大橋の意味
俺様が神だ。
……ええっと。
エルムフラーレンってたしか東にある都のことだよね。禿頭は髪の毛のない人のことで、大剣使いは大剣を使う人のことだ。それで、名前はザガム・ボーグルソンズさん。名字があるってことはいいところの生まれだろうか。
うん、そこまでは分かった。
いずれ神になるって何?
「フフフ、面白い男でしょう? 彼ほどの大言を口にする人は都にもなかなかいません」
ザガムの自己紹介を聞いて呆然とする僕たちを眺め、楽しそうに、そして満足そうに笑うのはツェルミラだ。面白いもの好きだもんね。納得のお連れさんかもしれない。
「ハハハ、そんなに当たり前のことで褒めるなツェルミラ。俺様に並ぶほどの器がある者などおるまい。なぜなら、頂点と比べては全てが二番手以下なのだからな!」
頂点の器かぁ。
なんだろう、ちょっとワクワクしてきた。だってこんなふうに言われるとすごい人のような気になってくる。だからきっとすごい人なのだ。
神さまになるってどういうことだろう。どうやってなるつもりなのだろう。そもそも神さまって、なれるものなのだろうか。
「……なるほど。目指す場所は月より高く、そして陽より輝かしく。どうせ見るなら器に見合った夢でなければ息苦しいというものです。おみそれしましたザガム・ボーグルソンズさん。貴方に出会えただけでも、今日この場所に来たのは有意義でしたわ」
完全に外行きの顔と口調だねリルエッタ。なにを言ってるのか分からないけれど、こういう時の彼女はわりと適当を言ってる。
ちなみにこれが暴れケルピーの尾びれ亭の人たち相手だったら、お酒の飲み過ぎなのかと眉をひそめているはずだ。
「ほほう分かっているではないかお嬢さん。そうとも、今日俺様に出会えたことこそ、お前たちの幸運だとも。良いぞ未来ある若き少年少女よ、この輝かしき姿をとくと目に焼き付けておくといい!」
グッ、と両腕で力こぶを作るようなポーズをとるザガム。たしかに一部輝いているけれども。
「都にはいろんな人がいるんですねー……」
早々に商人の娘としての顔に移行したリルエッタと違って、ユーネは呆気にとられている感じだ。
なんだろ、ペリドットと初めて会った時はカッコいいって言ってたはずだけど、ザガムは変人判定らしい。やっぱり神さまになるってところ、見習い神官としてはダメだったのかな。
「それで、ザガムさん。貴方ほどのお方がわざわざエルムフラーレンからやって来たということは……もしや、本当にわたしたちの町ヒリエンカには、まだ未発見の遺跡が残っているということでしょうか?」
「フッ、もちろんあるに決まっているとも。なぜならばこの俺様が目をつけたのだからな! そしてその口ぶり、君たちも遺跡について調べるつもりであると見た。昨日ツェルミラと話して感化されたのか? ハハハ、やはり遺跡探索は冒険者のロマンだものな」
ザガンの声は調子にのるごとに大きくなり、さらに受付の人の視線が強くなる。どうやらツェルミラの連れはこういう人らしい。
「その通りですザガムさん。実はわたしたちも昨日話をお聞きして、ヒリエンカ周辺の遺跡を探そうと思っていたところなのです。本当に、エルムフラーレンから来た冒険者が調べていると聞いて、なぜ今までヒリエンカの周辺には遺跡がないのか不思議に思わなかった自分を恥じましたわ。やはり都の冒険者は違いますね」
「ハッハッハ。そう恥じることはない。近くのことは意外と見落とすものだからな。それに都の冒険者と言ってもピンキリだとも。こういった違和感に気づける知性を持つのはほんの一握り、いやこの俺様くらいのものだとも」
リルエッタが営業用のにこやかな笑みで応対すると、ザガムは胸を反らし親指を立てて自分を示す。
なんだろう、この、なんだろう。
手のひらで転がしているというか、自分から転がされにいっているというか。面白いなこの人。
チラリとツェルミラを見れば、ニッコニコの笑顔ですごく楽しそうだ。お連れさんを止めなくていいのだろうかと僕が心配になるくらい。
「それで、いったいどこに遺跡があるとお考えですか?」
さすがにそれは直接的すぎではないか。
「フッ、それは言えないな。だが、かなり近づいているとだけは言っておこう」
やっぱり無理だった。どうやらこれで情報を漏らすほど、のせられやすくはないらしい。
「おそらくですが……候補地は、ヒリエンカから西側へ三、四日ほどにある山地では?」
「…………っ!」
ザガムの顔色が変わった。僕とユーネは驚いてリルエッタを見る。
西側へ三、四日ほどの山地と言えば、僕の故郷であるニビトイ村の辺りだ。
あの辺りに遺跡が眠っていると、リルエッタはすでにそう予想をつけている? あるいはカマをかけただけ?
「フ……ハハハ、面白いことを言うな。いいだろう、なぜそう思ったのか言ってみたまえ」
ザガムも僕と同じように考えたのか、試すように聞いてくる。それを受けてリルエッタは、一つ頷いてから口を開いた。
「はい。ザガムさんはヒリエンカの大橋が遺跡であることは知っていますよね?」
「もちろんだ」
「ヒリエンカの周辺に遺跡が眠っているとして、どこにあるのか……昨日ツェルミラさんと別れた後、わたしなりに考えてみたのです。そして、この地にこれだけ大きな橋が建設されたのはなぜか、という点に着目しました」
艶のあるチェリーレッドの髪の少女は、己の胸に手を当てて淀みなく言葉を紡いでいく。
橋が建設された理由。そんなの決まっている。
「橋は渡るためにあるもの。つまり人が移動する道です。この町はかつて交通の要所で、宿場町のような場所だったのではないか……と、わたしは考えつきました。それであるならば、この町の近くにあまり遺跡が見つからない理由も説明がつきます。ただの中間地点でしかないならば、多くの人は通り過ぎるだけですから」
リルエッタの話には、なるほど、と思わず納得してしまう説得力があった。
たしかにそうだ。橋は人が渡るためにあるのだから、大昔の人もあの大橋を渡っていたに違いない。ではなんのために橋を渡るのか……なんて、考えるまでもなく行きたい場所に行くためだと決まっている。
「この町から三日東に行けばエルムフラーレンがあります。たしか、あの都の近くには遺跡が多いはず。そうですよね、ザガムさん。ツェルミラさん」
確認のために、リルエッタは都から来た二人の冒険者へと視線を向ける。
「……ああ、そうだな。その通りだ」
「はい。エルムフラーレンの辺りは遺跡が特に多い地域ですね。かつてあの地には大きな都があったとされています。もっとも一攫千金を夢見る冒険者が後を絶たないため、手つかずの遺跡はなかなかありませんが」
二人とも頷いて、そしてザガムが口の端を吊り上げる。
「なるほどな。この町を中継地点として見るならば、かつてエルムフラーレンの地にあった都から、このヒリエンカを通って西へ向かった地にもう一つ都があるのは自明の理。そしてそんな遺跡があるのならば、険しい自然に隠された場所に違いない。素晴らしい推理だな!」
「ありがとうございます。いかがでしょう、ザガムさんの見解と合っていたでしょうか?」
「も、もちろんだとも! 俺様も今日はヒリエンカの西になにがあるか調べようとしていたところだ!」
……あれ? なんで今、ちょっと目を逸らしたんだろう。それに今日はって、まだ町の西については調べてないってことだろうか。
もしかしてそこまで辿り着いてなかった? だとしたらこれって、逆に情報を与えてしまったんじゃ?
「ああ良かった。では、わたしたちもそちらの方面で調べてみることにします。さあユーネ、キリ、まずはこの考えが正しいか検証するわよ。この町の歴史資料に、ここが宿場町だった痕跡がないか探してみましょう」
リルエッタはにこやかに笑ってザガムとツェルミラに一礼すると、僕とユーネの袖を引っ張る。
向かう先は図書館の奥の方、本だけじゃなくていろんな展示物が飾られている場所のようだ。
気になって後ろを振り返ると、ザガムとツェルミラは慌てたように二階への階段を上っているところだった。




