第308話 野菜の魔物素材探し開始
イシュタルの出産祝いならぬ、創卵祝いに二種の美味しい魔物を復活させることになった。
それまでにエーゲリアの分も含めて用意するとなると、できるだけ早く個体数を増やさなければいけないだろう。
というわけでさっそく竜郎は、愛衣、ニーナ、楓、菖蒲。といういつもの面子で行こうと思ったのだが、たまたま近くで日向ぼっこをしてくつろいでいる幼竜の兄弟を発見し誘ってみることにした。
「フォルテ、アルス。美味しい魔物の素材探しに行くんだけど、一緒に来るか?」
「「フィリリリリ~?」」
「「ふぉったん、あったん!」」
長い首を持つ竜脚類に似た、植物の翼に尻尾を生やした『森厳のフォルス種』に属する二体。
大きさは既に五メートルを超え、竜郎たちよりも大きくなっている。これでまだこの竜種にとっては幼児だというのだから驚きだ。
さすがは竜王種でも最大の大きさを誇る森厳のフォルス種といえよう。
楓と菖蒲が二人の名前を叫びながら、公園の遊具にでも登るかのように飛び乗ってはしゃぎだす。
麒麟に似たフォルムの邪炎のフォンフラー種の兄弟は、そういうなれ合いは好きではないので振り落とされるが、この兄弟は非常にのんびりな性格をしているので、背中の上ではしゃぐ姉妹にも動じることなくボケーとただただ穏やかに佇むばかり。
さっきの質問が聞こえていたかと少し竜郎が不安になるほどの間をおいて、ようやく答えを聞かせてくれる。
「「フィィ~リィー」」
「そうか。行きたいか」
「じゃあ、決まりだね」
「お世話はニーナに任せて!」
「「うっうー!」」
今回は野菜と果物という植物系の魔物のために行くので、植物の生育に大きな影響を与えられるこの二体を連れていくのは縁起がいいかもしれないという安直な理由での誘い。
だが二体もカルディナ城の周辺以外は、ファルス王国の敷地内くらいしか行ったことはなく、普段からのんびりしているようでいて外への興味も多少は持っていたようだ。
「ならちょっと小さくなってもらえると助かるんだが」
「「フィリィイ」」
「ニーナなら、この子たちが乗っても平気だよ?」
「それは分かってるけど、小さいほうが一緒に移動しやすいでしょ?」
「そうかも!」
この二体は将来的に六十メートルは超える未来が予想されているので、積極的に縮小系のスキルを覚えさせられないかと試してみてもらったところ、システムがインストールされておらずとも自力で勝手に会得してくれた。
そのおかげで幼竜でありながら既に小さめの大人の竜ほどもあった体が、五十センチほどにまで一気に縮んでいく。
さらに念のため姿を変える認識変換の魔道具を首に下げ、これで偽装も完璧だ。外からは竜というよりも亜竜やトカゲ系のナニかだと見えるだろう。
「それじゃあ、まずは近い方──野菜の方から行ってみよう。一番重要な素材は『スパッド』って言われている、農家の敵みたいな魔物だな」
「農家の敵? お野菜の魔物の素材になるのに、お野菜を食べちゃうとか?」
「らしいな。だから生息地域にある農家の人に聞けば、すぐに詳細な場所とかも把握できるはずだ」
「どんなのなんだろー。そっちも美味しいのかなぁ。ニーナ、お腹空いてきちゃった」
ニーナもエーゲリアにどんどん感化されていっているのか、最近は前以上に食いしん坊になってきている気もしているのだが、竜郎はあえて気にすることなく方向音痴気味なニーナのために行先を指し示した。
そうして普段のメンバーにフォルテとアルスも加えてたどり着いたのは、非常に温暖な気候でポカポカと暖かい日差しが遮られることなく大地に降り注ぐ温暖な地域。
この辺りは水源も豊かで、そうそう水魔法に頼る必要もなく大量に水を使用することができるとあって、農業が盛んなことで有名な場所だ。
現に今いる場所は、見渡す限り畑ばかりが広がっていた。
だがそんな土地であるからこそ農作物を狙う魔物も住み着きやすく、農家の人たちの頭を日々悩ませてもいるのだ。
「「フィリィィイイ♪」」
「「はふぅ……」」
「気持ちいい場所だねぇ。お昼寝したくなっちゃいそうだよ」
「ニーナもママとお昼寝する!」
「いや、ここにはスパッドを探しに来たんだから、お昼寝をするにしても後でな」
無事に大地に降り立ったはいいものの、その過ごしやすい気候についつい睡魔が押し寄せてくる。
しかしそれをグッと我慢して、さっそく見つけた畑の隅で腰かけ休憩している農家の家族らしき人に声をかけていくことにする。
「すいませーん! ちょっと聞きたいことがあるんですが、いいですかー?」
「おー? なんだぁ? 別にいいぞー」
少年少女と幼女と竜たちという謎の構成に面喰らいながらも、明らかに余所者の竜郎たちにも夫らしき男性が気さくに笑って迎え入れてくれる。
あまり娯楽がないのか妻らしき女性と、その子供たち──長男に次男、一番幼さなげな末の長女も珍しい人物の登場に興味津々な様子だ。
「そんで話ってのは…………あー、随分いい格好してっけど、こんなとこ歩いてたら汚れんぞ」
「にーちゃんたちは貴族様なのか?」
「なのかー?」
「ううん、違うよ。ちょっと稼ぎのいい冒険者ってところかな」
「冒険者ー!? すげーー!」
少年たちには冒険者という響きがカッコよく聞こえたようで、長男と次男はキラキラとした眼差しに変わる。
「はぇ~、そんな稼ぎのいい冒険者がうちに何の用があるんで?」
「用と言いますか、実は聞きたいことがありまして。スパッドと呼ばれている魔物は、ご存じですか?」
「ご存じも何も、よーく知ってるよ。なあ?」
「ええ。三日くらい前にも、ほら、向こう隣のスミスさんとこもやられたって」
「あーそーだったそーだった。ほんとに厄介な奴らだよ、まったく。
油断してっと、みーんな俺たちが丹精込めて育てた野菜を食っちまうんだからよぉ」
「俺も見たことあるぜ! にーちゃん、ねーちゃん!」
「おれも!」
「あたしは見たことない……」
「お前は恐がって見ようとしてないだけだろ!」
「恐くないもん!」
「あはは……。喧嘩しないで、ほら飴あげるから」
「「「ほんと!?」」」
知らない人なのだが悪い人とは思われていないようで、両親たちも「お礼を言いなさい」というだけで、愛衣が飴を子供たちに渡すのを拒むことはなかった。
ニーナや幼竜たち四人も欲しがったので同様に渡し、これで子供たちは大人しくなる……ことはなく、「なにこのアメーーー!?」とあまりの美味しさに余計に騒がしくなってしまった。
そうなってくると大人が静かにさせてくれる……こともなく、そんなに美味しいのかと興味深げな視線を向けられたので、情報料もかねて飴が入ったビンごと渡したりとなんだかんだ時間を取られ、ようやく話が進みだす。
「すんげーな。さすがいい服着てるだけあって、ただの飴も上等品だ。
でもいいのか? こんなに貰ちゃって」
「いいですよ。うちに帰れば沢山ありますし。それよりもスパッドのことを教えてください」
「そんなことでいいなら、いくらでも話してやるさ。うちの畑は今年はまだ狙われてないみたいだが──」
少し離れた場所に畑を持つスミス一家が、つい最近作物をいくつかスパッドに食い荒らされている痕跡があったらしい。
そのためすぐに冒険者ギルドへと、討伐の依頼を出したとのこと。
「ってことは、近場の冒険者ギルドに行けば依頼が出てるってことですね?」
「ええ、そのはずだよ。でも人気ないからねぇ、受けてくれる人が現れるまでどんだけかかることやら……」
「そんなに誰も受けたくない依頼なの?」
「そりゃそーだよ、お嬢ちゃん。あいつらはどこからともなくウジャウジャやって来て、油断してっと直ぐに仲間を呼ばれて囲まれて大怪我だ。
かといって簡単にあしらえる冒険者となると、他にもっと楽で実入りのいい依頼もあるからねぇ。
うちも他人ごとじゃあなし、ささっと誰かが受けてくれるといいんだけど……」
「ほんとになぁ。誰かいねーもんかなぁ」
ちらっちらっと竜郎たちに夫婦の視線が突き刺さる。
高そうな服を着て、高そうな飴を挨拶代わりにホイホイ配れる冒険者。それなりに腕に覚えはあるはずだと思ったようだ。
それなりどころか冒険者トップの実力者集団なのだが、そんなことは知るよしもない。
「依頼がまだあるようなら僕らが受けますよ。
僕らはそのスパッドの素材を探しに、ここまで足を運んだんですから」
「はぁ!? あんなんの素材のためにわざわざここに!? …………変わってんなぁあんたら」
「でも受けてくれるって言うんなら、スミスさんとこも私ら農家も安心だよ。冒険者ギルドなら、そこの道を真っすぐ行った所にあるからね」
「分かりました。情報ありがとうございました」
「なに言ってんだ。こんなの飴の礼にもなんねーよ! こっちこそありがとな!」
夫婦の子供たちと遊んでいたニーナや楓たちを回収し、竜郎たちはさっそくスパッドの依頼を探しに冒険者ギルドへと向かうことにした。
次も木曜更新予定です!




