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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第309話 スパッドの依頼

 万国共通の形をしているので、冒険者ギルドはどこに行っても分かりやすい。

 農家の夫婦に教えてもらった通りの道を行けば、すぐにそれを発見することができた。だが中に遠慮なく入ってみればスカスカで、そもそも冒険者の数は多くなさそうだ。



『そのうえ人気がない依頼ってなると、余計に受けてくれないんだろうね』

『かもしれないなぁ。えーと確か、ここで依頼が確認できるたはず……』

『普通に依頼を受けようとするのなんて久しぶりだしねぇ。もうあんまり覚えてないや』

『へー、そこで確認できるんだぁ』

『うちはもはや身分証明用に冒険者ギルドに登録してるようなもんだからな』



 冒険者ギルド内に設置されている白いプレートに、冒険者ギルドの登録証を表示してかざすことで現在受けられる依頼を確認することができるようになっている。

 意外とそういうところは、機械技術が発展しなかった異世界においてもハイテクなのだ。


 だが最近ではもっぱら「こういう難易度の高い依頼があるから、もしよければそちらの誰かにやってもらえないか」といったギルド側から直接相談を受けることばかりだったので、逆にノーマルな依頼の確認方法を忘れかけてしまっていた。



『えーと……それでスパッド討伐の依頼は…………んん? 愛衣、そっちはあったか?』

『うーーーん…………ないねぇ。ニーナちゃんは見つかった?』

『ないよ! 誰かがもう受けちゃったのかな?』

『人気がない依頼とはいえ、まったく受けてもらえないって感じでもないみたいだったしな。

 入れ違いになったのかもしれない。受付の人に聞いてみるか』

『それが早いね。まだ登録されてないだけかもしれないし』



 既に依頼として受理されてはいるはずなので、今どうなっているのか、誰か受けてしまっているのかを確認するため受付に向かう。



「すいません、ちょっといいですか?」

「はい。冒険者ギルドへ依頼を出されるのですか?」

「いえ、そうではなくて、スパッドの討伐依頼が出ていると聞いて来たのですが、そこのプレートで見る限り表示されていなかったんです。

 今その依頼はどうなっていますか? 誰かがもう受けてしまったのでしょうか?」

「え? スパッドの討伐依頼ですか?

 むしろ引き受けてくださるのなら、ありがたいくらいなんですが……表示されてませんでしたか? まだ誰も受けていないはずですけど」

「「ないない!」」



 竜郎たちが答える前にファオルテとアルスとじゃれていた楓と菖蒲がそういうと、受付の女性は微笑まし気な笑みを浮かべた。



「あらぁ、そうなの? ふふっ、では少し待ってて下さいね。確かめてきますので」

「お願いします」



 依頼自体はまだ誰も引き受けていないはずだと確認にいった受付の女性は、数分も待たずに不思議そうな顔をしながら戻ってきた。



「あの……確認したところ、ちゃんと依頼は受けられるようになっていたのですが……」

「えぇ? でも私たちが見たときはなかったよね?」

「うん。ニーナもちゃんと確認したよ?」

「表示されていた依頼は多くありませんでしたし、見落とすということはないはずなんですが」

「多くなかった、ですか? あいにく冒険者の方々もここにはあまりいませんので、今も未受理状態の依頼が溜まっているはずなのですが……。

 あの、失礼ですけど冒険者ギルド証を拝見させてもらえませんか?」

「ええ、いいですよ。えーと……はい、これです」

「──っ!? あ、ああ、あの、これ本当に……?」

「ちゃんと冒険者ギルド側が用意してくれたものなので、間違いはないはずですよ」



 なにか冒険者ギルド証に異常でもと思い確認した受付嬢は、そこに表示された世界最高ランクを見て目を丸くし、現実がまだ追いついていない様子でうろたえる。

 最高ランクが塗り替えられたことは噂で知っていたが、畑ばかりで特に観光にも向かず、一番厄介な事件でもスパッドなどそれくらいと、比較的安全な地域でもあるここに、そんな人たちが来るなど微塵も思っていなかったからだ。


 だが職務に忠実な性格なのか、動揺はしながらもなんとか気持ちを持ち直し、重要なことだと声を潜め問いかけてきた。



「あ、あの、もしやこの地で恐ろしい何かが……」

「いや、ありませんから。僕らは先ほどから言っている通りスパッドを──」

「──なんて言いつつ実は裏では……?」

「だからないですって。安心してください。それでスパッドの件は……?」

「あ、ああっ、本当にスパッドの討伐に来たのですね。

 私はそれほど高いランクの方を対応したことがないのですが、おそらくある程度低難易度な依頼は自動的に弾かれているのだと思います。

 普通スパッドの討伐依頼などは、そのランク帯の方がお受けになることはまずありませんので……」



 簡単な依頼は往々にしてどこに行っても多い。なので冒険者ギルド側が気を利かせて、事前に表示されないよう設定してくれていたのだ。

 その方が目的の依頼を探しやすいだろうと。



「えーと、じゃあ私たちには表示されてないだけで、受けようと思えば受けられるの? お姉さん」

「はい。それはもちろん可能です。

 ですが本当にいいのですが? 地味な割に大変な依頼で、依頼料も決して高額というわけではないのですが……」

「ええ、問題ないです。その変わりスパッドの素材は、こちらで引き取ってもいいですか?」

「問題ありません。素材としての価値は、ほとんどありませんよ? 食べても美味しくないですし」

「美味しくないんですね……。けど僕らには今、必要な素材なんです」

「なるほど。私のような凡人には分からない理由がおありなのですね! 分かりました! 今すぐその依頼が受けられるよう手配してまいります!」



 何か重大なことに使うのだろうと勝手に判断し、受付の女性は有言実行とばかりに直ぐ竜郎たちが依頼をこなせるよう受理してくれた。

 これで大手を振って依頼主の所へ行くことができる。



「スミスさんのお宅は、ここを出てすぐの道を──」

「──分かりました。ありがとうございます」

「いえ、お気をつけて」



 依頼主の場所も教えてもらい、さっそく竜郎たちはスミス家の所有する畑があるという方へと歩いて向かう。



「「フィリリリ~」」

「ふふっ、天気もいいし気持ちよさそう」



 日光浴が大好きなフォルテとアルスはいつも以上にご機嫌な様子で、竜郎たちの前をトコトコと歩いていた。

 そうして目的の場所に近づいていくと、スミス家の家族──夫婦に少年が2人、浮かない顔をして畑を眺めているのが視界に入ってくる。


 本格的な収穫はこれからだという時期に、またもやにっくきスパッドに荒らされるのかと思うと気が沈むのも分かるというもの。

 直ぐにでもその憂いを晴らしてみせようと、竜郎がその一家へと声をかけた。



「すいません。ここはスミスさんの畑で間違いないでしょうか?」

「うん? ああそうだが……どうしたんだ? うちに何か用か?」

「はい。先ほど冒険者ギルドで、スパッドの討伐依頼を引き受けてきた竜郎、波佐見です。なにやらこちらの畑で、痕跡を見つけたということで調査と討伐に来たんです」

「なっ──なにっ!? 本当か!?」

「まぁっ! やったわ! まさかこんなに早く受けてくれる人が来るなんて!」



 その喜びようは凄まじく、子供たちも満面の笑みで竜郎たちを迎え入れてくれた。

 構成的にはかなり不思議なパーティではあるが、少なくとも冒険者ギルド側も無理な相手を寄こしてくるわけはないという信頼があったから。



「ここで間違いないぞ、冒険者さん! いや、ハサミさん! もう、いっくらでも調査でも討伐でもしていってくれ!!」

「あ、そうだ! うちで取れたお野菜持っていく? 採れたてで、とっても新鮮よ?」

「いえ、依頼料も受け取りますしそこまで貰っては──」

「遠慮しないで! ここで採れる野菜は栄養満点よ! ねえ? あなた」

「おうよ。そんな遠慮しないでくれ! あいつらの被害がなく収穫を乗り切れるってんなら、こんなに嬉しいことはないんだからな!」

『これ、よっぽど心配だったんだねぇ。こんなに喜んでくれるんなら、私たちも来たかいがあるってもんだよ』

『ニーナもがんばっちゃうよ!!』

『いや、ニーナが頑張っちゃうとお野菜どころか大地が吹っ飛んじゃうから程々にな』



 スパッドは倒せましたが地上の被害は甚大です! ではシャレにならない。

 ニーナなら大丈夫だろうが、念のため竜郎は釘をさしておく。

 けっきょく野菜は受け取ることにしたものの、タダで貰っては悪いと先の一家に渡したのと同じ飴の入ったビンをスミス一家にも渡しておいた。


 向こうも飴くらいならと、気軽に受け取ってくれる。

 その中身は値段に換算すれば野菜に依頼料も含めても足りないのだろうが、もちろんそんなことはスミス一家が知る由もない。


 受け取った野菜は本当に新鮮で、その場で齧ってみれば採れたてのみずみずしさが口いっぱいに広がっていく。

 美味しい魔物食材や、愛衣の父──正和が育てている野菜の美味しさには及ばないが、これはこれで野菜の旨味がギュッと詰まった、とてもいい食材といえよう。


 残りは《無限アイテムフィールド》にしまって、さっそく調査に取り掛かることにする。



「それじゃあ、畑に入らせてもらいますね」

「おう! まー……できれば野菜は全部そのままであればなによりだが、必要なら多少ダメにしてもいいからな? 命が一番大事なんだから」



 畑がダメになってしまうほど生活も苦しくなるというのに、それでも竜郎たちの命を優先してくれというスミスに竜郎たちの心も温かくなった。

 それと同時に、絶対に一つ足りとて野菜を傷つけることなく解決してみせようとやる気が湧いてくる。



「ありがとうございます。ですがやっぱり、できるだけ野菜にも気を使いたいと思います」

「うん! あんなに美味しいお野菜は、しっかり守らないとだしね!」

「ハサミさん……ヤシキさん…………うぅ、君たちのような人に受けて貰えて、俺も嬉しい! どうかっ、どうかうちの畑を頼みます!」

「「「頼みます!」」」

「任されました」



 一家に頭を下げられ頼まれた竜郎たちは、自信に満ちた表情で彼らに背を向け畑へと入っていった。

次も木曜更新予定です!

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