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ぼんぼんマジック

「へぇ、この大陸って遊びの道具が充実しているんだな」

「ええ、そうなんですよ。私とシュンの知識を元に開発したものが多数存在しているんです」

「これはカードゲームですか? なんだか綺麗な絵や難しい説明が書かれていますね」

「それはカード一枚一枚に効果があって、それを組み合わせて戦うゲームだったのですが、大量生産が難しく、結局私やシュン、そしてフェンネルでしか遊んでいないんですよ」


 ノクスヘイムにある極上の宿。そこで過ごす最後の夜に、ちょっとだけ夜更かしをしようと俺が提案すると、徐にダリアがアイテムボックスから様々な遊び道具を取り出し始めた。

 UN〇やらカードゲーム、リバーシや将棋だけに留まらず、なんとダルマ落としにけん玉、さらにはヨーヨーまで再現したという。

 おいおい、このヨーヨー木製のボディの癖にしっかりベアリング内蔵型じゃないか。

 どれどれ……ストリングスプレイ! スパイダーベイビー!


「おや、器用ですねカイヴォン。そういえばこういう遊び、昔から得意でしたね」

「うむ。遊び人ぼんぼんとは俺の事だ」

「お、おお? これずっと回っているのかい? ようよう?」

「ほーら世界一周に犬の散歩だぞ」

「おー!!! 凄い凄い! 糸を巻き取って手に戻っていく!」

「一体どういう仕掛けなのでしょう……まるで大道芸です」


 二人に大うけでした。いやぁ、俺も久しぶりで中々に楽しめたのだが、こいつはちょっと改良が必要かもしれないな。


「ダリア。本体の外周に金属のリングを取り付けて重さのバランスを取ると良い。あとはもう少し全体的に丸いフォルムにして、もう気持ち小型化してくれ」

「なるほど……少し前、と言っても三〇年程前にブームが過ぎましたが、改良してまた売り出すのも良いかもしれませんね」


 こうして面白い遊びを広め、販売する側に回れるとなると、国の偉い立場というのも中々に楽しそうだ。

 ううむ……国じゃなくてどこかの商会にコネでもあれば、色々面白い事になりそうだな。


「ん、普通のトランプもあるんだな。随分と質が良いみたいだが」

「トランプはもともとこの世界にもありましたからね。ですから、快適にプレイ出来る様に改良していった結果ですね。どうです? 国外にも輸出されている一品なんですよ?」


 表面に加工がされているのか、なめらかでカード同士がよく滑る。

 摩擦も少なく、綺麗に広げる事も可能……これは良いな。


「あ、そのトランプでしたら私も持っていますよ。それに以前、セミフィナル大陸のお祭りでも、このカードを使ってブラックジャックを行っている場所もありましたし」

「あー! 覚えてる覚えてる! 私がお金を巻き上げられた時のヤツだね!」

「そういえばそんな事もあったっけなぁ」


 リフルシャッフル、ヒンズーシャッフル。オーバーハンドシャッフル、フェローシャッフル。

 どれを試しても綺麗に成功するあたり、余程長い間研究されてきたのだろう。

 ふむ……手慰みに1デッキ俺も欲しいな。


「随分とカード捌きがお上手ですね? そういえばカイさんとこういう勝負はした事がありませんでしたが……どうです?」


 カードで遊んでいたその時、まるで獲物でも見つけたような瞳でレイスが隣へとやって来た。

 やめてください、僕こういう対人ゲームにはめっぽう弱いんです。

 運ゲーならまだしも、そこに駆け引きが入るとどうしても負けてしまうのですよ。

 俺がカード捌きが上手なのは、一時期手品にはまっていたからなんです。


「そういえばさ、あのお祭りの時、そのトランプで不思議な魔法を使う人がいたよね?」

「あー……それこそ大道芸を見て回っていた時にいたねぇ、マジックやってる人」

「マジック……手品ですか? そういえばカードを見ずに当てるという、妙技を披露してくれたお客様がいらした事がありましたね、お店にいた頃」


 高級クラブで手品とな。そのお客、なかなかにわかっていらっしゃる。

 鉄板ですよね、そういう場で披露するのって。あと合コンとか。


「あれは恐ろしかったよ……私でも感知できない魔力で魔法を使うんだ……カード一枚とはいえ、物質の転送を実現して見せたんだ……」


 するとリュエが、その時に見たカードマジックを、まるで恐ろしい物のように声を潜めて語り出す。

 いやぁ、あれはただ単に相手が引くカードを強制させて、同じカードを別な場所に仕込んでいただけだと思うんですけど。


「カードマジック……恐るべしだよ。そういえばカイくんも出来るって言っていたけど……さすがに冗談だよね? だってカイくんはこの世界に来てから魔法を覚えたんだし、あんな魔法出来る訳が――」

「いや出来るぞ? なんなら今からやって見せようか?」


 どれ、ではちょいとアンビシャスカードでも披露してみせようか?

 それともフォースやクラシックパスを使ったカラーチェンジなんてどうだろうか。


「そういえば一時期傾倒していましたね、カイヴォン。私の記憶が確かなら……学校の行事で披露していましたよね」

「アシスタントの友達が盛大にやらかしてくれたので俺の中の黒歴史になっているがね」


 思い出さなくても良い事を思い出しながら、その手法を思い出し手になじませていく。

 ……というかやっぱりこの身体って凄いな、昔だってここまで綺麗に指を動かせなかったぞ。

 そしてレイスさん、もしかして『手フェチ』というやつなのでしょうか……さっきから手に物凄い熱い視線を感じるのですが。


「ああ……指が綺麗に動いています……こんな特技があったんですね」

「いや指動かす事が特技な訳じゃないからね?」

「そうでした……良いですね、なんだか動きが艶やかです」


 それは俺も認めます。どうして手品師の皆さんってあんなにきれいで滑らかに指が動くんでしょう。

 ふと、先程から黙り込んでいるリュエが気になり目を向けてみると、またしてもドン引きした様子でこちらを凝視していた。


「う、嘘だ……あんな魔法、カイくんが使える訳がないんだ……」

「ははは、まぁ見ていて御覧なさい」


 さて、では『アンビシャスカード』から始めてみましょうか。

 これは、俺が日本にいた頃、確かこの世界に来る数年前にTVで流行っていたネタだ。

 クローズアップマジックとかいう名称で紹介されていた気がするが、その内容は確かにお茶の間の人間を沸かすのに十二分な効果を発揮してくれたっけ。

 それから数年して、インターネット上にそのタネがちらほらと紹介されるようになり、必死に練習したのを覚えている。

 たぶん今の時代なら、動画サイトで解説でもされているのではないだろうか。


「よし、じゃあリュエ。この中から一枚好きなカードを引いてくれ」

「ほ、本当にやるのかい……? 危なくないのかい? 指とか消えたりしない? 大丈夫? こ、こわいんだけれど!?」

「大丈夫、大丈夫だからほら、どれでも一枚引いてごらん」


 今回のアンビシャスカードというのは、レイスの言うカード当てマジックとは少し違う。

 選んでもらったカードを再びデッキの中に戻すのだが、その戻したはずのカードがデッキの一番上に戻ってきてしまうという、そんなマジックだ。

 様々な方法でそれを演じる事が出来るのだが、とりあえず五種類程習得しているので、彼女を驚かせる事は十分に可能だろう。


「ひ、引いたよ? これをどうすれば良いんだい?」

「その数字とマークをしっかり覚えてから、もう一度この束の中に戻すんだ」


 レイスはこの後何が起きるのか予想出来ているのか、微笑ましそうにリュエの様子を覗い、そしてダリアも俺が何をしようとしているのか分かっていてなお、本当に出来るのかと期待を込めた眼差しをむけていた。


「今リュエの選んだカードってどの辺りにあるか分かるかい?」

「うん。たぶん丁度真ん中あたりだと思うけれど……」

「だろう? じゃあ、ここからが本番だ。今から俺が指を鳴らすと、不思議な事が起こるんだ」

「ひっ! な、なにをするつもりだい……」


 いや本当にそこまで引かれると逆にやりにくいです。

 マジック恐怖症とでも言うのかね君は。

 そして指をパチンと鳴らしながら、彼女にデッキの一番上のカードを捲ってもらう。

 まぁその選んでもらったカードですら、こちらが強制的に選ばせたカードなのですが。


「ひいい! 転移してる! レイス! 魔眼で魔力の流れに異常はなかった!?」

「あ、ありません……てっきりカードを当てるのだとばかり思っていましたが……そんなまさか……」

「…………驚いてもらえて何よりです」

「ふふふ、やった甲斐がありましたね? 中々に見事でした。タネも分かりませんでしたし」

「あ、ちなみにダリアさんや。君のローブのポケットの中ちょっと見てみてくれ」


 これ以上何かすると本当にドン引きされてしまいそうだが、せっかく仕込んでおいたのでこっちも使っておきましょう。

 リュエに選ばせたのはハートの七で、それを予め予言した紙をダリアに仕込んでおいたのだ。


「む? なにか紙片が入っていますね」

「それ、開いてみてくれ」

「どれどれ……おー! 二人も見てみてください、ほら」


 アンビシャスカードと予言のマジックを同時進行でやってみたのだが、どうでしょうかお嬢さん。


「よ、予言……? そんなまさか……いや、もしかして私の思考を操作した……?」

「ど、どういう仕組みなんですか!? カイさん、カードを操作したり読み取ったり出来るのですか!? これでは私と勝負しても絶対に私では勝てません……」

「やーイカサマとかは出来ないから安心してください。という訳でこれが俺のカードマジックでした。どうだい、リュエ。俺も中々やるもんだろう?」


 未だプルプル震えている彼女の手からカードを回収してケースにしまうと、まるでこちらを恐ろしい何かのような反応でチラチラ覗ってくるリュエさん。

 ……自分で解明出来ない事にはめっぽう弱いんですね、貴女。


「わ、わからない……カードに残留魔力も痕跡も何もなかった……確かにカードは真ん中に差し込まれたのに……おかしい、ありえないよ……」

「世の中には魔術でも解明出来ない不思議な事があるんです。ささ、気を取り直して他のゲームでもしようか」


 その後、いくら気を紛らわそうとしても、リュエがしきりにこちらの身体を調べようとしたり、逆にこちらが彼女に声をかけると過敏に驚いたりと、中々に寂しい結果となりました。

 ……リュエにマジック見せるのはもうやめておこう。なんだか申し訳ない。


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