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備忘録1 生きにくさの根っこ  作者: 小日向冬子
自分の足で
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おわりに

 いつのころからでしょうか。死ぬ前に心の中にあることをちゃんと書き残しておきたい、そんな想いに駆りたてられるようになったのは。


 ちょっと変わった子どもだったり、人とは違う経験をしてきたせいもあるのかもしれません。とにかく数年前、わたしは小説を書き始めました。


 が、すぐに気付きました。

 自分には伝えたいことをちゃんと小説として表現するだけの筆力も構成力も才能もない。思い通りに書けるほど上達するのを待っていたら、先に寿命が来てしまうに違いない。

 ええい、それならば、この頭の中にあることを下手にいじらずにそのまま書いてしまえ!

 そんな気持ちもあって書き始めたのが、この「備忘録」でした。


 ひとつひとつ思い出を辿っていくことは、私自身の心の澱を吐き出す作業でもありました。

 幼いころから感じ続けた得体のしれない生きにくさの正体が何なのか、言葉にしてみることでもっとはっきりと見えてくるものがあるかもしれない、そんな期待を胸にパソコンに向かう日々。

 が、一番苦しかったころに書き殴っていた何冊ものノートは、頭の中でごちゃごちゃになった時系列を整理するのには大変役だってくれましたが、嵌り込み過ぎると危ういシロモノであり、もつれた記憶の糸を辿るのは時にとても苦しい作業となりました。


 とにかく暗く重苦しく自分に酔ってる私語り、他人が読んで面白いとも思えず、こんなもの書くことに意味があるのかと悩んだことも数知れず。最後は、たとえ誰にも読まれなくてもいい、とにかく自分のために書こう、そう開き直って書き進めました。


 が、蓋を開けてみると、思いもよらないほど多くの方々が目を通してくださり、ときには温かいコメントをいただくこともあり……


 累々と心の奥底に積み重ねられてきた想いが誰かの目に触れ溶かされていく。そういう意味ではここは、自分にとってカウンセリングのような場であったかもしれません。



 今思えば、結局わたしは誰かに聞いて欲しかったのだと思います。未だに消化しきれないやりきれない数々の想いを、遠慮せずに気が済むまで、誰かの前で何もかも語り尽くしたかった。


 それには、この「なろう」という場は最適でした。


 こんな話聞きたくもないという人はスルーしてくれればいいのです。聞きたいと思う人だけが耳を傾けてくれればそれでいい。もし誰も読んでくれなかったとしても、いつか誰かの目に触れるかもしれない場所にそっと想いを置いておくことが許される。

 そんな自分勝手な目的で、わたしはこの作品を書かせていただきました。



 そうしてひとつの区切りをつけてみて、ふと出てきたことばは、「これでやっと気が済んだ!」でした。

 なんというか、自分の中に淀んでいたものから生々しい色が一段階抜けおちたような、その分心が軽くなったような、不思議な気分です。


 もちろん過去はなかったことにはなりえない。

 けれどこうして少しずつ、ちゃんと過去のことにしていくことで、今の自分を圧倒するほどの力は失われていくのかもしれません。



 そしてもうひとつ。

 幼少期からのできごとをつぶさに振り返る中で、改めて感じたことがありました。


 結局自分を苦しめてきた欠落の正体は、突き詰めてみれば「親に笑いかけてもらえなかった」というごくごくシンプルなものだったのかもしれないなあ、と。


 その簡単なはずのことを手に入れるのが、どうしてこんなに難しかったのか。

 それについては、自分が親になってからの葛藤を通していろいろと思うことがありました。またいずれその辺も書いていけたらと思っています。


 今言えるのは、子どもにとって親の笑顔は、何を食べさせるよりも何を買い与えるよりも何を習わせるよりも大切な、かけがえのない宝だということ。

 きっと人はそうやって、「自分はここにいてもいい存在なのだ」と確かめることができるのでしょう。


 けれど、わが子に笑いかけるただそれだけのことが、とても難しいことだってあります。

 わたしの親が、そしてのちにわたしがそうであったように。


 でも、もし仮にそうだとしても、どうか自分を責めないで欲しいのです。あなたの心の中にはきっと、寂しさに膝を抱えて丸まっている幼い子どもがいるはずだから。そして、誰よりも最初に癒されるべきなのは、その子なのだから。


 なんて、大変偉そうなことを書いてしまいました。


 この先も、まだまだいろんなことが起こってきます。義両親との同居、お金の苦労、子育ての苦しみ。父との葛藤もこれで終わりではありません。その辺の話もいずれ書いていくつもりですので、どうぞ気長にお待ちください、




 それでは、長々とお付き合いくださった皆様、声をかけてくださったユーザー様、そして、自由に書くことが許されるこの場を作ってくださった皆様、本当にありがとうございました。


 私の取るに足らない人生が似たような苦しみを抱えておられる方の心に届くことがあれば、なんてことをこっそり祈りつつ。

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