後日談 セカンダリア大陸編2
「情報によると、機人の皆さんは国から報酬として大きな船を一隻貰ったらしい。それでここから旅立ったらしいけど、やっぱりサーディス大陸に向かったのかな?」
「そうかもしれませんね。どうしましょう? ここからもうサーディスに私達も向かいますか?」
「いや、俺達は陸路を行こう。戦争で復旧した村々もあるだろうし、それに前に約束した蒼星の森の侵食を止めないといけないしね」
「なるほど……では最初にガルデウスに行きましょうか?」
なんだかんだで三日程滞在した港町出発の日。
いやはや、二度目のぶらり旅最初の町でここまで満足するとは。
今回はこれまで通った道を使わないつもりだったのだが、ここは戦争で荒れていた土地だ。どのように復旧したのか見て周りたい。それに……前に俺、ここで結構大規模な破壊活動をしてしまいましたし? でっかい亀裂大地にいれちゃいましたし? 申し訳ない。
「そうだね、ガルデウスに向かいながら村々の様子を見て周ろうか。ガルデウスに着いたら王様に謁見して、国の様子や困りごとを聞いて……そしたらスフィアガーデンに行こうか」
「はい、是非! その後はメイルラント帝国でしょうか? エルさんにも会えるかもしれません」
「んーどうだろう。少し前に『ガルデウスから人も送られて来たし、そろそろ叔父に帝位を譲って旅に出ようかしら』なんて言っていたんだよなアイツ……さすがにまだ早いと思うが」
「そう簡単に譲ったり出来ないだろう? きっとまだいるよ、エルなら」
果たしているのかね? よしんばいたとしても、大人しく政務なんてしていなさそうだ。
戦争中は、無暗な略奪はしないように両国とも取り締まっていたはずだが、それでも一部の騎士、義勇兵達により荒らされていた村もあった。
それに住人の殆どが砦やガルデウス、大きな町に避難していた為、寂しい光景が続いていたのだが、どうやらこの一年で村人も戻ったらしく、荒らされた畑を復興しようと頑張っていた。
聞けば、ガルデウス、メイルラントの両国から人材の派遣もあり、今年の秋にはしっかりと収穫も出来そうだとのこと。
そうして村々を転々と移動しながら、ガルデウスへと辿り着いたのであった。
「ここはあまり変わっていないね。相変わらず凄く発達した街だね」
「そうだなぁ……相変わらず空中にも道があるし、馬車や魔車のデザインも洗練されているし」
「あれは……カイさん、変わった物が走っています。あれはなんでしょう」
「おお!? あれは自転車だよ! 凄いな、前に来た時は見かけなかったのに」
ダルマ自転車ではない。しっかりと動力がチェーンで伝わっている自転車が走っていた。
数はそこまで多くはないのだが……これもナオ君が? ううむ、それとも独自の発展だろうか。
「なんで倒れないんだろう。あれ絶対倒れるはずだよね? どんな術式を使ってるのかな」
「魔法は使っていないはずだよ。……魔法の自動車が生まれるのも時間の問題かもな」
そんな微妙に発展しているガルデウスの交通事情を眺めながら、まずは王城を目指す。
相変わらず貴族街や王城区画を守っている門番さんが、レイスの登場に興奮していたのだが、今回はすぐに通して貰い、早速謁見の申し込みをする。
近頃は王の権力が以前よりも増した影響で、毎日沢山の謁見申込みがあるのだが、今回は特例として順番を早めて貰う事に。
そして、呼ばれた俺達が謁見の間に入るや否や――
「皆、下がるが良い」
「国王陛下、それでは御身の安全が……」
「良い。彼らは我が友である。それに……国の機密にも関わる大事な客人だ」
人払いがなされ、護衛の騎士から宰相まで全て下がらせてくれた。そしてすぐ様――
「カイヴォン殿! よくぞ参られた! 話したい事が山ほどあるのだ、ここではなく奥へ、離宮へと参ろうか」
「お久しぶりです。ええ、分かりました。俺達も話したい事が山ほどあります」
「そうであろう? ふむ、これほどまでに心躍るのは久方ぶりだ」
以前会った時よりもイキイキとした国王と共に、謁見の間から続く王族用の道を辿る。
すると、渡り廊下から以前は整備の為立ち入り禁止だった中庭が見えてきた。
「ふふ、気づいたかね? あそこはあの『えくれあんはむ子』様の希望に沿い、ヒマワリ畑にする予定なのだ。今は花が咲くのを待っているのだよ。もう一月程だろうか」
「なるほど。となるとエレクレールさんのお墓の周りも……?」
「うむ。あちらもヒマワリで埋め尽くし、美しい庭園とする予定だ。開花の頃にはきっとはむ子様も来訪してくださるだろう」
はむちゃん……一国の王に様付けて呼ばれるようになるなんて……凄いな。
「はむちゃん元気かなー! 今はどこにいるんだろう?」
「はむ子様は平時には世界中を旅しておられる。半年程前には一度こちらに立ち寄って下さり、ヒマワリの種を愛で暫くこちらに滞在したのだが、その後また旅だってしまわれたのだ」
「ふふ、元気そうでなによりです。途中の村でも聞いたのですが、以前よりも土がよくなったと聞きました」
「ふふ、そうであろうとも。はむ子様が立ち寄られた場所では緑が生い茂り、作物もよく実るのだ。豊穣神として、荒れた土地を癒してまわっておられるのだよ」
「ははは……本人はそんな気はなさそうだけど、楽しそうでなによりですよ」
そうか、あの子も元気そうでなによりだ。
その後、国王から現在のメイルラントの関係や、ファストリアとの交流について話を聞く。
目立った問題は今の所起きていないそうだが、水面下ではやはり利権争いが頻発しているそうだが、ファストリアへの介入は全て、国王が手を出すまでも無く、何者かに阻まれているそうだ。……まぁ俺は裏で豚ちゃんが関与しているのだと知っているが。
「そういえばエル……メイルラントの皇帝であるメリア殿は今何を?」
「メリア殿ならば少し前に会談した際、いずれ自分は一線を引くと語られていたが……あの国は彼女への狂信で纏まっている部分も多い。暫くは難しいであろうな」
「あー……お国柄、強い人間に従う、でしたか? ……強くなりましたよね」
「うむ……信じがたい話ではあるが、少し前にとうとうナオ殿に土を付けたのだ。まぁその一度きりではあるが、それでさらに彼女の人気が上がってな」
「おー! ついにナオ君に追い付いたんだ! これは私もウカウカしていられないかも!」
「ははは、リュエ殿の強さは私もこの目で見ておりますが……まだ、届かないでしょう」
「そうかい? でも凄いねエル。そっかー……王様、じゃなくて皇帝なんだもんねー」
本人はとっとと旅に出たがているが、さすがに国を投げ出す気はないと。
感心感心。ファストリアにいた頃は結構な頻度でチームハウスに遊びに来ていたが。
『カイさんってもうあの二人とイタしてるんでしょ? もし子供が出来たら寿命が出来っちゃうんだし、もし出来たら私に教えてよ? カイさんが死ぬ前に種だけ私も欲しいからお願い』なんてふざけた冗談を言っていたのだが……こっちに良い人はいないのかね? 正直かなりの器量よしだが。
「まだ話し足りないのだが、今日の所はこの辺りに止めておこう。さすがに他の人間を待たせすぎるのもな。カイヴォン殿、リュエ殿、レイス殿。今日はもてなしも出来ず、すまなんだ。いずれ晩餐に招待させて頂こう」
「ありがとうございます。俺達もお話を聞けて良かったです。街には一週間程滞在しますので、何かあれば呼び出してください。宿の場所は……知らせるまでもないですよね?」
「くく、勿論だとも。しっかりと手の者をつけさせて頂こう。無論、場所を調べるだけなので安心めされよ」
やはり、油断出来ない相手ではあるが……良い関係はこれからも築けていけそうだ。
「そういえばこの都市で宿を取った事、なかったな。前はずっとスティリアさんの屋敷でお世話になっていたし」
「そうだったね。じゃあ今回は普通に宿に泊まろうか? ここ、あまり観光出来なかったしね」
「そうですね。とても広いですし、探すのも苦労しそうですが……幸い乗合馬車も多いですし」
恐らくこの世界において一番の大都会であるガルデウス。日本ほどではないが発達しているバス、もとい乗合馬車を使い、宿泊施設が密集している区画へと向かう。
その近くにある、国の運営の大半を司る『総合ギルド』では、文字通り総合ギルドとして、俺達のよく知る『冒険者ギルド』のような物を始めとして、ケン爺の所属する『魔術師ギルド』や『商人ギルド』その他にも『錬金術ギルド』『職人ギルド』と様々な分野のギルドの総合受付となっていた。
大昔はもっと多くのギルドがあったらしいのだが、統合されたり王国騎士と合併されたりと、その数を減らしたそうだが……まさにギルド国家だ。
そんなあらゆる人間が集まる巨大な区画で、宿が密集している場所を探す。
「先程ギルドの職員さんでしょうか? 何やらパンフレットを配っていたので受け取ったのですが……ギルドメンバー募集の知らせみたいですね、これ」
「ほー……興味があるギルドがあれば、いつかここに腰を据えて活動してもいいかもしれないね」
「ねぇ、この錬金術ギルドって、錬金術師じゃなくても入れるのかい?」
「ふむ……神隷期の錬金術とは少し違うのかな……? 研究職みたいな感じに見えるけれど」
「そ、そうなのかい!? なんだろう、凄く興味深いや……体験会もあるみたいだね」
昔、錬金術を断念したリュエとレイスにはとても魅力的に映るようだ。
俺もこのパンフを見る限りでは……科学と機械工作があわさったような、薬学も混じったような不思議な学問に見える。確かに少し楽しそうではあるな。
「宿を取ったらご飯を食べて、明日体験会に行ってみようか?」
「ほ、本当ですか? 是非参加してみたいです」
「私も! どんな事をするんだろうなぁ……」
宿は思いのほか早く見つかった。だが、都市の大きさからも察する事が出来たのだが、量が多すぎる。一体どこに泊まればいいのか悩んでしまう。
お金に困ってはいないが、あまり高級過ぎると……いらないトラブルにも巻き込まれそうだ。こんなに人が多いとどうしても警戒してしまう。
という事で今回はリュエに決めて貰う事にした。
「うむむ……あそこに見える塔みたいな宿か、あっちの小さいけど綺麗なとこにしようか」
「ふむふむ? どうしてこの二つに絞ったのです?」
「レイスも魔眼を発動して見たら分かると思うよ。凄く興味深いんだ」
「なるほど、では……確かに興味深いですね……どうしましょう」
「ごめん、二人とも。俺にも教えて。まったく分からないんだ」
「あ、ごめんよ。今言った二つは、魔力的にこの都市の中心と言っても差し支えないくらい魔力が充満、湧き出ているんだ。それに建物そのものが大量の術式で保護されてる」
「ほほう……それは確かに気になるね。じゃあそのどちらかにしようか」
「よーし……じゃああっちの小さい方! 建物も綺麗だし!」
「あ、よかったです。塔で高い場所になると少々恐いですし」
そういえば高所恐怖症の気が少しありましたね。まぁ普通に着地出来そうだけど。
ともあれ、リュエに続きそのこぢんまりとした宿へと向かう。
一見すると一軒家のようにも見えるのだが、確かに看板が掛けられ『木漏れ日の宿ファーウェルグラス』と書いてある。ふむ、何か植物の名前だろうか?
早速リュエが敷地へと一歩足を踏み込んだ瞬間。唐突に彼女の姿が消える。
「な!? リュエ!? どこにいったんだリュエ!」
「え? なんだいカイくん、ここにいるじゃないか」
すると、敷地からニュっとリュエが顔を出す。いやいやいや、これはなんだ?
「姿が消えて……ちょっとこちらに来て下さい。見ていていてくださいリュエ、私が入ります」
「うん? 一体どうし――レイスが消えた! どこにいったんだい!」
「ね? 見えなくなってしまうんです」
すると今度はニュっとレイスの胸だけが現れてから、顔が出てくる。
……なるほど、境界線が存在するのか。そして真っ先に出てくるのが胸……。
「これは興味深いね……建物は外からも見えるのに、人だけが消えるなんて」
「まぁ入ってみようか」
三人で入る。少なくとも俺は入る時に違和感を覚えなかったが、二人もそうなのだろう。
そしてその小さな建物のドアについているノッカーを鳴らすと――
「あら、珍しいですねお客さんなんて。もしかして見えていたのかしら?」
現れたのは、非常に見覚えのある姿をした妙齢の女性だった。
紫の髪と瞳。そして身に纏うローブ。どこかレイニー・リネアリスを彷彿とさせる。
……本人、ではないようだ。微妙にその顔が違うと言うか、挑発的とでも言うか。
「うん、ばっちり見えたよ。でも人が入るとその人だけ見えなくなっちゃうんだ。どうなっているんだい? あ、私達は宿を探していたのだけど」
「はい。興味がわいてここにしようとしたのですが……」
「……なるほど。見たところ魔眼持ちに……魔術に長けたエルフね。その二人なら見えても仕方ないけれど、貴方にはどうして見えたのかしら。とにかく入って。一応ここは宿で間違いないわ」
一先ず中に入れて貰うと、そこはどこか懐かしい、リュエの家を思い出す、温かな内装と素朴な家具が並ぶ広間だった。……外観と中の広さがズレているな。
「ほへー! すごいや、ここ術式の中だ! それに変わった植物とか魔導具がいっぱい!」
「これは魔眼を解除した方がよさそうです……眩しすぎて何も見えませんでした」
「ふむ? 確かに変わった道具が多いかな。……けれど落ち着く空気だ」
思い思いの感想を述べていると、店主らしき女性が少々驚きながらリュエに向き直る。
「御嬢さん何者かしら? 一目でここの正体が分かるなんて」
「私の家にも似たような倉庫があるんだ。そっかー……魔力の起点だからこそこんな大規模な術式が使えるんだね……さすがにやり方まではわからないけれど」
「似た倉庫……これは先祖代々受け継いできた建物で、今では失伝した術式なのだけれど、貴女の家の倉庫もそうなのかしら?」
「うーんどうだろう……大昔に他の人が作ってくれたのは知っているけど……」
ふむ、確かクロムウェルさんはレイニー・リネアリスの元で空間について学んだと言っていたな。となるとリュエの家の倉庫もレイニーが関わっていると言える。
「そう……世間は広いのね。私はこの国から出た事がないのだけど。それで、宿泊日数を教えて頂戴。ここに泊まるのは俗世と関わりたくない、高位の術者しか訪れないように出来ているの。だから基本的に素泊まりしか出来ないわよ」
「そうなのかい? じゃあご飯とかお風呂は別のところで済ませようか」
「お風呂ならあるから使って頂戴。食事はそうね、飲食街が近くにあるわ。一応自由に使えるキッチンもあるのだけど」
ふむ、確かに外の喧騒が一切聞こえてこないな。拠点にするのには持って来いだ。
早速一週間の滞在を申し出ると、その料金を提示される。滅茶苦茶高いが……。
「一泊三人で三○万ルクスか……べらぼうに高いですね?」
「まぁ一般の感覚だとそうね。けれどその分快適に過ごせるわ」
「……ここにしよう! 普通より高いけどお金ならあるし!」
「そうですね、貴重な体験ですし、今回はここにしましょう」
「一週間で二一○万。過去最高額かもしれない。まぁ……大丈夫だな」
アイテムボックスにはサイフが大量に入っています。支払用に小分けにして入れてるんです。総額は……冒険者ギルドの庇護下から離れるときにかなり引き落としておいたので。
「はい、じゃあ先に頂いておくわね。部屋は二階のを好きに使って頂戴。鍵はないけれど、魔術的に他人が入ってこられないようになっているわ。じゃあごゆっくり」
「うん、ありがと。三つ使っていいのかい? それとも三人で一部屋?」
「どちらでも構わないわ。人数で部屋の広さが変わるから」
「そ、そんな事が……すみません、一部屋にしましょう、少し一人だと心細くなります」
ある意味ホラーハウスな宿に、レイスが速攻で相部屋を提案する。
早速二階へと向かい、一人で部屋を開けた場合と三人一緒に入った場合を見比べてみると、確かにベッドの数や部屋の広さが変化していた。
おいおい……リュエの倉庫も真っ青の魔法の宿じゃないか。
「すごーい……本当に大きくなった……防音も完璧みたいだし……いいなぁこの部屋」
「も、もしも一人残っている状態でベッドの数が減ったら……そのベッドで寝ていた場合は消えてしまうのでしょうか……あの、絶対に一人にしないでくださいね? 出るときは三人一緒にしましょう」
「はは、たぶん大丈夫だと思うけど、そうしようか」
その日の夜食は、教えて貰った飲食通りへと向かい、適当に人が多い店を選ぶことに。
飲食通りの規模だけなら、ブライトネスアーチの方が上かもしれないな。
そうして満腹になり、再びあの不思議な宿に戻ると、俺達以外のお客さんの姿もあった。
いずれも、ローブ姿の魔術師風だが、確かに俗世に興味のない、どこか仙人を思わせる風貌の人ばかりだった。
するとフードを被ったお客の中から一人、素っ頓狂な声を上げてこちらへとやってきた。
「ひょほ!? カイにリュエ殿、レイス殿ではないか! 戻っておったのか!」
「その声はケン爺か! どうしたんだ、自分の家もあるだろうに」
「今日はちょっと会合があってのう……そうか、主らにもこの宿が見えたか」
「ケン君久し振り。そっか、ケン君も凄い術師だもんね。私達は今日到着したんだ」
「はい。とても興味深くてついついここへ……お久しぶりです」
フードを脱ぎ嬉しそうに話しかけてくるケン爺。他にも似た風貌の人がいるのだが、秘密の会合かなにかだったのだろうか?
するとそんなケン爺の姿に、他の人間が不思議そうに声をあげた。
「ふむ。マッケンジー殿の知り合いかね。見たところ随分と若い様子だが、ここに入れるとは中々見どころがある。魔族にエルフ……それにヒューマンだと? これは珍しい」
「おお、中々めんこい娘っこに……これはなんとも蠱惑的な。まさかマッケンジー、お前の……コレか?」
「……二人とも口を慎まれよ。冗談でもこの方達をからかうような真似はよすのだ」
おっと、珍しくマジトーンのケン爺。レイスさんが少し不機嫌そうなのでお兄さんも少しだけ不機嫌になってしまいました。なおリュエはめんこいと言われ照れている模様。
「……このお三方は、本来であればこうして口を利くのも憚られるお人なのじゃよ」
「ほう、そこまで言うとは何か隠しているな? まさか……お盛んなだな?」
「クカカ、老いてなお……だなマッケンジー殿は。しかし資格無き者を招くとは、ここの店主も随分と丸く――」
駄目だ、まったく信じて貰えていない。とりあえずさっさと部屋に戻り――
「うーん、一応高位の術師って扱いなんだろう? 他人を見下して当たり前っていう風潮、私は好きじゃないかな? マッケンジー君の言葉をちゃんと聞いてあげたらどうだい?」
「ははは、そうかそうか! 悪かった悪かった、これで満足かね? では部屋で待っていなさい。我々は大切な話をしているのだ」
「察するにどこぞで見出された神童といったところか。上には上がいる、そういきり立つな娘っこ」
珍しい、俺より先にリュエが怒るとは。同じ術師だからこそ感じるものがあるのだろうか?
「……君たちのお師匠様は教育をしっかりしなかったみたいだね。術師である前に私達は同じ世界で生きる人間だよ。最低限礼儀を弁えるべきじゃないのかい?」
「っ、すまぬリュエ殿。こやつらは少々酔っておるのじゃ。ほれ、儂が以前分けたワインがあるじゃろう? それをつい飲み過ぎたのじゃ」
「……そっか。じゃあ今日は大目に見るよ、宿に迷惑はかけたくないしね」
「マッケンジー殿。なぜそこまでへりくだる。魔導師としての誇りはどうした? 師の教育が不足していたと言われたのだぞ。同門として怒るべき場面ではないのか」
「……非は儂らにある。店主が情けや紹介でここに人を通す訳がなかろうて」
揉めている間に、リュエが足早に二階へと向かい、レイスがそれに続く。
そして俺もそれに続き無視を決め込む。
「ケン爺、また今度話そう。つもる話もある。今日は宿に迷惑をかけたくないからね」
「うむ、すまぬ。後日詫びの品を持参させてもらうぞい。この者達は儂の弟弟子なのじゃ」
「なるほど。身内みたいなものなら大目に見るさ。ただ――」
とりあえず釘だけでも差しておこう。今日は酔っていただけという事なのだし。
「次はない。老人を労わる精神はあるが、無条件という訳ではない。酔ってハメを外すのにも限度がある。肝に銘じておくんだな」
速報、一年ぶり○度目、ぼんぼん『テラーボイス』を発動させる。
「カイ……すまん、途中でこやつら気絶してもうたわ。飲み過ぎじゃ……新作のワインが美味すぎてのう……」
「良く見たら床にまでビンが転がってるじゃないか……いい歳してのみ過ぎだろ……」
本当に泥酔していたみたいだ。ローブで顔隠してちゃ顔色なんて分からない。
……ちょっとそのワイン楽しみになってきたな。
が、本当に次はない。酔った年寄が絡むなんて話は地球でもよくある事だが、それを許容しようとは思わない。それが例え自分の親戚であろうとも。
「お待たせ――って、すげぇ! 途中から部屋がニュンって広がった!?」
「あ、おかえり。何か言われなかった――って、その顔は……何かしたのかい? 晴れ晴れしてる」
「ちょっと言い聞かせただけ。なんかよく見たら連中、もう何本もワイン空けてたみたいでね。本当に泥酔状態だったみたいだ。新作のワインがとても美味しかったんだとさ」
「まったく……お酒をたしなむのなら、節度を持つべきです。お歳を召しているのなら、もう少し控えた方がいいですよ。あんな失礼な事を言うなんて……」
部屋に戻り状況を説明すると、レイスが少々怒りを滲ませて苦言を呈するのだが、ワインの話をした段階で、リュエの表情は対照的に明るく楽しげな物になっていた。
「ケン君のワインだろう!? あれ美味しかったよね! それが上手くできてあんなになるまで飲んじゃったんだなんて……どんな味がするんだろう!」
「明日にでも――と思ったけど、明日は錬金術ギルドの体験会に参加するんだったね。終わったら魔術師ギルドにも顔を出そうか。ケン爺もいるだろうし」
「そうですね、楽しい事を考えなければ……錬金術を学問として学ぶなんて、とても楽しみですね……頂いたパンフレットを見るに、様々な薬品も使うようですし」
「なんだか懐かしいなぁ……森に暮らしていた頃とか、倉庫が出来る前は色々自分で薬とか作っていたんだ。ふふ、じゃあそろそろ寝ようか? それとも――」
ワインを飲む仕草を真似るリュエ。まぁあんな連中を見た所為か、確かに少し飲みたいところではあるのだが、つい飲み過ぎてしまいそうだ。
今日のところは大人しく、ありえない程柔らかく身体にフィットする不思議なベッドで眠りにつくのだった。
翌朝。このベッドやばい。自分がいつ眠りに落ちたのか分からない。
そして信じられないくらい熟睡していたのか、一切夢を見た記憶が無いのだ。
そして、予想通りリュエもレイスも一向に起きようとする気配がない。
「レイス、レイス……朝食の時間も過ぎているよ、そろそろ起きるんだ」
「…………」
「レイス……お身体に触りますよ」
とりあえず耳くすぐっておきましょう。ぼんぼん調べによると、ここを刺激すると高確率で彼女は目を覚ますというデータがとれているので。
「ひゃん! え? え? あれ、朝ですか?」
「おはよう、レイス。熟睡だったよ。いや俺もだったんだけど」
「枕に頭を乗せ……位置を調整していたと思ったのですが……もう朝ですか……?」
「正直俺も自分がいつ眠りに落ちたのかわからない……このベッド、凄い」
「え、ええ……魔性のベッドですね……こんなにすっきり目が覚めたのは久しぶりです」
という訳で最後の一人、リュエさん起床の儀に入ります。とりあえず転がしてベッドからそっと下して、そのままさらに転がしつつ勢いを付けて椅子に座らせる。
アイテムボックスから美味しそうな匂いをさせる料理、今日は焼きたてのソーセージをサンドしたホットドッグを取り出します。
やはり出来立てを保持できるって素晴らしい。ソーセージの艶と香ばしい香りが起き抜けの胃にクリティカルヒットだ。
「俺達も食べようか。はい、レイスの分」
「ありがとうございます。これは……どこの出店で買ったものです?」
「これは確かダリアがあの家で作った奴だね。料理は苦手でも、パンにはさむ程度は出来るからって言ってたんだが、独自に研究していたらしい。これ、かなり美味しいよ」
「まぁ、ダリアさんが? 彼女の手料理を食べるのは初めてです……ん、確かに随分と美味しいですね……気軽に食べていい味じゃないというか、見た目に騙されたというか」
はい、そうなんです。ダリア作のホットドッグは、恐らく超がつく高級食材で出来ているようなんです。簡単に作れて美味しくするには素材をよくするのが手っ取り早い、とのこと。
「……ん、いい匂い……あれ?」
「おはよう、リュエ」
「うん、おはよう……私一回起きたっけ? 食べる途中で寝ちゃってた?」
「まぁそんなとこだね。あのベッドの性能には驚きだよ」
「あれさ、睡眠の魔法とかしこまれているわけじゃないんだ。精神を落ち着かせる効果と、後はたぶん、ベッドに意思を持たせているのかな……簡易的なゴーレムみたいな」
「マジでか! なんだか妙に身体にフィットすると思ったら……」
「ね、もしかしてあれも錬金術で作った発明品なのかな?」
頬を膨らませ、美味しそうに食べる二人を見ながら、錬金術とやらに思いを馳せる。
ううむ、やはり錬金術と言われると『鉄を黄金に』やら『賢者の石』やら『手をパンと打ち鳴らして何か作る』というイメージが先行してしまうな。
体験会が行われる場所は、錬金術ギルド本部という、総合ギルドからほど近い場所にある大きな屋敷だった。
恐らく所属しているであろう、ローブや白衣を纏った人間が出入りする中、俺達も中へ向かい、受付の男性に体験会に参加したいという旨を伝える。
「お、興味を持たれたのですね! 最近では職人ギルド傘下の発明、研究部門に新しい人間が流れていたのですが、嬉しいですね。本日の参加者は貴方達だけですので、すぐに担当の人間をお呼びしますね」
「ありがとうございます。じゃあ少しその辺りの掲示板を見て回ってますね」
やはり人材の取り合いなども起こっているようだ。そりゃあ自転車が走っていたり、馬車や魔車の発達具合が目ざましい都市なのだし、そちらの方が人気はありそうではある。
が、やはり名前の響きに浪漫を感じるのはこちらのほうだ。
「なになに……『今年度前期の研究成果発表についてお知らせ』ふむふむ……何かしらの成果を見せないと、ギルドに所属し続けられないんだね。なかなか厳しいなぁ」
「けれども、大きな成果を残した場合のメリットも大きいようですね。ここにある『カラーベリーから良質な顔料を抽出する方法を見つけたミステ女史、スフィアガーデンと独占契約を結ぶ』とあります。大発見が評価され生活の役に立つなんて、素敵ですね」
「ふむ……本当に研究機関みたいな感じなのかね……あ、でもそうでもないかも」
小さく『舐めても溶けないキャンディー、味の持続時間を従来の一分から五分へ』なんて記事もある。結構くだらない研究も多いみたいだし、面白そうではあるな。
「お待たせしました。担当の術師が研究室でお待ちですので、どうぞこちらへ。本日は高名な魔導師様も監修に来て下さっていますので、皆さんはとても運がよろしいですね」
「おお? やっぱり錬金術と魔法って関係が深いんですか?」
「ええ。ある程度魔力を扱う場面もありますので、時折外部から補助として魔導師や魔法師、魔術師の方をお呼びしているんです」
ワクワクが大きくなりますな。そして案内された研究室は、地球にいた頃を思い出させる、どこか理科室に似た雰囲気の場所だった。
「本日の体験会参加者ですね。ようこそいらっしゃいました。本日の講師を務めさせていただく“フォレスト・ハーマイン”と申します」
「……あれ?」
聞き覚えがある声。というかフードこそ被っていないが、昨日の酔っ払い爺さんの一人では? そして……隣で口をあんぐりしているのはケン爺では?
「二日連続で奇遇だなケン爺」
「カイ! ま、まさか昨日の報復に……すまぬ、どうかここは穏便に――」
「いやいやいや。偶然です」
「ふむ? マッケンジー殿のお知り合いですかな?」
「飲み過ぎて忘れてしまったのかい? ま、気にしないでおくれ。よろしくね、ハーマイン先生」
「よろしくお願いします」
ケン爺とファーストネームが同じだが、同郷かなにかなのだろうか?
ともあれ、昨日の事は蒸し返すのもアレだからと、大人しく話を聞く。
説明を聞く限りでは、化学反応の実験に魔力を加え、普通とは違う結果を生み出す物らしい。今回はある植物のエキスから、瞬間的に固形物を生成する作業を行うそうだ。
「一番楽な、入門とも言える作業となります。この植物のエキスは粘度が高く、薬剤の粘度を増強したりするのに用いられるのですが、錬金術による変化を行う事により、凝縮、固形化させる事が出来ます。また一流の人間ともなると、固形化ではなく結晶化させる事も可能です。その場合は、さらに高度な錬金術の触媒として利用されますね」
「おー……魔力で物同士の反応を強めているのかな……これはちょっと難しそうかも」
「少しぬるぬるしていますが……これが一瞬で小さな欠片になるんですか……」
「ふむ……化学変化というか、魔力変化か……やってみようか」
魔力を通しやすいと言う高純度のクリスタル製のビンに入っているエキスに、渡された白い粉末を入れる。
魔力を込めるってどういう事だ? なんか普通にエキスの中で粉がダマになって固まっただけなのだが。
「……少しずつなら、変化させられますね……不思議です、エキスの量が減ってきたような……」
「うーん? ……えいや!」
二人は順調そうですね。どうやら僕には才能がないみたいです。とりあえず魔力を込めてみたら、ダマになった粉が崩れて、エキス全体が白いドロドロに変化しただけです。
「あ、もしかして完成ですか? エキスが消えて小さな欠片が出来ました」
するとレイスがビンを軽く振り、カラカラと音を立てて見せた。
「おお!? 一度目で成功する人は稀ですよ。貴女のお名前は?」
「レイスと申します。これが錬金術なのですね……興味深いです」
「うむ……やはりそうであろうな。ハーマインよ、彼女は今では珍しい『再生師』でもあるのじゃ。こういった物質に魔力を通す作業には慣れているでの。錬金術に向いているのじゃ」
「ほう! レイスさんと言いましたか? もしも錬金術に興味がありましたら、名前だけでも登録しておきませんか?」
「え、ええと……考えておきます」
やはり、レイスには向いているようだ。さて、ではもう一人の向いていそうな娘さんの様子はどうだろうか?
「うーん……ケン君、どうしよう。ビンの中身がカチカチに固まっちゃったよ」
「うむ? 量がかすかに減っておるが……完全に固まっておるな、これはどうしたことか。ハーマインよ、これを見てくれんか」
「ふむ? ……ふむ」
何を思ったのか、彼はビンをハンマーで砕き、中身を取り出して見せた。
円柱状に固まったそれを摘み上げ、光に翳してみせる。
「……君、名前は?」
「リュエだよ」
「……錬金術の経験はないのだね?」
「この錬金術っていうのは初めてかな。それ、どうして固まってしまったんだい?」
「結晶化と言う。塊が出来る前に、じっくりと繊細な魔力運用を行うと結晶へと変化する。しかし、薬剤とエキスを余すことなく結晶化などと……君、ギルドに入りなさい」
「むむ、興味はあるけど今すぐは難しいかなぁ……興味は凄くあるんだけれど」
「よいかね? この結晶、これだけで今在籍している上位錬金術師の研究に必要な材料を全て賄う事が出来るのだよ。君は、ここにいるべきだ。君は時代を進める可能性がある」
あ、凄い羨ましい。なんか俺が昔想像していた『実はこの人凄い才能があってギルドにスカウトされる』というシチュエーションそのものじゃないですか。
「そうなんだ、でも、ごめんなさい。今週いっぱいでここを出るんだ、私達」
「なんと勿体ない……いいかね、もう一度考えるんだ。世界を変える可能性すらある。潤沢に研究が出来るようになれば、より素晴らしい発見が生まれるかもしれないのだよ。君ならそれこそ、さらに大きな発見、難しい調合を成功させられるかもしれないのだ」
「へぇ! じゃあいつかまた来たら、挑戦してみようか!」
「っ! いや、だから……」
首を縦に振らないリュエにヤキモキしてきたのか、語調が少しずつ強くなる。
そこまでなのか。リュエの作ったその結晶一つでそこまでの反応をするとなると……所属して研究に従事したら、それこそ馬車馬のごとく使われそうだな。
「その辺りにしておけ、ハーマイン。彼ら三人は旅の途中なのだ」
「っ! ならば二人ですればいい! このリュエという女性は残していくべきだ!」
「む! それはさすがに聞き捨てならないよ! 私は三人で旅がしたいんだよ、置いてけぼりなんて絶対に嫌だ」
「……のう、ハーマイン。主は昔から周りが見えなくなりすぎじゃ。人間をしばりつける権利が主にあるのかの?」
「……場合によってはある。世界の進歩の為なら、一人の人生など捻じ曲げて――」
「……のう、ハーマイン。世界にはあらゆる人間がおり、人知の及ばぬ相手もおるのじゃ。迂闊な発言が、一人の人生どころか、新たな戦争の引き金になる事もあるのじゃ。悪い事は言わん。少し冷静になるのじゃ」
「何を言っているマッケンジー殿」
リュエの地雷踏み抜き過ぎでは? 昨日から。
ちょっと空気が凍りつつあるのですが。
「……ハーマイン。よく聞け、ここにいる三人は……神隷期の人間じゃよ。この意味、分かるじゃろう?」
「っ! だ、だからどうしたというのだ! つまり力があるのなら、それを現代に生かすように導くことに何の間違い……が――」
とりあえず落ち着きなさいリュエさんや。なでりこなでりこ。
そして申し訳ないが、二度目なので少しだけ脅かしを入れさせてもらう。
「例えば、俺がこの話を同胞達に誇張して伝えましょう。武力の行使をしなくても、恐らく半年と経たずに……戦争手前まで他国との関係が冷え切る可能性があります」
「うむ。ハーマイン、儂は知っておるのじゃ。本当に彼らは人知れず世界の為に動き続けておる。この国の国王も含め、一部の権力者達は彼らを通じて繋がっておる。彼らを信じない訳では無いのじゃが、仮にその気になれば……国が立ち行かなくなる。世の中にはそういう人間もおるのじゃ。だから、独善的過ぎる行いは、不幸を呼ぶ」
「そんな馬鹿な話があるか……それでは今を生きる人間は古代の人間に生かされているとでも?」
そういう話じゃないだろうに。が、やはり長く生きると、価値観が凝り固まってしまい、変化を受け入れがたいのだろう。……面倒だな。
「……貴方に家族はいますか?」
「っ! カイ、それはよせ!」
「いや、そちらが失礼な態度を改めないならこっちにも考えが――」
「は、なんだというのだ。武力行使か? やはり野蛮な――」
「もういいよ。帰ろう。たぶん、この人だけなんだよ、こういう錬金術師は。でもこれ以上ここにいたら……錬金術そのものが嫌いになりそう。だから帰ろう。原理は理解したし、後は独学で……オインクのところで研究でもしようかな、いつか」
いつのまにかヒートアップしていたのは俺も同じだったようだ。リュエはどこまでも冷静に、それだけを告げて研究室を後にする。去り際に――用意されていた全ての薬品を結晶化させて。
「慣れたらこれくらい一瞬で出来るよ。これで満足だろう? じゃあね」
「っ! 素晴らしい! やはり君はこの場所に――」
去り際に、軽く腕を振るう。
全身の急所を一瞬で軽くつねってやる。痛かろう。何が起きたかはわからないだろうが。
「ぐぅ!? 何が……!」
「すまぬ……カイ。儂もそろそろ……付き合いを改めるべきじゃ。ハーマイン、すまぬが神隷期うんぬん以前に、儂の友人達に失礼な言動を繰り返したのじゃ。今後、魔術師ギルドから主への援助は控えさせて貰おう。……主は大成してはならぬ人種だったようじゃ」
「何故だ! 私は間違っていない! 世界が、世界がかわるかもしれないのだぞ」
いつまでも喚く老人を置き捨て、このギルドから立ち去る事にする。
折角、楽しい思い出が作れそうだったのに、これは……がっかりだ。
「ふふ、気分は悪いけれど、成果はあったね。さっきの粉とエキス、もらってきちゃった。私式の新しい錬金術を生み出して、いつかあのお爺さんをギャフンと言わせるよ」
「はい、そうですね。私もお手伝いします。いずれ……既存の錬金術を時代遅れと鼻で笑えるような、凄い物を生み出しましょうね」
「俺としては本気であの爺さんを殺そうかと思ったが、殺しても反省しない類の人種だったからね。……ああ、気分が悪い」
「まぁまぁ。私はもうそこまで怒っていないんだから、ね? 後で何か作ってあげるからそれで機嫌治しておくれよ」
う……いつのまにか俺が慰められる側に。駄目だな、もう少し冷静にならないと。
折角……今度こそ何者にも縛られないぶらり旅だというのに。
「よし、後で魔物でも狩りに行こう。八つ当たりだ八つ当たり!」
「八つ当たりって自分で言っちゃうのかい? せめて憂さ晴らしって言おうよ」
「ふふ、そうですね。どうやらこの辺りは街道に飛龍の亜種が出没するらしいですし、依頼を受けておきましょうか」
「いつの間に調べて……よし、じゃあ早速行こうか」
その後、ガルデウス周辺から全ての魔物が消えた。
文字通り全てが。全力で荒らし回りました。正直物凄い八つ当たりでした。
報酬部位も換金してガッポガッポでしたが、錬金術師ギルドには少し割高で回すように言っておきました。他の研究者さんには申し訳ないのだが、今日くらい良いだろう。




