54話強くなりたい。
数分後にステロとパースが泣き止んだ。お互いに恥ずかしいと思ったのか自分たちがやっていることに気がつくと顔を真っ赤にしてすぐに離れる。たまに、チラチラと相手を見て互いに目が合うとまた、顔を真っ赤にして俯いてしまうところを若いなと優しく見守りたくなる感じになる。老人が孫を見るような感じもこんな風なのだろうか。
「それで、何が出来ないんだ?」
「ふぁい!?」
ステロの面白い声はあえて無視しておく。
「魔術のことだ。一体、何が出来ないのだろう?」
言ってる意味がわかるが何故、それを聞くのかわからないたという顔をする2人にため息をつきたくなる。
「言っただろう。おれも手伝ってやると。魔術は、あまり、知らないが何かの助けになるかもしれんからな。」
「あっありがとうございます!!」
頭を深く下げてお礼を言うのを聞いてさっそくステロの魔術について聞く。
「僕は、普通のヒトより多くの魔力を持っているんですけど。・・・」
魔力というモノは産まれたときにその量が決まる。基本的に魔力量の差はあまり無いが、たまに魔力を多く持つ者や逆に魔力を持たない者が生まれることがある。魔力を多く持つ者は、多大な名声を。魔力を持たない者は蔑まれる。ペンドラゴンではその差別はなお激しいだろう。
「何て言うか爆発するんです。」
「爆発?」
「外に魔力を集めることは出来るんですが魔術を放とうとすると魔力が多すぎて爆発するんです。」
「つまり、魔力を多く入れ過ぎるというわけか。」
さて、これは困った。魔力のコントロールが苦手というのは聞いたことはあるがそれで爆発するというのは聞いたことが無いからだ。おれが、どうすればいいか考えているとステロがジッとこちらを見てくる。正直、気持ち悪い。
「何だ?」
「いえ!名前を聞いてないなーって。」
そういえば、お互いに自己紹介を済ませていなかった。
「グレンだ。あっちはキリーと言う。2人で旅をしている。」
「ステロ・アーチェフェクトです。魔術学園の高等部に所属しています。」
「クレニ・パースです。ステロくんと同じ学園でクラスメイトです。」
おれは、ステロの家名に聞き覚えがあった。
「アーチェフェクトだと?」
「やっぱり、わかりますか。はい。僕は、英雄の1人アイン・アーチェフェクトの子孫です。」
アイン・アーチェフェクト。勇者と共に旅をした魔導士。膨大な魔力を持ち、全ての魔法を会得したと言われている。
やっぱりあいつの子孫か。あいつ、恋人はたくさん作っても嫁は作らない。とか抜かしていたのに。
「この名前のせいで、僕は無駄使いってバカにされるんです。英雄の子孫のクセに魔術を出来ないのかって。」
歯を強く噛み締めて苦痛の顔をする。余程、くやしいのだろう。それが顔に良く出ている。逆に言えば自分の家名に誇りを持っているという現れだ。あいつが聞いたら嬉しがっているだろう。いや、勝手に持ち上げられてため息をつくか。あいつの子孫となると魔術を教えない方がいいかもしれん。
「なぁ、ステロ。魔術より上の力を目指すか?」
おれは、ステロに魔術を教えるのを止めてある提案をする。
「魔術より上の力を・・・?」
「あぁ。それなりの覚悟がいる。習得も魔術より辛いかもしれん。だが、乗り越えた先にある力は凄まじい。」
無言になり真剣な表情になる。
「普通のヒトには無理だ。だが、英雄の子孫なら可能かもしれん。」
「僕なら・・・・」
「さぁ、選ぶのはきさまだ。求めるも良し諦めるのも良し、どっちを選んでもおれは、きさまの選択を尊重しよう。」
「僕は・・・・」
これを選択するのは決意が必要だ。誰にも負けたくない、強くなりたい、そんな単純で重い決意が。
「僕は!強くなりたい!!ご先祖様にも見せられるような力を!!」
まるで、英雄に憧れる子供のような顔をするステロに思わず兜の中で笑みを作ってしまう。
「いいだろう。教えてやる。魔術より上の力。魔法を。」
アイン。おれが教えてもらったこの魔法。きさまの子孫に教えてやる。




