14.庭が見たい
「……なるほど。そしてティアを攫った魔王は自害した、と」
顎に手を当て、喉の奥で唸る王。この二ヶ月、犯人を思いつく限りの残酷な方法でなぶり殺してやろうと考えていたのだが、叶わなかったことに落胆する。
「しかし王様。王女様を攫った犯人は別にいると思われます。私たち、今朝暗殺者に襲われたんです」
「なんと」
ルルの言葉に、王とリュミエールは目を見開いた。
「それでは一体誰がレティシアを?」
「そこまではわかりません。どうか真犯人が見つかるまで、王女様をお守りください」
深々と頭を下げるルル。レティシアと出会ってから、たったの一日。それでも傷付いて欲しくないと思うほどに、ルルはレティシアに情が移っていた。
「もちろんだ。ティアには二十四時間護衛を付け、同時にティアを攫うよう指示した黒幕の調査も行う。犯人は見つけ次第、八つ裂きにして吊るし首の上、街頭に晒してやるわ」
罰が少しずつ重くなっていくことに些かぞっとするルルだったが、ひとまずこれでレティシアの身の安全を確保できたことにほっとする。
「魔王の手から王女を救い出してくれた勇者たちよ。改めて深く礼を言う。何か望みがあれば、何でも申すがいい」
「勇者だなんて、そんな恥ず……い、いえ、畏れ多い……!」
「遠慮は不要だ。それ相応の礼を尽くさせて欲しい。広場には三人の銅像を建て、今回の救出劇を後世に残すよう、著名な作家を呼んで書かせよう。セオリー通りに王女との結婚もやぶさかではないが――」
とんでもない提案を始めた王に、ルルの顔が青ざめていく。どう断れば無礼にあたらないか必死に考える彼女の隣で、ノアが低い声でぼそりと呟いた。
「庭が見たい」
「ん? 庭?」
王はキョトンとした顔で、ノアの視線の先を追う。思えばこの男は、話をしている間もずっと窓の方ばかり見ていた。
「ちょっとノア……!」
「私がご案内いたしますわ」
ルルが止めるより早く、ソファから立ち上がるレティシア。
「ノア様は虫がお好きなんです。お父様、構いませんよね?」
「あ……ああ……」
王は部屋の中に控えていた護衛兵に視線を配り、レティシアについていくよう指示する。レティシアは嬉しそうに微笑むと、ノアの手をそっと掴んだ。
「ノア様。こちらです」
掴まれた手を見つめ、そのまま目線を上げていくノア。次第に訝しむように目を細めていく。
「……お前、誰だ?」
「レティシアですわ」
「?」
本当にこれっぽっちも話を聞いていなかったノアは、不思議そうに首を傾げた。
「……チャッピーか?」
「はい。変身魔法を解きました」
「なるほど。理解した」
レティシアに手を引かれるまま部屋を出て行ったノアを見送りながら、付いて行った方が良かっただろうかと不安になるルル。対するエヴァンはと言うと。
「やっぱりノア、おもしろ……っ!」
笑いを堪えきれず、両手で顔を覆って肩を震わせている。
幸い、王女を『お前』呼ばわりしたことは聞き逃されたようだ。
「今日はこのまま城にご滞在ください。精一杯のおもてなしをさせていただきますわ」
「折角のご厚意はありがたいのですが、僕たちはこれで失礼します」
リュミエールの申し出に、エヴァンは笑いすぎて流れた涙を拭き取りながら答えた。リュミエールは驚いた目でエヴァンを見る。
「本当は僕もルルもお言葉に甘えたいところなのですが、あっちが猛反対すると思います」
と、エヴァンは中庭に現れたノアを窓越しに指差した。
リュミエールは静かに問う。
「理由を窺っても?」
「クワガタを探しに行かなければならないので」




