第70話 命大事に!金貨とヒモ?
休日――それは心と身体を酷使し、日々の糧を得る為に狩りに出る冒険者達の安息の日。
グッスリと二回目の鐘が鳴るまで眠り、ビックWARビーの蜂蜜パンをお腹いっぱい食べ、ダイヤの原料になる炭素集めや、従魔達との語らい……マッタリと久しぶりの休日を満喫した。気が付いたら休日が終わっていた。
そして月曜日が訪れる……
ベットの上で目が覚めたボクは、既に人気が無くなった寝室を一眺めして呟く。
「解せぬ……」
最近マーガレットが欲望を持て余している、皆遠慮しているのか寝室で眠る時もボクの周囲には集まって来なくなった。あのルナでさえ、サーベラスと一緒に部屋の隅で眠っている。
「目が覚めると体力をゴッソリ奪われていた――コレ何てエ○ゲ」
レベルや年齢やスキルなど、色々な要因で今はまだ元気だ。マーガレットのレベルが上がっていった日にはどうなる事か……
近い将来の事を悩んでいると不意に左腕が震える感じがした。
「メール? あっ! そういえば土曜日貰ったメール見ずに放置してた……文明の利器から遠い生活をしているとついつい忘れてしまうよね! そうだよね……きっと」
最近ボクは、配布してあるスマホ子機を優雅に使いこなす皆を見て危機感に近い感覚を覚えた。
わざわざスマホを取り出さずに左腕に画面だけ浮かび上がらせて操作するアンナにはシビレタ!
「まさかルナの方がボクよりスマホ使いこなしてるとか……とりあえずメール確認しないとね!」
「もうすぐご飯が出来ます、カナタも早く起きて――誰からのメールですの?」
マーガレットがベットに上をにじり寄って来る、シャワーを浴びていたのか髪が濡れていて尻尾は少しゴワゴワしている。
前髪から流れた水滴が頬を通り喉元へ流れ落ち、豊かな双丘の谷間へと吸い込まれていく――止まる事を知らない水滴は引き締まったお腹の上を伝い魅惑の……
「もぅ! 朝から目がいやらしいですの~我慢出来ないならもう一回……」
「違うよ!? これ以上は日常生活に支障が出るレベルだよ! 朝から何でこんなに疲れてるのって感じだよ! それよりもメールを!?」
左腕に画面を浮かび上がられてメールを確認する。新着メールは放置していた一件から二件へと増えていた。
画面を覗き込もうと左腕をわざとらしく胸元へと抱き寄せようとするマーガレットを落ち着かせ、件名を確認する。
「一件目……私達結婚します!? 話しが早過ぎて怖い! でもカーナさん押しに弱そうだしヒビキが相手じゃ仕方が無いかもね……御祝儀に何か【転送】して送ろうかな? 何が良いか確認メールしてみよう! 二件目は……飴くれ! んんん?? どういう事? クエスチョンが付き過ぎてよく分からん……とりあえず一件目から読んでいけば分かるかな」
「【転送】? これに付いてるスキルの事です?」
マーガレットが首を傾げながら自分の左腕に浮かび上がらせたスマホを操作している、優雅に中指と人差し指で操作する様は覚えてすぐの素人とは思えないスマホ捌きだ。
「皆何気に順応早いよね……ん? アイテムが送られてきた? 手に吸い付くように柔らかいスケスケ紐パン?」
「それ私のです、履かせてくださいの~」
「落ち着いて! マーガレットちょっと落ち着いて! 目がケモノになってるから! メール確認しようね」
早速【転送】を使用してセクハラし始めるマーガレットの頭を撫でて何とか落ち着かせるとメールの続きを確認する。
「はい! 読みます~私達結婚します、ヒビキに子供が出来ました。責任を取って予定より早いですが幸せな家庭を築いていくつもりです。
後、カナデ義理母様とハルカ母様には一目でばれました。皆鋭過ぎる気がするんだけど? 何でカナタはあんなに鈍感だったのかしら? そして何で何事も無く受け入れられてるのか不思議に思うわ……後、カナタのお父さんって何したの? ハルカ母様に話題振った瞬間世界が凍ったわよ? 後でカナデ義理母様に呼び出されて『そんな人は存在しません』って言われたんだけど? あとこっちの世界MPが回復しないからメールをそちらに送るだけでもシンドイんだけど、あの飴もっと送って頂戴」
なかなか平穏無事に過ごしている様で何よりだね、それにしてもMPが回復しないのか……あの飴量産して送って、変わりに調味料でも【転送】してもらおうかな?
そして父なんて居なかった。
「おおう……シャメ付きだ。それにしても何で煽りアングル? 二枚ある……」
一枚目は何故か煽りアングルで取られた自分の上半身で、スライドすると二枚目のシャメが現れた。
「あぁ……最中に取ったんですね、カーナも尻に敷かれているのか――物理的に」
二枚目はカーナに跨り上手い具合に上半身ごと二人分の顔を撮ったシャメだった。久しぶりに見るヒビキは可愛い……そして愛姉の顔を思い出させる。
「負けてられませんの!!」
「アッー!? ダメー! マリヤ様が見てる!?」
シャメを見たマーガレットが興奮して襲い掛かってくる、すぐさま後ろに逃げようとしたのがダメだった。マウントポジションを取られたボクには抵抗するすべは無く、入り口から覗くマリヤの顔を見つけて思わず叫ぶ。
「お勉強の時間ですのー!」
マーガレットは俄然ヤル気だ。
マリヤと一瞬視線が合いそらされると思いきや、右手人差し指と親指でワッカを作ったハンドサインを繰り出すマリヤ。
すぐに入り口から覗く顔が増えていく……
「皆ガン見してるからー!」
「~♪」
マーガレットは鼻歌混じりに上機嫌で止めてくれそうにも無い。ボクが朝ご飯にありつけたのはその三〇分後だった……
――∵――∴――∵――∴――∵――
朝食の後、もう一件のメールを確認すると件名=内容だった。どうやらあちらの世界にはMPを回復させる何らかの要素が無いらしい、急いで在庫分を全部送ると追加でチャッチャと加熱蜜結晶を量産しておこう。ついでに所持金がいつまでも0イクスなのはカッコ悪いので、前聞いたプテレア銀行? を利用するため、畑に移動する。
プテレアの畑はもう森と言ってもいいかも知れない。プテレアの森は中央から本体の木が天を貫かんばかりに――町の結界をぶち破り伸びており、日に日に高く育っている様子だ。
秘密基地の入り口は初めて来た時の穴と違い、冒険者ギルドと同じ有名な神殿を思い起こさせる作りとなっていて、現在二番・三番出入り口の滑り台から入って来ると秘密基地入り口広間に辿り着く。広間には冒険者ギルドをモチーフとしたカウンターが配置されている、右奥が基本作業場や色々な施設に繋がっており、左奥は各自の部屋や衣食住に関連する全てが詰まっていた。
秘密基地入り口広間のカウンターには常にプテレア本人か緑の人形が待機している、そして今日はプテレア本人が座っていた。
「おはようプテレア! いくらかお金を下ろしたいんだけど……? 1イクス?」
おかしい、プテレアは目も合わせてくれずに1枚の銅貨をカウンターに投げてよこす……何か悪い事したっけ?
「その顔を見る限りでは……主殿は自分がどんな酷い事をしたのか理解出来て居ないようですね?」
「えっ?」
冷たい声で言い放つプテレア。振るわれた蔓がムチの様にしなり地面を打つ音が広間に響き渡る。
「何を怒っているのかな~とか聞いちゃっても……ごめんなさい!」
「……」
プテレアの目が据わっている、今朝ルナを誘っても一緒に来なかった訳だ。どうやら何か逆鱗に触れたらしい……
プテレアが座った自分の膝の上に緑の人形を乗せて頭をナデナデしていた。
『コショウ草Lv3』
緑の人形を左目で見るとあの時捕獲したコショウのスプライトだった。
でもおかしい、レベルが下がっているし気のせいか顔色が悪い様な……
「やっと気が付きましたか……主殿はスプライトの生態を御存知無いのかもしれませんが! 私が気が付くのが遅れていたら消えて居無くなっていましたよ?」
プテレアは喋る度に唇を震わせ泣きかけになっている。膝の上に座ったスプライトはそんなプテレアの頬をペシペシ叩くと首に抱き付き甘えていた。
「ごめんなさい……詰まる所、ボクが捕獲してそのままノアの箱舟に放置していたスプライトに何らかの事態が起こって消滅しかけてたって事だよね?」
「魔力切れです、精霊は存在するだけでもそこそこの魔力を自然から吸収し続けないといけません。ノアの箱舟にはアダマンタイトが使われているので、魔力を外から吸収出来ずに枯れかけていました。私ほど成長すれば問題ありませんが……幸いなんとか症状は止める事に成功しました。が、早いところカナタの従魔にしてください、ここまで魔力切れが進行すると私の眷属にしたくらいでは長く持ちません」
最近増えた様々な植物のスプライトはプテレアが眷属にして集めていた事が発覚した。
プテレアはスプライトを蔦で抱きかかえボクの目の前に持って来る、すぐさま【テイム】を使い従魔にする。
「おお? 緑色が鮮やかになってきた!」
「良かったでしゅね~これで無事に育っていけましゅね~」
「ん……」
プテレアがデレデレ顔でスプライトを撫でながら、蔓で全身を弄り抱っこしている……犯罪臭がする光景である。
「名前考えないと! 胡椒だから……ペッパとかどう?」
「なかなか良い名前だと思います! ペッパちゃん~そろそろオネムの時間ですよ~」
カウンターのすぐ後ろにある棚の一箇所に柔らかそうなベットが設置してあり、そこにペッパを移動させると寝かしつけるプテレア。
『胡椒Lv26』
コショウのスプライトから変化した? 胡椒になってレベルが元より増えている、理由は良く分からないけど従魔になった事で魔力が供給されて胡椒に進化したのかな?
「命大事にですよ? いつも主殿が言っている言葉です、命とは小さなスプライトにも平等に有って然るべきです。それでは色々貯まっている報酬を一部だけ渡しますね~」
機嫌が戻ったプテレアが、後ろの棚から貨幣を取り出す――と思い気や、いきなり自分の葉っぱのドレスの中に手を突っ込み金貨を1枚取り出すと目の前のカウンターに音を立てて置いた。
「金貨1枚? もっとあるよね? 頂戴?」
「無駄使いしませんか? 主殿の性格だといっぱい有るだけ安心して使ってしまいそうなので……」
プテレアに心配されている……ん? そういえばプテレアに【テイム】なんて使った事無い気がする、眷族化してあるので別に気にしなくても良いのかな?
「プテレアってボクの眷属だよね? 従魔じゃないけどそこんとこどうなの?」
プテレアは右手を口元に持っていき、少し考える仕草をして答えを出す。
「他の冒険者ギルドにはそこら辺に居る魔物と似た様な扱いされそうですね~。でも私は植物に宿る精霊のようなモノ……だと思いますよ?」
自分でも首を傾げる存在に進化したプテレアはジャラジャラと音を立てて追加の金貨を取り出していく。
金貨が10枚、金貨が20枚、金貨が30枚、金貨が……ん!?
「何か……多過ぎない?」
「ふむふむ?」
プテレアは金貨を50枚積み上げた所で何かに気が付いた様子で拍手を打つと半金貨を10枚追加で並べていく。
「枚数が多いと重いですよね! 主殿金貨50枚と半金貨10枚で〆て100万イクスになります!」
多いのはそこじゃないよ! と突っ込みそうになったけど、くれるなら貰っておこう……
ボクの取り分が軽く1億円くらいあるって、うちのクラン商業規模はどれくらいあるのかな?
スマホに金貨を流し込むとプテレアに聞いて見る事にした。
「リトルエデンってどれくらい稼いでるの? ボク全然知らなかったんだけど……」
「はい? メアリーが帳簿を管理していますので直接聞いてみてください! 私はお金を預かるだけです~」
プテレアも把握していないみたいだ。丁度『奈落の穴』攻略の為、戦力把握を行なう予定だったのでその時にでも聞いてみよう。
「それにしても……そんなに冒険にも行かず狩りもさほど行ってないのにいつの間にかお金持ちになってる! クランって適材適所が大きな強みだよね~」
思えばラビッツ狩りすら行っていない、基本ボクはリトルエデン本拠地から出る事すらあまり無いような?
「クラン構成員が優秀ですからね。もう遊び惚けてダメ人間になっても養って貰えると思いますよ?」
「いやいや、それはダメでしょ? ナイナイ――」
「今の主殿ってまるでヒモですね……」
まるでヒモですね……まるでヒモ……ヒモ!?
「ナニを言ってラッシャルのプテレア殿!? 全然違うよ?」
「どうしたんですか!? いきなり挙動不審になって、主殿?」
まずい、改めて考えてみると食っちゃ寝して趣味? に精を出しダイヤ作ったり従魔と遊んだりしかしていない。よく考えてみたら毎朝一番最後に起きるのもボクだし、朝の体操すらしていない。
「……主殿~? ねえ、聞いてます?」
プテレアが何か言っているようだけど、今はそれどころじゃない。そう言えば最近皆が余所余所しく無かったかな?
もしかしてヒモに成り下がったボクに愛想を尽かして……イヤ、無いと思いたい。
ロッティが顔を合わせてくれないのって……もしかしたら?
マーガレットが最近ずっと引っ付いてるのは、ボクを慰めるため?
「お手紙届いてますよ~?」
まずい、イヤまずいなんてものじゃないかもしれない……手遅れになる前に威厳を回復しないといけない。
今日は昼から『奈落の穴』最下層の攻略を推し進めて、颯爽と戦うボクを皆に見てもらい威厳回復を計らないと……
「そうと決まったら皆を集めて戦力確認と準備を午前中に終わらせないと! ん? なにこの手紙? まぁ良いや! プテレアありがとね、あと皆を事務所横の食堂に集めてくれる?」
「はぁ、手紙ちゃんと読んでくださいね……」
ボクは手紙をスマホに放り込むとプテレアに頼んで、急遽全員を事務所横の食堂に集める事にした。




