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【完結】完璧な侯爵令嬢の私が、年下の婚約者のために若作りする惨めさについて  作者: 恋せよ恋


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第14話 素直な告白の準備

「お前、最近ちょっと雰囲気が変わりすぎじゃないか?」


 学園の放課後、人影のまばらなサロンで、ミッシェルの肩をがっしりと組んできたのは、同じ学園に通う男友達のレオンだった。

 レオンは、以前夜会でアナベルを「綺麗なお姉さん」と羨ましがっていた友人たちの一人だ。彼は、現在のミッシェルを見て、感心したように口笛を鳴らす。


「背も一気に伸びたし、何よりそのツラ構えだよ。以前のツンツンしたガキっぽさが消えて、すっかり『男』の顔になっている。……例の、侯爵令嬢様のためか?」


「……うるさいな」


 ミッシェルは以前のように声を荒らげることなく、低く落ち着いた声でレオンの手を払った。けれど、その耳たぶがほんのりと赤くなるのを、親友は見逃さなかった。


「はは、図星か! だが、その変化は正解だよ。いいかミッシェル、お前がガキみたいな態度をとって、変に虚勢を張ってるから、あの綺麗なお姉さんが悩むんだろ。年上の女性ってのはな、男から『一人の女』として扱われないのが一番堪えるんだよ」


 レオンの言葉が、ミッシェルの胸にまっすぐ突き刺さる。


「……一人の、女として」


「そうさ。お前がいつまでも弟ぶったり、照れ隠しで突っぱねたりしてたら、彼女は『私はただの年齢の離れたお荷物なんだ』って身を引いちまう。……お前が男を見せろよ。子供の背伸びじゃなくて、本気で彼女を口説き落とす一人の男として、正面からぶつかれ」


 男友達からの、飾らないけれど芯を食ったアドバイス。ミッシェルは拳をぎゅっと握りしめ、深く、深く息を吐き出した。


 そうだ。自分はこれまで、アナベル様に甘えていただけだった。彼女が大人だからと、その優しさに胡坐をかき、傷つけるような言葉でしか自分を表現できなかった。


(もう、絶対にそんな真似はしない。僕は、あの人を僕の妻にするんだ)


 その時、サロンの入り口から、華やかな、けれどどこか計算高さを感じさせる笑い声が近づいてきた。


「あら、ミッシェル様。こんなところでご友人とご一緒ですの?」


 現れたのは、あのフォックス伯爵令嬢をはじめとする、かつてミッシェルを囲んでいた十五歳の令嬢たちだった。彼女たちは、見違えるほど麗しく逞しくなったミッシェルの姿に目を輝かせ、我先にと距離を詰めてくる。


「ミッシェル様、次の週末の観劇、お席をご用意いたしましたの。ご一緒してくださるでしょう?」


「ロイド侯爵令嬢様はお忙しいお歳ですものね。私たちの世代の流行には、きっと付いていらっしゃれませんわ。ですから、私たちが代わりに……」


 彼女たちの言葉には、相変わらずアナベルを「年上」「時代遅れ」と見下す悪意が透けて見えていた。以前のミッシェルなら、令嬢たちの前で気恥ずかしさに負け、曖昧に濁すか、最悪な形で同調してしまっていただろう。


 けれど、いまのミッシェルは違った。

 ミッシェルはゆっくりと令嬢たちに向き直ると、氷のように冷徹な、けれど圧倒的な気品を纏った眼差しで彼女たちを見下ろした。その長身から見下ろされる威圧感に、令嬢たちはピシャリと口を閉ざす。


「言葉を慎んでくれ、フォックス伯爵令嬢」


 低く、地を幾重にも這うような男らしい声。


「僕の婚約者であるアナベル嬢は、国を代表する高潔な侯爵家の令嬢であり、僕が心の底から敬愛し、生涯をかけて愛すると誓った唯一の女性だ」


「え……っ、あ、でも、あのパステルピンクのドレスの時は……」


「あれは、僕が彼女の美しさを理解しきれず、未熟な感性で贈ってしまった完全な僕の落ち度だ。彼女は僕には勿体ないほどの淑女であり、その知性と洗練された美しさは、君たちのような小娘が逆立ちしても届かない高みにある」


 一切の容赦のない、冷徹な一蹴。ミッシェルは一歩前に踏み出し、サロンにいるすべての生徒に聞こえるような、堂々とした声で周知させた。


「今後、僕の前で、あるいは僕の目の届かない場所であっても、彼女を侮辱するような言動は一切許さない。もし、そんな真似をする者がいれば……。僕がゴードン伯爵家次期当主として、その全力を以てその家を社交界から叩き潰す」


 十五歳の少女たちには、あまりにも重すぎる大人の脅迫だった。令嬢たちは顔を真っ青に染め、恐怖に身体を震わせながら、逃げるようにサロンから走り去っていった。


「……ヒュー!やるねぇ。最高に格好良かったぜ、次期伯爵様?」


 レオンが面白そうに拍手を送る。


 ミッシェルはふう、と小さく息を吐くと、引き締まった顔立ちを少しだけ緩め、胸元から一通の手紙を取り出した。


「レオン、手伝ってくれ。……アナベル嬢に、もう一度、今度は僕の言葉で手紙を書きたいんだ」


 もう、ツンツンとした態度の後ろに隠れるのは終わりだ。どれだけ自分が彼女を愛しているか。どれだけ他の男に嫉妬していたか。 陰から見つめるだけだった彼女の細い肩を、これからは子供ではなく、一人の男として抱きしめ、幸せにしたい。

 不器用でもいい。飾らない、むき出しの感情をすべて、その白い紙に叩きつけるために。


「年下の僕だけど、あなたを誰よりも愛していますって、まっすぐ伝えるんだろ? よし、特訓に付き合ってやるよ!」


 夕暮れのサロンで、新しく生まれ変わった若き青年貴族は、愛しい年上の恋人を奪い返すための、最高に素直な愛の告白の準備を始めるのだった。


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