冷めた視線
冷めた視線
右の拳を打ち込むと相手も右の拳を返す。首を抱えて膝を打ち込むと、相手は肘を顔面に打ち込んでくる。互いに鼻血を流し青痣だらけになりながらも、二人はそれこそ喧嘩を楽しんでいるように見えた。
「あんたやるな、やる変態だな。」
「お前こそ出来るガキじゃねえかよ。」
熱くなる二人を尻目に、久信は特局への連絡を済ませ高校生であろう男の照会を済ませる。
「穂積 慧、16歳。特技は【狂犬】ですか。なぜか気があっているようですが、あの方は何を考えているのでしょう?好戦的なタイプではないはずですが・・・、もしや好きなタイプに出会ってしまったという事ですかね?」
久信の危ない考えに二人は気付く事はなく、意地を張り続けるように未だ身体も口もよく動いていた。
「クソガキが、いい加減にしろよっ!」
「変態のおっさんこそ諦めて家に帰ってクソして寝ろよっ!」
フェイントすら織り交ぜることなく真っ直ぐ正面から打ち込まれる腹への一撃を、荒い呼気を吐き出しながら勇司は受け切ると、目の前にある穂積の顔面に拳を打ち込む。
手痛い一撃を受けても、穂積の戦意は衰えることなく更なる闘志が湧き上がり、吠えるように掛け声をあげると意思を強く感じる目を見開き拳を返す。
顔面を殴り返された勇司は、折れそうになる心を奮い立たせ、立て直していくと少しばかり正気に戻り始めていた。
(んっ?すっげー痛いぞ。口の中が傷だらけで今日の晩御飯予定の酸辣湯麺食べるのが不安だ。)
攻撃がすぐ返ってこない事に穂積は犬歯を剥き出しにして笑みを見せると、一気に勝負をつけに来た。
「そんなもんか、変態野郎っ!」
荒々しく昂ぶりながら次々と打ち込む拳を、勇司はガードの上から受け続ける。空振りであろうがガードの上からであろうが、休む事なく打ち込まれる拳に心が折れる前に勇司は行動に出ることにした。
続く攻撃の中から選ぶ必要もなく、大振りの拳を三発連続で躱し勇司ははっきりと呟く。
「歯食いしばれよ。」
大振りの攻撃を連続で空振りし、バランスを少し崩した所を絶妙ともいえるタイミングで足払いを掛ける。
完全に転倒する態勢ではあったものの、強引に穂積は姿勢を立て直し足を地に着けるがそれを勇司は狙い打つ。
着地した足に横から強い衝撃が走り右足の力が抜けると、穂積は尻から座り込んでいた。
両方の鼻から血を流しつつ勇司は、倒れた穂積を見ながら袖で鼻血を拭う。
「どうだ?効いたかこんにゃろ。」
「こんなの屁でもねえよっ!」
穂積は後転の要領で後ろに回り、腕の力で飛ぶと片足で着地して未だ全く闘志の衰えない、獣の眼つきで勇司を睨みつける。
「もう変態とは呼ばねえよ。名前も知らないあんちゃんにとっておきを見せてやるよ。」
「じゃあ俺もガキとは呼べないな。きなっ、名も知らぬ高校生の兄ちゃん。」
再び盛り上がりを見せる二人を、久信は冷めた眼差しで見つめ続けている。
「二人共撃ちましょうか?ですが、勇司さんは問題ないとして未成年を撃つのは問題ありですね。見ていると問題ないような気もしてくるので不思議なものです。」
冷めた視線を送り続ける久信の存在は無視されたまま、二人の闘いは意味のないクライマックスを迎えて行くのであった。
よく分からない話が順調に進行しています。なんとなくですが、この新キャラはこの先出していかないとまずいよなーなんて考えながら、創作中です。




