48話不必要なもの
タイナノド平原から、数ヶ月かける道程をおれたちは、歩いていた。
「ねっねぇ、ちょっと休ませて〜」
キリーが、本日3回目の休憩を頼んでくる。
「またか、どれだけ休めばいいんだ?」
ため息をつきながら言うとキッと目つきを吊り上げておれを睨んでくる。
「あんたと違って、わたしは、繊細で可憐なの!!」
どこが、繊細で可憐かわからなかったので聞いてみたら、スネを蹴られる。しかし、鎧で阻まれて自分の足を痛めてうずくまってしまう。
「とにかく!私は、疲れたの!!」
仕方なく、近くにあった小川に寄って休憩する。キリーは、小川の水を手ですくい取って飲めるか確かめた後、水筒に水を入れて飲む。
「プハー、生き返った〜」
まるで、酒場でビールを飲んだおっさんみたいなセリフを言いながらひと息つく。おれも、木陰の下に座り涼む。
「てか、あんた本当に不思議よね〜」
呆れたような顔をしながらこちらを向く。キリーにはある程度、教えている。既に、おれが暴走している姿を見ているのだ隠し通せるわけがない。ヒトではないということをコイツ知っていながら、おれについて来ているのはコイツもスゴイと思うところだが。
「何がだ?」
「だって、あんた食べることも眠ることも疲れることもないんでしょ?そんなもん最強じゃない。」
「・・・そんなに良いものでもない。むしろ最悪だ。」
「?どうしてよ?」
言ってる意味がわからないのか頭を傾げるキリーを見ておれは、自分の手を見る。
「食べる必要がないということは、味を楽しむことを許されない。寝ることが必要がないといことは、孤独の時間をより長く味わう。疲れがないということはヒト同じ歩みで歩くことが許されないということだ。」
それは、確かに聞いただけだとどんなに素晴らしいものに聞こえるだろう。だが、実際になってみるとわかることがある。それは、孤独で虚しく悲しい。無くなって初めて知ったことだ。
「・・・ごめん。なんか、羨ましいみたいな風に言っちゃって・・・」
「構わない。だが、こんなものは望まない方がいい。手に入れてから気づいては遅いからな。」
とても、気まずい雰囲気になってしまったので休憩を終わらせ道に戻る。歩き始めてからキリーは喋らなくなってしまった。おれは、気を紛らわすために空を見上げる。空は、憎いほど快晴でおれたちとは真逆に辺りを照らしている。
「ねぇ。」
さっきまで、喋らなかったキリーが唐突に話かけてくる。
「あなたは、自分のことをヒトだと思ってる?」
キリーに問いかけられた質問は長い間生きていたおれが考えたことがあるものだった。
おれはヒトだ。しかし、ヒトはこんなにも長く生きていられない。こんな姿になったおれはヒトと言っていいのか。いろいろな考えが頭をよぎり何が何だかわからなくなっていく。
「さぁな。自分でもわからなくなってしまった。」
だから、キリーの答えにも曖昧に答えてしまう。
「・・・そう。だったら私が認めてあげる。」
キリー言葉が、よくわからなかった。
「私があんたをヒトと認めてあげる!!」
キリーの言ったことにおれは驚きキリーを見る。
「だいたい、ヒトの定義って何よ?どこからがヒトでどこからがヒトじゃないか決まっている訳じゃないわ。」
だから、と一歩おれの前に出て満面の笑みをおれに見せる。
「あんたは、ヒトよ!!立派な1人のヒト。」
『あなたの力は私が保証する!あなたは1人じゃない私が、あなたを信じるわ!!』
昔、『あいつ』に言われたことを思い出す。出会って間もない頃に、自分の力に自信がなく落ち込んでいた時に言われた言葉だった。
ここで、『あいつ』の姿とキリーの姿が重なってみえた。
(まったく、『あいつ』といいコイツといいどうしてこうも・・・)
だが、悪くない。そう思ってしまうのは許してくれるだろうか。
「そうか。」
おれは、その一言だけ返して歩き続ける。ペンドラゴンまでの道はまだ長い。
・・・『ダークフープ』を連発して移動すれば距離を短縮出来るのに気がついたのはここから、さらに歩いたところだった。




