第3話:筋肉は燃えないらしい
革命は、だいたい昼休みに起きる。
生徒会長をぶっ飛ばして三日。
旧式制服派は、じわじわと増えていた。
向かいに座るのは、ブラーサル・リンドベリ。
旧制服仲間。田舎出身。美少年系。やたら純粋。
そして遠い親戚。
……だが、男だ。
俺の魂は男子高校生。
どうも女子とはノリが合わない。
【ブラーサル】
「ヴァトリナ、今日は決闘はしないの?」
【ヴァトリナ】
「あー……今日は休む。ちょっと疲れた」
正直、連戦で魔力も精神も削れている。
民主主義にも定休日は必要だ。
俺は今、
決闘で旧制服に着せ替えて回っている。
現在の支持率――12%。
元々、旧制服を支持していた
田舎出身者と、羞恥心の残っている連中を合わせて、だ。
あと38%で過半数。
選挙まで……遠い。
なんで決闘かだって?
生徒会長が言っていた。
【生徒会長】
「この学園では、力で示された正しさが、最終的な結論ですわ」
つまり――
口で言うより殴ったほうが早いらしい。
【ブラーサル】
「革命家に休日はあるの?」
【ヴァトリナ】
「俺はただの着せ替え屋だっつーの」
革命と言うには地味すぎる。
ただ勝って、着せ替えて、支持率を上げるだけだ。
ランチを二人で囲む。
この世界の飯は相変わらずマズい。
【ヴァトリナ】
「ったく。便所行ってくらぁ」
【ブラーサル】
「ちょっと! もっと慎み深い言い方してよ!」
【ヴァトリナ】
「何言ってんだ。俺とお前の仲だろ」
ブラーサルは顔を赤くする。
なんでだよ。
俺は席を立った。
三歩歩いて思い出す。
……俺、体は女だった。
――
戻ってきた時、空気が変わっていた。
中庭の中央。
人だかり。
その中心で、ブラーサルが立っている。
対峙するのは――
ムスカール・スターク。
インキュバス仕様の新式制服。
光沢。筋肉。無駄に肩幅。
そして思想。
【ムスカール】
「旧式は退化だ」
ムスカールは腕を組む。
【ムスカール】
「布に守られた弱者どもよ。
筋肉は美しい。
筋肉は裏切らない。
筋肉は投票を必要としない。
筋肉は常に多数派だ」
いや何言ってんだ。
ブラーサルが杖を握る。
【ブラーサル】
「僕は……旧制服が好きなんだ。
落ち着くし、動きやすいし……」
【ムスカール】
「甘い」
ムスカールの魔力が膨れ上がる。
【ムスカール】
「筋肉こそが真の民主主義だ」
民主主義の意味が死んだ。
【ムスカール】
「決闘だ。新式を着ろ」
観衆がざわつく。
ブラーサルは火属性。
【ブラーサル】
「《フレイム・ライン》!」
炎が走る。
ムスカールは動かない。
【ムスカール】
「筋肉は燃えない」
蒸気が立ち上る。
【ムスカール】
「筋肉は熱で収縮する。
収縮は密度を上げる。
密度は炎を拒絶する」
いや無理だろ。
【ムスカール】
「そして汗は蒸発する」
汗じゃん!
結論:汗で防いだ。
ブラーサルが後退する。
ムスカールが拳を構えた。
【ムスカール】
「ならば教えてやろう。
真の美を」
魔法陣が展開される。
【ムスカール】
「《筋肉の啓蒙》」
ブラーサルの筋肉が膨張する。
制服が裂ける。
静寂。
ブラーサルが震える。
【ブラーサル】
「これは……僕が“選んだ”制服なんだ」
その一言で空気が変わる。
観衆がざわつく。
【ムスカール】
「新式を着ろ!
筋肉に目覚めろ!」
思想がうるさい。
そのとき。
【ヴァトリナ】
「……おい」
全員が振り向く。
俺だ。
トイレ帰りだ。
状況を理解する。
破れた旧制服。
泣きそうなブラーサル。
そして、やたら自己主張の激しい大胸筋。
俺はため息をついた。
【ヴァトリナ】
「……俺の舎弟を泣かせるなよ」
沈黙。
【ブラーサル】
「ちょ!?
今、舎弟って言った!?
僕たち友達だよね!?」
ムスカールが目を細める。
【ムスカール】
「貴様か。聖水の魔女」
やめろ。
その二つ名、まだ商標登録してない。
【ムスカール】
「筋肉は自由だ。
布は弱さだ」
【ヴァトリナ】
「違うな」
俺は一歩踏み出す。
【ヴァトリナ】
「筋肉は自由だ。
布も自由だ。
俺は“選べる世界”を作ってんだよ」
観衆が静まる。
ムスカールが笑う。
【ムスカール】
「なら証明しろ。
筋肉に勝てる自由があると」
俺は魔力を練る。
【ヴァトリナ】
「汗より粘度のあるやつでな」




