書籍版八巻特典SS1
(´・ω・`)サーディス大陸に向かう船の上での一幕。
『船酔いを克服せよ』
乗り物酔いと一括りにしても、その種類は多岐にわたる。
個人的には船酔いが一番メジャーというか、酔いやすいというイメージを持っている。
ほら、リュエですら初めて船に乗った時は、盛大に海の魚に餌を蒔いていましたし。
だが、我らがお姉さんレイスは、船で川を下る最中も平気そうな顔をしていた。
彼女曰く『私、魔車でも酔った事がないんです』との事。
だが――川を下るのと海原を行くのでは、同じ船でもまったく別物な訳で――
「レイス……平気かい? やっぱりリュエを探してきて回復魔法を……」
「……ぅぷ……だ、大丈夫……ぅ……です。直に慣れると……」
部屋で蹲る彼女の背中を優しく擦り続ける事になっていたのでした。
「……こうしいると、カイさんに触れてもらえるので……うっ」
「酔いで思考が駄々洩れですよレイスさんや。ほら、深呼吸して」
一先ず、彼女の酔いを緩和させるべく、甲板へと向かうのだった。
「ほら、潮風が気持ちいいよレイス。新鮮な空気を吸えば少しは楽にならないかい?」
「……はい……あの、ちょっと船の縁に連れて行ってもらえませんか」
レイスさん、IN甲板。フラフラな足取りの彼女に請われ、支えるようにして向かう。
実際にはただ酔っているだけなのだが、妙に艶めいているような、色っぽいようなその仕草に、周りの男性船員達の視線を釘付けにしてしまっていた。
やめて、見ないであげて! この人今から魚に餌をあげるかもしれないから!
「ふう……ふぅ……すごい……ですね……一面が海……うっ」
「レイス、こういう時は遠くの景色をぼんやり眺めると良いんだ」
「は、はい……海、海、海、海、青、青、青……全部青しかありません……」
「……それもそうだね。ほら、あの木箱に座ろうか」
近くにあった木箱に彼女を座らせ、その隣に俺も腰かける。
潮風を浴びながら海を眺め、隣に座る美女がしなだれかかる。
なんともロマンチックなシチュエーションなのだが――これは介護なんです。
引き続き背中を擦りながら、浅い呼吸を繰り返す彼女に声をかける。
「本当に大丈夫かい? ここにいればリュエが見つけてくれると思うけれど」
「はい……先程より……少し楽になりました」
「そっか、良かったよ。最初から薬を用意しておくべきだったね俺も。折角初めての船旅なのに、悪かったね」
「いえ……私が油断していたからです……乗り物酔いは初めてですが、こんなに辛いものだったんですね……でも、少し役得です」
そう言いながら、彼女がさらに深くこちらに身体を預けてくる。
ふわりと、甘いような香りが髪から立ち上り、心臓の鼓動が早くなる。
……役得なのはむしろ俺の方だよ。まいったな、鼓動の音がばれてしまいそうだ。
「そうだ。柑橘類を食べると良いって聞いたな」
誤魔化すように、アイテムボックスからレモンを取り出し、皮を剥いて一切れ渡す。
すると彼女は受け取ろうとせず、ただ小さく口を開けた。
「……酸っぱいからね?」
そこに一切れ入れると、弱った彼女の表情が見る見るうちに酸っぱい顔に。
ははは、可愛いな。いつもはこういう姿を俺に見せようとしない所為か、可愛さ二割り増しだ。思わず抱き寄せてしまいそうになる。
「っ! す、すっぱいですね……ですが確かに気分は変わります」
「それは良かった。じゃあ、もう少しだけこの海を眺めていようか」
「はい。もう少しだけ、こうしていますね」
穏やかな水面を、ゆっくりと揺られながら、彼女と寄り添い眺め続ける。
些細な出来事。けれども幸せに満ちた一時。まるで、夢の様な――
「うっ! ごめんなさい……ちょっと失礼します……」
「ははは、了解。じゃあ俺はリュエを探してくるよ」
ま、夢はいつだっていつか覚める物なんですけどね?
彼女がふらふらと立ち去る姿を見送り、俺もまた、どこかではむちゃんと遊んでいるリュエを探しに向かうのだった。
本当、思えば遠くまできたものだ。




