書籍版三巻特典SS
(´・ω・`)エンドレシアを出発する前日くらいのお話です
『お土産大人買い』
「この街を出るなら、やっぱり買っておかないといけない物があります」
エンドレシアの首都ラークを旅立つ前日の事。
本来ならば総帥としての業務に忙殺されていなければいけないはずの我らが豚ちゃんと対面しながら、俺は彼女に自分の要件を伝えていた。
「大方の予想は付きますが……」
「酒とその他発酵食品の買い溜めを希望する。ほら、気分転換の大義名分を与えるんだからとっとと案内してくださいな」
そう、この地に伝わったという日本酒や、恐らく一緒に伝わったであろう食品の数々を買えるだけ買い溜めしようというのがこちらの魂胆だ。
「やはりそうでしたか……そういえばリュエはどちらへ? 行くのでしたら彼女も――」
「それが欲しいものが沢山あるからってさっき一人で出かけてしまったんだよ」
「なるほど。ではたまには二人で出かけましょうか」
ギルドの外で待ち合わせをしていると、髪をポニーテールにし、メガネをかけた豚ちゃんが現れた。
ピッグなのにポニーテールとは生意気な。
「一応、これでも有名人ですからね。変装が必要なんですよ」
「自意識過剰乙」
「信じていませんね!? もしいつもの姿で出歩いたら買い物どころじゃないんですよ」
ギルド総帥ってそんなに周囲に露出する機会があるんですかね? ちょっとイマイチ信じられないんですが。まぁしかし――こんなキャラでも美人さんですからね。いつもと違う装いを見られるのは眼福ってもんなんです。悔しいけれども。
そんなピッグテールならぬお馬さんの尻尾を手に入れたオインクと共に、彼女が監修している酒蔵へと向かう。
どうやら直売も行っているらしく、そこに行けば大抵の銘柄は手に入るのだとか。
もちろん、貴重な品なのでそれなりのお値段もするのだが――幸い、お金には余裕がありますから。ほら、身代金とか身代金とか身代金とか。
「見えてきましたよ。人の出入りの関係で、上層区にあるんですよ」
「へぇ、こんな場所があったのか」
商会ひしめく一角のさらに奥に、なにやら大きな工場のような建物が見えてくる。
ぱっと見で酒蔵には見えないが、そこにはしっかりと『ぶぅぶぅ酒造』の文字が。
ネーミングどうにかしろネーミング。
なにはともあれ、早速直売所へと向かい、お目当ての酒を金に物を言わせて買い漁るとしましょうかね。
それから少しして、無事に目当ての酒をこれでもかと、具体的に言うと荷車で三台分程購入したところで店主に泣きつかれてしまい、そこで諦めることに。
途中、オインクがこっそり変装を解いて店側に説明をしておりましたとさ。
「まったく……遠慮というものを知らないのですかぼんぼん」
「いやぁ、ここを離れると思うとつい」
「これ、アイテムパックに入れるにしてもかなり容量圧迫するんじゃないですか?」
「その辺は大丈夫。対策は考えてるさ」
後でギルドにある小神殿に奉納させて頂きますから。あれ、リュエの倉庫に繋がっているんですよね。この事実をどうやらオインクは知らないようなのだが。
その後、酒蔵からだいぶ離れた場所にある味噌や醤油、酢といった発酵食品を取り扱っている場所でも同じように大人買いをさせてもらい、満足しながらギルドへと戻る。
そしてすかさず小神殿へと向かい、アイテムパックに入り切らなかった酒瓶を一つ奉納する。
「旅の安全を祈願してお酒を奉納ですか。意外ですね、ぼんぼんはこういう迷信めいたものを信じない質だと思っていましたが」
「あー……まぁうん。そうだな。安全祈願だ安全祈願」
「ふふ、では私も貴方達の旅が平穏であるように、とっておきを奉納しましょうか」
すると彼女はアイテムパックから小瓶を取り出した。
その中身は、まるで綺麗にニスを塗られた木工品のような輝きを放つ――
「ドングリかよ! あれですか、貴女は野山で遊ぶ子供かなにかですか」
「私にとってこれは大切なお守りみたいなものなんですよ! 今回はマテバシイを奉納しちゃいます、大奮発なんですからね?」
なにがどう奮発なのか分からないが、自信満々な様子でドングリを奉納する豚ちゃん。
いやぁ……そんなの送られてきても困るだろリュエ。
「これでいいでしょう。ぼんぼん、この後お時間がありましたら……たまには二人で食事なんてどうでしょうか?」
「ナチュラルにうちの娘さんをハブろうとする家畜の風上にもおけない畜生豚」
「う……たまにはいいじゃないですか。少し日本にいた頃のお話とか、二人じゃないと出来ない話もありますし……明日にはお別れなんですから」
少しだけ、ふてくされたように、どこか媚びるような調子で提案するオインク。
……まったく。美人は厄介だよ。それも自分の武器としてそれを使いこなす人間は。
だが、今日くらいはその武器を、その一撃を喜んで受けてやろう。
「仕方ないな。じゃあ今晩は……寝かせないぞ」
「んな!? そういう意味でのお誘いではなくてですね!? いえ、別に――」
「一晩寝かせるよりも鮮度抜群の状態で調理する方が好きなんですよね、豚」
本当、飽きないよ。お前さんをからかうのは――
「……知ってましたよ、ええ。貴方はそういう人ですからね」
どこか諦めたように笑う、この素敵で楽しい我らが豚ちゃん。
そんな彼女と二人で、ギルド三階のレストランへと向かうのだった。
……なお、結局こちらを見つけ出したリュエさんが乱入してきましたとさ。




