没頭
没頭
翌日0室内は事件が解決したにも関わらず、ある種の緊張感に包まれていた。
不機嫌そうにボロボロになった革ジャンを纏い腕のガトリングを整備する慎介、ぴっしりとした七三分けにシワ一つないスーツを着て時間を気にする竜胆、黒いマントを羽織り窓の外を見つめる美優、その後ろで立つ道着姿の辰雄、着崩した燕尾服に身を包みデスクに足を乗せ退屈そうにする昴、顔を腫らし氷嚢で冷やす勇司、真新しいロングコートを着て少し落ち着きのない久信、0班員達は連絡のつかない残り一名の到着を待っていた。
そこに扉が開き、肩に雌鷹をのせ餌を与えながら黒いパーカーに黒いジーンズ姿の男がご機嫌に入ってくる。
「皆さん珍しくお揃いで。あっ、勇司くんっ!その顔どうした?また訓練中にでもやられたか?傷から見て昴さん当たりだな。ここまでやるなんて少し言っといてやるか。」
「へっ?」
「みなまで言うな勇司君よ。これも先輩の勤めってやつだからな。」
肩に鷹を乗せたまま悠々と歩く要は昴の元へ向かおうとするが、足に傘の柄が引っ掻けられ派手に転倒すると、雌鷹は勇司の肩に飛び移る。
「イツッ!何だ何だ?罠か?」
倒れた要に上から日傘を突き付け、美優が無表情に尋ねた。
「要ちゃん?昨日は?」
「昨日っすか?昨日はなんやかんやでどこか見知らぬ土地にいまして、そのタカちゃんとひと悶着あった後、睡眠の欲求に負けて、ふと気付くと暗暗くなってて飛びながら迷ってた感じですかね・・・。あれっ?もしや皆さんご機嫌悪めです?」
すると辰雄に首根っこを捕まれ足が宙に浮くと、そのまま班長である慎介の前に降ろされると辰雄は定位置である美優の後ろに戻っていく。
何事かと慌てる要は周りを見回すが、全て視線は自身に集まっており慎介が小さく呟いた。
「よし、七回死刑だな。」
その言葉に要は何かは分からないがやらかした事に気付き、自身にこれから降りかかるであろう不幸を想像し顔面蒼白になるのであった。
訓練室ではボロ雑巾のようになりながらもなんとか立つ要と、傷一つないスーツ姿の竜胆が向かい合っていた。
鋭い呼吸音と共に放たれる蹴りは竜胆に吸い込まれていく。確かに蹴りは当たったが、その感触は昨日抱いて寝た雌鷹の羽毛より柔らかい。
感触に驚いてる暇もなく足首に痛みが走り、反射的に飛び身体を回すがそのまま床に叩きつけられる。
うつ伏せで落ち、次の攻撃に身構えるがその衝撃はいつまで経ってもやってこない。
しかし立とうと足に力を込めた瞬間に、足払いを掛けられ床に思い切り身体をぶつける。再び立とうとする身体を竜胆はバランスを取らせずに、転がし続けていく。その後一度も立つことさえ許されず、訓練終了の時間一杯まで身体を床に叩きつけられ続けるのであった。
「・・・あと二人・・・。体力がからっ欠だけど勇司君と久信君ならどうにかなるかな、張り切って行ってみようか。」
ここまで0班五人と三十分の模擬戦を五本行い、要はすでに満身創痍とも言える状態にまで追い込まれている。
しかし残る二戦でなんとか意地を見せ、勇司と久信の攻撃を完封してみせるのであった。
そして模擬戦の終わった訓練室では勇司と久信、そして肩に止まる雌鷹が残っている。
「あのボロボロな状態でも勝てないか。しょせん88万だな俺。」
「たしかに差を感じましたね、いろいろな物が足りません。」
二人を慰めるように雌鷹は飛び立つと透明な瓶を二本抱えて戻ってきて二人に手渡し、自然に久信の肩へと戻った。
瓶を開ける二人は飲んだ瞬間に目を白黒させながらもなんとか飲み込む。
「ぬわっ、何だこれ?もしやウォッカか?」
「いいえ、テキーラのようです。度数が相当に高いですよ。」
顔をしかめる久信は瓶を床に置き、ゴロンとその場に寝転がると鷹は慌てることなく次の居場所を探し、久信の腹の上で羽根を休めていた。
「まあ、午後は一名を除いて非番ですしたまにはいいでしょう。少し落ち込んでお酒を飲むのも悪くないんじゃないですか。」
再びあおる様にテキーラを勇司は飲むと険しい顔で、久信の横に座る。
「顔の腫れが治るくらいまでは、ゆっくりしてみるのもいいよな。それにしてもこの傷酒飲んでいいのか?」
「まあ、いいじゃないですか。傷があるならば出血量が増えて傷が塞がらないくらいですよ。」
「・・・お前酒飲むと、色々と適当になるのな。」
「そうゆう日もあるものです。」
二人は酒を酌み交わし、瓶が空になると鷹が飛び立ち新たな瓶を持ってくる。鷹に勧められるがままに二人は飲み続けた。
「それにしても君はどこのタカなんだ?」
「いいじゃないですか、可愛いですし。明日はきっといい日になりますよ。」
「だといいな。明日は訓練だけど。」
「それも楽しい訓練になるはずです。」
二人と一匹は楽しい時間を過ごし、気付くと翌日を迎える。勇司が目覚めるとすでに訓練室では久信と鷹が揃ってランニングをしており、軽い汗を流していた。
「おはようございます。冴えない顔しているようですが、既に朝ですよ。」
「ここ地下だから時間感覚なくなるな、じゃあ俺も身体動かすか。」
朝から体力トレーニングを繰り返し、前日の酒を抜くかのように汗を流す。0班の他の班員との差を埋めるかのように二人は訓練に没頭していくのであった。
【 第四章 0班編 完。 】
とりあえず四章終了です。
五章にはすぐに取り掛かりますが、ここまで読んでいただき感謝申し上げます。
ちなみに一応五章が最終章の予定です。




