第270話 お城の施設
ここまでかなり駆け足な紹介になってしまいながらも、予定通り遊園地の最後の区画に到着した。
最初に入ってきた入り口付近からメインエントランスを、正面に向かって真っすぐ進んでいく。
「ほぉ、なんとも煌びやかな乗り物ですな」
「あれなら私でも安心して乗れそうだ」
絶叫系ではほぼ全て見学に回っていた年配の貴族たちが、これまでよりも派手な装飾がほどこされたメリーゴーランドを見て顔をほころばせていた。
「これから行く区画は親子で楽しめるような、小さな子供でも安心して遊べる区画になってるので、前の区画にあったような速い乗り物が苦手な方でも周れるはずです」
ハウルとエディットは竜郎のその言葉に残念そうに表情を暗くし、その逆にレスやマックスは明るい表情を見せているのが印象的だった。
「おぉ、これはいいですなぁ」
「優雅で気品のある、実に雅な乗り物ですな」
実際に乗って見てもらうと、のんびりと作り物の馬や馬車が上下しながら回り出し、クラシック調な音楽が流れだす。
馬や馬車は下手な貴族が乗る物よりもゴージャスで、ゆったりとしたテンポで進むこともあって年配貴族たちは、乗って見てよりメリーゴーランドが気に入ったようだった。
『私たちの世界だとお子様向けなイメージがあるけど、おじいちゃんたちが乗ってるのもなかなかホッコリするねぇ』
『こっちも心臓の心配をしなくていいから、安心して見ていられるしな。この中では一番年配な人は不満そうだが』
『あははっ、ほんとだ』
一番年配な人ことカサピスティの王様──ハウルを見ると、「もっと激しく動かないのか?」「もっと掴まっていなければ吹き飛ばされるような回転はないのか?」などと近くにいるレスに愚痴をこぼしていた。
確かに絶叫系が好きな人には、この正面の区画は刺激が足りないのだろう。エディットも文句は一切口にしないが、ジェットコースターなどに乗っていたときの少女のようなキラキラとした目はまったく見られなかった。
その後もコーヒーカップやら少し高いがゆっくり回転するだけの空中ブランコ、絶叫系コーナーのものとはもはや別物なミニジェットコースターなどなど、キラキラした乗り物たちを優雅に楽しんでもらった。
そしてそれらの後に煌びやかな橋を渡って城の周りを取り囲む湖の上を通り、この遊園地のど真ん中にそそり立つ竜水晶のお城へやってきた。
氷の城のような全部が水晶質というわけではなく、柱だったり屋根だったり、要所要所で大理石のような質感の色とりどりな部分を織り交ぜ、光の反射なども計算し昼は日光で、夜はライトアップによって燦然と輝く、鮮やかで豪華な見た目となっていた。
「近くで見ると、より壮観だね……」
「こんなお城があっという間にできちゃうなんて……」
城門の前で一度立ち止まり、その城を見上げて王族であるリオンとルイーズの兄妹もポカンと口を開けていた。
本物の王様であり立派な自分の城を持つハウルでさえも、間近で見た遊園地のお城に圧倒されている様子を見せる。
「これほど見事な城の中を、市井のものが自由に入れるのか。遊園地とはほんとうに面白い施設よな」
「私が苦労して騎士になり城に入れるようになったときは感動したものですが……、今の時代に生まれた子らは簡単にその気持ちを味わえるのかもしれませんねぇ」
「何を言う。城主のいない城と守るべき者がいる城では、騎士として何もかもが違うぞ。レス」
「それは……ですね、ヨーギさん」
ハウルとレスと騎士団長ヨーギが何やら話し込んでいるようだが、竜郎は気にせず城門を開けて中へと皆を招待していく。
中は綺麗に整備され、綺麗な噴水にベンチがあちこちに置かれ、遊園地で疲れた人たちがくつろげる空間にもなっていた。
そしてこの正面広場には立派な舞台もよく見える位置に設置されており、それを目ざとく商会ギルドのマックスが見つけ竜郎に話しかけてきた。
「あの舞台は何でしょうか?」
「あそこは演劇や歌唱なんかをしたい人たちに貸し出したりしてもいいですし、遊園地側で見世物を用意してやったりするのもいいかなと思って作ってあります」
「貸出ですか……。それはまた権利の取り合いになりそうな立地ですね」
「そこはまぁ、町や商会ギルド側でなんとかしてくれないかなと」
「その権利すら放棄されるのですか?」
「身軽な方がいいですし、そういう運営については完全に素人ですからね。
ただ悪用はしてほしくないなとは思っていますが」
舞台の使用権を自分と親しい、もしくは賄賂を貰えるところを優先的に出したりなどされては、せっかく作った竜郎も面白くはない。
子供も見るだろうから何をするかくらいは選ぶべきだとは思うが、できるだけ公平にやってほしいものである。
「それはもちろんだよ、タツロウ。私もそんなことはさせない」
「私も殿下と同じ意見です」
リオンも会話に加わってマックスと同じく、竜郎の気持ちを理解してくれたようだった。
城門を通り正面広場を抜け、城の中へと入っていくと目が眩むほど美しい玄関ホールが視界に飛び込んでくる。
誰しもが一度そこで足を止め、その光景に目を奪われた。
次に玄関ホールを通って進み、城の左手に抜けていくと広い練兵場に辿り着いた。
「こういうところだと私は落ち着きますね」
レスのその言葉に、ヨーギをはじめ護衛たちが小さく頷き賛同していた。彼ら彼女らにとっては、馴染みのある光景だ。
「ここは練兵場ということだが、ここでは一体何をするのだ?
まさか客をここで兵を鍛えることはしないとは思うが」
「兵を鍛えたりはしませんが、遊びとして子供たちが騎士ごっこをする場所──とでもいえばいいですかね。
ここでは──」
おもちゃの剣や槍に鎧を着たりして、作り物の魔物を相手に戦うことができたり、おもちゃの弓や投げナイフでの的当て、アスレチックなど、自発的に体を動かして遊べる空間していく予定だ。
城の美しさに興味のない子たちなんかは、ここでなら楽しんでくれることだろう。
「なるほど、それで練兵場か。納得がいった」
「騎士に憧れる男の子は多いからね。ここも人気が出そうな場所だ」
「そうなると、こっちも嬉しいな」
ハウルやリオンたちにも好感触で、騎士を侮辱するな! なんてことを密かに思っていそうな人もいない様で竜郎も少し安堵した。
次に城内部を通って練兵場から逆サイドにある闘技場へと進んでいく。
そこではコロシアムのように中央に戦う舞台があって周囲に観客席があり、貴賓席のような特等席もいくつか用意されていた。
「闘技場……とはいうけど、先ほどの練兵場のことからしても実際に戦い合うわけではないんだよね?」
「ああ、こっちでも平和そのものだよ。町のほうで俺たちが持ち込んだ遊戯とかあるだろ?」
「あるね。それが──って、もしかして」
「ああ、そのもしかしてだよ、リオン」
ここ闘技場では争いは争いでも、それはテーブルの上などで行われる頭脳や技術を争う平和的な争いだ。
町のいたる場所にある遊技場でカードゲームやボードゲームなど様々なゲームの予選を開いてもらい、そこで勝ち抜いてきた猛者たちがここに集い頂上決戦をする。
それがこの場を作った一番の理由だ。
「それって優勝したら何かいいことがあったりするの? アイちゃん」
「あるよー、ルイーズちゃん。なんと私たちが賞金を出しちゃいます! しかも三位まで出す予定だよ。
競技人口によっては、かなりの大金でもいいかもって話してるとこ」
「町や園の予算ではなく、アイちゃんたちが出すんだ。
運営の一部ならこっちが出しても──ってそれもそうだけど、ゲームで勝っただけでお金がもらえるの? 賭け事をしているわけでもなく?」
「そうだよ。なんなら少額だけど町の方でやる予選でも、優勝者には出してもいいかもしれないね」
何なら竜郎たちはここで行われるゲームでの勝者を予想する賭け事をしてもいいかもしれないとすら思うが、そうなってくるとさらに動く額が大きくなっていきそうなので、おいおいやるかどうかは決めていくつもりだ。
他にも水上区画でのボートレース、絶叫区画でのカーレース、なんなら競馬のようなモンスターレースなどもやろうと思えばできるし、賭け事に繋がりそうなものは沢山考えつく。
だが賭け事となると色々と面倒なこともあるし、子供たちに夢を売ろうとしているのに大人の欲望が混じってキナ臭くなりそうで躊躇してしまう。
とはいえ商会ギルドからすれば、うまく胴元として園が取り仕切れれば莫大な利益が望める可能性がある。
お金を稼げればそれでいいというわけではないが、マックスとしてもやっていいなら挑戦しようと言ってくることだろう。
「と、そうだ。実はその遊戯の中でもう一つ披露したいものがあったんだった。
えーとじゃあ、とりあえずリオンとルイーズ」
「なんだい?」「なになに?」
二人にポンといくつもボタンのついた有線コントローラーを渡していく。
「これはなんだい?」
「それはこれを動かす装置だ」
リオンの疑問に答えながら、三十センチほどのロボットを《無限アイテムフィールド》から二つとりだした。
見たことのない人型の人形に、他の皆も興味津々と視線が集まる。
「この……えーと、とりあえずロボットと呼ぶが、このロボットの背中に持っている装置の線を繋いで見てくれ」
「えーと……」
「こうだよ、ルイーズちゃん」
「ありがとう、アイちゃん」
ルイーズがまごついている様子だったので、愛衣が助け舟を出してコントローラの線の先にある大きな端子を小さなロボットの背中の穴に挿し入れた。
リオンもそれを見ながら見様見真似で、自分のコントローラーから伸びる線を自分の担当のロボットに挿していく。
「それができたら真ん中のボタンを押してみてくれ」
「「「「「「動いたっ!?」」」」」」
実際にボタンを押したリオンたち以外からも、驚きの声が上がる。
「他にも歩かせたり走らせたり、攻撃したりなんかができて──」
動いただけで驚く皆の前で、竜郎はリオンに、愛衣はルイーズに詳しく操縦方法をレクチャーしていく。
そして──。
「えいっ! やったー! お兄様に勝った!!」
「おめでとー! ルイーズちゃん!」
「わ、私が妹に負けた……だと…………」
「あー……、リオンはちょっとペース配分を見誤った感じだな」
リオンとルイーズに舞台の上に立ってもらい、そこでお互いのコントローラーを操りロボット同士で戦ってもらう。
二人に渡したのはまったく同型機で性能に優劣はなく、できることも全く同じ。最初なので運も多分にあっただろうが、勝ち負けは今の実力と言ってもいいかもしれない。
このロボットはかねてからやろうと思っていたロボット同士を戦わせるオモチャ。
フォルムは日本で有名なロボットアニメの初号機をインスパイアさせてもらい、組み立ててある。
これは決められた魔力量の中で動きをやり繰りし、パンチやキック、魔法の弾丸のようなものを飛ばしたりして攻撃したり、走ったりジャンプでそれを躱したり、シールドでガードしたりなんてことをし合う。
そして最終的に一定ダメージを相手に与える、もしくは魔力を使い果たさせ機能を停止させることで勝ち負けが決まる。
どちらもなかなかにうまくロボットを操ってはいたものの、リオンはエネルギー消費量の多い魔弾のライフルを使いすぎてエネルギーが少なくなり、最後の方では動きが鈍くなってしまった。
その隙をついてルイーズが近距離戦を挑み、見事リオンの機体を打倒したというわけだ。
浮かれる娘と沈む息子を放置して、決着が付いたのを完全に確認してからハウルが近寄ってくる。
「その面妖な魔道具は何なのだ? タツロウ」
「こうやって戦わせ遊ぶためだけのオモチャですよ。他にも──こういうのとか、こういうのも」
「おおっ、色々とあるのだな」
「ええ、速度型、重量型などなどパーツを自由に選んで、線が挿さっている真ん中のメインユニットを中心に自分オリジナルの機体が簡単に作れるような機構になっています」
竜郎は、よりシュっとしたタイプやどっしりとしたタイプなど形の違うロボットを参考までに広げていく。
さらにそこで実際にパーツや装備を取り外したりつけたりして、別系統の機体に組み立て直したり──なんてことも目の前でやって見せた。
「こんな感じで組み立てて自分の機体を戦わせて、勝ち負けを競う遊びもそのうち広げられたらいいなと考えています」
「だが……思うにそれを個人で用意するには、少し高額になるのではないか?」
「でしょうね。なので競技前に貸しだしなんて形でもいいのかもしれません」
戦いの前にたくさんのパーツが用意された場所から、自分の機体を組み立てレンタルして競技に挑む。
リアが既に魔力頭脳を使った量産装置も作りだしているので、竜郎たちからしたら大したものではないが、それでもこの世界で適正な値段を付けるとなると一般人には恐ろしい額になってしまう。
それこそ木っ端な貴族では、レンタルにしようと考えさせられるほどのだ。
だが大貴族や王族ともなれば、話は違ってくる。
「それを私が購入することは可能なのか?」
「ええ、欲しいというのならパーツ毎でも、完成品でもお売りしますよ」
実はさらに高度な、魔力頭脳を搭載した自分で考え戦える自律戦闘型ロボットも作ってはあるのだが、そちらは技術的にオーパーツが過ぎるので自重して、やるとしても妖精郷の方でのみの使用にするつもりでいる。
しかしそちらではない、ここで披露したロボットならば技術が流出しても大した影響は世界に及ばさない、かなり簡易的な魔法式が組み込まれている。
簡易的だからこそ、音声認識もできず無線ですらない有線コントローラーによる人力での操作入力が必要になったのだ。
さらにこれは、これ以上の大きさや出力にすれば破綻する、兵器利用するにはどれほど応用しようと改変しようと不可能な術式をあえてリアが開発し使っているので抜かりはない。
買えるだけの資金があるお金持ちなら、どうぞ買ってください。それを賞金やら投資など他に使ってお金をどんどん回していきますので。
竜郎たち側すれば、むしろこのようなスタンスですらある。
当然ハウルが買いたいのならいくらでもどうぞと竜郎が答えると、むしろその近くで落ち込んでいたリオンの方が大きな反応を見せた。
「た、タツロウ! ならば私にも売ってくれないか!? 成りはこんなだが、貯蓄ならかなりある!」
「お、おう……。そうだろうな」
ニンフエルフという特性上まだ子供のような容姿をしているが、それでも竜郎たちよりずっと年上で、次代の王としての勉強もしながらしっかりと働いている王子様だ。
給料もかなりもらっているだろうし、これが買えないなんてことは竜郎も微塵も思ってはいないのだが、その圧に竜郎は驚き引いてしまう。
『ルイーズちゃんに負けたのがよっぽど悔しかったんだろうねぇ』
『ニーナだって、ちびちゃんたちに負けたら悔しいもん。気持ちは分かるよ!』
『まぁ、そうだな。リオンはかなり優秀みたいだし、今まで妹の見本になれるくらいの兄だったんだろうしな』
リオンは誰にも先んじてロボットやそのあらゆるパーツ、取り付けられる装備品の数々を買いあさった。
こうしてリオンは妹に負けたことをきっかけに、このロボットバトルの魅力にどっぷりと浸かっていくことになる。
そして後に大々的にこの競技が知れ渡り大人気競技にまで上り詰めた頃、覆面をかぶった謎の最強ロボットバトラーとして、この闘技場に立つようになるのだが…………そうとはこの場の誰も予想だにせず生温かい視線を向けていた。
特にルイーズはリオンの補佐役を続けているので、その件で振り回されることになるとも知らずに……。
次話も木曜更新予定です!




