第十三章:試される眼差し
森の入り口で、冷たい朝の空気が肌を刺した。
仮登録者としての最終試験、ファナは探索課題に挑んでいた。
指定された山林に入り、指定の薬草と魔物の痕跡を見つけて帰還する。
限られた時間の中で情報を集め、正しく報告できるか──それが合否の分かれ目だった。
「……うん、大丈夫。ちゃんと、落ち着いて……」
ファナは胸元で小さく呼吸を整える。
レリアから教わった観察のコツ、セナから聞いた地形の特性、そしてリクトと一緒に行った訓練の日々。
それらを思い出して、自分に言い聞かせるように歩き始めた。
だが、森は静かすぎた。
風が葉を鳴らす音も、鳥の声も、妙に遠く感じる。
木々の間を縫うように進む中で、彼女の足は次第に慎重すぎるほど遅くなっていった。
──あとから来た誰かに抜かされても、それでも。
間違えたくない。失敗したくない。
その一心が、彼女の判断を鈍らせていった。
「……っ、こんなに深く入っていいのかな……?」
目的の薬草が見つからない。気づけば、太陽は既に高く昇っていた。
「残り……時間、そんなにないかも……っ」
焦りが冷静さを飲み込み、視界がにわかに曇る。
ようやく目的の草を見つけたときには、試験終了の時刻まで、ほんのわずかしか残されていなかった。
──間に合わない。
帰還の鐘が鳴ったとき、ファナはギルドの門を目の前にしながら、地面に膝をついていた。
「……ごめんなさい」
試験官の前で頭を下げる声は、小さく震えていた。
午後の光が傾きかけた頃。
ギルドの裏手、木陰に一人座っていたファナの肩が、小さく揺れていた。
誰にも見せたくない。泣きたくない。
でも、どうしても悔しかった。
──リクトもセナも合格したのに、自分だけ……
その時、足音がして、そっと誰かが隣に腰を下ろした。
「……ファナ」
顔を上げると、そこにいたのはリクトだった。いつものような威勢のいい声ではなく、少し戸惑ったような、でも優しい声音だった。
「見てた。……あんまり上手くいってなかった、ってのも」
ファナは視線を伏せる。
「私……だめだった。全部遅れて、ちゃんと見つけたのに、間に合わなくて……っ」
「そっか。悔しかったな」
その言葉に、涙がこぼれた。
「……っ、やだ……こんなとこで……」
「いいって。悔しかったら泣いてもいい。……俺もさ、そういう時、あったし」
リクトは照れたように頭をかいた。
「けどよ。俺たち、まだ“正式な冒険者”じゃねぇんだ。Fランクってのは、その先にある。だったら……一緒にそこまで行こうぜ」
ファナは目を丸くした。
「え……でも、リクトくんはもう二つ合格して──」
「俺、まだFランクの登録してねぇし。書類、出してねぇから」
にっと笑うその表情は、いつもより少しだけ大人びて見えた。
「三人でFランクになるって決めたからな。セナもそう言ってた。だからさ──次、絶対受かろうな」
ファナは唇を噛んで、小さく、けれど確かに頷いた。
「……うん。ありがとう、リクトくん」
──涙を拭って立ち上がったその背には、再び歩き出そうとする強さが宿っていた。




