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俺が異世界転生したら女魔法使いだったが、新制服がエロすぎたので全力で抵抗することにした  作者: 竹屋 兼衛門


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第十三話:戦う場所を選べ

俺はヴェーラと決闘していた。


石畳の決闘場。

遮蔽物は一つもない。


このままでは不利だ。


俺は逃走を決めた。

水のある場所へ。


俺は水筒を振った。


水が空中で震える。


次の瞬間、白い霧が広がった。


俺はその中へ飛び込む。


【ヴェーラ】

「これは……霧?」


野郎どもと遊んでいたヴェーラは、霧に包まれてようやく異変に気付いた。


【ヴァトリナ】

「おーい、ヴェーラ!

 ここじゃ俺があまりにも不利だ。場所を遮蔽物のある所に変えるぞ!」


【ヴェーラ】

「なにを!? そんな事、認めません!」


だが、霧のせいで俺の姿を見失う。


しかし――


【ヴェーラ】

「音響探測!」


ヴェーラが杖を振る。

空気が震え、音波が広がった。


石畳や壁にぶつかり、反射した波が周囲の形を浮かび上がらせる。


【ヴェーラ】

「偵察部隊では、闇夜に動く事も学習します」


【ヴェーラ】

「一斉射撃」


霧の中へ、杖が一斉に火を吹いた。


だが――当たらない。


【ヴァトリナ】

「ははは、闇夜には慣れていても、霧の中じゃダメってとこか?」


【ヴァトリナ】

「ちゃんと狙ってから撃て」


挑発だ。


確かに、俺の位置は捕捉されている。

だが――それでも躱せる。


ヴェーラが音響探測で俺を知覚できるように、

俺も霧の中の物を感じ取れる。


杖の向き。

ヴェーラの位置。

かすかな息遣い。


俺が操れるものと、操れないもの。

その違いが、霧の中で輪郭を持つ。


【ヴェーラ】

「そんなはずはない!」


浮いていた杖を回収し、一本だけ手に取って走り出す。


浮遊と走行は相性が悪いのだろう。


そして――

風魔法で霧を吹き飛ばそうとはしない。


士官学校のカリキュラムにない魔法の使い方は、

やはり士官学校生には出来ない。


【ヴァトリナ】

「ほらほら、ちゃんと狙って撃てよ」


【ヴァトリナ】

「士官学校での成果を見せてみろ」


また挑発だ。


射撃に拘らせる。


近距離戦にはさせない。


【ヴァトリナ】

(あの包囲殲滅陣……正面からじゃ勝てない)


味わった焦りが、まだ胸に残っている。


【ヴァトリナ】

(だからこそ、場所を変える)


俺は霧の中を走る。


【ムスカール】

「おい! みんな、追いかけるぞ!」


【ブラーサル】

「ああ、行こう!」


【サーブル】

「いや、しかし……さっきのダメージで」


【ムスカール】

「バカ野郎!

 お前は見届けなきゃならんだろうが」


【サーブル】

「平民の勝利を、か?」


【ブラーサル】

「勝つにしろ負けるにしろ、士官学校生の戦いなんだよ!?」


【サーブル】

「……わかった。主席入学者の責任だ。見届けよう」


【ムスカール】

「……恋の話だから、ではないのか」


【サーブル】

「え? えええ!?

 それは違うってヴァトリナ言ってたよな!?」


サーブルの顔が真っ赤になる。


霧の中を走りながら、俺は歯を食いしばった。


俺は逃げているんじゃない。

勝つために、戦場を選んでいる。


【ヴェーラ】

「射撃!」


ヴェーラの射撃が霧を裂く。

その音が、背中を追い立てる。


だが、俺には杖の向きから弾道が分かる。


だから当たらない。


【ヴェーラ】

「そんなはずは……」


射撃ばかりして近距離戦を挑まないから助かってるってのに。


あの包囲殲滅陣の圧迫感が胸を刺す。


【ヴァトリナ】

(……二度とあれを正面から受ける気はない)


【ヴァトリナ】

「おいおい、簡単に諦めるなよ」


【ヴァトリナ】

「俺だって回避行動を取る」


【ヴァトリナ】

「先読みして当てるんだ」


【ヴェーラ】

「何故アナタがそんな事を……」


【ヴァトリナ】

「なるんだろ?

 平民の希望の星に」


我ながらズルいな。これは。


【ヴェーラ】

「……ええ。なります!」


俺はヴェーラの射撃を躱しながら走る。


【ヴァトリナ】

「じゃあ、王子様の希望の星は?」


【ヴェーラ】

「それは……」


ヴェーラには、まだ迷いが残っているようだ。


第一目標――


森までの一本道。


俺は霧の中を駆ける。


石畳が終わり、土の道が続く。

その先に、森の影が見え始めていた。


あと少しだ。


【ヴァトリナ】

「おい! 知っているか?」


俺は走りながら声を上げた。


【ヴァトリナ】

「そろそろ森にたどり着く」


霧の向こうで、ヴェーラが反応する。


【ヴェーラ】

「なるほど」


【ヴェーラ】

「糸に繋がった杖の操作を阻害出来ると」


【ヴェーラ】

「その程度の事、問題にもなりませんが――」


次の瞬間。


ヴェーラが空へ跳んだ。


風魔法で身体を浮かせ、一直線に前へ飛ぶ。


そして――


俺の前に降り立った。


【ヴェーラ】

「妨害させてもらいます」


森へ続く道を塞ぐ。


【ヴァトリナ】

「おいおい」


【ヴァトリナ】

「それは卑怯じゃないか?」


もちろん、これはブラフだ。


森など――目的地ではない。


【ヴェーラ】

「私は」


【ヴェーラ】

「アナタに勝ち」


【ヴェーラ】

「希望の星になる」


その瞳には、迷いと、それでも前に進もうとする意志が宿っていた。


俺は方向を変える。


土道を蹴り、横の細い道へ飛び込む。


【ヴァトリナ】

「森に行くのには」


【ヴァトリナ】

「脇道だってあるんだよ」


【ヴェーラ】

「させません」


ヴェーラが空を滑るように移動する。


俺の進路を先回りしながら、杖を向けた。


魔弾が霧を裂く。


石が弾け、土煙が上がる。


俺は走る。


弾丸を避けながら、道を曲がる。


そして――


霧の向こうで水の音が大きくなる。


もうすぐだ。


俺の真の目的地。


川原だ。


そこそこ大きな川だ。


水が、唸るように流れている。


【ヴァトリナ】

(あいつは強い。だからこそ――)


俺は川を見た瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


【ヴァトリナ】

(ここなら、勝てる)


俺は霧を消した。


白い霧がゆっくりとほどけ、川原の景色が現れる。


【ヴェーラ】

「霧が……どういうつもり?」


【ヴァトリナ】

「周りを見てみろ」


ヴェーラは辺りを見渡した。


【ヴェーラ】

「ここは……川?」


【ヴァトリナ】

「そうだ」


【ヴァトリナ】

「だから敗北を認めろ」


【ヴェーラ】

「笑わせないで!」


【ヴェーラ】

「そんな事だけで認める訳が――」


【ヴァトリナ】

「お前には見えるのか?」


【ヴァトリナ】

「水辺で水を操る魔法使いに勝てるイメージが」


俺は川へ手を向ける。


水面が揺れた。


次の瞬間――


川の水が持ち上がる。


川底が震え、地鳴りのような音が響いた。


水がうねり、渦を巻き、形を持ち始める。


巨大な水流が絡み合い、形を変える。


やがてそれは――


巨大な蛇になった。


【ヴェーラ】

「……っ!」


ヴェーラの息が止まったのが分かった。


【サーブル】

「な、なんだ!? あの巨大な蛇は!?」


【ムスカール】

「川そのものが蛇になっているではないか!」


【ブラーサル】

「あれはヴァトリナの奥義

 ≪水蛇ヒュドラー≫だよ」


【サーブル】

「知っているのか? ブラーサル」


【ブラーサル】

「ああ」


【ブラーサル】

「僕ら海辺の領地で最強の女が

 ヴァトリナ・リンドストレームなんだ」


【ブラーサル】

「これに勝てる人間なんていなかった」


【サーブル】

「しかし、学園ではからっきしではないか」


【ブラーサル】

「……水が無いからね」


【サーブル】

「そうか」


【サーブル】

「陸に上がったサメ、といった所か」


【ムスカール】

「だが我々は」


【ムスカール】

「その陸に上がったサメに負けたではないか」


【サーブル】

「ぐむむ」


【ムスカール】

「つまり」


【ムスカール】

「陸に上がってもサメは強い」


【ムスカール】

「サメの筋肉は強い」


【ムスカール】

「筋肉は強い」


【ムスカール】

「だからヴァトリナ・リンドストレームは強い」


【サーブル】

「筋肉は関係ないだろ」


――


【ヴァトリナ】

「戦う場所を選ぶ。

 それが戦術だ」


【ヴァトリナ】

「なあ、士官学校生さんよ」


ヴェーラは怯まない。


【ヴェーラ】

「そんな物!」


ヴェーラが弾丸を撃ち込む。


だが――


巨大な水蛇が俺の前に立つ。


弾丸は水の中へ突っ込み、


圧倒的な水量の中で減速し、


そして――止まった。


【ヴァトリナ】

「これが俺の切り札といった所だ」


【ヴェーラ】

「だったら!」


ヴェーラは十本の杖を展開する。


空へ舞い上がり、隙を探す。


しかし――


水蛇が口を開いた。


巨大な水の顎が閉じる。


杖が一斉に飲み込まれ、

川原へ叩き落とされた。


【ヴァトリナ】

「俺もお前を傷つけたくはない」


【ヴァトリナ】

「敗北を認めろ」


【ヴァトリナ】

「認めないなら」


【ヴァトリナ】

「さらにコイツをけしかける」


【ヴェーラ】

「でも」


【ヴェーラ】

「それでも」


【ヴェーラ】

「1%でも勝てる可能性があるなら」


【ヴェーラ】

「私は戦う!」


ヴェーラは魔法の糸を杖に飛ばす。


その糸が杖を掴み、再び展開された。


【ヴェーラ】

「まだ終わりではありません!」


【ヴェーラ】

「これが切り札なら、まだ戦いようはある!」


ヴェーラの目に諦めは無かった。


【ヴァトリナ】

「ほう?この蛇の弱点でも見えたか?」


【ヴェーラ】

「ええ。これほどの操作、魔力の消耗も激しいはず」


【ヴェーラ】

「持久戦だ!」


ヴェーラは再び飛び上がる。


なるほど。


つまり

持久戦。


やれやれ。


たいして消耗しないんだがな、この蛇。


【ヴァトリナ】

「なら」


【ヴァトリナ】

「その1%も潰そう」


【ヴァトリナ】

「≪肺の中の小さな水の針≫」


ヴェーラの体が震えた。


【ヴェーラ】

「ごほっ」


ヴェーラの顔が苦痛にゆがむ。


【ヴェーラ】

「何故?」


【ヴェーラ】

「水対策は完全だったはず……」


【ヴェーラ】

「何をした?」


【ヴァトリナ】

「お前」


【ヴァトリナ】

「霧の中で呼吸しただろ」


ヴェーラの瞳が揺れる。


【ヴァトリナ】

「あれは全部、俺の水だ」


ヴェーラは黙る。


【ヴァトリナ】

「切り札を先に見せるなら、さらに奥の手を持て。

 …そう教わったものでな」


【ヴァトリナ】

「切り札の蛇と、この奥の手の針」


【ヴァトリナ】

「これがお前を100%敗北させる」


ヴェーラは杖を下ろす。


十本の杖が、地面に落ちた。


【ヴェーラ】

「……負けたくなかった」


【ヴェーラ】

「でも……私の負けだ」


力なく膝をつく。


【ヴェーラ】

「降参する」


俺はヴェーラに近づき、手を差し伸べる。


【ヴァトリナ】

「だから言ったろ」


俺は肩をすくめる。


【ヴァトリナ】

「戦う場所を選ぶ」


【ヴァトリナ】

「それが戦術だって」


【ヴァトリナ】

「俺は戦術で勝っただけだ」


【ヴァトリナ】

「お前は強い。俺が保証する」


ヴェーラはゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、悔しさと、ほんの少しの安堵が混ざっていた。


――


少しの休憩時間を挟んで、

川原に腰を下ろしていた俺たちは、ようやく落ち着きを取り戻していた。


水の流れる音が、静かに耳に届く。


俺は石を一つ拾い、手の中で転がしながら口を開いた。


【ヴァトリナ】

「王子様について聞かせてくれないか?」


ブラーサルが目を瞬かせる。


【ブラーサル】

「ええ?制服の事じゃないの?」


【ヴァトリナ】

「サーブルみたいに接点の少ない奴とは違う」


【サーブル】

「確かに」


【ヴァトリナ】

「お前が納得すんな」


俺はすぐさま指を突きつけた。


サーブルは肩をすくめて視線を逸らす。


俺は視線をヴェーラへ向けた。


【ヴァトリナ】

「ヴェーラ。お前、王子様の“希望の星”なんだろ?」


【ヴァトリナ】

「なら王子様の事、色々知ってるよな」


ヴェーラは背筋を伸ばした。

まるで士官学校の講義でも始まるかのように。


【ヴェーラ】

「殿下ですか。何から話せばよいでしょうか?」


【ヴァトリナ】

「お?いいのか?喋っちゃって」


ヴェーラはあっさりとうなずいた。


【ヴェーラ】

「決闘の結果ですから」


そして少しだけ眉をひそめる。


【ヴェーラ】

「それに、新制服が平民の布を安くするためなんて嘘を――」


俺は慌てて手を振った。


【ヴァトリナ】

「あー待て待て」


【ヴァトリナ】

「それは可能性の一つであって、違うかもしれない」


ヴェーラの目がわずかに細くなる。


【ヴェーラ】

「どういう事ですか?」


【ヴァトリナ】

「王子様も騙されてる可能性もあるって事」


【ヴェーラ】

「誰に?」


【ヴァトリナ】

「商人、政治家、貴族」


俺は川の流れを顎で指した。


【ヴァトリナ】

「そこらへんに“供給が足りない”って吹き込まれてる可能性もある」


ヴェーラは腕を組み、しばらく考え込む。


【ヴェーラ】

「……なるほど」


【ヴァトリナ】

「だから、まだ王子様の希望の星になるってのを捨てるには早い」


ヴェーラは小さくため息をついた。


【ヴェーラ】

「困りましたね」


【ヴァトリナ】

「なにが?」


ヴェーラは肩をすくめ、少しだけ笑う。


【ヴェーラ】

「だったら、殿下の事、話せなくなっちゃうじゃないですか」


その言葉に、ブラーサルが頭を抱えた。


【ブラーサル】

「あーあ。やっちゃったね、ヴァトリナ」


【ヴァトリナ】

「うるさい。これでいいんだよ」


そう、これでいい。


下手に喋らせて、

ヴェーラの首でも飛んだら後味が悪い。


俺は肩をすくめた。


【ヴァトリナ】

「まぁ、それで話せる事だけ話してくれって事だ」


【ヴェーラ】

「はい」


【ヴァトリナ】

「そして、それはつまり」


俺はヴェーラの顔を見つめる。


【ヴァトリナ】

「俺に負けても王子様の希望の星に

 なれなくなった訳じゃないって事だな?」


ブラーサルが目を丸くした。


【ブラーサル】

「ええ?どういう事?」


【ヴァトリナ】

「王子様の希望の星になる条件は」


【ヴァトリナ】

「俺に勝てればベスト。負けてもベターがあるんだろ?」


ヴェーラは少しだけ視線を落とす。


【ヴェーラ】

「……はい」


【ヴァトリナ】

「ベターな方の条件ってのを教えてもらえるか?」


ヴェーラはまっすぐこちらを見た。


【ヴェーラ】

「殿下は言いました」


【ヴェーラ】

「私のように才能がある者が希望の星だと」


【ヴェーラ】

「レペ家の者を倒したヴァトリナを倒して

 輝きを証明しろと」


【ヴァトリナ】

「あー。つまり」


俺はゆっくりとサーブルを見る。


サーブルは一瞬きょとんとした。


【ヴァトリナ】

「コイツを倒せればベターって事か」


サーブルの顔から、みるみる血の気が引いた。


【ヴェーラ】

「はい、多分」


【サーブル】

「おいおい、嘘だよな?悪い冗談だよな?」


ブラーサルがニヤニヤ笑う。


【ブラーサル】

「よ。大貴族!平民に臆するわけがないよね」


【サーブル】

「ブラーサル、お前……」


ヴェーラはすっと立ち上がった。


【ヴェーラ】

「では決闘をお願いします」


【サーブル】

「戦って俺が負けたって事にしないか?」


【ヴァトリナ】

「おいおい。

 戦場で偽りの報告書をあげるような男だったのか?」


サーブルは歯を食いしばる。


【サーブル】

「ぐぬぬ……」


そして空に向かって叫んだ。


【サーブル】

「ええい!受けてやる!」


サーブルの絶叫が川原に響いた。


ムスカールが腕を組んでうなずく。


【ムスカール】

「やはり恋であったな」


【ヴァトリナ】

「絶対に違う」


サーブルは両手で頭を抱えた。


【サーブル】

「誰か助けてくれ」


銃弾の音だけが、激しく続いていた。


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