運命の出会い
「はじめまして、美しい姫君」
「……あなたは?」
言葉が詰まる。
整った顔立ち、吸い込まれるような眼差し。
気圧されるほどの存在感。
まるで、私の心を見透かすような瞳。
「アルセリオ王国の第一王子、レイヴェル・アークヴィスと申します」
レイヴェル――
その名を繰り返した瞬間、胸の奥が小さく震えた。
彼は私の手を包み込むように握り、そっと唇を寄せる。
すぐそばで感じる温かな吐息に、心臓が大きく跳ねた。
「……イレーネ・ヴァルディナと申します」
手のひらがじんわりと汗ばむのを感じる。
彼の鋭い琥珀色の瞳が私を射抜くたび、心臓が痛いほどに高鳴ってしまう。
「こんなに美しい姫君と出会えて、今日はいい日だ」
その声音は低く、甘く、心を揺さぶる。
不思議だった。
彼の言葉に、媚びたような響きはない。
ただ、ごく自然に――
まるで心の底からそう思っているかのように、優しく、囁く。
「この人が、もしかしたら運命の相手なのかもしれない」
そう思った瞬間、胸の奥にじんわりと熱が広がった。
指先から伝わる温もり、耳に響く低く甘い声。
心の奥に小さな火が灯るように、彼の存在が私の中に染み込んでいく。
だが――
これは、すべて仕組まれた出会いだった。
優雅に微笑み、甘い言葉を紡ぎ、まるで偶然のように差し出されたその手。
けれど、それは最初から張り巡らされた罠だったのだ。
私が彼に惹かれることも、心を乱すことも、
すべて彼の計算のうちだったのかもしれない。
この男に出会った瞬間から、私は運命の軌道を狂わされていた。
なのに――そのことに、どうして気づかなかったのだろう。