階段
階段
二人は急ぎ、ビルの階段を駆け上がっていた。ドスを持って突進してくる相手に甲冑で身体ごとぶつかって行き、ショルダータックルから回転して肘を打ち込む。
「なんで階段しかないんだよっ、足腰きついわっ!」
「仕方ありませんよ。侵入者対策でエレベーターを完全に止められているのですから。」
非常階段の上から撃たれる銃弾を先を行く勇司が受け久信が銃撃を返すと、男が吹き抜けから下へ落ちて行く様を二人は眺めていた。
「・・・落ちたな。」
「落下防止の網も張ってあるので大丈夫でしょう。」
「だけど八人目だぞ、大丈夫か網?」
そして二人は対処に追われつつも、最上階まで辿り着くと固く閉ざされた防火扉に手を掛けていた。
「普通に考えたらここだよな。」
「ええ、多数の人の気配があるようです。そしてこれは罠ですか、回したらドカンですよ。」
「おっ、それは悪い情報だな。ここって旧彗星会系の自社ビルだったっけ?」
「そうですね。確か二年程前に建ったはずですが。」
「じゃあ問題ないか。」
久信の返答を聞くと勇司は非常口から離れ、甲冑の面の部分を上げる。銀色の煙草を咥えて火をつけると特技を使った。
【銀煙・拳】
慎重に煙を吐き出すと、目の前に煙で出来た拳がゆらりと浮遊している。そのままスーッと中空を移動して行きドアノブまで辿り着くと、一気に回した瞬間爆破音が響き渡り、二人は下で耳を押さえ鼓膜を守っていた。
「成功だな。拳君一人の犠牲は出たけど。」
「ええ、では参りましょうか。」
爆発の様子を見に来た男二人を、久信はスタン警棒二振りで動きを止めると、逆の手に持つハンドガンを撃ち破壊された非常口のドアから踏み込んで行く。
フロアからの銃声が階段中に響く中、勇司も自らの甲冑を盾にして一気に侵入していくと、入った途端に久信に後ろを取られた。
「遮蔽物が少ないです。担当をお願いしますね。」
「ヤダよっ、さっきからそれ担当じゃねえか。悲し過ぎるだろっ!」
しかし勇司の思いとは裏腹に、正面から放たれる銃弾の圧力を身体は受け止め続け、後ろで反撃する久信の盾に徹している。時折銃弾に混じって飛んでくるナイフに甲冑を碎かれながらも、ジッと耐え忍んでいた。
「ご苦労様です。一人撃ちもらしましたが、そう簡単に倒せる相手ではありませんでしたね。」
「結構危なかったぞ、甲冑ボロボロだな。途中飛んでくる刃物がすっげー危険。」
甲冑を煙へと戻し二人はさらに進んでいくと、
そこには扉を背に立つ髪を長く伸ばし、その間から強い瞳で睨む傷だらけの上半身を晒す男が立っている。日本刀を手に持つその姿に二人は思わず立ち止まるが、その隙を見て投げられるナイフを久信は銃弾で撃ち落とした。
「どちらかが囮になり先の部屋へ入ります。勇司さんのご希望があれば尊重しますが。」
「うーん?日本刀相手は嫌だけど、中には多分あれいるよな。よし、久信よ先に行け。」
「そうしたいのは山々ですが、あの方の狙いは私のようです。凄まじい目つきで睨まれていますので、勇司さんお先にどうぞ。」
「なぜあっちのリクエストに答えて、俺のリクエストは無視なのかは分からないけど、とりあえずそうしますか。」
勇司が慎重にこっそり歩いていくと扉の前から男は移動し道を開ける。その間も男は勇司を一切見る事はなく、久信だけを真っ直ぐ睨み続けていた。
扉の中に入った事を確認すると、日本刀を抜きドアノブを一息に切断し、再び日本刀を鞘に収める。
「これでしばらく邪魔は入りそうにもない。ゆっくりやろうか高山 久信。」
「どなたか存じませんが、こちらの名前だけ知られてるのは落ち着かない物ですね。よろしければ名前を伺っても?」
「・・・本藤 五郎だ。名字にくらいには聞き覚えあるだろ。」
「ええ、我々が確保した本藤兄弟の関係者でしょうか?」
何かを我慢するように本藤は身体を揺すりながら、手を何度も握り返す。それに対し久信は真っ直ぐに本藤を見つめながら眉一つ動かさない。
「兄貴をお前が捕まえたんだろ。敵討ちがしたいって訳じゃない、兄貴達の代わりをしてもらうだけだ。」
「確か本藤兄弟は元0班の宮原に殺害されたはずですね。そちらも確か我々が確保しましたが。」
「兄貴達は俺が切り刻んで殺す予定だったんだ。これからする事の全てが八つ当たりだから悪いな。」
「少しならお付き合いしましょう。飛行機を切ったのはあなたですね。」
返答代わりに日本刀を抜き鞘を捨てると、刃を床に引きずりながら本藤は歩き出していく。久信は軽く眼鏡に触れると無手のまま真っ直ぐ前に出るのであった。




