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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第2章 ピースフルデイズ
77/224

第64話 新生カナタ!そして○○へ……?

久しぶりにちょっと長いです!

 目が覚めるとボクを取り巻く世界は変わっていた。見える世界が色付き、新鮮なモノに見える……と言っても見えるのはプテレアの地下室だけど。マーガレットとロッティに抱っこされた状態で目が覚める。


 スマホで確認すると現在五時丁度。昨晩はハッスルし過ぎてロッティがまずダウンし、続いてマーガレットと二時過ぎまで頑張った結果【絶倫】スキルの力の限りを尽くしヘブンの扉を開いた気がする。

 アヤカとプテレアは最後までガン見していた。ボク達が眠った後も何やら怪しい雰囲気で内緒話していた気がする。


「おはようございます……朝ですよ~」

「あと…二四時間……」


 ロッティはもう一日眠るようだ。マーガレットが無言でムクリと上半身を起こしロッティの腰を突っ突く。


「ぎゃー! ちょっと、今日はお休みで……」

「冒険者ギルドへ、私達二人分の休暇届けをお願いします~一応公書扱いなので糸が切れたりしないように注意してくださいですの」


 マーガレットは余裕を見せているつもりなのか笑顔で事前に用意してあったと思わしき白い封筒を枕の下から取り出すと手渡ししてくる。封筒を持つその手は小刻みにピクピク震えていた。


 正直頑張り過ぎたと思う。ボクも愛姉(あいねえ)の事をとやかく言える立場じゃなくなった……途中アヤカがヒールをかけてくれなかったら三人とも朝起きる事すら出来なかっただろう。

 ちなみに【治療D】は余り効果が無かった。【治療D】は欠損すら治せるけど使用者が怪我と認識しなければ上手く回復できない感じがする? アヤカの【ヒール】は欠損を治す事は出来ないみたいだけど、使用者が気が付かない傷も含めてHPの回復効果が高いみたいだ。


「えっと…アヤカとプテレア? おはよう。二人をお願いね? それとなんでプテレアが緑の固まりになってるのかは戻ってから聞くから……アヤカも顔洗った方が良いよ?」


 鼻血で胸元まで真っ赤に染めたアヤカと、その横で蔓の繭になっているプテレアに挨拶をする。


「ゴチでした!」


 最高の笑顔で微笑むアヤカにどう返していいのか迷いながらもシャワールームへ入り、身支度を整えて冒険者ギルドへ向う。



 皆まだギリギリ眠っている時間なのか、ロッズ&マリアン亭は静かなままで、重装備のおっちゃんが入り口横の馬車を止めるスペースで誰か人を待っているのが見て取れる。入り口へと向うボクを一瞥すると手を上げて挨拶してきたので、軽く挨拶を返し大通りの道へと出て行く。


 朝霧が少しかかった町並みは幻想的な雰囲気を作り上げており、冒険者相手の消耗品を売る道具屋に朝一番の朝食を売る屋台の明かりがところどころ浮かび上がり見る者の目を楽しませてくれる。


 幸い知り合いに出会う事も無く冒険者ギルドの入り口へ辿り着く、今知り合いに顔を見られるのは恥ずかしい。多分何があったか人目で分かるくらい浮かれていると思われる。

 改めて見る、ギリシャ系の神殿造りで作られた冒険者ギルドの入り口の石柱は、触ると微かに魔力の痕跡が残っており、特定の手順で魔力を通すと何かしらの作用を起こせるようになっているみたいだ。もしかしてどこでもパル神殿的なワープ機能でも付いてるんじゃ無いのかな?


 来た道と逆側から冒険者のPTが歩いてくるのが見えたので、素早く、静かに扉を開け中へと入る。何もやましい事は無いけど、冒険者ギルドに余り顔を出してないので少し入りづらい気がするんだよね。


 中に入ると、予想と違う心地よい静けさに少し驚く。六時を越えるまで声を上げたらダメとかそんな規約でもあるのか、冒険者ギルド内は小声で話す者がほとんどで身振り手振りで意思疎通をおこなっている冒険者が多い。入り口から少し横にズレて室内を見回すと、新規依頼が張り出されるのを待つ冒険者や、バーカウンターで朝食を食べる冒険者、それにカウンターでナンパ――もといお話し中の若い冒険者が居る、ユニコ先輩狙いだと思われる。誰にも気づかれてはいない。実はボクには隠密的な才能があるのかもしれない!


 カウンターに居るのは、ユニコ先輩と名前も知らない謎のイケメン……それに新しい職員が三人? そう言えばグレンドルさんは最近顔を見て居ない。

 ユニコ先輩を熱心に口説いていた若者が玉砕したので向う事にする。


「ようこそ【絶壁】様、報酬の件でしたら2F奥の部屋へどうぞ。今ならまだギルドマスターが起きていられるはずです」

「報酬か……そう言えばモウモウ討伐の報酬とか聞いてなかったね~。ついでに貰って帰ろうか! あとこれロッティとマーガレットから休暇届け? みたいです」


 朱色の糸で口を縫い止めてある白い封筒を渡すと、何故か一瞬動きが止まり震えながら封筒を受け取るユニコ先輩。目には涙を浮かべどこか斜め上を見ている――


「やっと……」

「やっと? 声が聞き取れなかったんですけど何か?」


 小さい声で呟くユニコ先輩は肩を震わせて涙し、何故か微笑ながら立ち上がる。


「お局マーガレットと残念ロッティが寿退職されましたぁぁぁぁー!!」

「ふぇいっ!?」

「「「「「「オオッー!?」」」」」」


 急に大声で宣言するユニコ先輩、鼓膜が破れるかと思ったよ!?


 辺りはザワザワし始め職員の中には嗚咽と共に涙を隠せない者まで出てきた。それにしてもお局は良いとして……残念ロッティは可哀相だと思う。まぁ、本人が見た目に反して残念な性格なのは認めるけどね! 合法ロリのクォーターエルフが何で誘い受けのドMなんだって突っ込みたい……いや、止めよう、人それぞれ個性って大事だよね?

 それにしてもあの封筒は寿退職の書類だったのか……ん? 寿?


「わっつ? ユーに渡した封筒は寿の証明でOK? 認め印とかNOセンキュー?」

「? たった今、正式に受理されましたよ?」


 ボクの『今、貴女に渡した書類は結婚届で、ボクの承認は必要無いんですか?』と言う質問を受けたユニコ先輩は背後を振り返る事すらせず後ろに封筒を放り投げる。カウンターに立っていたはずのイケメンが走りこみキャッチ、その勢いのままカウンター内部で座り仕事をしている眼鏡をかけた巻き角がキュートなお姉さんにパス、お姉さんは焦ってハンコを空中で二回転ほどさせながら承認印と思われる大きなハンコを中央にデカデカと押し、笑顔で机の引き出しにしまいこみ鍵をかける――


「――なん、だ、と……一言もかける隙が無かっただと!?」


 見事な連携プレイを見せ付けられ愕然とする。

 笑顔で『2Fへどうぞ』と言うユニコ先輩、いつかこうなる事は覚悟していた。でもそれがこんな不意打ちだとは思わなかったよ!?


「急に二人も職員が抜けたらカウンターが寂しくなりますよね~。ちょっとさっきの封筒に不備があった気がするので、もう一回見せてくれませんか?」

「カウンターに立てるようになった職員が結婚して巣立っていかないと、バックヤードに居る職員が表に出て来れないので問題無いですよ? それともう受理されましたので、不備があればこちらでかいざ――修正しておきますね♪」

「今、改竄(かいざん)って言いかけましたよね!? それに気のせいか封筒が三つあったんですけど! 一つ誰の分!?」

「受理された書類はもうお返しできません。職務規定ですから♪」

「せめて、最後の一つは誰の名前が書いてあるのかだけでも!」

「職務規定です♪」


 超笑顔のユニコ先輩に後押しされるようにカウンターから離れる、足元が疎かになりふらついた瞬間誰かに手を取られた。振り返るとマイケルが重そうな布袋を片手に抱え満面の笑みを浮かべている?


「全員からの選別だ。あいつ等を幸せにしてやってくれ!」

「はぁ……おっも!?」


 受け取った袋は予想以上に重く、ジャラジャラと硬貨の擦れる音が聞こえた。

 皆の気持ちが重い……それほどまで心配されていたマーガレットとロッティに少し同情する。


 このままここに居たら宴会でも始まりそうな雰囲気だったのでそそくさと2Fへ移動する事にした。

 カウンターで朝から酒を注文する冒険者がちらほらと現れ始めている、マスターも『一杯だけだ……』とエールを提供している。もしかすると明日から新たな噂が流れるかも? ボクにはもうどうする事もできない。



 2Fへと続く階段を上がり、一番奥の部屋の扉からはみ出ているモウモウの毛皮の端を見た瞬間嫌な予感がした。

 ゆっくりギルドマスターの部屋へと近づく、どう見ても先日討伐したと思われるモウモウの毛皮がはみ出ている。ユックリ扉をノックし反応が無かったので帰ろうかと思い踵を返すと、扉が内側から開いていった――


「まずは報酬を受け取って欲しいんですけど……」

「ちょっと部屋の隅空けてくださいね……」


 リトルエデン用報酬と書かれた紙が張られている大量のモウモウの毛皮と、大袋に詰め込まれた大量の魔晶の欠片と魔水晶? モウモウの肉取り放題券?


「とりあえず魔晶の欠片と魔水晶は全部入れとこうかな~」


 大袋からスマホへザラザラと石が擦れ合う音を立てながら魔晶の欠片と魔水晶を投入する。続いてモウモウの毛皮は特大木の宝箱をスマホから出しそちらに全部詰め込む。モウモウの肉取り放題券は名刺サイズの鉄っぽい金属プレートで出来ておりスマホのカバーに挟む。それにしても何で魔晶の欠片が欲しいと分かったのかな?


「ほうほう……魔晶の欠片や魔水晶を何に使っているかと思いましたがそうなってるんですか~」


 一瞬ビクリッと肩を上げそうになる、自分が迂闊だった。スマホの強化を他の人が居る前でおこなったのは良くなかったかもしれない。


「ステータスオープン!」




 名前:彼方=田中=ラーズグリーズ(サント=ブリギッド)

 種族:人間? 年齢:18 性別:女 属性:無・聖

 職業:盾戦士・冶金士・儀式術士・魔物の王 位:次期辺境伯

 称号:【絶壁】【魔王の嫁】 ギルドランク:E

 クラン:小さな楽園

 団結:クリスティナ様護衛隊 楽園の剣 楽園の盾


 レベル:1001[282+18+701]☆☆☆☆

 HP :1783/1783[500+282+1001+☆]

 MP :1383/1383[100+282+1001+☆]


 攻撃力:1[282+1+★]

 魔撃力:1[282+★]

 耐久力:298[282+20+☆]×2

 抵抗力:☆[1+16+☆]×2

 筋力 :1001[282+18+701+★]

 魔力 :1001[282+18+701+★]

 体力 :1001[282+18+701+★]

 敏捷 :1001[282+18+701+★]

 器用 :1001[282+18+701+★]

 運  :LUCKY[1+10+☆]×2

 カルマ:47[53×2]


 SES盗×

 :【無垢なる混沌】【創世神の寵愛☆】【原初精霊の加護:土】

 ;【停止飛行】【創世神の呪★】【才能開花】

 UNS盗×

 :【魔力の源泉】【舞盾】【祈雨】

 EXS盗×

 :【眷属化】【冶金】【第六感】【物理耐性】【魔道具作成】

 スキル盗×

 :【生活魔法】【治療D】【解体D】【脱兎】【耐性:熱F毒D】

 :【解毒F】【精神強化E】【気配感知E】 【危機感知E】【絶倫】

 Aスキル盗×

 :【スピアスタブ】【シールドチャージ】【簡易儀式魔方陣】

 :【分解】【テイム】【超硬化】


 装備品

 武器  :黒鉄杉の槍棒150cm[攻+1]

 盾   :魔盾スヴェル[耐+5抵+5]【氷化結界】

 盾2  :玄武の盾[耐+3抵+1]【自己修復E】【反射E】

 兜   :フェイクラビッツの帽子[耐+3抵抗+3]【自己修復E】

 仮面  :特殊防弾ガラスの眼鏡[耐+1抵+1]【簡易鑑定】【光量調整】

 服   :天使御用達の服[耐+1抵+1]【浄化S】【自己修復S】

 鎧   :トロール皮のベスト[耐+2]【自己修復F】

 腕   :スマホ[耐+1抵+1]【簡易アイテムボックス+14】【発展】

     :スマホ【解析】【提携】【子機】【転送】

 腕2  :円卓の腕輪[耐+1]【部隊作成】

 腕   :エアコンのリモコン[耐+1抵+1]【空気調和】

 靴   :フェイクラビッツの靴[耐+3抵+3]【自己修復E】

 その他 :夜を背負った様な漆黒色の羽根[成長×2]【追跡者】

     :全てを覆い尽くすような漆黒色の羽根[運×2]【黄金率】+-0

     :魔王の花嫁[耐×2]【永遠の誓い】

     :魔王の首輪[抵×2]【意思疎通】

     :VBリング10個[運+10]【心体再生】

     :ドッペルリング[業×2]【写し身】

     :モウモウの肉取り放題券




 ふむ、スマホが+14になった。【転送】が追加された? 【簡易儀式魔方陣】とか使った事無いから今度試してみないとダメだね。後はスマホの収納数が増えた感じがする、+14で17個入るっぽい?

【転送】と念じると目の前に子機リストが現れる。最近連絡が無いカーナの名前があったのでついリストをクリックしてしまう。


「むむ、穴が開いたウインドウが出てきた。何か入れろって事なのかな?」

「? 穴? ウインドウ? 何を言っているんですカーナ?」


 マリアさんが不憫そうにこちらを見てくるけどそんなんじゃないからね! スマホから加熱蜜結晶の瓶を一つ取り出すと窓に滑り込ませる。


「瓶が消えた!?」


 一人驚き後ずさるマリアさんを放置し考える。多分コレは子機にアイテムを転送する事が出来る機能? そのままだね! でもこちらの世界からあちらの世界にアイテムを送れるのだろうか……。消えた瓶の行く末を案じる。


「領主様、この事は内密でお願いしますね?」

「ママと呼んでください!」

「マリアさんで簡便してください……それよりこのモウモウの肉取り放題券って何ですか?」


 ニマニマしながらこちらの様子を窺ってくるマリアさん、あちらの世界ですらお母さんか(はるか)さんと呼んでいた――いきなりママはハードルが高いよ!


「文字通り冒険者ギルドラーズグリーズ支店にストックしてあるモウモウの肉ならいくら取って行っても良いですよ? その代わり販売する分には売れた半分のお金を租税と言う事で納税お願いしますね~」

「食べる分には何も払わなくて良いって事なら良いですよ~」


 ボクがそう返事すると椅子を後ろに倒し立ち上がるマリアさん、戦慄を覚えたような表情でこちらを見ている?


「値切られると思ってたのに!?」

「前回のはマリアさんがルナの時ドッキリなんてしかけてくるからですよ? 普段のボクはラビッツも殺さない様に見える温厚なジェントルです!」


 椅子を元に戻し座り直すマリアさんは『悪ふざけはダメですね……』と呟いていた。


「話しは変わりますがリトルエデンからの納税が凄まじい事になってますけど――さすが私の娘! って自惚れて良いですよね?」

「経理の者に任せて居るので……そんなに凄いんですか?」


 メアリーとレイチェルの才能は戦闘面よりこっちに開花したみたいだ。


「軽く去年の税収を現時点で200%ほど超えています、これで何か大きな功績でも作れば普通ならクラン盟主をAランクに上げる事が出来るんですが……カーナの冒険者ランクはいくつでしたっけ?」


 頭痛でもするのか頭を抱えてマリアさんが問いかけてきた。


「確か勝手に一個上がってたので現在Eランクですね~」

「無条件昇格で無理やりAに――いや、それだと王都冒険者ギルドからイチャモン付けられそうですし……」


 マリアさんはぶつぶつと呟いている。忘れていたけど通常のクエスト依頼をこなしていないので、ボクはクランで一番ランクが低い。


「ランク上げといた方が良いですか?」

「最低でもB……リトルエデンの規模だとAでも問題無いですね。上げとけば舐められなくなります。あと冒険者ギルドに許可され取れば町の外に支援拠点を設置する事が出来るようになります、他にもお得な事が盛り沢山なので是非上げると良いですね」


 つまり顔が利くようになると言う事が一番の利点? うちの子達に変な虫が寄ってこないように早めにランクを上げて箔を付けるのも良いかもしれない。一応支援拠点の許可を貰っておこう! 秘密基地は誰しも夢見るロマンだ。


「今のランクじゃ支援拠点作っちゃダメ? お母さんお願い!」

「ふぁっ!? お母さん頑張りたいですけどEじゃさすがに……」


 こう言う時は黄金色のお菓子……お金のパワーで! と思ったけど現金の持ち合わせが無い……悲しい。

 変わりにカナタ芋飴一瓶とビックWARビーの加熱蜜結晶を一瓶上げる事にした。


「はい、あーんしてね♪」

「ふぁい!!」


 大口を開けたマリアさんの口へ瓶から取り出した過熱蜜結晶を一個放り込む、口を閉じたマリアさんは頬を抑え目を閉じ意識がどこかへ飛んでいったかのように惚けていた。


「ビックWARビーの蜂蜜で作ったお菓子ですね? コレ美味しいですけど何で販売されてないんですか?」

「カナタ芋飴は最近作ったばかりなのでもうすぐ販売ルートに乗ります、あと加熱蜜結晶はMPが10回復するのでメアリーに売るのを止められました……」

「ブバッ!」


 汚い、マリアさんが溶けた蜜結晶と唾液が混じった唾を飛ばしてくる、咄嗟に避けたおかげで被害は無い。


「一瓶八個入り? これ一瓶に付きランクを一個上げるので都合できません?」


 目を白黒させているマリアさんが謎の提案を持ちかけてくる、願ったり叶ったりだ。その場で四瓶取り出すとマリアさんの目の前に置き一応理由を聞いてみる事にする。念の為に手を放さずマリアさんの手から瓶を守る。


「それほどの価値がこれにあるって事は……考えても何に使うかわかりません! 何でこんな価値に?」

「王都の冒険者ギルドの重鎮への賄賂と王都での足場固めに……カーナだから言いますけど、私の親類縁者はもうカーナ一人なんです、色々このままじゃ都合が悪いので味方を作っておかないとダメなんです」


 貴族の世界にも色々問題は有るようだ。難しい話はマリアさんに任せる事にして、理由を説明してくれたお礼に一瓶追加する。花が綻ぶように笑顔になったマリアさん、多分一瓶自分で食べる気だと思う。武器を自分で食べ尽くさないか心配だったので、カナタ芋飴も一瓶オマケしておく。


 MP10回復する蜜結晶が八個――80MPでそれほどの政治武器になると言うならボクの【魔力の源泉】は……恐ろしくなり少し震えた。こちらを見てクエスチョンを浮かべるマリアさんにお礼を言うと部屋を出てリトルエデン本拠地に戻る事にした。


「それではマリアさんAランクの件よろしくお願いします。また近々お菓子でも持って来るので楽しみにしていてくださいね~」

「カーナ~お母さん疲れた時コレ食べたい! またビックWARビーの巣が見つかったら作ってね!」


 マリアさんは勘違いしている様だけどまだまだ在庫はいっぱいある、コレは良いお菓子&武器を手に入れたかもしれない!


 ボクが1Fに下りる途中、上がってきたユニコ先輩とすれ違う。階段でスキップをするという軽業を見せながら、ギルドマスターにあの封筒の事を知らせに行くのだろうか?

 丁度ボクが冒険者ギルドを出る瞬間、2Fギルドマスター室からマリアさんの悲鳴が聞こえてきた。ボクにはどうする事も出来ないので聞かなかった事にして帰路を急ぐ。



 今五時四〇分くらいだろうか? スマホを確認すると四〇分ジャスト、今日は体内時計もバッチシだ。一度目の鐘が鳴る前に燻製の確認を終わらせてから戻らないといけない、今後のボクのおこずかいがどうなるかの瀬戸際だ。本拠地まで軽く走ってみる事にした。


 景色がボクの背後に流れていく、体が軽いまるで翼でも生えているかのように。全身の隅々まで力が行き渡り、何とも言えない充実感があふれ出す。

 調子に乗っているのは自覚している、でも今なら出来るはず!


「ハァーセイッ! タァー!」


 全身の力を余す事無く足から流れるように右拳へ送り、空気を切り裂く音と共に右拳を突き出す――間髪入れずに体を後ろへ回転させ空中で後ろ回し蹴りを放つ。決まった!

 そのまま勢いに乗って走り出し、ロッズ&マリアン亭の塀をジャンプで乗り越え空中で前方に三回転、捻りを加えて地面に方膝立ちで着地する……パーフェクトだ自分!


「何やってるんですか?」

「ん?」


 地面へ向いていた視線を上げると白いガウンを羽織ったマリアンさんと目が合う……ミラレテイタ?


「イツカラミテマシタ?」

「何でカタコトなのかは置いといて……カナタさんが塀を飛び越えた所が丁度見えましたので。今度からは入り口から入ってきてくださいね?」

「了解デス」


 後ろを向き逃げるように燻製室へ向う。


「どんな意味があるかわかりませんが、カッコよかったですよ?」

「イヤンッ!」


 顔面から火が出そうだ。もうマリアンさんの顔を直視出来ない……

 ボクは走るようにその場を逃げ出した。



 燻製室からは桜チップを思わせるかぐわしい香りが漂ってくる、先ほどの事は無理やり記憶の奥底へ封印し飛び開けるように燻製室の扉を開ける。燻製の番をしていたプテレアが地下で繭になっているけど監視は誰が? ボクのその疑問は五秒で解ける事となった。


 緑色の30cmくらいの身長の人形が蔓を伸ばし燻製室から完成品を取り出し梱包をおこなっている!?

 入ってきたボクに気が付いたのかムカゴ芋とラビッツの肉、時忘れの身と自然薯それぞれを一口分毟りとって目の前に持って来てくれた。試食してみろって事だよね?


「美味い! 何だこれ……ラビッツの肉ってこんなに美味しかったっけ? 時忘れの身なんて飲み込むのが惜しいくらいだ。ムカゴ芋も水分が飛んで程よい塩梅に燻製されててついつい手が伸びそうになる。自然薯は予想していたより大分……ミイラになってる!? あっ、でもサクッと歯が通るしスナック感覚で食べれて良いかもしれない? ボクの知ってる自然薯よりかなり水分値が高かったのかな? 水分飛ばして燻製しただけでここまでミイラになるなんて思いもしなかったね~」


 ボクの反応に満足したのか緑の人形は自分の作業へと戻っていく。人形は文字も書けるようで、梱包された商品をメアリー&レイチェル宛と書かれた紙が張ってある編み籠へ丁寧に入れていた。ちなみに毟った分の燻製は包んで持たせてくれました。


『毒消しスプライトLv12』


 簡易鑑定の結果プテレアが言っていたスプライトだと言う事がわかる。いつかもっと増えたら町の外に支援拠点を作った方が良いかもしれない、さすがにリトルエデン本拠地の畑だけだと窮屈そうで可哀相だ。


 不意に燻製室の外からスンスンと鼻を鳴らす音と共にルナが顔を覗かせる。


「カナタおったで!」

「もう朝ご飯の時間だよ~」


 ルナとメアリーが燻製室を覗き込んでいる、ここはプテレアに頼んだら使っても良いという事を伝え朝食に向う事にする。


「プテレアが起きたらルナもラビッツ燻製にすると良いよ? 凄く美味しくなるから。プテレアが作り方知ってるから渡すと作ってくれるよ?」

「ラビッツ美味しくなるん? スンスン? 何かマーガレットとロッティのニオイがするで?」

「ふむふむ? 本当だ。そう言えば今朝カナタ見なかったけど地下室でアノ後も何か作ってたの?」


 ルナとメアリーの鼻は凄く良い、仕切りに鼻をスンスンさせる二人の口に燻製ラビッツを千切って放り込み話題を変える事にした。


「今朝、冒険者ギルドでランク申請してきたから明日にはボクもAランクだよ! あと緊急依頼の報酬にモウモウの毛皮と肉取り放題券貰ったから好きに使って良いよ? 肉は行ってくれたら持って来るからね~」

「うます! 何やこのラビッツは!? うちのラビッツの干物も燻製してんか!」

「美味しい……これは絶対売れる! 今そこの編み籠に入ってる分だけでも販売ルートに回すね~」


 上手い具合に話しをそらす事に成功した。二人とも尻尾をフリフリしながら手に抱きついてくる、今日は昨日時間が足りなくて作れなかったベヒモスバックパックを作ってひたすら燻製の製造かな?



 食堂に着くともう六時を過ぎており、先に食べていれば良いのに皆お預け状態で待機していた。アルフの手にホークで刺したような痕が有り隣にすわっているレッティが睨んでいる所を見ると、先に食べようとしたけど無理だったみたいだね。


 今朝の朝食は……コップに入った茶色いスープとオニギリ?


「これはもしかして……」


 フライング気味にオニギリを手に取り食べる、米が少し細長いけど塩握りだ。そしてスープをホークで混ぜ一口飲んでみる……味噌汁だ!


「塩握りと味噌汁……味噌汁に水菜っぽい野菜とカナタ芋の茎が入ってるし出汁が少し薄いけど懐かしい味がする!」


 自分の席に着くと飛びつくように食べ始めるボクを、皆驚いた表情で見つめ自分達もご飯を食べ始める。


「今朝カナタさんが急いでいたみたいなので、手早く食べれる物にしてみたんです」


 急にマリアンさんの声が聞こえ思いっきり咽るも何とか持ち直し顔を上げる。


「美味しいです! あと今度で良いので全員にこの料理教えてあげてください、ボクの大好物の一つですから! それでは今日も忙しいのでまた~」


 オニギリを口いっぱい頬張ると味噌汁で流し込む、水菜っぽい野菜とカナタ芋の蔓も素早く咀嚼し一気に扉を開け飛び出す。


 残されたクラン員は驚きその素早い食べ方を試したりしてこの料理がどれだけメリットの多い料理なのか知る事となった。片手で食べれて食べながらでも周囲を警戒出来る、いざと言う時は味噌汁で流し込み一気に戦闘体勢へ移行出来る。


「さすがカナタや! さっさと食べて秘密基地に行くで~」

「メアリー、コレ中におかず入れたら売れそうじゃない?」

「レイチェルそれいただきだよ!」


 カナタの知らない所で新商品は日々生まれ続けているのであった。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 




 昨日のまま用意されたベヒモスバックパックが載っている黒鉄杉のテーブルを前に一人うなるボク。


「思わず飛び出してきたけど……後でちゃんと話して謝ろう。皆が来る前に試しに一個作っておこうかな?」


 奥の部屋にはまだ繭のプテレアが居る、アヤカもマーガレットとロッティの横で爆睡していた。

 ベヒモスの胃袋を一バックパック分取り結界で空中に固定する、空間を把握――結界の内部を自分の魔力で満たし浸透させていく、予想以上にスムーズに魔力が通る。


「おぉぅ! もう既に白い固まりになった」


 ついつい嬉しくて独り言が漏れるけど気にしない、MAXっぽい所まで魔力を浸透させ終わったので次は空間を広げていく、一瞬で知覚外まで広がる――町を覆うほどの空間へと成長し慌てそうになるけどこれはまだイメージの段階でここで止める訳にはいかない、ユックリサイズを町全体と同じ広さに固定する。

 また白い固まりが変化していく、このまま浸透した魔力を小さく……ベヒモスバックパックと同じまで圧縮して行くと白い固まりに色が付き始める。


「完成したっぽい? 真っ黒なバックパックになっちゃったけど何でかな? ついでに超硬化もかけとこうかな!」



『シュヴァルツカイザーバックパック』

 魔物の王ベヒモスから生きたまま取り出した胃袋を、超高密度の魔力で覆い加工して作られたバックパック。0.44平方キロメートルの面積を持つ空間が内包されている。内包空間には時間の概念が無い為、いつでも入れたて! 超硬化されているためベヒモスの胃袋の質感そのまま強靭な耐物理・耐魔法性能を誇る。

 :【亜空間ボックス】生物不可

 :【超硬度】



 何か超カッコイイ!? ヤバイ、治まっていた病気が再発しそうな気配がする……落ち着け自分。


「ふぅ、危ない所だった。結構いっぱい入るっぽいけど面積? 体積じゃないって事は物体の高さに制限が無いのかな?」


 皆まだ来ないので全部同じ方法でシュヴァルツカイザーバックパックに作り変える事にした。

 一度作ったらもうこっちのモノ、目を瞑っていても作れる。ちゃっちゃと四〇個のシュヴァルツカイザーバックパックを作成し……名前長いから略した方が良いよね?


「黒バックで良いか! 黒帝王とかにしたらアヤカにいじられそうだしね……」


 ちゃっちゃと作りすぎたのかまだ誰も来ない、ちょっと寂しい。スマホを見ると前ダイヤを作った残りの炭素が大量に残っている、前回は急激に冷やし過ぎたからダメになったんだと思う。次は必ず成功する――いや、成功させる。今のボクに出来ない事は無い!


 プテレアが起きる前に作り終えたらバレ無いはず? こそこそと前回ダイヤ製造をおこなった部屋へと入り、念には念を二四層の結界を部屋全体と材料の炭素を覆うように張り、ありったけの炭素を次々と結界内部に投入していく。確か2200℃くらいで20万気圧くらいかければ出来た気がする。


 結界内の空間を温め結界で押しつぶしながら、炭素をイメージしてその炭素から手を伸ばし、炭素原子同士が作る共有結合をイメージの中でくっ付けて行く、ダイヤモンド結晶構造を作り出しイメージを補強していく……これ全ての炭素分子を欠損無く綺麗に配置したら硬くなりそうだよね!


 結界内部に異常な空間が出来上がっている事に気が付かなかったボクはそのまま作業を続行する。


 どうせならダイヤの盾とかの形で作り出した方が便利だよね! イメージに20cmくらいの円形の盾を重ねていく……


 内部の結界が悲鳴を上げて居る事に気が付き結界を追加し、倍の四八層結界を維持しつつ作業を再開する。一応自分のMPもモニタリングしておく事も忘れない。


 MP :221/1383[100+282+1001+☆]


「大分MPが足り無そう……現在残り200ちょっとかな? 【魔力の源泉】を使ったら無限にMP使える気がする!」


 狂気の発想が飛び出す。世界に存在する力は自然回復可能、MPへと変換し続ける事でほぼ無限のMPを利用出来るのでは無いか? 思い立ったが吉日、早速【魔力の源泉】を使用し更なるMPを消費し続ける……


『パリンッ』と乾いた音を立てて何かが割れた? 辺りには誰も居ないし結界の外に影響は出て居ない。

 気のせいかと思い作業を再開する……体が重い? 急いでHPもモニタリングに出す。


 HP :0/1783[500+282+1001+☆]

 MP :0/1383[100+282+1001+☆]


『パリンッ』と乾いた音がまた響き渡る……HP・MPが0?


 HP :1663/1783[500+282+1001+☆]

 MP :0/1383[100+282+1001+☆]


 回復するMPを消費し続けて足りない分をHPから無理やり奪い取られている!?


 HP :1468/1783[500+282+1001+☆]

 MP :0/1383[100+282+1001+☆]


 回復する速度が間に合って居ない! 急いで結界を維持したまま、中心へと行使中の魔法を止めようとした時点で――ボクの意識はテレビを覗き込むような場所へと移動する事となった。


 テレビの中では自分が治療をかけながら他にも色々な魔法を同時に行使している……?


「カナタは馬鹿なの!? これ以上安全な場所は無いって言う自分のホームの守護獣の結界の中で――何も無いところから死亡フラグを自分で作り出して二度も死んで! 僕が中に居なかったら生活魔法を止めてこの結界内の物質が起こしている反応が暴走して、この町を道ずれに巨大な力の固まりに変わる所だったんだよ!? 馬鹿なの? 死ぬ気なの!」


 テレビの中で自分が喋っている、これはブリギッドと入れ替わったみたいだ。


(――え? そんなに怖い事になってたの!?)


「こっちは何とかするから自分がやった事を反省して! 摂氏二二〇〇℃二〇万気圧に耐えれる生物がどこに居るんだい!?」


 二二〇〇℃……銅はもちろん鉄も銀も大抵の金属なら融解するよね? 二〇万気圧? 押しつぶされるの?


「金属でも融ける温度に炭素がダイヤモンドに変わるくらいの超気圧で圧縮されたら全ての物質が力の固まりに変わっちゃうんだよ!? 馬鹿なの死ぬの!?」


 こちらの事が見えているのか必死の形相で怒鳴りだすブリギッド。周囲に濃密な魔力を振りまきながら超高度な魔法制御で何とか持ちこたえているみたいだ。


「反省しないのなら制御するの止めたって良いんだよ? カナタさえ無事なら他の皆は――惜しいけど切り捨てられないわけじゃないんだよ?」


 凍りついた声でそうブリギッドが言う、頭の中に氷水を流し込まれたかのように意識が凍りつく。ボクを一番に考えてくれるブリギッドがそれ程まで言う、今……現在この状態は非常にまずいのだと知る。


(ごめんなさい! 今度からはブリギッドに相談してちゃんと安全確認します、もう悪い事はしないのでお願いします……)


「まぁ? 僕はカナタの事が大事だし? カナタが大事にする者を傷つけたりしたくないから本気でそんな事しないけどね!」


 ありがとうブリギッド、今思えばあの時合体? していなかったら危なかった。死亡フラグは自分で作り出す事もあるのか! 今後は注意しよう……


「これ……反応が終わるまであと一四四時間ほどかかるんだけど、カナタはその何も無い空間に耐えれないと思うから眠らせるよ? 大丈夫、後の事は任せてもらって良いから」

(そんな事も出来るの? あっ、でもこの後皆ここに来る予定なんだけど?)

「カナタは【光量調整】が有るから良いかも知れないけどね? 普通の人がこの結界を直視したら目が潰れるどころか脳が焼ききれて死ぬからね? 【光量調整】あるからなのか何故か結界が光だけ遮断してないから……この部屋ごと自己封印するよ? 一応置手紙は書いておくよ?」


 そう思ったボクをテレビの中のブリギッドはため息と共に嗜める。どうやら遮光結界は張っていなかったようだ。確かに【光量調整】を自動使用しているみたいで太陽を見てもボクは眩しくならないね。


(何から何までありがとうブリギッド……よろしくお願いね?)

「カナタと僕の仲じゃないかい。それじゃあお休みなさい――」


 ルナ……メアリー、皆ごめんね。少し眠るよ? 起きたらまずは謝らないと、ボクは迂闊過ぎたんだよね。


 まるでゲームをやっているかのように……この世界で生きる事を軽く考えていたのかもしれない。

 皆と同じ空気を吸って、同じ場所で生きて行く。次はもう間違えない、ボクはここに居るのだから……


 ブリギッドが維持している結界の内部に無色透明のダイヤモンドと思われる核が出来上がっていくのを眺めながら意識は闇へと落ちていく。



 暗い暗い闇の中――でもそこは何処か懐かしく……何かを思い出せそうな……

これで2章は終わりです、この後SSをはさんで3章を開始します。


来週火曜日……5月5日までには投稿したいと思います、仕事が鬼忙しくてGWまで仕事と睡眠時間で埋まりそうなので申し訳ないです。


明日には1章の登場人物簡易紹介を投稿するのでよろしければご覧ください!

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