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天星UNFOLD〜占星術士の群青戦記〜  作者: 逢松十五
第3章「影の支配者」編
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第二十四話「双星」

桃李の行動は既に決まっていた。


どんな手を使ってでも、目の前の女の子を助ける。特異点を切除する。

と言うこと。


特異点…それは結界術で覆うことで

空間の歪みを縮めて滅却できる。

と言うのは、魔洞との戦いをしている

者たちにとっては常識中の常識。

では、人と融合した物はどうだ?


基本融合してしまうと切り離すのは難しいとされている。

しかし、80年前の大厄災、

その時に現れた融合体の中には

望まぬ融合で人類と戦わざるを得なかった者もいた。


助ける方法は…ある。

異能力者や魔術師たちは長年、

それを切除するための技術を研究した。

その名は"隔離結界"

望まぬ特異点融合を成してしまった人間から、特異点を取り除くための希望。

しかし、開発から何十年も経った今でさえ、成功確率は薄い。

概算でおよそ5%と言う成功率。

もし取り除けたとしても命が助かる確率は非常に低いとされている。

特に、今のように戦闘状態という極限的状況であれば特に…


いまだ桃李は防戦一方。

一方でジェミラは勝ちを確信したような笑みを浮かべる。

影は密度を増しており、実質的な多対一

を作り出されている。

足元は影、相手の土俵に他ならず、

戦況は最悪。


しかしそんな最中でも、桃李は

自身の異能力を最大限使い、

耐えている。


「りゃぁぁ!!!」


影の槍や刃は全て桜刃で防ぎ、

防ぎ溢れて当たりそうな物は気合いで避けて致命を避け、

少しでも足場を安定させるために

桜刃で足場を確保し、

異能を酷使し酷使し尽くして、

なんとかわたりあう。


しかしそれも長くは続かないだろうことは

桃李自身にもわかっていた。


(ほんっとにジリジリと負けてる…

近づく隙すらない。)


軽く舌打ちをする。

今相対しているジェミラは

言うなれば人型の牙城。

影は城壁であり迎撃装置。

有効打どころか、かすり傷すらつけられない。


影の沼を駆け、なんとか隙を探ろうとした時、いっときの油断で、

足を取られてしまった。

「っ、くそっ、」


その隙を見逃してくれる訳もない。

槍の穂先が桃李を捉えている。


「終わりよ、可愛らしい人の子……

せいぜい足掻いて徒花を散らしなさい。」


その言葉に桃李は表情を歪めていた。

冗談じゃない、ここで諦めるなんて

まっぴらごめんだ。

自分の決めたことを果たせないのは

やだ。

命を賭してでも、助けなきゃならない。

「本当に…?」

桃李は諦めかけていた。

助けたい。でも命を賭してまでする事だったろうか?

そんな考えがグルグルと巡る。

自失しかけていた。


その隙を突かれて、影の槍の穂先が進む。

死の直前に死なないための方法を脳は

勝手に高速で演算する。

それ故に世界が遅く感じる。

でもそれは、死への絶望が引き延ばされるだけ。早く終わってほしいと思っていた時だった。


「牙城を築け―

石壁を作る魔術(デア・グローセ)』」

聞いた事がある声

今日の任務で一緒になった

星宮の声だ。

そして彼が発した言葉は土の魔術式

白みがかった石壁が建立される、

この子は使える子なんだ…と少しホッとしていた。

喉元まで迫った槍が、いきなり隆起した地面で防がれる。


「大丈夫…ですか!?」


彼の声がトリガーとなり、少しづつ、

だが確実に、桃李は自らの意思を取り戻していた。


「うん、大丈夫だよ…」


桃李は、そう言って笑いかけていた。


―少し時は戻り、星宮―


暗く、寒く、深く、そして温かい。

そんな謎の感覚だった。

ミリアポーダに噛まれ、毒を喰らい

そして監督官が来て何かを注入され、そこから…そこからどうなったんだっけ?


今どこにいるんだろう?

体が重い。深い、深い、深い、

そして、暗く、暗く、暗く、

そして寒い…海の中に沈んでゆく。

いや、羊水か…生温かさも感じる

とにかくそんな奇妙な感覚だった。

噛まれた腕が痛い、脇腹が痛い

いや、痛くない……

何も感じない。

何も苦しくない…

なのに苦しい…

こんな感覚初めてだ。

でも一貫して確かなのは、

息の仕方を、忘れている事。


何分沈み続けたのだろう。

少しだけ、暗い羊水の中に、一筋の光が差し込んできていた。

それまで全く動かなかった手足が、

踠くようにだけ動けるようになった。

あの光を掴みたい。

なんかすごく綺麗だ。

まるで宝石みたいで……

手が伸びていた。

そこに意識はなく、ただ

興味を持ったものに手を伸ばして掴もうとする乳幼児の如く、

その光を掴んでいた―

次の瞬間には、星空の広がる、

夜の天蓋の下にいた。

ハッとして体を起こすと、足元は凪いだ

湖なようで、鏡面のように星が燦然とある夜空を映し出していた…

「俺……死んだ?…」

ここは冥土とかなのだろうか、

それとも彼岸と此岸の狭間とか?

そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえた。

「莫迦か」

後ろを振り向くと、そこには人がいた。

それも、オレにそっくりだ……でも、雰囲気は俺じゃない。殺伐としていて、

目の色は鋭い。おそらくこの世にあるさまざまなことを冷めた目で見ているタイプの人間だ。

「ここは冥土とか、黄泉とかじゃない。

お前自身の心の中だ。」

「な、なんだって…?てか、お前は誰だ?なんで俺みたいな見た目してるの?」

呆れたような顔で、彼は答えた。

「お前は俺だ。そして俺もお前だ。

俺は、お前の心の一面。表裏一体だ。"普段は"表に出ないだけでな……つーか、俺とお前は()()()()()()()()んだがな……」

会ったことがある…?どう言うことだ?

俺の中にあるこのもう一人の俺……

と言うことなのだろうか。

とにかく意味がわからず、

呆然としていた。

「なんつったらいいかな、

お前、星辰天環(せいしんてんかん)を使ってる時、頭クリアになる感覚あるだろうが。」

「え?あ、あー……確かにその時だけ自分じゃないような感じする…」

「あ?知らねぇ…ってか自覚ねぇのかよ?お前の能力だろうが。まぁ俺の能力でもあるがな…」

何?いったい何を言っているんだ?

と、俺は困惑していた。


「つまりだ、簡単に言えば、お前はその能力で、俺の一面を少し出してんだよ…

いっつも調律してるって思ってるってことはそういうこったろうとは思ってたけどな……」


一面を出している…?彼の…いや、もう一人の俺の一面を?


「はぁー、マジかよ、……まぁいいや、その程度ってことは…まだ俺は出るべきじゃなかったか……」


話についていけない……でも、

察するに今まで何故か戦えていたのは、

彼の、わりかし好戦的そうな一面を俺の深層意識から引き摺り出してた…と言うことなのか…それが今まで感じていた、

頭がクリアになると言う意識…?


「お、合ってるぜ、だいたいその認識で…なーんだ解んじゃねぇか!」


合っていた…よかった。

てか、何でわかるんだ?


「そりゃ、俺はお前だからな、考えていることはわかるさ。

うーん、ただあれか…まだ星辰天環との()()が浅いのかな。

……多分今ソレを伝えても、意識戻した時に忘れてるな……」


何を考えているのだろう…あっちからこっちの思考を盗聴できるらしいが、こっちからあっちは出来ない…

あっちができるならこっちも出来ていいはず……


「おっと、それは前述の通り、アンタが異能力との深化を遂げていないからだな…俺は遂げてる。と言うか、そもそも深層心理なんだ、深化とかそのレベルじゃねぇよ。」

「あの、さっきからシンカシンカって、

何?ゲームかなんかの話?」

訝しげな表情で彼、いや、

俺は答えていた。

って、ややこしいな。

「違ぇよ、ほらあんだろ?シンクロ率って言葉。あれみたいなもんだよ

お前好きだろ?あのSFアニメ。」


なるほど…シンクロ率……つまり異能力とどれだけ同調できているか。

と言うことか、


「ま、意識が戻ったら忘れるもんとして割り切って欲しいし、俺は割り切るけど、一応言っとくとお前、まだ異能力を1%(パー)も使いこなせて無いからな。」

マジで?

「え?マジで?」

「大マジだよ。全く…

占星魔術も副次的作用に過ぎないんだ…

本当はこの先にもっと本命が……って、

そろそろ時間か……」

「え…?」

いろいろ聞きたいことはたくさんある。

が、彼は目線を少し落とした後に、

彼から見て右側の景色を見ていた。

彼の目線の先を見ると、

旭光が地平線をなぞり始めていた


次第に星々の見ゆる数も減っていく。

すぐに悟った、これは目覚めの合図だと。この世界からは一旦のお別れだと。

「ちっ、まぁ言いてぇ事はまだあるが、……それはお前も一緒か。

しゃーない。またの機会だ。じゃあな。」

「待っ…!」

視界が白む。目の前の景色が消えてゆく。

そして俺は目を覚ました。

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