SS ルナの六日間! 後編
朝、地上がやけに騒がしくて皆目が覚める。うちが様子を見に行こうと二番出入り口へ向うと昇降の階段が無い、そんな日も有ると思い三番出入り口へ向う。
「ん? 何でやねん!」
「緊急事態です! 冒険者ギルドにプテレアの存在がばれました。昨日、元同僚の知り合いから貰った情報によると未確認の魔物がリトルエデン本拠地の庭に侵入しているとの事で、囲まれてます……」
三番出入り口も無くなってる? 広間からマーガレットの声が聞こえてくる。昨日遅くまで出かけてたと思ったら情報収集してたんやね。
「一番出入り口から様子を窺って来るで!」
「やっぱりこうなっちゃうんだね、事前に篭城準備を済ませておいてよかったよ。昨日の夜プテレアの全長が露天風呂より高くなってたからそろそろ危ないと思ったんだよね……」
うちとメアリーは一緒に一番で入り口を昇っていく、プテレアは緑の顔を真っ赤に染めて『成長期です……』と言っていた。
それにしても一番出入り口ってこんなに長い道やったかな?
「何か道が長くなってない? 私が寝ぼけてるだけ?」
「メアリーは起きてると思うよ? 感覚から言って……もう露天風呂より上に来てるで?」
メアリーとうちは首を傾げて階段を昇っていく、プテレア擬態仕様なので階段が勝手に進んでくれる。暫くすると階段の上の方から明かりが入って来る。
恐る恐る一番出入り口から外を覗くと……
「綺麗な空やね~」
「あー、リトルエデン本拠地の外壁の周りに冒険者が集まってるね~。まだ誰も攻撃して来ないけど時間の問題かもしれないね……」
一番出入り口は露天風呂を見下ろす高さに設置されていた。下を見ると冒険者がちらほらと集まり始めている。リトルエデン本拠地を丸ごとカバーする外壁はプテレア擬態仕様で普段の三倍の高さに変わっていた。
入り口の門は硬く閉ざされておりガルワンとスコールが門の前で……見なかった事にする。誰も見てないと思ったら大間違いやで!
ラビイチとラビニとラビサンは何故か事務所前のシェルトマトを並べた台の前に座っており台には一つ銅貨2枚と書かれている……アレってレイチェルが仕込んだんかな?
「あ、ガルワンって激しいんだね……」
メアリーが外の様子を窺う振りをしてガルワンとスコールを覗いていた。
このままだとまずい事になりそうなので急いで階段を滑り降りる、帰りは擬態仕様の滑り台に変わるから便利やね。
広間に戻ると全員朝ご飯と食べている途中でうちとメアリーも急いで食べる、キャロルが寝ぼけてうちに抱きついてくるけど、首筋を舐めたら変な声を上げて食事を再開していた。
「えっと、これから後三日間は様子を見つつここに篭城する事になるかも? アヤカには事前に配置して貰ってる【宝物庫】の扉から外の様子を窺ってもらうとして……他の皆はコカトリスの子供を調達してきてもらうから準備しててね~」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
メアリーの提案を聞き皆驚きの声を上げる。前半部分は皆うなづいていたけど……後半部分はおかしいと思うで?
「メアリー? 何かおかしな事を言った気がするんやけど……」
「え? アリバイ工作だよ! 皆が立て篭もって誰も外に出てこなかったら、カナタが起きてからどう言い訳するつもりなの? 皆でコカトリス狩りに行ってましたって事で口裏合わせるからね」
「それなら私はルナの【滑空】でこっそり露天風呂に下りてロッズ&マリアン亭に情報収集に出てきますね? 元同僚ともマリアンの隣の部屋で落ち合う予定です」
マーガレットは情報収集専門で動くみたいやね。ロッティを見てないけど体調でも悪いんかな?
「了解やで! それにしてもメアリーは良く色々思いつくな~」
「えっ!? それほどでも有るかな?」
メアリーはうちから目をそらすとレイチェルの方をチラリと見て挙動不審になる……本当にアリバイ工作なんかな?
「うぅぅ……アヤカ、ヒールお願いします……」
ロッティが変な歩き方でアヤカの元まで歩いてきて泣き言を漏らす。
「マーガレットが居なかったら私――死んでたかもしれません……」
「あの後、大分遅くまでハッスルしてたからね~。ロッティはちっちゃいんだから余り無理はしない方が良いわよ? 無理だと思ったらすぐ誰かを呼ぶか大声で泣くと良いかもね……ヒール」
「一日休んでもまだ異物感が酷いです……【治療】が余り効果無いとは思いませんでした……」
ロッティとアヤカが大人の会話をしている。うちらはまだ早いってロズマリーも言ってたし皆聞かなかった振りをしていた。
ご飯を食べた後すぐにキャロルの装備を更新する、上質な布の服を天使御用達の服に変えて硬皮の盾を持たせて倉庫に転がってたドルイドの冠を被せる。ドルイドの杖はメリルが使っているのでラビッツレイピアで我慢してもらう。
メリルは黒鉄杉の槍を改造した杖とドルイドの杖を両手に持ってダブルで精霊魔法を放つみたいやね。
――∵――∴――∵――∴――∵――
プテレアの案内で新しく作られた四番目の出入り口を通り奈落の穴の底へと降りていく。
先行しているプテレアの蔦と蔓は発光する謎の魔法を使っていて、通路の天井を這い進んでいる。プテレアの調査によるとコカトリスの子供は毒も持ってないしさほど強く無いらしい。一応、念には念を入れて二PTにより交代制で狩る事になった。
「それじゃあジャンヌのPTはこの中腹広間で待機やで? 何か有ったらプテレアの蔦で回収する手はずやから皆腰に結んで解けないようにするんやで!」
「ボスが石になったらお風呂の置物にして毎日ちゃんと磨いてあげますね! うひゃ!?」
冗談を言うジャンヌのお尻を尻尾で撫でると、うちらのPTは中腹広間から狭くなった通路を降りて行く。最悪コカトリスにやられても中腹広間に上がってこれないようにするためやね。
うちのPTはメアリー・アンナ・キャロル・アリシア・レイチェルで。
ジャンヌのPTがレッティ・フェルティ・アズリー・レオーネ・メリルとなっていて、アリスとミリーとロニーにアルフとユノ&ユピテルは、隙を見て二番出入り口から外に出て他のメンバーはコカトリス狩りに出て居ない事を伝えると共にラビッツ達の様子を見る係りになった。
あのシェルトマト売りのラビッツは、やっぱりレイチェルの案でプテレアから意識をそらす為らしい?
マリヤとシャルロットとシャルロッテは相変わらず調薬しているみたいやね。
通路を抜けた先はやけに矢が落ちている広間で、丁度あの穴の下がここだと分かった。罠操作のスキルを持つうちが一番先頭を歩く、アンナはコカトリスが居るから罠が有る分けないとか言ってたけど油断は禁物や。
「ボス……この通路やけに大きく無いですか? まるで10m級の魔物が通るために有るような気が――」
「それは言葉に出したらダメなやつやで? カナタがフラグが立つって言ってたで……」
アンナの言葉を途中で止めてなんとかフラグを回避した?
それにしてもプテレアの光りだけじゃ足元に影が出来る、うちらは各自自分の武器に生活魔法で明かりを点けると油断無く進む。
「ふむふむ? そこの壁ちょっと怪しいから止まってな?」
うちが怪しい壁を軽く叩いてすぐ後ろに飛びのくと、壁から大きな鎌が飛び出てくる。
「うちの罠操作の力やで! ドヤッ!」
「「「「「えっ?」」」」」
皆驚いて声も出ないみたいやね。うちは調子良く通路の罠を発動させて回避していく。
「ルナ? それ普通に罠発動させ回避してるだけだと思うの……」
「なんやて!?」
キャロルの以外な一言にうちは衝撃を覚える。後ろでアンナが『私達が言えない事を平然と言ってのけるキャロラインにシビレル!』とか言ってるけど……罠操作してるよね?
「ルナ……私達無詠唱でスキル使いすぎて、普通に声に出して使わないからいけないんだと思うよ? 声に出して使って見るとか?」
「【罠操作】? あっ……怪しい所が赤く光って見えるやん! あ!? 手をかざしたら遠くにある罠も止めれるやん!」
メアリーの助け舟に乗って声に出して使うと、色々新発見があった。
「……ジャンヌには内緒やで?」
アンナが凄く嫌な顔で微笑んでいるけど皆うなずいてくれた。
不意にケモノの匂いがしてうちらは立ち止まり体勢を整える。
「来るで!」
暗闇を突っ切って現れたのは体長1mくらいのコカトリスの子供で、想像していたより俊敏に動き右に左にとこちらを翻弄しようとしてくる。
コカ子は飛び上がり蹴りを放ってきた。皆で盾を構え蹴りに耐える、素早くうちがネコパンチを繰り出すも短い翼を羽ばたかせて空中で軌道を変えるコカ子。
「大地の精霊よ! 我が手に集いて、かの者を戒める鎖となれ!」
声が聞こえたと思ったらキャロルの手から土色の鎖が伸びコカ子の足に絡まる、このチャンスを逃す手は無い!
「落とす!」
「ガァッ!」
ほぼ助走も無しに飛び上がったアンナは、黒鉄杉の槍を上段からコカ子に振り下ろすと宣言通りに頭部を打ち下ろし地面に落とした。うちはすかさず頭部にネコパンチを振り下ろす、少し硬い卵を割ったような感触と共にコカトリスは動かなくなる。
「まずは一匹目やね。それにしてもキャロルの魔法凄いなぁ! 次からもお願いやで?」
「MPを出し惜しみしなければ後二〇匹は捕獲出来るわ!」
MPは節約しなくても良いと伝えようと振り向くとメアリーが怖い顔でこちらを見ていた。口の動きが何かを伝えているようや。ま・だ・だ・め?
カナタが起きてからの方が良いんかな……とりあえずコカ子は特大木の宝箱に入れてスマホ子機に収納しておく。
それから少し通路を進み二手に分かれる道へとやってきた。左手の通路からは甘い匂いがしてくる、右手の通路からは風に乗ってコカ子の匂いが流れてきた。
「左は甘い匂い、右はコカ子の匂いやね。【罠操作】あ! 左通路は罠だらけやで……」
「コカ子ってもしかして……コカトリスの子供だから?」
「親が来たらコカトリスって言うから覚えててな!」
メアリーの質問にうちは答えると左通路の罠を解除していく、試しに一つ発動させると空気が流れる気配がした。
「試しに一つ発動させてみてんけど……何も起こらない?」
「え? スンスン……石化ガス!? 皆下がって!」
メアリーが血相を変えて後退を指示する、うちはキャロルを抱えて急いで逃げる。
「「「「「ルナの馬鹿!」」」」」
全員揃ってうちを馬鹿にしてくる――ちょっとどんな罠か気になっただけやのに……でも何も言わなかったのはうちが悪い、反省する。
「罠には色々種類があって天井が振ってきたり大きな岩が転がってきたりする事もあるんだよ!? ルナは他の人より鋭い感覚持ってるんだからしっかりしてよね!? 【眷族化】と【才能開花】が終わってないキャロルが一番危ないんだからね!」
「次からは気をつけるで……」
「私は大丈夫だから! ルナをあまり責めないで!」
メアリーにめっちゃ怒られた。キャロルはうちを庇ってくれる、良い子や。
「もう、次は無いからね? 幸いガスはすぐ薄れて消えたみたいだし先に進めるよ」
メアリーは尻尾でうちのお尻をペシペシしてくる、なんだかんだ言ってもちゃんと許してくれるメアリーは大好きやで!
少し進むと大きな部屋を見下ろせる入り口に着く、地面までは10mはありそうや。
人が六人くらい下を覗くともういっぱいになるくらいの広さしかない入り口から10mほどの高さを下りる吹き抜けの螺旋状階段が設置してある。うちは嫌な予感がして立ち止まった。
「メアリー嫌な予感がするのはうちだけ?」
「多分降りたら何か沸いてくると思うよ……」
「皆で灯火を部屋の中央に飛ばしてみると良いのでは? 危なそうならすぐ引き返せば良いと思います」
アリシアが珍しく発言をする。
アリシアは他人とあまり喋らない、普段はずっとアリスにくっ付いている。たまには別々になっても良いと思いPT分けをしたら機嫌を損ねてしまったほどや。
アリシアの提案をそのまま採用し全員で灯火を部屋の中央に向けて飛ばす、すぐにアンナは背後の警戒に入りメアリーとレイチェルが階段の下を警戒する。
「予想以上に大きな部屋……中央に水が湧き出る水晶か何かで出来た塔? 上の方に奥へと続く通路があります……部屋に下りて何かをするか――沸いて来た魔物を倒すと先に進めるタイプだと思います」
アリシアが言う通り部屋を覗き込み確認する、あの上の通路はカナタの停止飛行なら多分そのまま通れると思う。ここの部屋に続く通路から匂って来た甘い香りは高さ5mほどの水晶の塔から湧き出してる水? アレの匂いみたいやね。
「何も変化無しだね~」
「こちらも大丈夫みたいです」
メアリーとアンナの報告を受け考える、ここで広間に下りてもし沸いた敵が多くて苦戦した場合……罠操作の有効時間が不明やからジャンヌPTはここに救出に来れるかどうかわからない。どうしたら良いんかな……
「あっ!」
突然レイチェルが声を上げて皆ビクッと肩をすくめる、周囲に変化は無い。
「ここの入り口、部屋に下りたら閉じるかも? ここに溝があってどうも扉が現れる感じがする……」
入り口を調べるとレイチェルの言う通り2cmほどの浅い溝が見える、試しにその溝をカナタナイフで突いてみると以外な事に硬い感触が手に返ってくる。
「多分魔法金属の扉が隠されてます、今ルナが突いた感じを見ると私達では破壊困難かもしれません」
アリシアは物知りやね。うちは引き返す事に決め、部屋に罠が無いか一応確認する為に部屋の中央を見る。
「【罠操作】! なんやこれ……部屋の地面が真っ赤に光ってる!? 足場も無いくらい罠だらけ? 違う、この部屋の床が一つの大きな罠や! 【罠操作】でも停止できへんで!? ここは危ない、引き返すで!!」
「一応螺旋階段に蓋しとくの! 大地の精霊よ! 我が眼前に集いて、全ての者を妨げる蓋となれ!」
うちが見た地面の罠は、停止させようと手を向けてもシビレルような手を押し返す強い反発があっただけで反応しなかった。
キャロルは魔法を唱えて螺旋階段を土色の蓋で覆うと退却準備に入る。
「まずいです、親が来ます!!」
「「「「「「親?」」」」」」
プテレアの天井を這う蔦から声が聞こえてくると同時に、真っ赤に染まった蔦がうちらを引っ張り宙吊りにしながら来た道を戻り始める。何かあったら先行している蔦や蔓が真っ赤になるってプテレアが言ってた気がするから緊急事態?
「私も初めて見るサイズの親です! 通路の擬態化がまだ終わってないので撤退します! 推定レベル500オーバーの化け物ですよ!!」
プテレアの言葉に全員考えが追いつかない、レベル500ってプテレアの方が強い気がする?
うちのそんな疑問をプテレアはすぐ解消してくれた。
「相手もアルファベット持ちで戦闘特化型みたいなので、生産防衛型の私では良くて引き分けです! 周りに気を向ける余裕も無いと思うので、皆さんの身の安全は保障しかねます……主殿に顔向けできない事になりそうなので撤退です!」
プテレアの焦りを受けやっと事態を把握したうちらは震えて蔦を両手でしっかり握り締める。キャロルはあまりの恐怖に泣いていた。
分かれ道の右通路にはプテレアの真っ赤な蔓が網目状に張り巡らされていて、何重にも防壁を設置しているみたいや。
うちはこれなら大丈夫と思い少し安心した……その瞬間!
「グゲェークックドゥードゥルドゥーグエッグ!!」
圧倒的な存在感を放つ雄叫びと共に右通路の奥から地響きが響いてくる。
「あうあぅ、いや…死にたく無いよ……」
キャロルが恐慌状態になる、うちらも麻痺状態になり体が動かない。
うちは隊列で一番前を歩いていたので退却中は一番後ろや、キャロルは丁度真ん中に位置していたので後ろが見えてないみたいで良かった。
うちは麻痺して後ろを見たまま蔦で運ばれてるけど……プテレアの蔓防壁が力ずくで千切られて、通路の奥から真っ赤な目をしたコカ子を大きくした顔がこちらを見ている。どう考えてもサイズがおかしい、前傾姿勢でこちらに向かってくるコカトリスはその体勢でも10mの通路ギリギリのサイズや。戻る時どうするんかな?
「ルナ、何でもいいので三秒稼いでください……通路を狭くしていたのでギリギリメアリーとルナの回収が間に合いません! 大穴からの昇降にするべきでした……」
プテレアの一言でオシッコが漏れた。うちは全力で魔力を込めた生活魔法の陽光を多数ばら撒く――閃光を放つ光りの玉にコカトリスは少し怯んで足を止めてくれた。
「助かった……?」
コカトリスは忌々しげにこちらを見てノドを膨らませる!?
「石化ガス! ルナ吸っちゃダメー!!」
メアリーの声が聞こえると同時にコカトリスは黒い煙を吐き出し、走るより早いその煙はうちに襲い掛かる。
「大丈夫、やで? も、う…た、す……かっ……」
器用に通路を後ずさっていくコカトリスが見えて、うちは通路に引き込まれる所まで意識が持った。
泣いてるメアリーとキャロルの顔が見える……声が出ない……うち石になるんかな?
目だけを動かして自分の体を見ると、黒っぽい銀色の金属に体が変わっていた。
うちはそれを確認して、そう言えばマリヤとシャルロットとシャルロッテは調薬が得意みたいやったな~と思った時点で意識が完全に途切れる……
――∵――∴――∵――∴――∵――
暗い闇の中、カナタの声が聞こえた気がした。
ユックリと意識が戻ってくる、温かなお湯に柔らかい感触が体を支えている?
途切れた記憶が思い出される。うちは変な金属になって……ん? お湯? お風呂?
「ジャンヌ!! うちをお風呂の置物にしたんやな! お仕置きしたるからお尻だしや!」
大声が出た。体が元に戻っている、うちの体を支えていたナニかが急に動き出す。
目を開けて周囲を確認する、お風呂じゃない? ここは3mくらいの深さが膝まであるタライが中央に置かれて他にベットが二個置いてあるだけの殺風景な部屋や。
ベットは一つ埋まっており誰かが寝ていた。
「るなぁ!」
急に支えていたナニかの感触が消えるとうちの正面に全裸のキャロルが現れる? 泣きながらうちを抱きすくめキスをしてくるキャロル。余程うちが金属になったのがショックだったのか、もう全力でチュッチュしてくる。たまにはカナタ以外とチュッチュしても良いよね?
うちがキャロルに応えて口内に入って来た舌に自分の舌を絡めると、キャロルは体を押し付けるようにうちに覆い被さってくる。お湯におぼれるかもと思ったけどちゃんとキャロルの手が腰と背中を支えてくれていた。
暫くそうしてキャロルと抱き合っていると、うちを刺すような視線が送られてくる。
「お暑いね~もうカナタの嫁じゃなくてルナの嫁にしたら? ルナも【眷族化】使えるよね?」
目だけそちらに向けると半分に開いた目で、ベットに肘を付きこちらを見ているメアリーと目があった。
メアリーの言葉を聞いたキャロルは先ほどとは違う……うちの舌を吸い上げるようなキスをしてくる、振り解こうにも体に力が入らない。うちはこのキスを知っている……多分、眷族化するまで放してくれない。だってうちもやった事あるんやから……
【眷族化】を使い、うちからキャロルに温かなナニかが流れているのを感じるとキャロルは口を離してくれた。
「ふぃ~。ルナのお嫁さんになら――なってあげても良いんだからね!」
「はぁ、ふぅ、うちはどこでフラグ踏んだんかな……」
さすがクリスティアと同じ種から生まれただけある……かなり強引な所もあるみたいやね。
息を整え立ち上がると黒っぽい銀色のトロール皮のベストを着ている事に気が付く、天使御用達の服は無事みたいやね。フェイクラビッツの帽子と靴も変わりなくモフモフしていた。
「トロール皮のベストだけ元に戻ってないんやけど……防御UPしてそうやし良いか~」
「他の装備はそもそも金属化すらしなかったんだけどね……多分素材のランクが違うんじゃないかな? それよりルナ体に異変とかない? 大丈夫?」
やけに心配してくれるメアリーに少し不思議に思う、たかが数分……アレ? 体内時計が狂っている?
「体がダルイけどどこも問題無いで? それよりご飯食べたいんやけど……」
うちがそう言うとメアリーはすぐにカナタ芋をミルクで煮込んだようなドロドロのスープを持って来てくれる、ビックWARビーの蜜の香りもするのでメアリーオリジナルかもしれない。
キャロルがスプーンで食べさせてくれる、美味しい……胃に染み渡る味や!
「メアリーこれも美味しいけど……ラビッツとか食べたいねんけど?」
無言でメアリーオリジナルを完食すると、うちはラビッツの干物が食べたくなった。
うちの要望を聞いたメアリーは驚愕の事実を告げる。
「もう夜だし明日にした方が良いよ? 三日も寝てたんだからね……あっ、日付が変わる」
初めメアリーが何を言ったのか理解出来なかった。左手からスマホを出すと日時を確認する……丁度二四時を過ぎカナタが起きる日になっていた。
「ルナはアレから三日丸まる眠ってたんだよ? マリヤの話しによるとただの石化じゃなくて呪の分類だったらしくて……今浸かっているお湯はマリヤとマーガレットの合作で金属化の呪い解呪用だよ? キャロルと交代でずっと見てたんだよ。後で皆にもお礼言ってね」
「ありがとうなキャロル、メアリーうちは大好きやで!」
安心しきったのかキャロルはうちの言葉を聞くと眠ってしまう。もう遅いのでとりあえず眠って朝に話しを聞く事になった。
丁度カナタも目覚めるし外の事も気になる、報告会を開いてくれるらしい。
この部屋にベットは二つしかなかったのでキャロルと一緒に眠る、キャロルはイチの実の匂いがして心が落ち着く……うちは気が付くと眠っていた。
――∵――∴――∵――∴――∵――
早朝、目を覚ますと何よりも先に皆で膜が無くなった部屋に入る。
部屋の中央には、宙に浮いたままのカナタとキラキラと輝く白っぽい透明な宝石で出来た30cmくらいの盾が二つ浮かんでいた。
皆カナタが起きるのを待っている、一回目の鐘が鳴り……二回目の鐘が鳴ってもカナタは起きない。
外の様子も気になる、でもカナタが起きてからで良い。うちらはご飯も食べずにずっと待った。
五回目の鐘が鳴り終わっても誰も動かなかった。一番年上のマーガレットが『ご飯を食べて元気な状態で待たないとカナタが起きて来た時ビックリする』と言い一人で全員分のご飯を用意してくれた。
ご飯を食べ終わって各自浄化をかけて待つ……その日、カナタが目を覚ます事は無かった……
次話から3章が始まります!




