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1:聖女の祈り

 高い天井の頂点にある天窓から降り注ぐ、月の光。

 その光の照らす先に、淡い紫色の儀式衣(ぎしきい)(まと)った一人の少女がひざまづき、祈りを捧げている。


 リュリュイエの都を護る聖女、ミオティアル。


 よく磨かれた石の床に描かれた円形の魔法陣には、数え切れないほどの記号と呪文が刻まれ、彼女はその中心で、両手を胸の前で組み、ひたすらに祈っていた。

 しばらくすると、彼女の身体から金とも銀とも言えない複雑な色合いのゆらめきが発せられ、その量がゆっくりと増していく。


 ミオティアルを中心に徐々に広がっていく魔力のゆらめきが、彼女の纏う衣の裾や袖をふわりと(なび)かせ、緻密(ちみつ)に施された金色の刺繍がきらきらと輝く。


 やがてそれが魔法陣の隅々まで行き渡ると、ミオティアルはゆっくりと(まぶた)を開き、胸の前で組まれていた両手を解きながら、月の光へと伸ばした。


 両の手首に()められた、幾重にも連なる金のバングルが、シャラリと鳴る。


 指先を揃え、手のひらを上に向けて、真っ直ぐに。

 まるで、月の光が溢れてしまわない様にと、殊更(ことさら)丁寧な手つきで。


 そうしているうちに、今度は手のひらに柔らかな魔力の光が灯ると、徐々にその輝きが増していき、それに呼応するかの様に魔法陣の表面に漂っていた光が強くなっていく。


 魔力の輝きがミオティアルの身体を完全に包み込んだ瞬間、光が弾けて、天上近くからキラキラと降り注ぎ、床に描かれた魔法陣に吸い込まれていった。


 彼女にとっては慣れた、いつもの儀式。

 リュリュイエの都を包む結界に(ほころ)びが生じない様、聖なる魔力を注ぐ大切な儀式だ。


 立ち上がり、白銀の髪がサラリと揺れる。


「……ふぅ」


 疲れていても周りには決して見せない彼女らしからぬため息がでた。


(今日は少し疲れてるみたい……記録をつけたら早めに休まなくてはならないわね)


 そんな風に思いながら、出口へ足を踏み出しかけたその時、


(……え?)


 足元がぐらりとした。

 身体に力が入らない。

 崩れ落ちる様に、その場に倒れ込む。


  カチャリ……ギギィ


 目の前が暗くなってゆく中、自分のいる結界の間の扉が開く音がして、ゆるりとそちらに目を向ける。


 黒い影が、入ってくるのが、見えた。


(何故? ……誰も入ってこれないはずなのに……)


「……あ……」

 

 扉に向かって目を凝らし、今更になって、その存在に気がつく。

 扉の左右に置かれた、それに。


 ――魔力に反応して起動する、罠。


(まさか、そんな……)


 意識が遠のく。


「貴女が……悪いのよ……」


 その呟きは、彼女には届かなかった。




 



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