第63話 言い訳じゃないよ!夜が来る?
プテレアの地下室(秘密基地? 皆適当に呼んでる)へ移動したボク達は、ベヒモス袋作成の為、即席で作った黒鉄杉のテーブルの上にベヒモスの胃袋を並べていた。もう子供は眠る時間になりそうなので急いで準備をする。
ベヒモスの胃袋のサイズは大きめ――どう見てもバックパックに見えるのは裁断をアリスとアリシアに任せたボクの落ち度だと思う……
まさかアリスとアリシアが世間に疎いとは思わなかった。確かにアイテムや素材を入れるバックパックは皆装備している。まさかベヒモス袋が腰に付けるタイプの袋だとは思ってなかったらしい。
考えてみるとボク達はスマホ・ベヒモス袋・バックパックと三種類の収納アイテムを使っているのでどれがベヒモス袋か見て考えてみれば――
むむむ……普通わかるよね? この姉妹はちょっと抜けてると言うかお馬鹿さんなところがあるのかも……
「さぁ、張り切って作っていこうか! ほら、アリスもアリシアも落ち込んでないで?」
「バックパックの方が大きくて便利やで? ベヒモス袋は中に入れた物を軽く出来るんや!」
ルナと他のクラン員総出でアリスとアリシアを慰めている……本人達は部屋の角で膝を抱え座り込んでおり、まったくこちらを向かない。一〇〇個は作る予定だったベヒモス袋もサイズを大きく取った為、良くて五〇個……小物も作りたいので四〇個と言ったところだろうか? まぁ人数分有れば問題無いよね。
「アヤカは腰に袋付けるのっていまいち好きじゃないから助かったわ。バックパックなら邪魔にならないし……それにこの見事な裁断は他の人には真似出来ないわよ?」
「「本当ですか?」」
「本当本当! ポジティブに行こうよ」
アヤカが捨て身の慰めに出て何とか持ち直した様子だ。アヤカは気恥ずかしいのか真っ赤になった顔をボクから見られないように背を向けている。
元々売る用には作らないと名言してあるのでメアリーとレイチェルはどちらでも問題無いと言っている、多分売る用なら数を稼げる小物で勝負に出たであろう事がレイチェルの手元にあるメモから読み取れた。
レイチェルが先ほどから何をメモしているのかと思えば、過去の王都オークションで落札されたベヒモス袋の内容量拡張と重量軽減の比率からどれが一番売れ筋なのか熱心に検討していた。
「裁断されたベヒモスの胃袋が大きいって事は、内容量拡張と重量軽減を既存の物より倍近く上げれかもしれないし。むしろ良くやってくれたって感じだよ! 発想の転換って言葉もあるしね~」
「そう、それよ! 発想の転換! カナタの馬鹿みたいなMPを使って作れば、多分凄い物が出来るとアヤカは確信してるのよ!」
「そうですよね……カナタは規格外なのでベヒモス袋も規格外であるべきですよね!」
「私も頑張ったよ~」
驚くほど立ち直りが早いアリス達の頭を撫でる、アリシアに至っては『私グッジョブ!』とか言っている、打たれ強い性格に感謝だよ!
最近余り見ないと思っていたアルフと……男の子二人は黒鉄杉を切る作業を行なっている。力作業はやっぱり男の子の方が向いているのか、長方形で10cmほどの黒っぽい半透明な結晶を黒鉄杉の土台棒にしっかりくくり付けたお手製の片手斧で……んん? アレってまさか!?
「ここで唐突ですが、皆さんに質問があります。進入禁止に指定されたとある部屋から黒っぽい半透明な結晶を持ち出した人は手を上げてください。別に怒ったりしないので……」
静まり返る地下室、誰も手を上げようとしない? 現物がある以上犯人はこの中に居るはず、言えない理由でもあるのかな?
皆の視線がボクからずれて右後ろを見ている、皆揃って視線を動かしている? 次は左に動いた……
振り返るとそこに居たのは壁に擬態したプテレアであった。
「何してるの? 見た目は壁でも凄く盛り上がってるからね」
「つい、カッ! となって抜いた……」
何が言いたいのか分からない。後ろから手を叩かれて振り返ると皆、思い思いの武器に加工した結晶を見せてくれた。皆の表情は揃って泣きそうだ。
「そう言う事か。ごめんね……この部屋はプテレアの一部だったんだよね、忘れてたよ。体に鋭い結晶の欠片が刺さったままとか嫌だよね。それに使うのは別に問題無いよ? 何か滅茶苦茶鋭かったから危ないと思ってただけだよ?」
「え? 別に何とも無いです。ただの石っころが主殿の魔力をいっぱい吸って綺麗になって行くのを見てカッとなっただけですよ?」
そう言えばプテレアはこんな性格してたね。皆自分の武器をそのまま使って良いと言われたので安心したのか、思い思いの場所に移動を開始しはじめ――
「アヤカそんなの貰ってない……」
その一声が静まり返った地下室に響き渡り、瞳から光りが消え口元をワナワナさせたアヤカがボクを見て震えている。プテレア……これどうすれば良いの!
「主殿の魔力が篭った結晶片なので、眷族化と才能開花を行なった者に渡して行く事にしました!」
背筋に冷たい汗が流れる、皆口元を押さえてボクから視線をそらした。
「別に忘れてたわけじゃないよ!? ちゃんと次期を見てやるつもりだったよ?」
「なら今シテ!」
目を閉じ顔を近づけてくるアヤカ、眷族化には体液の交換が必要なのはルナから聞いた。血でも汗でも唾液でも何でも良いらしい、聞く度に違う条件になるので多分体液の交換が正解だろう。アヤカ以外のクラン員にはお風呂でイチャイチャしてる間にも終わらせている。アルフと男の子二人にはルナ監視の元お風呂上りに汗を一滴……改めて考えるとすっごく恥ずかしい。
時間が経つと死亡フラグが立ちそうなのでアヤカを優しく抱き締めキスする……
アヤカが万力の様な力で抱きついてきて離してくれないのできっちり一分なが~いキスをしてしまった。
これで無事にリトルエデンのクラン員全員とスコールを除く魔物達に眷族化が済んだ。スコールは嫌いだから眷族化してないわけじゃない、何故かもう他の誰かの眷属になっているからだ。
眷族化と才能開花が余程嬉しかったのか、ルナを抱っこしたアヤカはクルクル回りながら部屋を飛び跳ねていた。ルナも楽しそうにしているので少しそっとしておこう。
「SES【宝物庫】って何かしら? 【アイテムボックスS】の親戚? 鍵が出てきたわよ?」
アヤカは回るのに飽きたのか開花した才能の検証を始めている、切り替えが早いのはこちらの世界の住人必須スキルなのかもしれない。放り出されたルナは呆然とこちらを見ている……
「スキル名から察するとアイテムボックスの強化版? でも鍵が出てくるって事は……触れない?」
アヤカの手から鍵を受け取ろうとしても触れない、立体映像に触れているみたいだ。本人以外触れない可能性が高い、と言う事は鍵を使って何かする系スキルだと推測される。
鑑定すれば早いんだけど……知り合いにスキル鑑定のスキルを持っているのはグレンドルさんしかいない。何故かこのおっちゃんだけはさん付けで話してしまう、貫禄があると言うか……なんだろう? もし何事も無く冒険者ギルドに到着したら多分ボクはこの人を選んだだろう、美人受付嬢やイケメンに混じってカウンターに立てる度胸と精神的強さに尊敬の念すら覚える――
「あっ! この空き部屋、扉無いのにこの鍵突っ込んだら部屋が出来たわよ!?」
「意味がわからないけど見た感じ何と無く分かったよ……」
考え事をしている隙にアヤカの検証が進んでいた。何も置かれていない扉の無い部屋に、どこぞの銀行の大金庫を思わせる頑丈そうな作りの扉が付いている……アヤカのスキルは頑丈な宝物庫を作り出すスキル?
同じ用に他の部屋にも鍵を突っ込んでいくアヤカ、二つ目の部屋に現れたのはただの扉だった。
「アヤカちょっと行ってくる~」
「ちょっと待って! 危ないから、あぁ……」
静止の声も間に合わず、アヤカは扉を開け薄暗い扉の中へと入っていった。後を追うルナ、ボクも心配になって追って見るも扉はやはり触れる事は出来ない。扉を貫通して入った薄暗い部屋の中、ルナの目が光っていて怖い……
「どうしよう……戻ってこなかったらどうすれば? スマホのGPS機能から位置を特定して、すぐにでも救援に行かないと!」
「ただいま~? どうしたの?」
部屋から顔を出しアヤカの行方を捜す手段を考えていると……不思議そうな顔をしたアヤカが何故か初めに作った宝物庫から出てくる。そしてまた中に入って扉側から出てきた。これはもしかしたら……どこでも扉!?
「それってどこでも扉的なスキルなんじゃ!? 凄いよアヤカ! テレポートチートゲットだよ!」
「う~ん、使った感じだと宝物庫は一つ限定ね、扉は複数配置出来るみたいだけど私しか通れないっぽい? どれだけ遠くに扉を設置出来るかわからないけどもしかしたらテレポートチートかもしれないわね……」
定番過ぎるチートを何個も持っているアヤカは反応が薄いけど、かなり凄いスキルだと思う。アヤカは扉を量産していくけど四個目を配置した瞬間一個目の扉が消えた。記憶出来る位置は三個って事かな?
「微妙ね~ソロなら緊急次にも使えるし便利かもしれないけど……PTじゃ私だけ逃げてもね~。貿易には使えるかもしれないけど……そうなるとこの宝物庫の広ががネックになってくるわね、四畳半くらいしか無いわよ?」
考え事をしているアヤカの横でルナが宝物庫にラビッツの干物を入れようと頑張っている……結果は思わしくないようで、ルナが触れたままの物でも手放した物でも中には入っていかなかった。
基本アヤカが所持していないと中に入れる事は不可能みたいだ。アヤカ自身が放った火矢の魔法も中には入らずプテレアに焦げ目をつけただけだったので中は完全な安全地帯と見て良いだろう、もちろん中から火矢を放っても外に出てくる様な事にはならず、宝物庫の中でボヤが起きるだけみたいだ。
アヤカの検証結果から推測するSES【宝物庫】の能力は。
一つ、部屋の形をしている場所であればどこでも自分専用ルーム宝物庫を配置出来る。一個だけ。
二つ、外と繋がる扉は三個まで作り出す事が出来て、行き来は自由。四個目を作り出した時点で一個目が消える。
三つ、アヤカ限定で宝物庫には物資は持ち込めるけど生き物は不可、広さは四畳半?
四つ、安全地帯、空気はどこかから入って来る?
他にも有るかもしれないけど現在分かる事はこれくらいだ。検証を行なっているボク達を遠くから見つめていたアンナが欠伸をし、そろそろ眠る時間が近い事を知る。
「とりあえずベヒモス袋だけ作ってしまうね? あ、先に『魔力の袋』を五〇個くらい作るから、ベヒモスの胃袋を人差し指が入るくらいの巾着サイズに切って欲しいかも」
アリスとアリシアは待ってましたとばかりにベヒモスの胃袋を裁断していき、ロニーとミリーが手早くアウラ糸で縫っていく。銀の特大宝箱から出てきたアウラシリーズの糸・紐・縄などなど便利に使わせてもらっている。ボクが全力で引っ張っても千切れなかったので強度は折り紙付きだ。
出来上がった小巾着五〇個に魔力を限界まで込め、広げ、圧縮していく。二回目でコツをつかんでいたので拍子抜けする程あっさりと『魔力の袋(小)』が出来上がった。小型なので性能は落ちると思いきや、出来上がった品物を左目で見ると……
『魔力の袋(小)』
魔力の充填されたベヒモスの胃袋、使用者に魔力を還元してくれるマジックアイテム、特定の手順で魔力を込めると繰り返し使用可能。
:MP20/20
何故か性能は同じだった。コンパクトな分こちらの方が便利なので、アリスに一つ目の試作品『魔力の袋』と交換しようと言うと、泣きそうな顔になり頑なに拒否してきた……アリスはそのまま拳大の巾着サイズを使用する事になった。
「ベヒモスバックパック、縫い終ったよ~」
何故かご機嫌なアリスは、アリシアと一緒にベヒモス袋――もといベヒモスバックパックの縫製を終えると、魔力の袋を撫でながら鼻歌を歌いリビングで寛いでいる……いつの間にかリビングが出来ている!
「怒らないしビックリしないから扉の付いている部屋を開けて行って……」
「自信作です! 家具から装飾に至るまで全てプテレア擬態仕様のスペシャルバージョンですよ主殿! これも主殿の魔力を毎日貰いレベルUPした成果です!」
リビング・ダイニング・キッチン・お風呂にトイレまである。擬態中と書かれた看板が置いてある通路には、ネームプレートが入り口にセットしてあり各自の個室まで用意されていた。
ん? プテレアが気になる事を言った。ボクの魔力でレベルが上がる? 考えてみたらスマホに入れれる生物はボクのレベル以下じゃないとダメとアウラさんが言っていたのに、進化したラビッツ達はボクよりレベルが上だった。この短い間にボクの魔力を吸い取ってレベルUPしていたって事みたいだね……長年の謎が解けた気分だよ!
『プテレアLv997』
「どんだけー!? もうすぐサウザンドだよ! 成長とか言うレベルじゃないよ!?」
「サーベラスもカナタから魔力吸えば強くなれるで? え、うちじゃないよ? ちょっとまってや!」
プテレアの想像を超える成長速度に頭を抱え考え込む。隣でルナがボクにサーベラスをけしかけようとするも、サーベラスはルナの魔力が好みのようで尻尾フリフリしながらルナを押し倒している。
「そろそろおねむの時間だよ~」
「考えてみたら――別に味方が強い分には問題無いよね!」
この世界で生きていくのに切り替えが大事だと悟る。あちらこちらでウトウトしている皆に、プテレアの蔦が巻き付き寝室へと運んでいく様子を見ながら足を寝室へと向ける……アレ?
「うちねむい……むにゃむにゃ」
「ボスもいきなり何を……」
「何か変だよ? このニオイはイチの実……」
ルナがサーベラスを抱えたまま仲良く眠り、アンナはそんなルナとサーベラスに近寄ると糸が切れた様に眠ってしまった。メアリーはイチの実のニオイがすると言い眠ってしまう、周りを見渡すとプテレアとマーガレット以外全員眠って蔦で運ばれていく。そう言えばロッティが居ない……居た! マーガレットの後ろで白いイチの実が生った鉢を抱えてこちらを見ている?
「さすがカナタ、丁度良いですわ……眠ったままだと張り合いが無いですの」
「別にアノ事は恨んでませんよ? 私とマーガレットは一八歳以上ですからね?」
プテレアに視線を送るもそらされてしまう、今ボクの両足に巻きついた蔦はプテレアのモノで間違いない。
マーガレットと強気のロッティはその蔦が向かう先――擬態中と書かれた看板が置かれている通路へと歩いて行った。ボクは蔦に引っ張られるまま後を追う……通路の一番奥に明かりが点いた部屋が見えてくる。
一際大きなベットが置かれた部屋……これは寝室と言う方が正しいだろう。丁度リトルエデン本拠地の寝室の様に、部屋が丸ごとベットになったような広々とした空間が目の前に広がっている。
ここまでくればこの二人がナニを狙っているのか……どういう魂胆なのか分からない方がおかしい。
「プテレア? ねぇ、ボク主だよ?」
「主殿は言いました。一八歳になるまではダメだと、つまりこの二人はOKです!」
「アヤカは後学のために……ちゃんと一八歳まで我慢するわよ?」
「アヤカ! どうしてここに!? と言うか助けて、は違うか……アレ? この場合ボクはどういうコメントを返せば良いのかな?」
アヤカは鍵を目の前にちらつかせると笑顔で握り拳から親指を出している……マーガレットとロッティは生まれたままの姿で待機中だよ!?
「カナタは私の事嫌いじゃないですよね? 愛のムチをあんなにくれたのも……愛ゆえにですよね!」
「何が有ってもカナタを愛し共に歩む事を誓います――それに私もう後が無いんですの……」
「皆大好きだしそう言う事にも興味があるけど……ボクには今無いし、無い状態での作法は知らないんですます」
ボクは混乱している! 自分の体が求めるように――吸い寄せられるようにマーガレットとロッティの間へベットの上を這い歩いていく。真っ赤になったボクを二人は優しく抱き締めてくれた。
マーガレットが聞き取れないほどの小声で何か呟きボクの下腹部を触ると……ハエタ!?
「睡眠導入効果がある特殊なイチの実のニオイを撒きました。他のクラン員は目を覚ましませんし、警備はプテレアが万全の体制をしいてくれていますよ? 朝までALLナイトですよね!」
「初めてですのでヨロシクお願いします!」
「合法オネショタGJ! デジカメは無いの!? アヤカの事は気にせずハッスルしてね!」
それ以上言葉は必要無かった。マーガレットの唇がボクの口を塞ぎ、ロッティがボクの胸に抱きついてくる……
そして長い夜が訪れる……三匹のケモノとなった者達の宴を邪魔する者は居ない。ただ、優しく見守る緑の人と……欲望にまみれた者の視線を除いては――
次話で二章最終となります!
平凡な日常? 終わりを告げる出来事が起こる予定です……




