずはなにも着けずに口にいれていく。



「……いいな。これ。美味しい魔物関係以外の刺し身の中だと、トップレベルで好きかもしれない」

「ん~~~! ほんと美味しいね、このお魚。なんていうのかな、くどくないんだけど魚肉の味はしっかりしてて、凄くお上品な味って感じ。これは醤油よりポン酢とかの方が合うんじゃない?」

「醤油だと少し主張が強すぎて、この風味が味わえなくなりそうだしな。どっちもやって試してみよう。ワサビはいるか?」

「ちょっとちょうだい」

「ニーナもそれで食べてみたい!」



 ニーナに続いてちびっこ二人も追従してきたので、残りの刺し身にポン酢と醤油を分けてかけ、ワサビを少しのせてからそれぞれ違いを確かめるよう口の中へと運んでいった。



「やっぱり、これはポン酢が正解じゃない? ポン酢の酸味で味がギュッと引き締まって、美味しさが際立ってる感じがするもん」

「醤油も美味しいんだけどな。ポン酢のほうが、より魚本来の味を楽しめている感じで俺も好きだな。

 このコクと旨味はしっかりと味わいたい。にしても……本当に美味しいな。いくらでもいけそうだ」

「じゃあもっと食べよ! ニーナはここでお腹いっぱい食べても、お夕飯もいっぱい食べられるよ」

「まだ数にも限りがあるから、たくさん食べるのはまた今度な」

「そうそう。それに本命は魚肉じゃなくて、卵のほうなんだからね」



 予想以上に魚肉の方を気に入ってしまったが、それは嬉しい誤算として次の本来の目的であるキャビアを試していくことに。

 《無限アイテムフィールド》から小さな粒状の、白に近いグレーな色をした魚卵を皿へと盛り付けていく。



「キャビアって黒いイメージあったけど、これは白いんだね」

「確か塩漬けしたり熟成したりと、加工していく過程で黒くなっていくんじゃなかったか? あと粒も少し大きいかもな、こっちは」



 念のため竜郎が解魔法で問題がないか調べたが、特に異常も見当たらないため小さな匙で掬うようにして一口食べてみる。



「「あーこんな感じか(ね)」」



 薄っすらと塩味がきいた魚卵の味が、小さな卵の粒を噛み潰すたびにねっとりと舌に絡みついてくる。

 イクラにも近いものを二人は感じたが、そちらよりもずっと濃厚で、より魚卵の風味が鼻を抜けていく。



「キャビアってこんな味なんだね。なんかナッツっぽい味もしない?」

「ああ、結構するな。味の主張も強めだし、生で食べるというよりも、パスタとかに混ぜて食べたほうが美味しそうだ。

 だが正直に言ってしまうと魚卵なら俺は、タラコだとかカラスミの方が好きかもしれない」

「あーね。すっごい高級食材で、なかなか食べられないってイメージのキャビアだったから身構えてたけど、意外とそこまでの衝撃はなかったかも。美味しいには美味かったんだけどね」

「熟成させたらまた味も変わるんだろうが、そっちも劇的に変わるってこともないだろうし、俺たち的にはむしろ魚肉のほうが当たりだったのかも知れないなぁ」

「あ、だったらまた今度でいいからタラコとかカラスミが作れるお魚の魔物も作ろうよ」

「いいな。ご飯と一緒に食べたら絶対に美味しいはずだ。

 想像するだけでニーナたちじゃないが、お腹が空いてきた」

「ふふっ、ちょっと私も分かるかも」



 期待値が高かったせいもあったのか、フレッシュキャビアの味はそこまで竜郎や愛衣には刺さらなかった。

 美味しい魔物であれば、それもまた力技でひっくり返せたのだろうが、準美味しい魔物ではそこまでの味のポテンシャルはない。

 とはいえ魚肉の方は非常に気に入ったので、竜郎としても中々に創造してよかったと言える魔物であることには間違いなく、非常に満足していた。


 次の魔物も控えているため、軽く片付けてから魔物創造を行っていく。



「「ぶーぶー!」」

「とっても食べがいがありそうなブタさんだ! ニーナこういうの待ってたかも!」

「こっちは確かにブタさん……というよりイノシシかな?」

「ああ、極論ブタもイノシシも同じと言えば同じだが、イノシシのほうが見た目にもしっくりくるだろうしな。

 とはいえ、これもイノシシが目的の食材というわけでもないんだが」



 新たに創造されたは、体高一メートルほどのイノシシ。

 口元からは立派な牙が4本、空に向かって伸びている。外見は本当によくいるイノシシそのものだ。

 普通と違う点といえば、ダルメシアンのような白黒のブチ模様が特徴的と言ったところか。

 また先ほどのチョウザメに近い魔物は、竜郎の眷属として生まれたため大人しかったが、本来は非常に凶暴で一般的な国では、その一体で小さな町なら壊滅させられるだけの力を持つ。

 だがこちらは眷属であることをのぞいても、非常に理性的な瞳で竜郎を見つめ穏やかだ。



「それじゃあ、これで頼めるか?」

「「「「「ブヒィイイイ!」」」」」



 だがそのイノシシは肉にされるために、竜郎に生み出されたわけではない。

 竜郎がパルミネを用いて作った飼料を目の前に出すと、そのイノシシたちは鼻息荒く食べはじめる。

 すると頭や背中から、ポコポコと白色や黒色のコブのようなものができていく。

 そのコブは一定の大きさまで成長すると、ポロポロと体から抜けて落ちていき、また新しいコブができていくというループがはじまる。



「そのくらいで大丈夫だ。ありがとな」



 竜郎に褒められると嬉しそうにしながらも、与えられた飼料を一心不乱に食べ、コブを体にたくさん生やし続けた。



「この丸っこいのが、本命の例のやつ?」

「ああ、そうだ。このキノコが本命だ。やっぱりフォアグラ、キャビアときたら、これも欲しくなるってものだろうしな。

 要望がなかったとしても俺もここまできたら、3種全部をコンプリートしておきたかったんだ」



 そのコブのように抜け落ちたものの正体は、キノコ。

 地球ではフォアグラ、キャビアに続き世界三大珍味として位置づけられる『トリュフ』に最も近い味わいのものである。



「じゃあ、このイノシシは食べられないの?」

「残念ながら、こっちの肉は食用には向かないらしい。トリュフっぽいキノコが作れる影響なのか、肉の味がかなり独特らしいんだ」

「そうなんだぁ……、美味しくないならニーナも別にいいかな」

「「あぅ……」」



 実際に食べてみれば分かることだが、そのイノシシは少し特殊で、その肉には様々な香水を滅茶苦茶にミックスしたようななんとも耐え難い風味がするようで、わざわざそれを知って食べようと思うものは異世界にもいない。

 だがこのイノシシは、栄養を取れば脂肪を蓄えるように体からキノコを生やすことができ、野生下ではじっと動かず待ち続け、そのキノコをエサに他の小さな魔物をおびき出し捕食している。



「食べるために屠殺する必要がないから、数も最低限いてくれればいいっていのはメリットだから、別に食べられなくてもいいけどな」

「他にもいっぱい、美味しい食材はあるわけだしね」



 さっそく大量に手に入れた白トリュフと黒トリュフを回収し、それぞれの味を試すために一口サイズに切って皆で試食していく。



「「「ん~~~?」」」「「う~?」」



 そして皆一斉に、首を傾げた。



「別に美味しくはないような? 味もそんなにするってわけでもないし。香りはすっごくするけど」

「キノコ単体としてなら、普通にシイタケとかの方が美味しいような気がするな。

 たぶんこれは、この強い香りを楽しむもの…………? なのかもしれない」

「これだったらニーナはキャビアの方が好きかも」

「「あうあう」」



 白トリュフも黒トリュフも食感や味わいに違いはあれど、それを生で食べてみても別段そこまで美味しいとは5人には思えなかった。



「しいていうなら白いキノコの方が好きかな。なんか酸味が強くて、フルーツみたいな香りが強いような?」

「白のほうが華やかな香りがするよな。食感も白のほうが食べやすくはある。

 これはスパイス……とは少し違うが、何かと一緒に調理してはじめてポテンシャルを発揮するタイプの食材なのかも知れない」

「だねぇ。ここはフローラちゃんの手腕に期待しよっか」

「それがいい。ここで素人が適当に何かしようとしたところで、食材を無駄にするだけのような気もするしな。

 しかしこれだけ香り高い食材というのなら、スパイスの研究をしてるアーロンさんに渡してみるのも面白いかもしれない」

「それは確かに面白そうかも。何か新しい化学反応が起きるかもね」



 キャビアと同様に期待値が高かっただけに少し残念な結果には終わったものの、まだ別のアプローチは残っていると思い直す竜郎たち。

 これで異世界産の魔物食材による地球の世界三大珍味が揃ったという、なんだか言葉にすればややこしい成果を得たことを、今は純粋に喜んでおくことにした。

次も木曜更新予定です!

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