鬼
鬼
勇司と久信が見守る中、保田の身体は劇的な変化を遂げていく。元々華奢だったはずの身体は筋骨隆々となり着ているジャージのチャックが張り裂け、周囲に骨の軋む音を響かせながら身長が伸び、すでに二メートルを超えている。
さらに全身が赤黒く染まり、額の真ん中から肉が持ち上がり小さな角の様なものが生えてきていた。
「これはこれは、強烈ですね。鬼でしょうか?さすがは弁慶といったところですね。」
「全体的に育ったな。第二次成長は変化が激しいです事。鬼子ってやつかよ。」
身体の大幅な変化が終わり、保田は自らの体の変化を確かめるようにジッと腕を見つめていた。赤黒く太い腕の先にはゴツゴツと節くれ立つ指があり鋭い爪が光っている。
「やっと揃った、これでもう心の欲求から開放されるのか。だけど次は暴れたくてしょうがない。我慢できないし、したくもない。」
さっきは勇司より頭半分ほど高かっただけの身長が、頭二つ程に高く成長しており、身体は幅も厚みも段違いに分厚く強靭になっていた。
「ほとんど面影もない面構えになっちゃって。御両親が見たら悲しんじゃうぞ。」
「急な成長は体に悪いですよ。ですが見たところ健康体そのものですね。先程のダメージも全く残ってはいないと。」
そして保田は何かを発散するかのように一吠えすると、思わず勇司と久信は構えを取りながら後退してしまう。
「あきらかに強そうだよな。どうしたもんだか?」
「こうなったら勇司さんも服を脱ぎ去り、変身の第一段階を見せるしかないでしょう。心の中の幼女が応援してますよ、頑張ってください。そして墓守はお任せ下さい。」
「なぜ我が家のお墓をお前に任せなきゃならん、そして心の中に幼女は住んどらんわっ。って言ってる場合じゃなえなっ、来るぞっ!」
保田は両手を背に回すと、木槌と大振りなレンチを虚空から取り出し、両手に持つと走り出していた。
勇司は煙草入れから白い煙草を取り出し、久信は特殊警棒をロングコート内から抜くと迎え撃つ。
【白煙】
吐き出された白い煙は生き物のように動き、保田の視界を染め上げていく。白煙と共に前に出る久信は特殊警棒で両手首を叩き木槌とレンチを落とさせると、胴を薙ぐように特殊警棒を振り抜く。
しかし打った肉の感触に久信は驚き、すぐに距離を取った。
「相当に硬いですね。衝撃は内蔵に全く届いてませんか。」
「あの色だしな。体調悪そうな色してるくせに。」
「攻撃を末端に絞ります、勇司さんは色々と試してみてください。では行きます。」
白煙が消えたのを見計らい、久信はゆっくり歩いて保田に近付いていく。いつの間にか保田の手にはバールが握られ、打たれた腹を気にする様子はないが、警戒の色を強めていた。久信は視線を合わせながら歩いて迫る。
【視界操作・焦点】
勢い良く横に振られるバールではあるが、遠近感を失った保田のバールは当たることなく久信の手前を通り過ぎていく。
目の前をバールが通り過ぎた瞬間に一気に久信は距離を詰め、ロングコートの内側からナックルダスターを取り出し装着すると、しゃがみ込み逆から振られてきたバールを躱した。
そのまま地面を打ち付けるかのように、ナックルダスターを裸足になっていた足の甲に打ち込むと、痛みに少しだけ反応を見せる。
低い姿勢のまま膝の真横から一撃を叩き込み、少し離れて突き降ろされてくるバールの先端を避けると同時に、バールを握っている手にナックルダスターを打ち込んでいった。
地面にバールは落ちるとその姿を自然に消していく。
痛みを少しずつ重ねられ、怒りの感情を出しながら荒々しく久信に対し攻撃してくる保田に恐怖を感じつつも、勇司は煙草入れの中を見ながら一人会議を進行していくのであった。




