58話望みの剣
観覧席から見るとそれは、圧倒的だった。リーオが一方的に魔術を放ち相手を苦しませて遊んでいるように見える。いや、本当に遊んでいるのかもしれない。だってリーオはそういうことができるヒトなのだから。
(ステロくん・・・・)
私は、1人のヒトを考えていた。そのヒトは今、リーオと闘っている。何度も飛ばされて壁にぶつかっても彼の目に宿る闘志の目はまったく衰えていない。私は、その目を見て安心する。
(ステロくんはまだ、諦めていない。)
決闘が、始まる前に私は彼を決闘をやめるよう説得しに行った。けど、彼は考えを変えようとはしなかった。私にはわからなかった。彼が何故、このような無茶な行動をしようと思ったのか。だから、聞いた時彼は言った。
『僕は、リーオにイジメられて屈服していた。それは、先生が何とかしてくれたけどそれでも、心の中でまだ、リーオに怯えているんだ。僕は、それを乗り越えなくちゃいけないんだ。』
それを聞いて私は、納得してしまった。同時に彼を止めることはできないと確信した。だから、私は説得をするのをやめて応援すると心の中で誓った。たとえ、彼がどんな無茶をしようとも他人から無謀と言われたとしても私だけは彼を応援し続けようと。私は、彼を見る。どんなに飛ばされても諦めようとしない彼を。
「ステロくん、頑張って!!」
「おー、頑張ってんじゃんすげ〜」
リーオが軽く拍手をする。けど、僕はどうすればいいか考えていた。
(リーオは、遊ぶために初級魔術しか使ってこない。それでも、僕を戦闘不能にするのはたやすい。)
せめて、『シールド』さえ使えられればあいろんな対応できるのに。
(でも、爆発するんだよな・・・爆発?)
頭の中である作戦が浮かび上がった。いろいろ危険だがリーオに少しでもダメージを与えるならこれしかない。僕は、後ろでなくリーオがいる前に向かって全速力で走る。
「あ?なんだてめぇ、頭でも狂ったか?」
リーオ手に魔力が集まり始める。リーオが魔術を放つ前に近くに行かないと。
『フレア』
リーオは、まっすぐ向かってくる僕に放ってくる。その攻撃をギリギリまで引きつける
(ここ!)
もう少しで頭に当るところまで引きつけ身体を思いっきり捻る。今までやったことのない動きで身体を節々が痛むが歯をくいしばって堪える。
「なに!?」
避けるとは思わなかったのか、驚きながらもう一度、魔術を発動しようとする。
「我が守る盾を現れよ。」
『シールド』
先に詠唱を終わらせて魔術を失敗して僕とリーオを巻きこんで爆発する。僕は地面に2,3回ぶつかって実技場の端まで転がる。これが、僕が考えた作戦。魔術を失敗させて相手も巻きこんで爆発させる。
(どうなった・・・?)
ヨロヨロとふらつく身体を足で踏ん張って立ち上がって爆発したところを見る。煙が立ちこもり先が見えない。
『アクアアロー』
煙の中から魔術が飛び出してくる。避けることができずに腹部に魔術が当る。僕はそのまま壁に叩きつけられた。
「がは!」
いきなり腹部に痛みが起きて息ができなくなる。目も焦点が合わずブレて見える。そんな中で見えたのは額に血管を浮き出しているリーオだった。
「てめぇ・・・調子乗りやがって、服が汚れちまったじゃねか!!」
少しは効いたのか息切れをしている。でも、僕はまだ、痛みで立てそうにない。
「もうこれで終わりにしてやる!!」
リーオが両手を前に出して詠唱を始める。あぁ。やっぱりダメだったな。僕にはリーオを倒すことはできなかった。パースさんにあんなこと言っといてこのザマだ。本当に情けない。結局、僕には無理だったんだ。リーオに勝つことも自分自身を乗り越えることも。リーオが魔術を放って僕は治療院に転移するかな。もう十分頑張ったからいいだろう。
「そういやぁ、おれの望み言ってなかったな?先に言っといてやるよ。てめぇを俺の奴隷にしてやる。」
リーオの奴隷か。絶対もっと酷い目にあうだろうな。悔しい。でも、仕方ない。僕は、リーオに負けてしまったのだから。
「ああ!あの女、パースったっけ。あいつもついでに奴隷にしてやるよ。良かったなぁ!2人仲良く奴隷になれてよぉ!」
その言葉を聞いて、僕は諦めの気持ちが一気に無くなった。パースさんを奴隷に?ふざけるな。僕自身が奴隷になるのは仕方ないことだ。でも、パースさんは関係ない。僕は腕に力を入れる。全身が重い。背中に鉛を背負ってるようだ。そんな重い身体を無理矢理、動かす。よう立ち上がったけどそれが精一杯で動ける気がしない。
「あぁ?しつこいなー。てめぇもさっさと諦めろよ、!」
そうはいかない。ここで、立ち上がらなかったらパースさんに迷惑がかかる。それだけは絶対にさせない。
『自分が望む剣を想像しろ。』
先生に言われたことを思い出す。僕が望む剣。聞いた時はよくわからなかったけど今ならわかる。
自分自身を乗り越えるための剣。
僕の大切なヒトたちを守れる剣。
そして、リーオを倒せる剣。
手に魔力を籠める。不思議なことに失敗しないことがわかる。
「業火のエンマよ。炎に染まる剣を我に与えよ。」
手から炎の竜巻が現れると辺りがざわめき始める。リーオも驚いている。その竜巻が終わるとそこには、1本の炎の剣が手の上で浮いていた。
「水の精霊よ。あまかける刃になりて敵を切り刻め。」
『ウォーター・ソード』
『スカーレット・ソード』
放つのはほぼ同時。炎の剣と水の剣が互いの手から放たれ衝突する。
「まさか、魔術を放てるとは驚きだったが、残念だったな!炎は水には勝てねぇ!!」
確かに、炎属性と水属性では明らかに水属性の方が有利だろう。でも、それは魔術の場合。これは、魔法魔術よりも上にあり、魔の頂点に君臨するものだ。炎の剣がさらに燃え上がり徐々に水の剣を飲み込んでいく。
「なっなんで・・・」
水の剣をすべて飲み込んだ炎の剣はそのままリーオに向かって飛んでいく。
「くっ来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
リーオの叫びは届かず炎の剣はリーオに当たり爆発する。凄まじい爆音と煙が実技場を覆う。そして、煙が収まった場所にはリーオの姿は無くなっていた。
「しょっ勝者ステロ・アーチェフェクト」
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
教師が、勝者の名前を上げると会場は大きな声が響き渡る。それを聞いた後、僕は安心して目元が暗くなった。




