第十四章:もう一度、前を向いて
小さな風が草を撫でて通り過ぎる昼下がりの訓練場。
短剣を構えたファナは、ひとつ息を吸い込んでから足を踏み出した。
「はっ……!」
素早く前進し、杭に結ばれた藁の標的へ斬り込む。だが、刃が軽くそれた。
「……まだ、全然だ」
ファナは肩で息をしながら呟いた。
数日前、探索試験での失敗は、今も胸の奥に残っている。
けれど、リクトの言葉が、涙で滲んだその場所に火を灯した。
「もう一度、やってみる」
それが、今の彼女のすべてだった。
「少し力みすぎかも。もっと、重心を落として構えてみて」
ファナの後ろで声をかけたのは、セナだった。銀茶色の髪が風に揺れる。
「こっちに来て。地図の読み方と方角の取り方、もう一度復習しよう」
セナは準備していた手帳を開いて見せる。ファナは素直に頷いた。
「ありがとう、セナさん。……本当に、ありがとう」
「気にしないで。ファナが一歩ずつ前に進む姿を見るの、嫌いじゃないから」
その言葉に、ファナの頬がほんの少し赤くなる。
そして別の時間。
ギルドの中庭で、リクトとファナは向かい合っていた。
「おい、そこの角! ちゃんと視界の端で確認しとけよ!」
「う、うん……!」
リクトは本当に不器用だったが、何度でも根気強く教えてくれた。
たまに声が大きくなるのも、真剣な証拠だとファナはわかっていた。
ふと、休憩中にリクトが呟いた。
「……俺もさ。最初は全然だめだったんだぜ」
「え?」
「何しても空回りで、よく兄貴分に怒られてた。でも、今は俺が誰かを助けられる側になりたくて……だから、頑張ってる」
その横顔に、ファナは「知らなかった一面」を見た気がした。
「──私も、そうなりたい。誰かのために、動ける人に」
日が傾き始めた頃、ファナはひとり訓練場に戻った。
短剣を持ち直す。
もう一度、息を吸い込む。
──ざっ。
足音が軽く、無駄がない。重心を保ち、標的に切り込む。
刃が正確に藁の中心を斬り裂いた。
「……やった……!」
彼女の瞳が光を取り戻していた。
その夜、ギルド内に掲示が張り出された。
《探索試験:再試験日 三日後》
それを見たファナは、深くうなずいた。
「次は、きっと受かる。絶対に」
その声は震えていなかった。
後ろでそれを見ていたセナとリクトは、互いに頷き合った。
──ファナはもう、一人じゃない。
そう思えるほどに、絆は深まっていた。




