いい印象のない称号
「さて、ご老人方。こちらの方々が、ゴブリンの大群に襲われたときに加勢いただいた人間の冒険者です。他にも外にあと四人、そしてテテニー姉さんの仲間の方にも待機していただいています」
神官さんとコルクブリズが去った後、ラミルンは何事もなかったかのように僕たちをそう紹介した。
たぶん、二日目の見張り番で一緒になったのが効いているのだろう。彼女はコルクブリズになんの期待もしていなかったらしい。それが分かる切り替えの素早さだ。
「そして彼がホリィを救出してくれた人間の少年、キリネ殿。この齢、この体躯で誘拐犯と一騎打ちし、見事討ち果たした英雄です」
「英雄って……」
ラミルンにガシッと肩を掴まれ、前に出される。集会所内に入るのを遠慮しようとしたとき、彼女に来てとお願いされたのはこのためだったらしい。
説得のためとはいえそんな称号で呼ばれるなら、やっぱ外で待ってればよかった。あんまりいい印象ないし。というか言われて思ったけど、あのときは普通にその印象通りのことした気がしないでもないからあまりそう呼ばないでほしい。
集会所内はザワついていた。なにせ先ほどの騒動の混乱が冷めていないうえ、僕みたいなのを英雄扱いだ。みんながポカンとしながら、僕へと注目する。
「……思っていたよりも小さいな」
「一年前は今よりも小柄でした」
前里長の感想に、ラミルンはそう答えた。
そういえば、ラミルンは一年前の僕を見ている数少ない兎人族だ。僕も少しずつ体が大きくなってきているから、冒険者の店でよく見つけられたなと思う。……いや、見つけられるか。珍しいもんね、僕ぐらいの背の冒険者。アニアとヨハキンも僕より少し背が高いけれど、二人が店に来たときちょっと嬉しかったし。
「子は里の宝だ。そして、我ら兎人族は二度と奴隷に戻ってはならない。小さき戦士よ、まずは当時里長であった者として感謝する」
白髪の前里長に頭を下げられて、僕は背筋を伸ばす。ちょっとビックリした。
これだけ小さな里だと、子供は本当に一族の未来を担う宝なのだろう。さらに彼らの歴史を考えれば、同朋が攫われて奴隷にされることは耐えがたい屈辱に違いない。
だからあの小さな子を助けた僕は、特に感謝されているのだろうか。
「彼も今回の件で、戦力として力を貸してくれます。ここにいる彼の仲間のユーネ・イスズさんも、さきほどのコルクブリズ神官も治癒術士ですので、重傷者の治癒をしていただいているカラトア神官の負担は今後軽減するでしょう。もうご老人方が遠慮する必要はないかと思われます」
「そうか。では我々が必要だと感じたら受けさせていただこう」
ラミルンがさらにユーネを紹介するけれど、前里長は首を横に振った。
この里には他に治癒術士がいなかっただろうし、神官さんの魔力消費を考えると軽傷で遠慮する者がいるのは分かる。ただ、ここの人たちは重症ではないけれど軽傷とも言いづらい怪我だった。
「……あの、どうして怪我を治さないんですか?」
純粋に疑問で聞いてみる。この人たちの怪我は命には関わらないだろうけれど、それでもずいぶん痛そうだ。
いくら神官が嫌いでも、治癒魔術ぐらい受け入れたっていいと思うのだけれど。
「治しておるよ」
「え……」
「これくらいならば薬草を当てておけば、明日には治る」
「そうなんですか?」
獣人ってそうなのか。たしかに人間よりも体力的に優れているイメージはあったけれど。
「無理して動けるようになるだけですよ。怪我は治りません」
現里長のサノが教えてくれる。
獣人と言っても、さすがにそこまで強靱な肉体はしていないらしい。
「怪我したままでは動きが鈍ります。それで前線に行っても危険なので、治癒魔術を受けないのであれば休めと言っているのですけれどね。聞いて貰えないんです。ここにいるのはそんな頑固者ばかりなんですよ」
サノは大きくため息を吐いてみせる。
この人は言い方がちょっとダメな気がした。本人たちの前でもそんなふうに言っちゃうのか。これでは頑固者は意固地になるだけだろう。
心配してるだけなのは分かるんだけれど。兎人族の新しい里長はどうも、効率重視すぎて気遣いが足りないきらいがありそうだ。
「お前はさっきの男が言った通りだな」
コルクブリズのことは忘れてくれていいのに。
「どんなものか分からぬままでも、便利なら使う。なんとも浅はかで短絡的だ。警戒を忘れた兎の末路など分かりきっているだろう」
「そうやって向こうからの歩み寄りを遠ざけていた結果で、この有事の際に頼るのが気まずくなっているのでしょう」
……つまり、やはり神官さんはまだまだ信用されていないらしい。というか、まだ信用されていないうちに蟻が近くに出てきたのが問題なのか。
むしろ里の人に恩を売る好機ともとれるんだけど、神官さんはそういうのにつけ込むのも、なあなあで誤魔化すのとかも嫌いそうだからなぁ。変に遠慮してるのかもしれない。
「神官さんは、あまり難しいことは考えていないと思います」
少し、悔しかった。僕はコルクブリズの言葉を否定できない。
あんまり悩まないし、神さまの言うとおりばっかりだし、けれどすごく真面目で働き者だから誰もなにも言えなくって。
たぶん、人の気持ちは分かってなくて。
たとえお酒に酔っていたとしても、彼のカラトア・メヌアの評価は決して否定しきれるものではなかった。……それどころか、新しく知れたことまであったのだろう。
―――理解できないし理解されないから、優秀で勤勉で働き者であろうとする。そうすれば誰かが利用はしてくれる。
悔しいな。さすが同期だ。
「神官さんはただ、みんなと仲良くしたいと思っているだけなんです」
人と関わる方法をそれ以外に知らないのであれば、そりゃあコルクブリズもあれだけ苛つくだろう。
あの人は本当にまっすぐすぎて、不器用な人なのだから。




