01 王太子と男爵令嬢の、雑な断罪
「アデリンデ・シラーズ、お前との婚約を破棄する!」
ジークフリート王太子から、誕生祝賀会で高らかに宣言された。
昼は公式の祝賀行事で両陛下も出席していたが、二次会とも言える舞踏会は王太子の裁量をもって開催された。ゆえに両陛下はこの場にご不在である。私の父も。
あとは若いものでワイワイやりなさい、などと息子にいい顔をして懐を見せたのが仇になりましたね、国王陛下。
それはそうと、返事、返事。
「なぜですか、ジークフリート殿下! どおして? どおしてですか!?」
少し芝居が過ぎたかしら。けれど場の雰囲気に酔っているジークフリートには特段の引っ掛かりなく受け止められた。
「まだ分からないのか。愚かなものだ。では教えてやろう。公爵令嬢という淑女たちを導く立場にありながら、ロザリー・マイルズ男爵令嬢に陰湿な嫌がらせをし続けたであろう」
ロザリーがジークフリートの肩に隠れてこちらを見ている。悪い男爵令嬢じゃないよ、とでも言いたげに。
「そのような者に国母は務まらぬ。それに……お前は王妃になるには知性が足りぬ」
反論したい気持ちをぐっと抑えて、私は王太子の望む女を演じてあげる。
「どおいうことですか!? 私は嫌がらせなんてしていません! 王妃教育だって私はずっとずっと頑張ってきました!」
ジークフリートはハァとため息をついて私に侮蔑の目を向ける。
「お前は執務にしても勉学にしても、何かというと私に『教えてください♡』というばかりで自ら考えない。自ら動くということをしない人間だった。
王立学園での成績も中の中、王妃教育も再履修が多く、優秀とは言い難い。国宝≪王妃の指輪≫は知の指輪とも呼ばれる。お前はそれを所持するほどの器ではない。
その点、学園首席のロザリーなら、きっとその指輪の価値を高められるのではないか」
ロザリーは小首をかしげてジークフリートと見つめ合う。
「私だって頑張ってるのにぃ!無実なのにぃ!」
ちょっとやり過ぎたかなと思ったが劇場進行は受け入れられた。
「駄々をこねるな!大人しくすぐに指輪を返還するなら、それに免じて、お前の罪は軽くしてやる」
罪? 軽くするも何も、とくにどういう罪なのか具体的な列挙も省いて、ずいぶん雑な断罪だこと。でも、まあいいわ。さっさと指輪を王太子に返して、次の持ち主がこの指輪をその手に嵌めれば、その瞬間に、両陛下の許可なく婚約を破棄できる。そういう神器継承の条文になっている。
公爵家当主である父は怒るだろう。なぜ勝手に婚約破棄などしたのかと。だが幸い、王太子が指輪を返せと要求したのをこの会場にいる数百人が目撃している。私に落ち度はない。王族の命には逆らえないもの。
そうして私は(表面上は)しぶしぶ婚約破棄を受け入れた。




