二人
二人
辺りは闇に包まれ古ぼけた工場の中では最新の施設が整い、インクの臭いが充満していた。暗闇の中を苦もなく歩く眼鏡を掛けたロングコート姿の男と、何かに躓きながらヨタヨタと歩くスーツ姿の男二人が奥へ奥へと進んでいく。
スーツ姿の男はたまらず親指と中指をスナップを効かせて鳴らすと火花が飛び散り、人差し指の先から火を灯す。ユラユラ揺れる光源に、これと言って特徴のない顔が照らされていた。
「なあ久信よ、誰もいないならライトが欲しいぞ。」
久信と呼ばれた男はロングコートの中からマグライトを取り出すと、少し嫌味を感じる程の整った顔立ちで振り返り投げ渡してくる。
「気付きませんでした、それもそうですね。勇司さん、それ使って下さい。」
勇司と呼ばれた男に飛んで来るマグライトは、暗闇から死角をついてこれといって特徴のない顔にぶち当たり、床を転がっていった。
「すみません勇司さん。ですがしっかりキャッチして下さい。ライト壊れたらどうするんですか?」
「アイタタタタ、じゃあ投げずにに手渡してくれよな。頼むぜこんにゃろう。」
頼りない指先の灯火でウロウロと探し回り、マグライトを拾い上げ点灯させるとようやく勇司の目にも工場内の全貌が見えてくる。巨大な印刷機に裁断機、大型の洗濯乾燥機から何に使うのか分からない物まで様々な機会が雑然と置かれていた。
「こりゃまた案外と立派な設備で。情報は本当だったって事か。」
ライトの光で照らしながら工場内を歩く勇司は興味深そうに機材を見渡し、久信はというとすでに確証となる証拠を見つけ出していた。
「これですか、ほぼほぼ本物としか言えない出来です。コピーではなく印刷しているとは手間を惜しんでいませんね。」
久信の手には完璧といえる出来栄えの偽札が握られており、特技を使って更なる偽札を鑑定に入る。
特技とはある日、ある瞬間から突然全ての人々が手に入れた異能力とも言えるものであり、望む望まないに関わらず人々の生活を一変させていた。
手に入れた特技によって起こる犯罪を取り締まるために出来た組織が特技犯罪捜査局、通称(特局)であり二人は特局の最高戦力である0班の一員であった。
【思金神の眼鏡】
眼鏡を通して久信の目に様々な情報が流れ込み、一人頷き納得していく。その様子を眺めながら、勇司は暇を持て余し見つけた偽札を上空へとばら撒き成金気分を味わう。一瞬の気分の高揚はあるものの、虚しさを味わい一発反省を入れると気を取り直し改めて捜索に入る。
(本物の紙に本物のインク、見間違えるのも無理はないですね。よく様々な場所からこれだけの物を盗み出せたものです、資料にそのような容疑者の特技も書いてありましたか。)
すると窓の外を見ていた勇司がライトを消し、偽札を眺める久信に近寄る。
「何人かここに近付いてくるぞ、お帰りだな。」
「偽札の完成祝いといったところでしょうか?ではお出迎えをせねばなりませんね。」
「だな。少しばかり盛大に迎えますか。」
二人は気楽にそう言うと、出入り口に向かい気負う様子もなく出迎えの準備を始めるのであった。
五章のスタートです。最終話だけは考えてありますが、それ以外は未定です。
しばらくお付き合いいただければ幸いです。




