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つみ。

時はほんの少し前に遡る。

騎士達と冒険者、そして団長と援軍にやって来てくれたアルト達のおかげで王国の危機が回避できた直後。


ミリーははぐれてしまったラックとヴェインを見つけるためにあちこち探し回る。ミリー自身も傷だらけだが歩く分には問題なかった。

念のため街中の方に行くと、ミリーはそこでも魔族を見つける。すでに息はなかったため死体には必要以上に警戒はしなかったが、まだ生き残りがいるかもしれないと思い、ミリーは慎重に街中を歩く。


しばらく歩き続けて、ミリーはようやくラックに再会する事ができた。

胸に剣が突き刺さっている魔族の死体の前にうずくまっているラックを。

ミリーは慌ててラックに駆け寄る。


「ラックさん!? どうしたんですかラックさん!?」

「ミ、ミリー。…うぅ。」


意識はあるようだが、ラックは苦しそうに顔を歪めている。


「ラックさん! ラックさん! あぁ、どうしよう。」


何度もラックの名前を呼ぶミリーだが、どうする事もできない。ミリーには医術の知識もなく治療の魔法を使う事もできない。その場でうろたえる事しかできない。


「落ち着きなさい。」


そんなミリーに声をかける存在がいた。ミリーが振り返った先にいたのは公国にいるはずの聖女とその従者達。


「あ、あなた達は誰ですか?」


目の前にいるのが聖女だと気がついていないミリーはさらにうろたえる。


「名乗るほどのものではありませんが、他の方から聖女と呼ばれている者です。」

「聖女様!?」


公国にいるはずの聖女が今目の前にいる事にミリーは動揺する。そんなミリーを落ち着かせるためか聖女はかがみミリーと目線を合わせる。


「落ち着きなさい。」

「えっ、あっ。ごめんなさい。そ、そうだ! 聖女様、ラックさんを助けてください!」


慌てながらもミリーは聖女ならば今も苦しそうにしているラックの不調を治してくれると思い、聖女に必死に懇願する。


「今は無理ですけど、少しずつお金を払います! だからどうかお願いです! ラックさんを助けてください!」


必死に縋るミリーに聖女は微笑む。


「安心なさい。お代は不要です。すぐにラック様の呪いをといて差し上げます。」

「呪い、ですか?」

「えぇ。皆様。ラック様の上半身の服を脱がせてください。」


従者達がラックを仰向けに寝かせ聖女に言われるがままに胸元を晒すと心臓あたりに黒いアザのようなものが大きく広がっている。


「な、何ですかこれ。」

「これは邪悪な魔族が使う呪いです。おそらくそこに転がっている魔族がラック様に呪いをかけたのでしょう。」


魔族の使う呪いと聞いてミリーの不安はさらに大きくなる。魔族の使う呪術はとても強力である事をミリーも知っていたからだ。


「だ、大丈夫ですよね?」

「私に任せてください。」


そう言って聖女はアザに手をかざすと聖女の手を中心に光り輝く。その光に当たっているアザがだんだんと小さくなっていき、やがてラックの心臓あたりに広がっていた胸のアザが綺麗さっぱりと消えてしまった。


「これで解呪は完了です。」

「ありがとうございます!」


呪いのアザがなくなった事をしっかりと確認したミリーはこれでもう大丈夫だと思い心の底から安心する。これでラックは元気になり起きあがっていつものように自分に笑いかけてくれる、とミリーは信じていた。

だけど呪いのアザが消えてもラックは今も苦しそうに横たわっていた。


「…念のためもう1度かけますね。」


苦しそうなラックを見て聖女も変に思ったのかまた解呪の魔法を使う。しかし、ラックの容体が良くなる事はない。


「あ、あれ? おかしいですね。すぐに起き上がるはずなんですが。」


聖女は何度も解呪を試みたが、効果はなかった。

焦っている様子の聖女と横たわっているラックを見てミリーは再び、しかしさっきよりも大きな不安をかかえる。


「せ、聖女様?」


ミリーは聖女に声をかけるが、聖女はミリーの言葉に応えない。そのまま黙って立ち上がると早足でどこかへと立ち去って行く。従者達は少し慌てた様子で聖女の後を追う。


「…えっ?」


一瞬、ミリーは何が起きたのか理解できなかった。聖女の行動に対しての反応が遅れてしまった。何が起きたのか理解する頃にはもうすでに聖女達は遠くに行っていた。


「待って。ねぇ待って!」


ミリーは聖女を追いかける。ラックの事は心配だが、自分がそばにいても何もできないと分かってしまったミリーは最後の希望であると信じている聖女を追いかける。



◆◇◆◇◆



そして、現在。


ミリーは聖女に追いつき、ラックにかけられた呪いをといてほしいと再び願う。


「そうですか呪いが。聖女様。我々の事は気にせず呪いをかけられた者に奇跡の力を使ってください。貴女は解呪の奇跡を使える聖女。どうぞその力、存分に発揮していただきたい。」


団長にそう言われた聖女は動かない。視線を地面に向けており誰とも視線を合わせる様子がない。


「…そこの君。何があったのか出来るだけ詳しく話をしてくれないか?」


このままでは埒があかないと判断した団長は事情を知っているミリーに話をふる。

話をふられたミリーは涙声でありながらも先刻で起きた事を団長に、みんなに話す。話し終えた頃にはミリーは泣きじゃくり、近くにいたミリーと顔見知りの冒険者に慰められる。


「これはいったいどういう事ですか聖女様?」


団長は再度、聖女に問いかけるが聖女は目を泳がせるだけで何も応えない。

そばにいる従者達は戸惑う様子を見せるだけで何かをしゃべる様子はないし聖女に助け舟を出すつもりもなさそうだ。


「貴女は聖女様、なんですよね?」

「えぇ、そうですよ。」


聖女の身分を怪しむ団長の言動に腹が立ったのか聖女は少し苛立ちを乗せた声で反射的に団長の言葉に肯定する。


「しかし、呪いをかけられた者を助ける事が出来ないようですね。貴女は先ほど解呪なら出来ると言っていたのに。」


しかしその発言は聖女にとって悪手だ。団長はさらに聖女を追い詰めるように言葉を並べると、聖女の従者達が聖女を守るように前に出る。


「無礼者! この方は紛れもない、本物の聖女様だ。偽者のような扱いをするな!」

「それを証明する方法は? あの冒険者が言うには解呪はできなかったようですが、聖女様は他にも奇跡を持っているのですか?」

「そ、それは…」

「使えないですよね。先ほど聖女様自身が解呪の奇跡しか使えないとおっしゃっていましたから。」


しかし、団長は容赦しない。言葉だけで従者達を黙らせる。


「我々に何の助力をしてくれないならどうかお引き取りください。」

「…魔族を見逃せというのか。」


どうやら聖女達はまだアルト達の事を諦めていないようだ。アルト達を見る目に嫌悪の色が濃くついている。


「私は貴女達の心配をしているのです。少し、周りを見ればわかりますよ。」


団長の言われるがままに聖女達は周りを見て、状況を把握する。

聖女達の話を黙って聞いていた騎士達と冒険者達が聖女達を見ている。いや、見ているというよりも睨んでいる。


「…さっきから黙って聞いていりゃあ、何なんだよお前ら。」


1人の冒険者がそう言うと、他の者達も口々に発言していく。


「聖女なのに何もしてくれないのか。」

「私達を助けてくれた魔族の人達を何であんなに悪く言えるの。」

「そもそもあいつは本当に聖女なのか?」

「格好だけ取り繕った偽物じゃあねぇのか?」

「口だけかよ。」

「偉そうな奴らだ。」


皆、口々に聖女達に対して棘のある言葉を吐いていく。聖女に対する不満の言葉はどんどん増えていき、周囲が聖女に対する不満の言葉で騒がしくなる。


「ち、違います! 私は本当に聖女の称号を授かっているのです!」


聖女は必死に弁解しようとするが、喧騒にかき消されてしまい誰も聞き入れてくれない。それどころか今にも聖女達に攻撃してきそうなほど皆気が立っている。

その様子を感じとった聖女は怯え、後ずさる。


「早くここから立ち去った方がいい。」


団長がそう言うと、聖女は我先に走り去っていく。それに続くように従者達が後を追う。


聖女達が立ち去った事を確認した団長は気が立っている冒険者達と騎士達と落ち着かせようとしたり事後処理のために動く。

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