第四十六章:好きってどんな色?
夕暮れが街を包み込むころ。
石造りの通りには長い影が伸び、淡い茜色が家々を染めていた。
ファナはメルと並んで歩いていた。
荷物は軽いのに、胸が妙に重たくて、何度も横目でメルをうかがう。
猫耳がぴくりと動き、尻尾がそわそわと揺れる。
呼吸が少し早くなるたび、必死に抑え込む。
(昨日、レリアおかーさんに話した。)
(好きって、わかった、って。)
(……でも、まだ、ちゃんと伝えてない。)
目の前を吹き抜ける秋風が、銀灰色の髪を揺らした。
その冷たさに小さく深呼吸する。
言わなきゃ。
決意を固めるように、一歩踏み込む。
「……あの、メルさん。」
声を出した途端に、胸がきゅっと痛む。
メルが少し意外そうに横を向き、片眉を上げる。
「おや、改まって?」
ファナは頬を赤らめた。
でも瞳は真剣だった。
「この前……メルさん、私のこと“好き”って言いましたよね。」
メルが少し目を見開いた。
軽い仕草を止め、真面目に見つめ返す。
「……言ったね。」
ファナは喉を鳴らして、息を吸い込む。
怖い。でも、聞きたい。
「……それって、どんな“好き”なんですか?」
「……どんな色、なんですか?」
一瞬、空気が止まったように感じた。
メルは視線を少し泳がせ、ゆっくりと息を吐く。
口元がわずかに緩む。
「逆質問されるとは思わなかったよ。」
小さく笑った声が、風に混ざる。
「……でも、そうだな。」
「僕の“好き”はね……君を見てると意地悪を言いたくなる色だ。」
ファナが驚いたように瞬きをする。
「困った顔も、赤くなるのも、全部見たくなる。」
「独り占めしたい。誰にも渡したくない。」
その言葉がファナの胸を直撃する。
呼吸が詰まりそうになる。
メルは少し視線を落とし、声を落ち着かせた。
「でも、泣かせたくない。」
「泣くくらいなら、守ってやりたい。」
「……そんな勝手で、ずるい、色さ。」
沈黙が落ちた。
街の喧騒が遠くで霞むように薄れていく。
ファナは顔を真っ赤にしたまま、言葉を絞り出す。
視線を落とし、声が震える。
「……そんなこと、言わないでください……。」
メルはいたずらっぽく目を細め、声を落とす。
「そんな顔してると、今すぐ本気で口説き落としたくなるよ♥」
ファナはさらに真っ赤になって視線を逸らした。
猫耳がぴくりと伏せる。
「……そんなの、ずるいです……。」
メルはふっと息をついて、小さく笑い、少しだけ真顔になった。
その瞳が柔らかく揺れる。
「でも、君は変わったね。」
ファナはきょとんと目を瞬く。
「昔なら、僕が何を言ってるのか分からなくて、ポカンとしてただろ。」
「今はちゃんと、反応してくれる。」
「……好きだよ、そういうの。」
ファナは胸を抑え、小さく息を整えた。
喉が震えそうになるのを、必死に押し込む。
(あったかくなる。胸がぎゅってなる。)
(怖いけど、嬉しい。)
(……好きって、こういうことなんだ。)
(……誰を選ぶかは、まだ、わからない。)
(それでもちゃんと……考えたい、伝えたい。)
秋風が二人の間を抜けた。
金色の光が石畳を長く染める。
やがて、メルが口笛を吹いて、ふっと軽い笑みを取り戻す。
「さて、そろそろ帰ろうか、リーダーさん。」
ファナは顔を赤いまま、でも微笑んで頷いた。
「……うん。」




