70話数の暴力は1つの暴力に負ける
グレンたちが、魔物と冒険者たちが闘っている場所にに近づくと魔物の死体があちこちと広がっており長い時間、戦闘していることがわかった。冒険者たちの防具は、傷だらけであり、中には壊れている箇所もあった。
「きさまは、ゴブリンを足止めしている奴らのところに向かえ。おれは、あのリーダーらしき男のところに行く。」
「ちょっ!!」
グレンは、手短に指示しキリーが何かを言う前には背をキリーに向けていた。
「あーーー!!もう!」
キリーは、鞘から剣を抜くとグレンに言われたとおりにゴブリンの足止めに向かった。ゴブリンの足止めをしていた2人の身体のあちこちには傷が出来ておりよほど、長い時間戦っていたのか肩で息をしながら必死にゴブリンを食い止めていた。何匹かのゴブリンが2人を無視して先に行こうとする。2人はそのゴブリンを狩ろうとするが他のゴブリンたちが2人を囲み行けないように逆に足止めを始める。キリーは、2人の隙間を抜こうとした先頭のゴブリンの腹に力任せに剣を腹に突き刺した。
「すまん!」
「感謝するわ!」
突如の援護に驚いた2人であったが簡単な礼を言うと目の前の敵に集中する。キリーも特に何も言わずに目の前の敵を見据えた。キリーは、魔物との戦闘の経験は兵の訓練のみでそれ以外ではほぼ、皆無と言ってもよかった。1匹のゴブリンでも手こずると考えているキリーの前に5匹のゴブリン。どれも手には、木の棒を持っていた。彼女は、剣をしっかりと握ると叫びながらゴブリンに襲いかかった。
一方、オークとコボルトに猛攻を何とか耐えている3人の元に向けて駆けていた。そこで、見えたのは魔術師の背後からオークが突進している姿だった。
「避けろ!!」
弓を持った男が声を荒げて気づいた女が後ろを振り向くがオークの姿は目前にまで迫っていた。グレンは、直ぐさま影からノートゥングを取り出すとそのオークに向けて投擲した。ノートゥングは、風を切り裂きながら突き進む。そして、ノートゥングがオークの頭をもぎ取りそして、数メートル先の岩に縫い付けた。
「・・・へ?」
魔術師の女は何が起きたのか理解できずに保おけてしまう。
「大丈夫か?」
「え!あ・・・はい。何ともありません。」
「そうか・・・・なら、弓を持ってる男と協力してコボルトをどうにかしろ。」
そういうと、グレンはオークに囲まれている戦士風の男の方に歩いていく。オークは先程殺された同類を見てその場から動かずにいた。グレンは、その中を歩いて行く。一方、その男も自分に近づいてくる者に対して僅かながらに恐怖を感じた。
「おい。」
「あっああ。すまん、助か・・・」
「礼だったらこの場を切り抜けてから言え。」
「・・・そうだな。まずは、このオーク共をどうにかしないとな・・・」
「オークは、おれが対処しよう。きさまは、ゴブリンの方を手伝って来い。」
「バカな!?無謀すぎる!!あんたが、相当な実力者なのはわかる。この俺たちより上なのも・・・けど!!この数を1人で対処するなんて無茶だ!!」
「問題ない。」
グレンは、止めに来た男の声をそう一声、残してオークの群れの中に消えていった。
「マジかよ!!得物も持ってないのに!!・・・くそ!!待ってろ!俺も・・・・」
戦士風の男は、グレンを助けに行こうとする行動を一時中断した。いや、せざるを得なかった。
なぜなら、彼の見たのは宙に舞う1匹のオーク。そのオークは、宙で必死にもがいているがそれも虚しく頭から地面に激突しことが切れる。
呆然、立ち竦む男はオーク群れの僅かな隙間からグレンの姿を見ることが出来た。
一撃粉砕が当てはまる光景を。
「グモ!」
右から迫るオークの頭を右拳で砕き。
「ゲヒュ!」
「ブヒ!」
さらに、左にいたオークの頭を掴み、後ろにいたオークに叩きつける。2匹の身体が潰れ肉塊となった。その背後から2匹のオークが突進を叩きつけた力を利用した肘打ちをオークの腹に当てる。
ゴギリ。
不気味な音を立て2匹のオークは身体をくの字に曲げその場に倒れる。
「おいおい・・・おれは、夢でも見てんのか?」
元々、オークはランクDの冒険者が3人1組で隙をつきながら殺す魔物であり決して殴って殺せる魔物ではない。本来なら、ふざけた冗談と鼻で笑わうだろう。しかし、それが目の前に現実として存在する。自分の力に自信を持っていた。だが、否が応でも認めなければならない。
自分が、以下に矮小で小さい者で自分では決してたどり着けない境地だと。
(おれは、随分と小さい場所にいたんだな・・・)
自分が、そう思っている間にもあの場の中心にいる男は拳でオークを殴り殺しながら、自分が投げた大剣の刺さった岩に近づきオークに背を向けて大剣を抜き取る。鎧と同じように黒に染まり中心から伸びる赤い線はまるで血管を想像させる。
「ブォォォォォ!」
『ブォォォォォ!!!』
数で押し潰すつもりなのか、1匹のオークが雄叫びをあげると男に向かって突進を始めその後に残っていたオークも後に続くその光景は、大量の岩が流れこんでくるようだった。しかし、それでも男は、危機感を1つも抱かず不気味な大剣を2〜3回空を切っている。そして、半回転してオークに斬りつける。並んでいたオークの3体の上半身と下半身が綺麗に別れを告げた。本来、大剣の刀身は丸くなっており、斬るとういうよりは、重量にまかせて叩き潰すのが一般の扱いになっている。なぜなら、大剣の重量では普通の剣のように扱うのは不可能であり刀身を鋭くすると直ぐに壊れてしまう。しかし、男の大剣を片手で扱い普通の剣のように敵に斬りつけていく。
叩き潰す威力を上げるための重量。
相手を斬るための刀身。
相容れない目的を、合わせるとどうなるか答えは簡単だ。
恐ろしいほどの暴力に変貌する。
オークはその暴力によりさらに数を減らしていく。そして、数多くいたオークの群れはたった1人の手によって無惨な死体へと変わっていった。




