65話:はるか天空の花の楽園(クソ広い)
「・・・おお〜、凄いスケールだな。」
パイマーンを出発してから、11日。
街道から、王都アノールの全貌が見えた。
いや、正確には全貌までは見えないか。
規則正しく並んだ街並み、そしてそれを囲う城壁は地平線の彼方まで伸びている。
何処まであるのか見当もつかない。流石は勇者の伝説が残る国。とてつもない規模の都市だ。
そして奥の方に見えるあのくそデカい白い建物がお城か。街の入口から王城までどれくらい掛かるのだろう?不便だろう明らかに。
「リョウ様、あまり驚かれないのですね。」
くだらない事を考えていると、ロリさんが話し掛けてきた。
そりゃまぁ・・・僕は高層ビルが建ち並ぶ大都会を知っているからね。
まぁアレと比べたら駄目か。こういうファンタジーな街並みとは全然ベクトルが違う。
「あれ・・・・・・全部、お家?・・・・・・すごい。」
「そうですね・・・。私も久しぶりに見ましたが、人間の作る町並みは美しいですね。」
「・・・ふん。」
イムとルシルは素直に感動しているようだ。
メイコもいつものように鼻を鳴らしているが、感動に打ち震えているらしい。
心の清い娘達や。
「あーもー、やっと着いたの?つーかーれーた!! わたしだけずっと外で移動したんだから!!ごはん!おふろ!人間と同じベッドじゃなきゃ寝むれない!!」
と、人間の生活に染まった荒んだ心のハーピーが、美しい街並みを無視して僕の背中に抱き着いてくる。
「まずはカティに会ってからな。それから飯と宿だ。分かったかピノ。」
「はいはい。わたしお肉ね。」
「・・・・・・イムも、にく。・・・・・・胡椒、たっぷり。」
「ご主人様!私もお肉で!」
「果物ならなんでもいいわ。」
・・・この贅沢を覚えてしまった肉食動物どもめ!おめーら一度でも野菜食いたいって言ったか?
あとメイコは偶には肉食おうな!
「そうそう!リョ〜君リョ〜君。ごはんもいいけど、これだけ大きい場所なら、わたしの武器も買ってくれるのよね?絶対買いなさいよ?」
と言いながら、ピノは僕の身体に爪を立てるんですよ?
ヒドくないですか?脅されてるんですよ?
「ほほう?武器をご所望ですかリョウ様?勿論、ウチの商会にも武器は扱っておりますよ?」
目ざとい商人やな。
まぁロリさんとこのインチキ商会なら、品揃えも豊富だろう。ここで関係が築けたのは好都合だったな。
「ふ〜ん、あんた話わかるじゃない。リョ〜君はね、ジューって武器をわたしの為に探してんのよ。」
ジューって何だよ。せめてジュウと言え。
さっき肉の話してるからややこしいわ!
「ジュ〜? ・・・おおっ!?ジュウですか。流石リョウ様、ジュウに興味をお持ちとは、お目が高いです。」
おっ!?ロリさん、いい反応じゃないか?
まさか、こんなところで銃が手に入る?
「銃を売ってるんですか?」
「勿論ございますよ。あの伝説の忍者、マジマン様が使っていた物の複製品や、ダンジョンから発掘された物もありますよ。物が物だけに数はありませんけど、どれも自信をもってお勧めできる品ですよ。」
・・・あー、物が物だけに、か。
「・・・もしかして、凄く高いですか?」
「・・・・・・あはは。やっぱりよく知らないで言いはったんですね。ジュウってむっちゃ高いですよ?お若いリョウ様には無理だと思います。 どちらかというと、ジュウはお金持ちで戦闘が得意ではない方の護身用の武器です。本体も精巧でお高いですけど、中に入れるジュウダンも、あまり生産出来るものではないんで高いです。」
それを聞いてガクッと項垂れてしまった。
やっぱりそんなにうまくいくわけないか。この世界では弾丸だって貴重だよなぁ。
「それに、ジュウは魔物に効果的ではないですよ?冒険者で持っている人はあまり居ないと思います。」
それはつまり対人用って事かい?
おお、怖いねぇ。こんなファンタジーの世界で銃を突きつけられる日が来て欲しくないね。
だが、ピノが胸を張りながら答える。
「高いのがなんだっつーの!リョ〜君が買ってくれるんだから別にいいのっ!」
よくねーわ!金持ち御用達の武器なんていくらすると思ってるんだ!それに人に向けて使う予定なんかねーんだよ!
「わたし見たんだからねリョ〜君。お父さんからお金貰ってたでしょ!?」
そんな事に使う為の金じゃないわ。独り立ちする餞別と、カティの為だろ。
最低だぞコイツ。
「・・・銃を買うんだったら、今日から野宿だな。飯も各自で調達する事。」
「ピノ、だめ。がまんする。」
イムのびよ〜んと伸ばした腕が、ピノの肩を掴む。
ほらね。こう言ってやればすぐに味方についてくれるスライムが居るんですよ。
ホンマ、人間の生活に染まってしまった魔物達やで。心なんか全然清く無いわ。
「キーーーーーッッ!!離せ!!わたしは諦めないんだから!!」
ピノも抵抗するが、飯が懸かったイムの力には勝てるはずもない。ピノはスライムの体に徐々に呑み込まれていった。
スライムの体の中でギャーギャーと騒いているようだが、外には一切聞こえない。僕の財布は守られたのだ。めでたしめでたし。
「ご主人様。不躾ではございますが、ピノの武器の事、どうか考えていただけないでしょうか?」
「あー、うん。まぁそうね・・・。」
ルシルが僕に頭を下げてきた。
確かにピノはよく我慢していると思う。他の従魔には武器を持たせているんだ。それから随分経った。
ルシルが言うのも分かるんだが・・・。
「といいますか、従魔に武器を与えるなど聞いた事無いのです。リョウ様の従魔さんはやはり優秀ですね。」
「当然でございます。ご主人様なのですから。」
ルシルのいつもの台詞がロリさんに炸裂する。
もう慣れてしまって、小っ恥ずかしくもないわい。
「では、リョウ様がお求めになりやすい武器を紹介しましょう。そろそろ出発みたいなので馬車に乗りませんか?」
「あぁ、頼みます。」
ロリさんにカタログでも見せてもらいながら、最後の移動と行こうか。
「殺傷力の高いフライパンがあるでしょうか?」
・・・ねーよそんなもん。
◆◆◆
オシリ王国。首都、アノール。
僕達の商隊は、ついにその入口である、バカでかい城門をくぐ・・・・・・れていない。
マジで何時になったら着くんだよ・・・。
一体僕達は何をしているのか?
それは検問の順番待ちである。
今、アノールでは厳重な検問を通ってからではないと中に入れないらしい。
城門に近付いてみるとあらびっくり!馬車と人が長蛇の列を作っているではありませんか!?
「・・・ロリさん。これいつ終わるんですか?」
「せやからゆーたやないですか。今王都では持ち込めない物が色々あるんです。王都の手前で一泊したのも、この為なんですよ?出国入国なんてこの比やないんですから、堪忍してください。」
色々あるとは聞いてないがな。
なんかロリさんの言葉が日に日に砕けてきたが、まぁ仲良くなっているって証拠なのだろう。ていうか関西弁なんだな。方言幼女なんてあざと過ぎでしょ。
・・・因みに、この状態に一番我慢が出来ないであろう、我らが女神、ルナ様であるが・・・彼女は今ここには居ない。
というかくノ一ちゃんのくだりが終わった日から姿を見ていない。
一体何処に行ったのだろうと心配していたのだが、なんの気なしに見たルナホに変化があった。
アプリアイコンが1つ増えていたのだ。
その名は“ルナちゃんトーク”。しかもそのアイコンの右上には“1”とついている。
アプリを開くと、一言、こう送られてあった。
[ちょっとトイレ]
と・・・。
ルナ様が居なくなってから4日も経ったのだが、お花を摘みに行ってから一向に帰って来る気配はない。
十中八九、飽きたから何処かに逃げたのだろう。だが、もしかしたら神様なので考えもつかないくらい永い時を生きているので、お花摘みも考えがつかないくらい長いのだろうと思う事にする。
・・・まぁそのうち帰って来るだろう。
「あの・・・リョウ様?1つ、ずっと気になっていた事があるんですが、聞いてもいいですか?」
進む気配のない行列に僕も飽きてきたので、魔物形態のイムを引っ張って遊んでいると、ロリさんがおずおずと聞いてくる。
「何ですか?」
「あの、そのスライムさん・・・いや、他の従魔さん達もやけど・・・従魔紋が見当たりませんが、どうしたのですか?」
・・・う〜む、ロリさんはそこにも気付くか。
面倒くさいな。適当に言ってしまおう。
「僕の従魔は、従魔紋を必要としないタイプなんです。」
「ほえ?そうなんですか? ・・・確かに従魔の皆さんは、リョウ様に従っているようですが、それやと検問を通過できませんよ?」
・・・は?
なに?従魔紋がないとアノールに入れないのか?
パイマーンでは金を払えば入れてくれたぞ?
その時に登録までしてくれて、以降は金の請求は無かった。
従魔紋だってチェックしてなかった。アノールまでの道のりで寄った町も全部そうだったぞ?金の要求すら無かった。
「・・・大丈夫でしょう?荷物検査だけじゃないんですか?」
「そんな事ないですよ。 ・・・・・・ほら、ここに書いています。“クラス魔物使いの者は、従魔紋の確認及び通行許可書の申請しなければならない。”って。」
ロリさんは綺麗な冊子を取り出してパラパラとめくると、此方に差し出してきた。
これはどうやら、今のアノールに入る為の注意事項が書いてある冊子らしい。
確かに書いてある。
別に従魔紋を確認されるのは不自然な事ではない。人間の街に魔物が入るのだ。安全確認をするのは当然だろう。
だが僕はひっじょ〜に困る。
従魔紋なんて1回もつけた事が無い。そんなもん無くったってノコノコ付いて来るんだもん。
なんだったら従魔紋の模様すら知らない。クラスを偽って生活するつもりなんだから、勉強しとくんだった・・・。
こんな時に何でルナ様は居ないんだ!?
『ご主人様・・・どうされますか?私達は人間の姿になりましょうか?』
『いやルシル、それは駄目だ。』
この世界で人間が他の町に入るには必ず通行許可書が居る。モン娘達を人間形態で町に入れる場合、人数分の通行許可書がいるのだ。
だから町への出入りは、魔物形態かモン娘形態である必要がある。中に入りさえすればいくらでも人間形態に出来るのだが・・・。
今回ディーノ氏から頂いたアノールへの通行許可書には、既に魔物使いで従魔が4匹いると登録してある。
後は従魔紋なんだよな。
いい加減な検問をしてくれるなら助かるんだが、この物々しさだしな。賭けに出るにはリスクが高い。
さて、どうしたものか・・・・・・。
「よし・・・今から付けるか。メイコ。」
「何?」
「インク貸してくれ!」
「・・・あんた、まさか描く気なの?」
だってそれしかねぇだろうがよ。そんな嫌な顔するなよ!
『ようやく・・・・・・イムにも、従魔紋、つく。』
1匹ノリノリのまんまるスライムが僕の膝に乗ってくる。
『ああ!!ご主人様!次は私にお願いします!遂に私にもご主人様のモノである証が刻まれてしまうのですね!!』
もう1匹おったわ。
君は何で腹を見せてひっくり返っているのかな?股間に描くつもりですか?
(わたしはいい。リョ〜君が描いたら絶対ダサいし。)
「・・・私も遠慮するわ。」
話聞いてた?
みんな描くんだよ。逃げらんねぇからな。
まずはイムに描いてやろう。
さて・・・何て描けばいいんだ?
「色はどうするの?」
「あー、そうか。色もわからねぇな・・・。」
メイコに言われるまで全く気にしてなかった。
従魔紋に関しての知識がなさ過ぎる!!
「・・・従魔紋は付与魔法の一種やから、魔法を使う人間の好きにしてええんです。何色でもええんですよ。」
見兼ねたロリさんか教えてくれる。
ああ・・・ロリさんにも僕の秘密を色々と知られてしまったなぁ。僕って結構ガバガバじゃね?
「そう。じゃあピンクでいいわね。」
「ちょっと待てぃ。」
僕は全身ピンクの服を着ているだけであって、ピンクが好きな訳ではない!
もう黒とかでいい。黒だよ真っ黒。
前に偶々見付けて買ってあった筆を使って、イムのスライムの体に模様を描く。
これでもね。習字は得意だったんですよ。
有名人のサインみたいな、シンプルでサラサラっと描けるものがいいな。
まる描いて、カタカナで“リ”と描く。
ほぅらこれで完成!!
『・・・・・・・・・・・・。』
ほら。イムちゃんも感動で声が出ないってよ。
(ほらね。だから言ったじゃん。)
「・・・私にそれを描いたら殺すわよ。」
『ご主人様、やはり人間の姿で行くべきでは?』
・・・・・・なんだよなんだよみんなして。このリョウ君印のイカしたマークの何が駄目なんだよ!
じゃあ何かいいアイデア出せよ。僕もう知らねえからな!
「はぁ・・・。よかったらウチが描きましょうか?」
くそデカ溜息をつきながら、ロリさんが手を差し伸べてくる。
なんだよ。呆れ果てたか?憐れみか?こんちくしょうめ!
・・・どうやらこのまま全員にリョウ君お手製の従魔紋を付ける事は許されないみたいなので、ロリさんに頭を下げる事にする。
弱みを見せたうえでの頼み事なので、足元を見られるだろう。だがこればっかりは仕方がない。
ロリさんにインクを渡す。
するとロリさんは、インクをじっと見つめて動かなくなってしまう。
「・・・どうしました?」
「な、なんですかこのアイテム・・・!?むっちゃスゴいですよ!?」
・・・あぁ、また僕の秘密を知ってしまったね。
そりゃただのレアアイテムでなくて、ルナ様がカスタムしたレアアイテムだからね。
「ていうか、ロリさんってアイテム見ただけで分かるんですか?」
「・・・小さい頃、両親に鑑定士としても仕込まれてますんで。」
ふ〜ん、英才教育ってやつか。
「なんや、やっぱ只者やないですねリョウ様は。勇者様がご執心なのも分かる気がします。」
まんまるスライムのイムを優しく抱き上げたロリさんは、僕が描いたリョウ君マークを布で消している。
あぁん、ひどぅい!
「・・・僕とカティはただの幼馴染ですよ。」
「そうですか? ウチも最近はパイマーンに居る事が多かったんで細かい事までは知りませんけど、今、勇者様は引く手数多みたいですよ?」
「そうみたいですね。」
「誰もが皆、関係を持ちたいと思うでしょうね。レアクラス勇者にはそんだけの価値も魅力もあります。そんな勇者様に求められているリョウ様は、やっぱむっちゃスゴいですよ。」
「・・・ロリさんもそうなんですか?」
「・・・インチキ商会は、勇者様といい関係を築いていけたらいいと思っています。」
僕はロリさん個人に聞いたつもりなんだけどな。
流石に下心が見え見えでしたか!?そんなぁ。カティじゃなくて僕と体の関係持ちましょうよ!!
ロリさんは自分のペンを取り出して、イムの体に魔法陣のようなものを描いていく。僕が考えた安っぽい企業ロゴとは違って、めちゃくちゃ本格的な模様だ。
この時ばかりはイムも大人しくロリさんに抱かれている。
「・・・上手いですね。めっちゃそれっぽいじゃないですか。」
「それっぽいゆうか、全くの偽物ですよ。ウチも従魔紋を詳しく知りませんもん。」
・・・それっぽいってのはちょっと失礼だったな。
だがこれでもロリさんは適当に描いているらしい。
「それにしては堂に入っているようですが?」
「・・・昔の話ですけど、物を売る方より創る方の道を目指していた時があったんです。もう諦めましたけど。」
「創る方?魔導具ですか?」
「そうです。今描いてる模様もその時に勉強していたもんです。本職の方なら見分けがつくやろうけど、下っ端の兵士なら分からへんでしょう。」
・・・なんか変な事を聞いただろうか?ロリさんが明らかに物悲しい雰囲気になった気がする。
話題を変えるか・・・。
「あーっと、ロリさん。コレの料金なんですが・・・」
「いりませんよ。こんなモノにお金は取れません。」
こんなモノって・・・こっちは大助かりだっていうのに。
いや、違うか。偽造するのに協力してくれているんだ。金が取れる訳ないか。
「・・・なんか、すみませんね。」
「かまへんよ。・・・インチキ商会は大っきな商会です。多少の事はやらへんと、こんな大っきくならへんよ。」
・・・多少なら、こういう事はやってるそうだ。
まぁ、ゴーレム血石の隠し方も教えてくれたしな。多少なら悪い事もやっているんだろう。
そうこう話しているうちに描き終わったようだ。
ドロップのレアアイテムやダンジョンで発掘された天然物の魔導具と違って、人工の魔導具には付与魔法の魔法陣が刻まれている。
今回イムに描かれた魔法陣は、確かにソレに似たような模様が描かれているようだ。
イムは、自分の体に描かれた魔法陣を確認してご満悦のようだ。
感謝の念を込めたキラキラした目でロリさんを見ている(目は無い)
『お前、実はいいヤツ。・・・・・・イムの体、ツンツンしていい。』
「は?あ、ありがとうございます。・・・はえ?頭の中でスライムさんの声が???」
なんてチョロい奴。あんなに嫌っていたというのに。
・・・いやツンツンまでしか許してないのだから、難しいのか?
余談だが、イムは気に入った相手をランク付けして体を触らさせているらしい。
ツンツンはその最低ランクだ。孤児院ではゲバルド氏がここに入る。
後は、エリオがお触り禁止。マルタがナデナデまで。ヨハンナさんとリタがスベスベまでという事らしい。
一体何ランクまであって、どこまでの行為が許されているのか知らんが、僕は最上位の行為までオッケーと言われている。生意気なので無視しているが。




