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四章『彼女は勇気を振り絞る(1)』

「……はい?」

 と言ったか言わないかくらいの時間だった。だいちは銃の矛先をユキナのこめかみに移すと、それをきつく突きつける。

「君を公開処刑にすると言ったんだ」

 その目は本気だった。ハム吉は唖然とした顔でだいちを見つめ、そのまま硬直を続けた。

「素直に従わなければ、引き金を引く」

 ユキナが不安そうな瞳をひなたに向ける。その顔を見てすっかり諦めたのか、ひなたは刀を地面に置くと両手を挙げた。

「素直で結構」

 だいちは銃をユキナから離すと手錠を取り出した。それを見てもひなたは何も言わずにただユキナに向かって微笑みかけるだけ。

「ちょ、だ、だいちさ――だいちっ!!」

 しかし、ユキナは黙っていることができなかった。彼女はひなたとだいちの間に入り込み、その前に立ちはだかる。朝食がのっていた皿が地面に落ちた。ひなたはこんな状況でも「もったいない」と思った自分を笑って、彼女に声をかける。

「ユキナさん」

 彼女の頭にひなたは手を置いた。今にも泣き出しそうな顔で見上げられて、ひなたは胸が締め付けられそうになった。

「大丈夫ですから」

「で、でも……しょ、処刑って!」

 ひなたはもう一度ユキナに微笑みかけて、それからハム吉に視線を動かした。ハム吉はそれに気づいて、ひなたに視線を合わせる。


 そして、同時に小さく頷いた。


「手錠はやめましょう。抵抗する気はありません」

「そうか」

 意外にも、というか、やけに素直にだいちは手錠を引っ込めた。それからにこやかに微笑むと、まるでおどけているかのように両手を軽く挙げた。

「では、行こうか」

「はい」

「ひなたっ!」

 ユキナはだいちの後に続いて歩いていくひなたの袖を引っ張った。思わず足を止めたひなたは振り返ってユキナの顔を見つめる。

「約束します」

「え?」

 ひなたはユキナの目から零れる涙を指ですくうと、小さく笑い彼女の額に軽く触れた。

「僕は死にません。必ず戻ってきます」

 いやに自信たっぷりにそう言うので、ユキナは思わず頷きそうになった。しかし、そんな根拠など一切ないことに気づいて、慌てて落ちかけた首を横に振る。

「……え? で、でも!」

「待っていてください」

 そう言って、ひなたは再び後ろを向いた。ユキナの目には、もう彼の背中しか見えない。徐々に彼の背が遠ざかっていく。




 ――そして、彼女は悟った。


 


 自分には、彼を助ける力がない、と。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 その一報が世に知れ渡ったのは、まさに、“あっ”という間だった。


 生存が確認された蒼風ことひなたが、政府に逮捕され本拠地の地下刑務所に拘留されることになった。しかも、それだけには止まらず、彼が数日後に公開処刑されることも決まったために、世の中は一瞬のうちに大騒ぎの渦に飲み込まれた。




 そして、この一報を聞いて真っ先に動いた男がいた。




 男は“偶然”にも本拠地の近くに来ていた。彼が狙う人物の情報を得ようと、本拠地に忍び込もうとしていたのである。そこにきて、ひなた逮捕の一報。男はまず罠を疑った。ひなたが政府の“とある役人”と仲が良いことはよく知っていたし、ひなたは自分を捕まえるための餌としてあてがわれているのではないかと思ったのだ。


 だが、罠だとしても、それがいったい何だというのだろう。

 

 よくよく考えてみなくても、彼にとってそれはどちらでも良いことだった。さらに言えば、ひなたが処刑されるとしても別に特段興味のない出来事であった。ここで彼が死のうが知ったこっちゃない。頭ではそう思う。


 しかし、男の足はすぐさま政府本拠地に向かうことになる。

 

 男がひなたを救う義理はなかった。確かに義理はなかったのである。つまり、その行動は無意識のうちの、いわば本能のようなものなのであった。

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