書籍版七巻特典SS3
『仮面の女』
「まぁ暇である事は否定しないが、なんでまた」
「一人でいると通行人にナンパされる可能性があるんですよ」
日夜闘技大会に向けて訓練に勤しむギルドの人間達。しかしそんな中、俺は一人フードコートで冷たいデザートを堪能しながら自分で定めた休息日を満喫していた。
しかしそこに現れたのは、ご存知ギルドの総帥にして国の英雄、豚ちゃんことオインク。
収穫祭の様子を一般人目線で視察したいらしく、それに付き合って欲しいそうだ。
今日はリュエもレイスも訓練でいない。暇潰しには丁度いいかもしれないな。
街へ繰り出す前に、オインクは必要な変装をするから後で落ち合おう提案し、そして待ち合わせ場所の公園で彼女がやって来るのをじっと待っていた。だがそこへ――
「まさかアレじゃないだろうな……」
平凡なブラウスとコルセットスカート、そして……顔にはめられた仮面。
仮面以外どこにでもいそうな服装の女性が、速足でこちらへ向かってきたのである。
「お待たせしました。さて、では行きましょうか」
無視。俺知らんぞ、こんな顔文字の仮面を現実世界で装着する頭のおかしな女なんて。
「貴女のような不審者は知りません。どうぞ回れ右してください」
「仕方ないんですよ。眼鏡や髪型程度ではここの住人を誤魔化せないんです」
「……それにしたって仮面はないだろ仮面は」
「よく回りを見てください。お祭りで売っている仮面や帽子をつけた人が沢山でしょう? 案外目立たないものなんですよ、こういう仮面も」
確かに言われてみれば、道行く人の頭にひっかけられた仮面や帽子が目立っている。
だがそれは猫や犬といったありふれた物であり、断じて『あの豚』ではない。
「さぁ、では出発しましょう。今日の目的地は屋台通りです」
「今日は、って明日以降もあるのかよ」
目的地である屋台通りは、先日行われた屋台コンテストに出場した屋台や、それ以外の屋台、前の世界で言うところの流れの職人さんが開くお店が立ち並ぶ通りだった。
ここでは毎年トラブルが多く、今回も視察というよりも、警備としての意味合いが強いらしい。態々総帥であるオインクが出張るような事ではないと思うのだが。
「さてと……では見て回りましょうか」
「随分と盛況だな。コンテストと違い自由に誰でも出入り出来るからかね」
「ここは元々、主要施設に向かう際の通り道ですしね。さて……早速いましたよ」
おもむろにオインクの声のトーンが下がる。何か見つけたようだ。
彼女は綿菓子屋台に並ぶ子供達へと速足で進み、そして、その近くにいた一人の男の肩に手を置いた。
「そこの貴方。今ポケットに隠した物を出して頂けますか?」
「っ! なんだテメェ、人にいきなり因縁つけようってのか!?」
随分とガラの悪い御仁だ。恐らくなにか悪さをしたのだろうと、こちらも傍へ向かう。
「あ! ぶぅぶぅ仮面だ! 今年もお祭りに来たんだね!」
「ええ、そうですよ。坊や、ポケットの中を探ってごらんなさい」
「僕のお財布がない! なんで!?」
今子供が呼んだその名称は一先ず置いておこう。どうやらあの男はスリだったようだ。
すると、案の定男はオインクの手を振り払い、一目散にこちらへと駆けてきた。
足を引っかけてやれば、見事にすっ転ぶ男。そして瞬く間にやってくるギルドの人間。
どうやら少年だけでなく、多くの人間からスリを行っていたようだ。
男が連行されていくと、ギルドの人間がこちらへとやってきた。
「これはぶぅぶぅ仮面さんでしたか。毎年ご協力ありがとうございます」
「いいぞー! ぶぅぶぅ仮面! 今年も楽しんでってくれよー!」
周囲の歓声と拍手に包まれた、どう見てもあの豚な仮面をかぶるその姿。
ええ……お前毎年こんな格好してんの……?
(´・ω・`)この人2000年後でも同じ仮面つけてるんすよ……




