三章『彼は1つの計画を企てる(2)』
「どうやらみかげが政府の本拠地付近に現れたようなんだ」
その一言のせいで、ひなたは思わずせっかく作った朝食を落としてしまうところだった。
「……え?」
「そこで、私はいかにして彼を確保しようかと考えているわけだ」
パンをかじりながら、だいちは淡々と続けた。コーヒーをすすっていたハム吉も、その動きを止めてだいちに顔を向けた。
「単刀直入に言おう。君に協力してもらいたい」
「と、言いますと?」
不審げに視線を向けるひなたを見つめたまま、だいちは右手を懐に入れる。ひなたの眉がぴくりと動き、そして――。
「いい匂いがするー」
ユキナがぼさぼさの髪のままテントから現れた。眠そうに目をこすりながら出てきた彼女は、まだ頭が覚醒していないのか、ふらふらした足取りでひなたの傍にやってきた。
「あ、おはようございます、ユキナさん。そちらで顔を洗ってきてください」
「うん」
ひなたの言葉に素直に従って、ユキナは顔を洗いに向かった。士気をそがれただいちは小さく笑うと朝食の続きに手をかけた。
ひなたもだいちから意識を外すと急いでユキナの朝食作りに取り掛かった。
これは昨晩気づいたことだが、どうやらユキナは野菜が苦手らしい。特に色の濃い野菜が苦手のようだった。だからといって、ひなたは妥協などしない。例えユキナが嫌いだと喚いても、それを食べさせない、というわけにはいかなかった。好き嫌いを全て無くせ、とは言わない。けれど、せめて減らしてもらいたい。それがひとまずの彼の願いであった。なぜなら、好き嫌いが多いとその分だけ食の楽しみを失っているようで勿体無いと思うからだ。自分と共にいる以上、そこは譲れなかった。変なところで頑固な男なのである。
「君は彼女の世話係か何かになったのか?」
やけに真剣な面持ちで野菜を刻むひなたを見て、だいちはため息混じりにそう言った。
「……そういえば、僕はいったい何をやっているのでしょうね」
ひなたはだいちに指摘されて初めて自分がユキナのために様々な苦労を背負っていることに気づいた。これではまるで彼が“お姫様の従者”にでもなったかのようだ。
「君は昔から女性に甘いからな。時に例の――」
「ひーなたー。今日のご飯は何?」
「ご覧になってください。もう準備はできていますから」
「分かった」
再び、彼女に間を壊されただいちは諦めたかのように朝食をほおばり、続くはずだった言葉と共に飲み込んだ。
「あれ? あなたは確か昨日の……」
「だいちです」
「だいちさん」
ユキナはそこでようやくだいちの存在に気づいたのか、ぺこりと挨拶をした。だいちも会釈を返す。
「なんでここにいるんですか?」
「ちょっと彼と話があってな」
「ふ〜ん」
ユキナはちらっとひなたを見て、それから箸で器用に嫌いな野菜を皿の隅に避けた。
「続きをうかがいましょうか」
そんなユキナの行動を尻目にひなたは自分のコップにコーヒーを注ぎ、それを口に運んだ。あの街の店主が淹れたものと違って、味も香りも申し分ない。
「彼女の前で言っても良いのか?」
「彼女に関する件なんですか?」
質問を質問で返されただいちは綺麗に食べ終えた皿をひなたに手渡すと、首を横に振った。
「でしたら構いません」
ひなたは一気にコーヒーを喉に流し込むと、だいちに向き直った。ユキナはそんな2人の様子に気をとられて、箸からレタスを落とすことになった。それが彼女の膝付近に当たって、地面に落ちる。
それと同時にだいちが懐から銃を抜きひなたの額に突きつけた。ひなたは反射的に身体を後ろに倒してそれをかわしたが、だいちは逆にそれを利用して彼の額に空いた方の手をかけると地面に叩き伏せた。
「ひなたっ!」
ユキナが叫び、倒れたひなたは間髪入れずに跳ね起き、刀を抜こうと腕を動かす。が、すぐさま銃声が響き、ひなたのわき腹付近の服が裂けた。身体には当たっていないが、それで彼の動きは止まることになった。
「みかげの確保に協力してもらいたい」
「それは、先ほど聞きましたが」
刀の鞘に手をかけた姿勢で、ひなたは睨みをきかせた。一方のだいちはそれに全く怯むことなく銃を彼に向けたまま低い声を発した。
「ひなた……いや、蒼風」
誰1人として、その場を動けない。そして、その間を彼の言葉だけが静かに駆け抜けた。
「君を公開処刑する」




