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冒険者ギルドが十二歳からしか入れなかったので、サバよみました。  作者: KAME
冒険者の戦い方

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対等

「……というわけで、いろいろ聞いてきたんだけど」


 夜の作業は魔術の明かりが二つあった。一つはリルエッタのもので、もう一つはスピフィのものだ。

 リルエッタの明かりは橙色で、対してスピフィの明かりは青白い感じ。人によって色が違うのはちょっと面白い。

 僕は何色になるんだろう。


「情報交換しつつ裏で暗躍し、兵と冒険者が互いに協力できるように調整とはね。なかなか面白いことを考えるなあの少年は。フフフ、さしずめ仲良し大作戦というところかな? いやぁ……いやぁ、心躍るね!」


 グミさんが眼鏡の位置を直しながら、堪えきれないかのように笑い出す。

 仲良し大作戦……まあ兵士と冒険者の仲を良くしようってことだから、そのままの作戦名ではあるんだけど他にもっとないのか。あと明かりが二つになったことで冒険者たちの注目を集めてるから、あまり不審な挙動をしないでほしい。


「それで、どんなことを教えてもらったんですー?」

「何を教えたのかも知りたいわね」


 ユーネとリルエッタが馬車から荷物を降ろしながら聞いてくる。車輪兵器の骨組みはけっこう大きいから大変だ。慌てて僕も手伝う。


「えっと……教えてもらったのは、兵たちの中には冒険者が嫌いな人と、好きな人と、どちらでもない人がいること。その中で冒険者が嫌いな人は若い人が多いこと。ヒリエンカの兵士は人手不足で、今回来ているのは精鋭ばかりってこと」


 三人でゆっくりと荷を地面に降ろして、その間に思い出して、僕はエルノに教えてもらった情報を口にしていく。


「教えたのは、僕が知ってる冒険者たちのパーティごとの得意分野、スピフィのパーティが他と仲が悪いこと、あと僕がウェインに戦闘訓練をしてもらってること……くらい?」

「大した情報じゃないわね。糸口にもならないわ」


 荷を降ろし終えたリルエッタはそう断じると、次の仕事へ移る。彼女の主な役割はグミさんが描いた魔術陣を受け取って、仮で魔力を通し検分することだ。

 ……僕も魔術を習ってから分かったのだけれど、あれは結構難しい。流す魔力が少なくては意味が無いし、多すぎて魔術陣が発動してしまうと、もし術式が間違っていた時に酷いことになってしまう。羊皮紙が破損するくらいだったらマシな方だろう。

 ちょうどいい魔力量を調整するって、実はけっこうコツがいるのだ。


「うん。だから明日までに二人でいろいろ調べてみようって。全然進んでないけど」

「はあー、大変ですねー」


 言葉とは裏腹に、ユーネの声はどこか微笑ましそうな響きだ。僕とエルノが遊びでやっていると思っているのかもしれない。……まあ僕も、彼が遊んでいないとは断言できないんだけれど。

 微妙にバツが悪い気分になって、みんなから目を逸らしてしまう。エルノとは明日もまた会う約束をしているから、昼は作業を抜けることになっていた。


「……でも、エルノ君の言うことは間違ってないと思う。冒険者と兵士が協力するには、今のままじゃ難しいだろうし。現地に着くまでにもう少し仲良くなってもらわないと」


 もちろんその調整をするべきなのは領主様であって、少なくとも僕の仕事ではないことはたしかだ。立場的にも能力的にも、できるかどうかで言えば……たぶんできない。それくらいは分かっている。

 ただエルノは僕と同い年の子供とはいえ、領主様の息子である。ならそういった調整をするべき立場なのだろう。そしてその彼の助けになれるというのなら……僕も協力したいとは思う。



「いーや、そこは間違ってるね」



 その声は、嗤っていた。

 嘲るように。馬鹿にするように。聞こえの良いおべんちゃらを見透かすように。

 魔剣士スピフィは自身の造り出した青白い明かりの下で、ニィィと嫌な笑みを浮かべる。


「兵士たちは精鋭で、若いのが冒険者のこと嫌い、か。なまじ腕に自信があるからゴブリンを舐めてるんだろうね。だから冒険者の力を借りず、自分たちだけでやりたいと主張しているワケだ。けっこうけっこう」


 彼女は火の魔石の検分をやってくれているようで、地べたにあぐらをかいて、木箱を机に作業をしてくれていた。

 冒険者として―――それも東側の筆頭冒険者として応援に来てくれている彼女は、当然だけれどここを手伝う義務なんかない。それなのに夜の作業にまで来て手伝ってくれているのは、ありがたいが不思議である。


「安心しなよチビちゃん。そういう活きの良いヤツらは、いざとなったら東流で言うこと聞かせてやるからね」

「東流ってどうやるの?」

「言うこと聞くまで殴る」


 単純明快ぃ……。東側の冒険者の店、絶対に行きたくないな。


「まあ、そいつらはむしろ放っておいていいけどね。やる気があるのはいいことじゃんさ。それより、これは聞いてきた? 冒険者のことが好きな兵士たちがいる理由」


 スピフィは魔術の明かりで火の魔石を透かし見る。

 質が悪いものは車輪型兵器が起爆したときの火力用で、質が高いものは魔術陣に組み込んで動力にする用だ。

 スピフィは火力用の方の容器に魔石を置いて、次の魔石を手に取る。


「アタシの読みだと、そいつらの方がむしろ要注意だ。ヤツらは冒険者のことを優秀だ、戦力になる、なんて持ち上げて、危険な役を押しつけようとしている可能性がある」

「あ……そうか」


 冒険者が砦攻略に非協力的なら、ウェインが言っていたとおり砦の周辺で逃亡するゴブリンを狩るだけになるだろう。それは楽で危険度が少ないが、若くて冒険者が嫌いな兵は、それでいいと突っぱねてくれるかもしれないのだ。

 逆に冒険者は強くて頼りになると口にする人は、それだけしかやらないのかと不満を持つだろう。

 そう考えれば……冒険者は嫌われている方がいいのだ。兵に協力的になればなるほど、危険な役を担うことになるのだから。


「特に今回なんて、領地内と言っても僻地だからねー。なんでこんな重要度の低い田舎で命を懸けなければならないんだー、なんて思ってる兵士だっているかもじゃん。それでもこっちを嫌ってくるヤツはいいさ。アタシたちには負けないって気概があるヤツらは働くし信用できる。でも好意的に接してくるヤツは警戒しなきゃあね。実はやる気に乏しくて、冒険者に損な役を押しつけて楽したい、なーんて魂胆があるかもしれないよ」


 背筋がゾワリとした。―――それは、分かる。分かってしまう。

 僕は一度、騙されたことがあるから。


「それにアタシとしては、冒険者に協力を求めること自体が間違ってるケドねー。ニャハハ!」


 東側の筆頭冒険者はそう笑い飛ばして、また火力用の容器に魔石を入れた。

 魔術陣に組み込む魔石は淀みや歪みの少ないものがいい。その方が魔力の通りが良く、術式の作動が滑らかになる。自動走行でけっこうな距離を走らせるのだから、術式や組み立てを完璧にするのは当然として、その動力となる魔石の質にも拘りたいのである。

 ……ただし及第点の魔石は少ないようで、火力用の容器はいっぱいになりそうなのに、良質魔石の方にはまだ一つしか入っていなかった。


「でも……冒険者が働けば、兵士さんたちの被害は減るよ」


 僕はスピフィの手元を見てそう呟く。

 危険なのは兵士も同じ……いや、エルノの話だと正面から攻め入るのは兵たちなのだから、一番危ないのは兵士たちだろう。

 冒険者を嫌っていようと、あるいは利用してやろうと思っていようと、彼らだって普段はヒリエンカの町を守る兵士である。できれば被害は少ない方がいい。


「モチロン納得のいく仕事ならやるに決まってるじゃん。なんならカッコよく活躍してゴブリンロードの首とって、兵士たちにひとしきり自慢してやってから追加報酬ぶんどってやんよ。ただ、お前らなら死んでも良いから無茶してこい、みたいな扱われ方はしたくないってだけ。それくらいなら暇な場所で待機して眺めてる方がいいってね。なにか間違ったこと言ってる?」

「……ううん。当然だね」


 僕らは領主様に忠誠を誓っているわけじゃない。町や村を守る義務もない。だって、兵士たちのように毎月給料をもらっていない。

 自分が生きるためのお金が欲しいから、冒険者は依頼を請けるのだ。

 兵は忠義や大義のために命を懸けるかもしれないが、それを冒険者に求めるのは間違っている。使い捨てにされて死ねなんて言おうものなら、たとえギルドクエストでも冒険者は帰るだろう。


「えっとー……危険と報酬が釣り合うならいいんでしょうかー? たしかギルドクエストですから報酬少ないですよねぇ。ゴブリンを十倒したら追加報酬もらえる、みたいなー」

「それだと前線に加わることになるけれど、それは兵たちの役割なんでしょう? もっと冒険者向きな役割で、かつ無茶じゃない仕事がいいわ。たとえば兵士たちが正門側で気を引いている間に裏口から侵入して、ゴブリンロードを暗殺する……のは無茶も無茶ね。忘れてちょうだい」


 気づけばリルエッタとユーネも難しい顔をしていた。

 スピフィの言い分は正しいけれど、冒険者はもっと協力した方がいい。それが二人の意見のようで、僕も同感だ。

 ではどうするか。


「スピフィだったら、どうすれば納得する?」


 この中で一番の冒険者に……東側の筆頭に、僕は聞いた。たぶんこれが一番早く、正解に辿り着けると思った。

 そしてその予感通り、答えはすぐに返ってくる。


「対等であればいい」


 即答。あまりにも当たり前すぎて、思考すら放棄しているような。

 魔術の明かりに透かし見ていた火の魔石を、彼女は僕の方へと向けた。宝石のような、けれど炎のように揺らぐ魔石越しに、スピフィの吊り目が細められる。


「嫌われるのはいい。でも舐められるのは気にくわない。アタシたちは自由だから冒険者やってるのに、わざわざ見下してきやがる相手に使われる理由はない。相手が誰だろうと愛想笑いなんてまっぴらさ!」


 面白がるように彼女は唇の端を歪め、火の魔石を手離す。

 指からこぼれるように落ちた魔石は木箱に置かれた容器へと入り、コロンと転がった。―――二つ目の、高品質魔石。


「だからチビちゃんも、エルノが嫌いなんだろ?」


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― 新着の感想 ―
[一言] 複雑なお年頃
[一言] まあ、突然稽古しよう!はいいにしても剣は当然使えるよねってより自分が剣得意だからって感じで、キリの得物を確認して来なかったし、言われてみれば自然に下に見てるような描写が端々にあった気もする。…
[一言] かっこいいなぁ、スピフィ。 グダグダ御託を並べて高尚ぶる伽藍堂より、こういう中身の詰まった人間の方が好きですね。 馬鹿だけど賢い。
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