後日談 セカンダリア大陸編1
(´・ω・`)エンディング後の話でございます
「ふぃー……船で渡ると結構な距離だったね? でも意外と近かったかも」
「ええ、サーズガルドからと比べるとだいぶ近いです。これならファストリアとセカンダリアの交流も活発になりそうですね」
「確かになぁ……けど距離への驚きより……なんでこんな短期間で立派な港町が出来ているのかっていう事への驚きが大きいかな?」
やって来ましたセカンダリア大陸南端の砂浜。かつてここを出発してから一年程しか経っていないというのに、今では立派な港町として栄えており、その建築物たちはどこか近未来的な、無駄を省いたようなデザインだ。これは……やはり機人の皆さんが作った事が関係しているのだろう。
砂浜はそのままだが、桟橋がいくつもつくられており、防波堤も完備。それに近くにあった森も切り開かれ、大小さまざまな建物が幾つも立ち並び、住人の作と思われる家も無数に並んでいる。恐らく整地を行ってくれた関係で、他の家も建てやすかったのだろう。
だが、こうして見渡した限り、この街に機人の皆さんは残っていないように見える。
……旅立ったのだろうか、あの隠れ里を目指して。
「カイさんあれを見てください! 凄い規模の魚市場ですよ! マグロも並んでいます!」
「本当だ! 私達も小さなマグロみたいなの沢山釣っていたし、この辺りには多いのかな?」
「ほほう……確かに水深が深い場所とかあったし、大型魚の回遊ポイントになっていたのかな」
以前レイスが釣ったカジキは、この一年ファストリアで過ごしている間に全て食べてしまった。おめでたい席も多く、他の皆もよく集まる事も関係し、全て振る舞ってしまったのだ。
勿論、振る舞おうと提案したのはレイスなので、彼女が不満を持っているなんて事はないのだが。
「はぁ……久しぶりに食べられそうですね! すみません、寄っていきませんか?」
「勿論。幾つか買い付けて、その後提供してくれるお店を探そうか。ここの住人がどんな風に提供してくれるか興味があるし」
「なるほど! ではそろそろお昼ですし、先にお店、探しましょうか」
ウキウキと話すレイス。いつもならそれに便乗するはずのリュエが静かな事に気が付き彼女の様子を見ようとする。が、いつのまにか彼女の姿が消えていた。
「おーい二人とも、ここに面白いのがあるよ! 石像……かな?」
少し離れた場所でリュエが手を振る。すると確かに石像群が並ぶ一角があり、俺達以外にも大勢の観光客と思しき一団がその作品を眺めていた。
「これはなんと精巧な……スフィアガーデンでもここまでの作品は見られないぞ……」
「甲冑の乙女達だろうか……一風変わった意匠ではあるが……なんと美しい」
熱心に語る観光客に釣られそれらを見ると、すぐにその正体が判明した。
これは……間違いなく機人の皆さんの姿だ。
「『町の完成記念に製作』とだけ書いてあるな、彼女達らしい」
「親方さんに……これはミネルバさんですね。こっちはルナさんに……皆さん勢揃いです」
「へー! 上手な物だねぇ! 物づくりが得意なのかな、あの人達って」
まぁ、魔法科学の結晶のような人達だからなぁ……精密作業はお手の物なのかね?
懐かしの面々を眺めつつ、昼食をとれそうな場所を探すと、思いのほかあっさりと見つかった。
機人の皆さんが作った建物ではなく、移住してきた人間が作ったであろうレストランだ。
出来てからまだ一年も経っていないからか、どこか真新しい木の香りがする店内で、早速メニューを開いてみると――
「はは……さてはナオ君が関係してるな、ここのレストラン」
『マグロのザンギ』というメニューが看板メニューとして堂々と鎮座していました。
折角なのでコイツと……イカとエビのフリットを注文しようかな。
「私も同じザンギっていうのと……パエリアってなんだい? 響きが可愛いね」
「それはライスを使った料理ですね。私は……マグロのザンギとマグロのステーキにします」
マグロが多いな、このお店。やはり相当数捕れるようだが……絶滅、しませんよね?
そして少しすると三人分のザンギが山盛りと、それぞれの料理が運ばれてきた。
「わぁ……! ライスが黄色いよ! 赤いトマトに白いイカ……緑のハーブに……綺麗」
「随分本格的だなぁ……そのごろごろしたのは全部マグロの切り身か……美味しそうだ」
「私のこれは……丸いですね? もしかして尾の部分を輪切りにしたのでしょうか?」
「たぶんそうだね。良く動く部位だから、身も締まっていて美味しいと思うよ」
等と言いながら、早速ザンギを一つ口に放り込む。……美味いな! 醤油がちゃんと使われている。これ、わざわざセミフィナルから輸入しているのだろうか?
それともついにサーディスでも醤油製造に乗り出したのだろうか? うむ、美味美味。
「はぁ……幸せです……肉とはまた違うこの充実感……噛むと溢れるエキス……生で食べても火を通しても美味しいなんて、まさに魔性の食材です……」
「レイスが幸せそうで何よりだね。あ、ザンギにつけるタレもあるね?」
「これはお店のオリジナルかな? どれどれ……ハーブと塩ダレって感じか。中々美味いな……ワインのつまみに最適だ」
こんな風に、地球からもたらされた知識も徐々にその土地ならではの進化をしていくのだろう。それがなんだか嬉しくて、同時に未来が楽しみで。
良い物だな、旅は。他の土地はどうなっていくのだろうか。
翌日。昨日マグロを丸ごと二匹という爆買いをしたレイスだが、やはり自分で釣り上げないと物足りないという彼女の為、大物釣りが楽しめるという触れ込みの小型船クルージングに参加する事に。
密かなブームとなっているのか、貴族風の人間も何人か参加しているが、費用が高い為一般市民の参加はまだ少し難しいようだった。
そして案の定レイスに声を掛ける男性もいるのだが、俺が追い払うまでもなく、こういった手合いのあしらい方に慣れている彼女が、やんわりと追い払っていた。
何人かに俺が睨まれたが、まぁそこは穏便に。仕方ないね。
「カイくん……すっかり丸くなって……私はその成長が嬉しいよ!」
「何かされない限り基本的に穏便に済ませるのは昔からだと思うんですがそれは」
「そうだっけ? ……そうかも。なんだろう、私の中でカイくんが凄い乱暴者になってた」
「何それ酷い、お兄さん泣きそう」
「ふふ、冗談だよ? でも……やっぱり中々釣れないみたいだね?」
そうなのだ。さすがに漁場には連れていって貰えないのだが、それでも水深が深いであろう場所へと連れられても、一向に当たりらしい当たりがない。
俺が[ソナー]を使う手もあるが……さすがに他人の船ででしゃばる事も出来ない。
すると、船長から場所を移動する旨を伝えられ、一同竿をしまい休憩に入る。
「やはりそう簡単には釣れませんね……ですが、次のポイントが本命という話ですし、まだまだ諦めませんよ」
「張り切ってるねーレイス! 私はもう絶対に釣れないって思っているし、前に大きいの釣れてるから、もう満足しちゃったかな」
「ああ、一年前にサーディスからこっちに来るときに釣っていたね。あれもあれでたぶん美味しい魚だけど……あの時はリリースしたっけ」
「うん。あれは海の主だよ。食べちゃうのはさすがに申し訳ないっていうか……」
あれ、根魚の一種でたぶん日本で言う『タマカイ』とか『ハタ』の仲間だと思うんですよね。きっと鍋にしたら美味しかったろうに……やばい、今からでもそっち狙うか。食べたくなってきた。
やがて船が停まり、本命とされるポイントに到着すると、皆こぞって釣竿を出し始めた。
俺も今回は参戦。そしてリュエは相変わらず諦めているのか、レイスのしかけ作りを手伝っていた。
「……ルアーまで[ソナー]の効果を伸ばせるな。こりゃ反則だ。魚のいる場所にピンポイントで投げられるし、食らいつくタイミングまで分かってしまう。……黙っておこう」
一人、反則技を使って釣果を上げる。が、残念ながら魚種までは分からないので、俺が釣り上げたのは巨大なエイでした。いいんです、こいつも美味しいだろうし。
「ザブトンみたいだねそれ! なんか可愛い顔してる!」
「確かに妙に愛嬌があるよなぁ……とりあえず〆ておこう」
「ちょっと可哀そうだね、可愛い顔してるせいで」
こいつは後でヒレの部分を切り分けておきましょう。煮つけたら美味そうだ。
そうして俺が釣果を上げていると、どうやらレイスの方にも当たりがあったようだ。
「くっ! この手ごたえは!」
身体を持って行かれるレイス。そしてここぞとばかりにそれを支えようと集まる貴族。
ええい、触るな触るな! それは俺の役目です! が、レイスが集まる人間に向かい――
「一騎打ちに加勢は不要です! 離れてください!」
「し、しかしその細腕では!」
「離れてください!」
戦士の顔で一喝。するとさすがにそれ以上は食い下がろうとしない貴族。
まぁ、大きくしなる釣竿を一人で支え、たくみに動かす彼女に手助けは不要と判断したのかもしれないが。
「頑張れレイス! お、おお……右、左……暴れるねぇ!」
「レイス、少し糸を出した方が良さそうだ。時間をかけよう」
「はい! これは想像以上に……長期戦になりそうです!」
一進一退の攻防。すると船長もその様子に、巨大魚用の銛を持ってきてくれた。
そんな格闘が二○分程続いた頃、ついに海面からその巨体の姿が見えてきた。
「マグロです! 間違いありません! 後少し……船体に潜られないように……」
「凄いぞ姐さん、こりゃ中々の大物だ! 兄さんこの人のツレかい? 銛は打てるか?」
「任せてください。……後少しだレイス」
喜色満面のレイスがスパートをかけていたその時だった。
突然、海中にもう一つの大きな魚影が現れた。何事かと思った次の瞬間――彼女が釣り上げようとしているマグロが、その魚影に襲われ――
「あ、ああ!!! そんな!?」
「っ! これは……」
海に、赤色が広がった。それはまごうことない、マグロの血。
そう、サメだ。サメがレイスと格闘中のマグロを海中で食いちぎったのだった。
沈黙。逃げられたのではない。横取りされたのだ。これは、悔しい。
「……あれは、なんなのですか? 私は海の中に敵がいるなんて知りませんでした……」
「サメ、だね。人も襲う事がある、海の猛獣みたいなものだよ……この海域にもいるんだね」
低い、底冷えするような迫力のある声でレイスが呟く。
「サメ……サメですか。カイさん、あれは食べられますか?」
「ま、まぁ一応……というか俺は結構好きだったりする」
実は、割と食べてました。地元だと割とメジャーでしたね。それこそ唐揚げにしたり煮つけにしたり。鮮度がよければ刺身でも……あれ? 下手したらマグロより好きかも。
あれ脂が乗りやすい魚だから年中美味しいんだよな……。
「釣り方を教えてください。あれを食べます。私の得物を食べたのです、当然食べられる覚悟もあるのでしょう……絶対に仕留めます」
「はは……じゃあルアーじゃなくて餌釣りにしよう。アイテムボックスに確かレバーがあったから……使ってみようか」
その後、目論見通りサメがかかったのだが、レイスはもはやそれを魚ではなく敵と認識していたのか……駆除という名目の元、掛かった瞬間俺に竿を渡し、弓を構えたのだった。
「逃がしません、[チェイスアロー]」
「……ヒット。頭を狙い撃ちにしたみたいだね。いやはや……早く回収しようか」
「また食べられちゃうかもだしね! おー……かなり大きいね! しかもカッコいい!」
「これがサメですか。恐ろしい口ですね。これで私のマグロを……」
レイスさん恐い恐い。貴族の皆さんもうめっちゃ離れてるじゃないですか。
「はい、という訳でもう何度目になるか分かりませんがぼんぼんクッキングのお時間です」
「ファストリアでしょっちゅう街の皆にいろいろ作っていたもんね!」
「今回はカイさんとリュエにお任せしますね。ちょっと私では冷静に調理出来ないかもです」
港へと戻り、早速砂浜に野営道具を並べ調理開始。こいつは鮮度が命だからな。
そしてレイスは今も悔しそうにサメを睨みつけております。大丈夫、マグロに負けないくらい美味しい料理を作るから。
「今日はそうだなぁ……こいつもザンギ、唐揚げにして……ハラミを炙りにして食べようか。他にも串焼きにしたり、煮込みにしたり……いや楽しみだ」
「美味しいのかい? なんだか魚というより魔物だけど……」
「実は、うまい。ただ鮮度が落ちるとすぐに味が悪くなる魚だから、今回みたいにレイスが頭を撃ち抜いて一瞬で〆た場合は、最高に美味しいと思うよ」
「……カイさんがそこまで美味しいと言うのなら、少しだけ怒りも静まりそうです」
「ふふ、レイスがこんなに怒るの、初めて見たかも。待っていておくれ、美味しいの作るからね」
脂がたっぷりのったハラミ。さしの入った背中の身。そして……背ビレと尾ビレ。
ヒレはすぐに収納して、そのうちフカヒレでも作ろうか。
しかしやはりうまそうだ。これなら刺身でもいけるな。
切り身にして並べ、そこにリュエ特製のマヨネーズと醤油、赤唐辛子を混ぜたピリ辛マヨダレを塗り表面を炙る。
並行して、ブロック状の切り身をしょうが醤油に付け込んでおく。これはザンギだ。
さらに串に刺して、リュエに焼いて貰ったりと……ああ、いい匂いだ。
「サメは骨が少ないし、その骨も食べやすい。皮も利用価値が高いし、実は無駄が少ない魚なんだ。このでっかい肝も、後でどこかに売りに行こう。薬の材料になる」
「へー! そういえばさっき尻尾をしまっていたけど、あれは?」
「俺のいた世界では、物凄く有名な高級食材になるんだよアレは。後で作ろうかと」
「高級なんだ! へぇ……」
「良い品だと、あの尾だけで……この世界で換算すると百万ルクスを越える事もあるよ、あの大きさだと」
めっちゃ高いんですよね。安いものもあるが、良い品となると本当宝石並だ。
ううむ……フォアグラやキャビアもこの世界にあればいいのだが。こいつ、残念ながらチョウザメではないので卵はとれないんですよね。ていうかオスだし。
「そ、そんな値段が付くのですか!? マグロよりも高級ではないですか」
「この世界だとマグロは安いみたいだからね。俺のいた世界ではマグロの値段は年々上がっていたんだよ」
そうこうしているうちに完成するサメのフルコース。いやぁ美味しそうだ。
「はい完成。んじゃまずはカルパッチョから頂きましょうか。はい、レイスからどうぞ」
「サメは白身なんですね。では……」
マスタードとピンクペッパーを効かせたドレッシングで、オニオンスライスと共に。
レイスがその憎き仇を口に入れ、ゆっくりと味わう。
「……これは中々……身にしっかりと甘さがあります……溶けてなお歯ごたえがありますね……美味しいです」
「ほんとだ美味しい! 味が濃い魚だね! へぇ、あんなに恐い顔してるのに」
「次はこの炙りをどうぞ。リュエ特製のマヨネーズを使っているんだ」
「おー! 混ぜ物して炙ったんだね? どれどれ……」
「こ、これも美味しそうですね……では」
俺も一切れ口にし、想像通りに美味しいそのとろける身とマヨネーズに至福の時を味わう。
ああ……やっぱり美味しい。大トロと比べても遜色が……いやさすがに負けるか?
「美味しい! レイス、これ凄く美味しい! 釣ってくれてありがとうだよ!」
「ほ、本当に美味しいです! ……許します。サメは敵ではありません。私の好物の一つとして、認めます。今度から狙って釣る事も視野にいれたいと思います」
「はは、機嫌が治って何よりだよ。うーん串焼きも美味いな……ここのサメ、良い物食ってるからか脂の乗りもいいし」
その後、もう少しだけこの港町に滞在する事になったのだが、本当にレイスが翌日もサメを仕留めてきたのにはさすがに驚いてしまいました。




