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竜侍  作者: 栗山明
第一章 2
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第三章 10

ねがいを胸に、泥にまみれて息を切らして走るマヒル。

 その前方にそびえる木々の幹の隙間から、開けた場所――セキガ平原が見えた。雨にぬれて大地がぬかるんでいる。どうやらゆるやかな下り坂を、下りきったようだ。

 一瞬、そちらに行くか迷った。トヨヒサはセキガ平原のことを毛嫌いしている。そんなところに逃げ込んでは、彼は助けにきてくれないかもしれない。

 その迷いが、マヒルの足をわずかににぶらせる。

そしてマヒルの右手が強い力で引っ張られた。右手首に念力の糸が幾重にも絡まっており、それをたどった先に、ゲンジロウの怒りに満ちた顔があった。

「つかまえた、つかまえたぞ、おい、実験体がァ!」

「あ、クソッ! 放しなさいよっ」

「仕置きだ。痛い目だ。食らってうなだれて反省しろっ」

 ゲンジロウの指先に念力が集まり、透明の弾丸を形成。

それが放たれる――寸前に、横手から飛んできた金色の物体が老人に激突。それらはもみくちゃになりながら森の中を転がり、岩に衝突。転がった際に跳ね上げた泥の雨が、ゲンジロウと、その上に折り重なるユルヨに降り注ぎ、血と混ざり合った。

(きて――くれたのっ!)

 希望に目をかがやかせて、マヒルはユルヨが飛ばされてきた方向を向いた。

 衝撃。

 砲弾を受けたような激痛に身体中がきしみ、口から大量に吐血。抗うことができずにきりもみ、傾斜する地面を跳ねるように転がり、森を飛び出し平原へ。

泥の上に横たわるマヒル。その意識はほぼ消えかけていた。横向きになった視界に、森からこちらに向かってくるデピュルの姿が映った。

 先ほどの衝撃は、あの女が放った念力だったのだろう。

 よく死ななかったと、自分をほめたくなる。

だんだんと女の姿が大きくなる――近づいてくる。

身体を動かしてみようと思うが、拘束されているように、指先ひとつ動かなかった。

(死んで、たまる、か)

 あきらめないマヒルの喉に、鞭の力場が巻きつき、その身体を持ち上げられた。

 マヒルの目の前に、喜悦にまみれたデピュルの顔があった。

「ようやくぢゃ。愛しの娘。返してもらおう、その心の臓腑をもってして」

 赤い唇が弧を描き、デピュルの右手が手刀の形を取った。

 うつろう意識の中で、ぼんやりと、赤と黒の何かが視界の端に映った。


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