プロローグ
銀色の髪、琥珀色の瞳。
堂々とした立ち振る舞い、落ち着いた声音、優雅な仕草。
――ああ、これは確かに“最悪”だわ……。
心の奥で、小さく呟く。
忠告通り、彼は「最悪」だった。
だって、私の心を狂わせるほどに、完璧な男だったのだから。
この日、私は生涯忘れられない“幸せな出会い”を経験した。
そして同時に、それは最悪のシナリオの幕開けでもあった。
華やかな宮廷のパーティ。
シャンデリアの灯りが煌めき、甘美な旋律が舞踏会の空気を優雅に彩っている。
私は王女としての義務を果たしていた。
美しく着飾り、微笑みを絶やさず、貴族たちと穏やかに言葉を交わす。
「これは……驚いたな」
低く、よく通る声が、私の耳をくすぐった。
振り向いた瞬間、胸の奥がひどく波立つのを感じた。
彼は、そこにいた。
銀の髪が柔らかく揺れ、琥珀色の瞳が私を射抜くように見つめている。
「君があの王女か。剣を振るう姫君とは聞いていたが……なるほどな」
彼は笑みを浮かべながら、ゆっくりと私の手を取った。
その動作は流れるように洗練され、気品がある。
――“レイヴェル王太子は冷酷で残忍な男。
目的のためなら手段を選ばず、非道な決断も平然と下す”。
彼の噂は、嫌というほど聞かされていた。
宮廷の者たちは皆、私が彼と関わることを警戒し、何度も忠告をしてきた。
「絶対に、心を許してはなりません」
「彼には情というものがない。人の皮を被った悪魔です」
「利用できるものは徹底的に利用し、不要になれば容赦なく切り捨てる男ですよ」
彼と出会う前に、何度も何度も繰り返された忠告。
しかし――
私は分かってしまった。
それが無駄なものだったと――彼に、たった一目で心を奪われた瞬間に。
彼が纏う雰囲気、そのすべてが――
私の「どタイプ」だったのだ。