集められた面々
冒険者の店で奥と言えば、普段は使われないちょっと特別な部屋になる。
なんでも領主様とか有力商人、あるいはすごくワケありの依頼人を通す場所で、広くて豪華な応接間なのだとか。
当然だけれど、そんなところに呼び出されるのは初めてだ。冒険者が通されるのはかなり異例のことらしい。
「ギルドクエスト、って話なのよね? なんだか悪い予感しかしないのだけれど」
「チッカさんとシェイアさんが一緒でー、しかも奥に呼ばれるなんて、ちょっとどんな依頼か分からないですねー」
僕たちはリルエッタとユーネが到着するのを待って、店の奥へと向かう。
「どーせ厄介な依頼に決まってるよ。あーもう、今日は久しぶりに船釣りに出ようと思ってたのに」
「帰りたい……」
分かってはいたけれど、ギルドクエストって聞いた時からみんなのやる気はだだ下がりだ。元からやる気のなかった二人なんかこの世の終わりみたいな顔をしている。
領主などの偉い人からの直接依頼。危急案件の処理。そしてギルドが誇りをかけて解決するべきと判断した事件など。ギルドクエストとはそういう、必ず達成しなければならない重要な依頼で、普通の仕事より多くランク評価をもらえるのが特徴だ。ただ難易度に比べて報酬が安いから、冒険者からは嫌われている。
正直僕としてもお金の方がいい。今の僕らがDランクに上がったところでできる依頼なんかないし、冒険に必要な装備とかを揃えるならお金なんていくらあっても足りない。
……ギルドクエストに指名されて断ると、最悪は店との契約を切られることもあるらしいから、やらないわけにもいかないんだけど。
「まあ、だいたいどんな仕事かは分かるけどね」
廊下を歩きながらチッカが肩をすくめる。奥というだけあってその部屋は、冒険者たちの喧噪から一番遠い場所にあった。
どうやらチッカは予想できているらしい。こんなの分かるハズないと思うのだけれど、もしかして斥候としてなにか心当たりがあるのだろうか。お店の情報とか探ってないよね?
「このクッソペリ野郎! テメェ嫌がらせかよっ!」
「モチロンだとも、不服かねモルボンクラピー!」
「不服しかねぇんだよ! せめて馬鹿みてぇな名前で間違えるなボケ!」
奥の部屋のすぐ前まで来て、ピタリと全員の足が止まった。中から聞こえてきた本気の怒気と天然な陽気が、声の主を教えてくれる。
「あの二人まで?」
「混沌としてきたわね……」
「一人はまあ、分かるんですけどー。もう一人はちょっとビックリですねぇ」
僕らは三人で顔を見合わせてから、揃ってシェイアとチッカへと視線を向ける。チッカはヤレヤレと舌を出していて、シェイアはなんだかゲンナリしているようだ。
一番前が僕だったので、他より磨かれている気がするドアノブを回して部屋の扉を開ける。部屋の中では予想したとおりの二人が睨み合っていた。
ウェインとペリドット。……シェイアとチッカの二人とよく臨時で組んで仕事しているウェインは分かる。けれど、明るい緑髪を長く伸ばしたもう一人の戦士がいるのは意外だった。彼はこの冒険者の店で唯一のBランクパーティのリーダー、つまりこの冒険者の店で最高の冒険者だ。
いや。見回してみれば、そこにいるのは彼らだけじゃなかった。
店主のバルクがいるのは、まあ当然。しかし室内にはさらにあと四人いて、その全員に僕は見覚えがあった。
「Cランクパーティのリーダー?」
僕だってこの店に来てしばらくたつ。関わり合いになったことはなくても、実力者の顔くらいは知っている。
Bランクパーティのリーダーであるペリドット。そしてCランクパーティのリーダー四人。そしてウェインとシェイアとチッカ。
暴れケルピーの尾びれ亭の上位陣の代表が、全員揃っていた。
「よし、揃ったな。では早速だが概要を説明する。……少し先走ったヤツもいたが、最初から話すからまずは聞いてくれ」
僕たちの姿を認めて、バルクが椅子から立ち上がる。ペリドットを睨んでいるのは、彼がその先走った人だからだろう。そのせいでウェインがくってかかるような事態になった、と。
……まあ、それはいい。だけどこの面々を待たせて僕らが最後だったらしいの、なんだか居心地が悪いな。シェイアとチッカと一緒だから許してほしい。
「いえーい! まだ揃ってないよ! いや今揃ったね! アタシを仲間はずれにはさせないぜ田舎者共!」
ドン、と背中に衝撃があって、思わずよろめいたら肩に重みがかかった。すぐ後ろからすっごく陽気な声がして、首を巡らせて見ると髪の毛を真ん中で黄色と紫色に分けて編み込んだ女の人がいた。
え、恐い。誰この人?
「ちょ、え、誰? 何よいきなりっ」
「お、お嬢様っ。キリ君も大丈夫ですかー?」
僕と同じく肩に手を置かれて体重をかけられているリルエッタが混乱している。突然の後ろからの乱入にユーネはオロオロしていて、シェイアとチッカは眉根を寄せて渋い顔で脇にどいていた。
こんな特徴的で陽気な人、見たら忘れるはずがないと思うから初対面なのだろう。リルエッタの様子からして彼女にとってもそのはずだ。なのにいきなり肩にぐいっと体重をかけられている。なんだこれ。
「……スピフィ。今日は簡単な打ち合わせだけだから来なくていいと伝えたハズだが?」
「ニャハハ! そんなこと言って、どうやって自分たちだけでおいしい役どころを持ってくか相談するつもりだったんでしょ、バルクのおっちゃん。そうはいかないぜ!」
はぁ、と濃い疲労の色が浮かぶ表情をさらに曇らせるバルク。どうやら顔見知りかつ関係者らしいが、いったい誰なのか。少なくとも僕はこの人を見たことがない。
ただこの人……黄色紫色の編み込み髪のスピフィがやってきたことで、なんだか部屋がいきなりピリッと張り詰めたような気がした。
なぜかCランクパーティのリーダー四人の表情が、一瞬で硬くなったのだ。
「あー……まあ、せっかく来たんだ。好きにしてくれ。一応だが、ここにいる者たちに紹介しておく。東側にある黒鱗シーサーペントの剣牙亭でBランクパーティのリーダーをされている、魔剣士スピフィ殿だ」
……なんだか聞いたことがある。この町には暴れケルピーの尾びれ亭の他にもう一つ冒険者の店があって、それは町の東側にあるって。
というか、Bランク? この変な髪の女の人が? よく見たら黒い服に妙な飾りをジャラジャラつけてるけれど、それって冒険用の服装じゃないよね。
「今回のギルドクエストには、東側からの応援として彼女のパーティにも加わってもらう。また、領主とその兵士たちとの共同で行う作戦であることも先に言っておく」
この町にBランクの冒険者パーティは二組しかないらしい。つまり、ペリドットの海猫の旋風団ともう一つ、このスピフィのパーティということだろう。
つまり東側の冒険者の店から応援人員として、一番強い人が送られて来たということ。
しかも領主様まで来るとか言われると、もうワケが分からない。これはもしかしてすごい仕事なのではないか。なんで僕らが呼ばれているのか。
「依頼内容は、廃砦に巣くったゴブリンの大群および、それを率いているであろうゴブリンロードの討伐だ。ゴブリン相手とはいえ大規模な戦闘が予想される上に、領主が同行するため万が一にも失敗するわけにはいかん。心してかかってくれ」
僕は一月前の、兎獣人の集落を襲う魔物の大群の様相を思い出した。
……アレをなんとかするための、このメンバーか。




