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冒険者ギルドが十二歳からしか入れなかったので、サバよみました。  作者: KAME
冒険者の春風

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調査続行

 実家である海塩ギルドのマグナーン商会は、他の商家との繋がりを大切にした経営戦略をとっている。その方針の象徴とも言えるのが、働き手の送り込みと政略結婚だ。


 男子は取引のある、またはこれから取引を考える商家やギルドに務めさせ、人脈作りを行う。女子は大切に育てて特に繋がりの深い他の商家へと嫁に送り、両者の間柄を強固にする。

 卸しの商人に商品を安定して買ってもらったり、輸送用の馬車や船を優先して用意してもらったり、塩を入れる丈夫な袋の品質を守ったり、ギルドで提案される不利な取り決めを先回りして潰したり。

 塩は決して売値が高い品ではないから、そうした細々としたことを円滑にしなければ利益には繋がらない。だからマグナーンはそうやって地道に安定した商売ができるよう手を回してきた。


 商家の戦略としては正しいのだと思う。

 子供を道具のように使っていると揶揄されることはあるし間違ってはいないのだが、マグナーンの子息はべつに不幸ではない。男子はマグナーンで受けた教育を活かして他所でも精力的に働き、女子は裕福な家に嫁入りして不自由なく生きる。むしろ幸せな生き方を約束されるのだから、なにが悪いと言うのだろう。マグナーンの当主であるおじいさまならきっと、わたしたちの幸せを考えた末でそうしていると本気で語ると思う。

 そんな中でも、わたしは格別だ。貴族の婚約者がいて、それが皆が羨むような相手で、そして向こうもわたしでいいと言ってくれている。なんとも果報なことである。


 もし、それを受け入れてしまったら。それはそれで、きっといい人生が送れるのだろう。……そんなふうに思う自分もいる。

 今のまま冒険者として才覚を発揮できないのであれば、実家の束縛から離れ冒険者として世界を歩き、綺麗で素晴らしい景色を見て回るなんて他人からしたら笑ってしまうような夢は捨て去って、普通の女性が羨むような人生をを選ぶのも悪くはないのではないか……―――


「というかそもそも、わたしが選べることでもないのよね」


 日が落ち始めた道を走る馬車の中で、わたしはため息を吐く。

 行きと違って領主の家紋入りの馬車で、行き先はわたしの宿だ。夕食はまだだったけれど、このドレスで冒険者の店に行きたくはない。自分から立場を利用しておいてなんだが、冒険者であるわたしとマグナーンの子女であるわたしは、なるべく切り離したかった。


 冒険者の店にわたしの夢を笑う者は……まあ、いるだろう。というか言えば盛大に笑われる気がする。普通に生きればいいだろうにと言われるに違いない。

 けれどどうせ、多くは下らない理由で普通の生活を捨てて冒険者をやっている。だから気後れなどする必要はなくて、それが少しだけ心地いい。

 ―――キリなんて、わたしの目的を伝えたとき、いいなって言ってくれたのだ。


 婚約を解消するか否かはあの領主とエルノにかかっていて、わたしに決定権なんか一つもない。あんなことを言っておいても、一目で良縁だと分かる相手だったらあっさり乗り換えられるのがわたしの立場である。

 そう考えたらなんだか苛ついてきた。


 そりゃあこの町から逃げてしまえば反故にできるかもしれないけれど、それはマグナーンに迷惑がかかるから本意ではない。

 マグナーン商会では多くの労働者が働いているのだ。わたしがそんな勝手なことをしたら、血縁のみならず塩田で働いているみんな、それこそ昨日会った奴隷の人たちまで困るに違いない。

 そういうのは嫌だ。わたしはそこまでしてワガママを通せるほど、常識知らずではない。


 馬車がゆっくりになる。窓の隙間から景色を覗くと、見慣れた町並みが見えた。宿が近づいてきている。

 結局、わたしは自分の未来を選べないのだろう。ため息と共に諦観を飲み下し、まだ馬車の中だけれど髪の飾り布をほどく。

 なんだか気が疲れてしまった。どうにもならないことで悩むのも馬鹿らしい。宿の部屋に戻ったら、今日はもう寝台に潜って寝てしまおう。






「あの、領主様の依頼の件、あたしたちも協力させてもらえませんかっ?」


 翌日。冒険者の店で朝食をとっていると、わたしの元に二人の新人が来た。

 アニアとヨハキン。新人の戦士と治癒術士は、同じテーブルのキリでもユーネでもなく、まっすぐわたしのところへ来て伺いを立てる。それでだいたいの事情が分かって同席者たちへ視線を送ると、二人とも少し困った顔でこちらを見ていた。

 昨日わたしが領主様と話している間、キリは戦士としてアニアの、ユーネは治癒術士としてヨハキンの相談を受けていたはずである。そのときにそういう話になったのだろう。


「必要ないわ。昨日の時点でほとんど終わったようなものだもの」


 わたしは食事の手を止めずそう返答する。今日のパンは柔らかい。保存できるパンは一度に大量につくっておくのが普通だが、焼いてから数日たったものは固くてパサパサするので、おそらく昨日できたばかりのものだろう。

 実際、あの件はもうほぼ終わったようなものだ。最大の証拠品を見つけ出したし、ガルブの協力者だというゾニンという兵士はエルノや他の兵に監視されて身動きがとれない。

 近々、用済みのガルブ一家の処罰が実行されるはずだ。その際に死刑を免れた者が、司法取引に応じゾニン家とゼルマを売った小者である。


「でも、ゼルマに関してはなんにも解決してないでしょ?」

「そうですよー。依頼の日数もまだ残ってますしー」


 どうやら昨日の時点で、キリとユーネはこの新人たちから説得されているらしい。

 言っていることは分かる。領主様からの依頼は期間が決まった調査依頼だったし、あの証拠品では奴隷商まで繋がらない。

 そしてそう考えれば、ガルブ一家はたぶんゼルマを売るという予想はほぼ当たるだろうけれど、確実にそうなるとは限ったものでもないなとも思う。なにごとにも例外はあるものだ。エルノに恋しない女の子だって世の中にはいるのである。

 どうしようか。今日は二人に昨日のことを話して、もうほとんど終了したということを伝えるつもりではあったが……言われてみればまだ解決は半分しかしていないこの状況で、日数がまだあるのに他の依頼を請けるのは気が進まない。


 まあ有力な情報が手に入れば追加報酬が貰えるという契約なのだし、領主様にとっても得られる証拠はいくらあってもいいだろう。残り日数をゼルマの調査に費やすのはやぶさかではない。

 とはいえ。


「もう一番重要な情報と証拠品は渡し終わったのよ? なのに、これから人数を増やすから領主様に二人の分の報酬を追加してくれ、なんて交渉するのは気が引けるのよね」

「あたしたち、報酬目当てではありませんから!」

「そうです。自分たちは恨みある相手を自らの手で追い詰めたいだけなので」


 ヨハキンに声をかけた神はやっぱりアーマナ神ではなさそうだ。戦神ワグンダルか、あるいは運命の女神ヤルフザーグかではないか。

 しかし協力してもらうにしても、情報提供くらいならともかく連れ回すのならば、わたしたちだけ報酬があるのは居心地が悪い。

 ……まあ、以前は違法奴隷だった二人は貴重な協力者になり得る。べつに競争しているわけではないけれど、兵士たちとは別方向から調べることができるかもしれない。そう説得すれば、領主もFランク二人分の報酬くらいは気前よく出してくれるのではないか。


「まあいいわ。それで、貴方たちはどんな協力ができるのかしら?」

「はい! あたし、町中で働かされていたこともあるので、ガルブ一家が町の中で使っていた建物の場所をいくつか知っています。そこならご案内できるかと!」


 調べたいのはゼルマやゾニン家なのだけれど。

 町の裏側に巣くうような組織が、いざという時のため町中に複数の拠点を持つのはあり得そうな話だ。そしてガルブ一家がゼルマやゾニン家と取引した記録が、まだ見つかっていない拠点のどれかに残っている可能性もあるにはある……のだろうか。

 まあ、なにも見つからなくてもいいのかもしれない。わたしたちは十分成果を上げたから、これ以上なにもわからず期限が来ても報酬を受け取る資格はある。


 この新人二人の気持ちは、恵まれた家に生まれたわたしには分からないだろう。

 けれど察しようと努力するなら、本当ならこの仕事自体を代わってほしいのではないかと思う。

 過去を克服し新たな道を歩み出すために、二人はその過去に向き合おうとしていると考えれば……ヨハキンに声をかけたのはきっと、運命のヤルフザーグだ。


「……そうね。では道案内をお願いしようかしら。裏組織の者たちが使用している建物だもの、どうせ大通りにはないのでしょう?」


 結局、わたしはこの二人を調査に加えることにした。……自分でも甘いとは思うけれど、でもここで断れるほど、わたしは人情が分からないわけではない。


「んー、ねえアニア。それって町中だよね? 危険ってある?」

「いえ? 一番悪いガルブ一家もいなくなってますし、大丈夫だと思います」

「じゃあ、僕は別行動でいいかな?」


 わたしがアニアの提案を受け入れると、キリは少し考えてからこのテーブルの全員を見回した。

 真面目な、少し思い詰めたような顔で。


「ちょっと、一人でゼルマを調べようと思うんだ」


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― 新着の感想 ―
[一言] お貴族様なんだから妾とか第二夫人とかないのかな
[一言] キリ君も割とヤルフザークに愛されてる気がする
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