千台目
千台目
片手で振り上げた木槌は久信の脳天を狙うように大ぶりで振り下ろされてくる。
久信は避ける素振りも見せずに踏み込むと、振り下ろされてくる腕を掴み手首を極め、投げを打った。
木槌は手から離れ、大きい体が宙を回り背中から地面に叩きつけると、そのまま顔面を革靴で踏み抜いていく。
「こりゃまたえぐいな。そこまで携帯取られたくないもんかね。まあ嫌だよな、うんうん。」
しかし久信はたおれている保田から視線を外さず、手錠もはめずに距離を取る。
するとムクリと上半身を持ち上げ、手を地面につくと鼻血を拭いながら保田は立ち上がってきた。
「頑丈な方ですね。ですがそれぐらいならば、今まで何人も見てきましたよ。」
「やっぱりあと一つなんだ、あと一つで心が満足するはずなんだよっ!」
保田は両手を広げて掴みかかってくるが、久信は自ら襟首を掴ませる。近付いてきた保田の顔面に下から拳を入れると顎先へ決まり、たたらを踏ませるとさらに顎先だけに拳を集めていく。
たまらず保田は掴んでいたロングコートを離し距離を取ろうとするが、久信は保田と完全にタイミングを同期し、後退する足並みと揃えて前進すると真正面から真っ直ぐ拳を打ち抜いていった。
そのまま後ろに倒れまだ意識はあるものの、脳が揺さぶられ焦点が定まっていない間に後ろ手に手錠をはめる。
「とりあえず無事確保だな。さっきのあれでも気絶しないのかよ、紫煙か何か使うか?」
「そうですね。普通であれば八回は意識を奪う攻撃を仕掛けたのですが、効果は薄いようですしお願いします。」
勇司が煙草入れを取り出し中から紫色の煙草を取り出そうとした瞬間、三人の耳に話し声が聞こえてくる。
自転車に乗った中年男性が携帯を持ち、大声で話をしながら近づいて来ていた。あまりのタイミングの悪さに二人は顔をしかめるが、すでに保田は首の筋力で跳ね上がり、手錠を掛けられたまま走り出している。
「勇司さんっ!」
「分かってるよっ!」
煙草入れから紫煙ではなく、銀色の煙草を取り出し火をつけた。
【銀煙・大拳】
吐き出した銀色の煙は巨大な拳に形どられ、中年男性へと迫ろうとしている保田の背に煙を上げながら飛んでいく。
煙の拳は背中にまともに当たると煙へと戻るが、保田は思い切りバランスを崩し手錠のせいで手をつくこともできず、思い切り顔面から落ちていく。
後ろから走ってきた勇司は背に乗ると、体重をかけ動きを封じていく。久信は中年男性を遠くへ離れさせ、確保している勇司の元にすぐに戻ってきていた。
「いい判断でしたね。目の前で被害を出す所でした。」
「手錠がなかったら追いつけなかったかもな。結構ギリギリセーフってとこか。」
そして勇司が足にも手錠を掛けようと内ポケットから手錠を取り出すと、一緒に何かが滑り出し地面に落ちる。
「勇司さんそれはっ?」
「やっばいっ!」
内ポケットから滑り落ちた物はかなり古い型の携帯電話であり、保田の顔の真横に落ちていた。
取り押さえられているものの、頭を少しだけ上げると古い型の携帯電話に頭突きを落とす。
何か悪い予感がし、勇司は保田の背から離れると状況確認につとめていく。そして久信は横に立ち、あきれたような眼差しで勇司を見つめていた。
「あれは何ですか?かなり使い込まれた形跡がありましたが。」
「あれねー。お気に入りでなかなか捨てられないんだよ。また写真撮るといい味でるんだよな。」
「もしかしてですが、勇司さんあの方にご協力でも依頼されたのですか?そうであれば私が判決をくだして、今すぐにでも島流しにしますが。」
「とりあえずこれに関しては返す言葉もこざいません。それにしてもなんか嫌な雰囲気がビンビンだな。」
勇司の予想は的中し、保田の身体には変化が訪れ手錠が軋んだ音を立てている。そして手錠の鎖が千切れキツく締めていた本体も手首の太さの変化に対応できず割れていく。
そして立ち上がる保田の姿を見て、二人はその変化を目の当たりにするのであった。
ここまで読んでいただき感謝です。最初の話のほうからボチボチと手を加えていきたいと思いますので、誤字脱字等気付いたかたは報告お願いします。




