第58話 モウモウ達の氾濫?緊急依頼開始!
北門へと向ったボク達がまず目にしたのは大通りの道に横たわる重傷者達。手当たり次第治療をかけて回るジャンヌと四人組み……北門の外は見渡す限りに白黒模様のモウモウの群れが広がっていた。
先に向ったルナ達は北門の外ギリギリで突撃してくるモウモウ達を抑えるのに必死になっている。オルランドやロッズも何とか町へとモウモウが入って来ない様にするので手いっぱいの様子だ。ロッズが飼っているモウモウをチラッと見た事はあるけど真っ黒だったしこんなに凶暴じゃなかった。
時折力尽きたモウモウを、西門の外組みの冒険者が街中へ放り込み、見習い冒険者達が解体を行なっている。
「どうして、見習い冒険者まで居るの!? 逃げたほうが良いんじゃないの!」
「やっと来たか! 【絶壁】最前列を任せられるか? 俺はロッズと入り口を押さえる! それとな、ここが最後尾だぜ? 見習いであろうと冒険者だ。自分達の守りたいモノを背負ってるんだよ!」
「【絶壁】が来たぞ!」「オレ、この戦いが終わったら彼女と結婚するんだ!」「お前! それは……」
オルランドの叫び声に反応して士気が上がっていく、一人フラグを立てた気がするけど守るよ!
『モノクロームREVOLTモウモウLv50』
見渡す限りに広がるモウモウを簡易鑑定すると恐ろしい事態に気が付く。
「このモウモウ……モノクロームREVOLTモウモウLv50らしいよ?」
ボクの声を聞いたオルランドが『アルファベット持ちか……』とつぶやいていた。ここは大規模魔法でぶっ飛ばすのが良いかな?
「取り合えず持てるだけの盾を持ってきたから飛ばすよ! 一〇秒後に前開けて!」
「了解! お前ら聞いたか! 一〇秒後前に残ってたヤツは【絶壁】の餌食になるぞ!」
なんと失礼なオルランド、無意識に盾が一枚飛んで行きそうな気がする。
ロッズが武器庫の鍵を開けたままにしていたので、中に置いてあった硬皮の盾を全部回収してきた。後でちゃんとお金払うし良いよね!
今回は【舞盾】でオートガード機能を試す、受ける・弾く・流すの三パターンを走りながらセットアップしてきた。――と言っても別段普段と使い方は変わらない、イメージを強く持って使用すれば生活魔法もスキルも普通に使うより効果が高い事が証明されているので、飛ばす・操る・防ぐの基本動作に敵意からの防御という項目を追加しただけの事だ。
元々ロッズの【盾闘円舞】と違いボクの【舞盾】は、明確に盾を動かすイメージが要らない。ロッズのそれがマニュアル操作だとすればボクのスキルはセミオート操作と言ったところである。
硬皮の盾は全部超硬化済みなので、まとめてプテレアの蔦でくくり付けて無理やり一個の物体と認識させスマホに放り込んである。スマホから出すと盾が蔦でグルグル巻きになった物体が出てくる、すぐに解く用の蔦を引っ張ると一瞬で蔦が外れ地面に盾が転がった。
「舞い踊れ盾達よ! 全ての敵意から守れ【舞盾】!」
ジャスト一〇秒で最前列が開けモウモウが開いた隙間へ突っ込んでくる、だけど一匹たりとも通しはしない。最前列へと突っ込んだボクとアヤカに半分ずつ盾が追尾するようにセットし、弾く機能を駆使し突っ込んできたモウモウにそのまま衝撃をお返しする。砂糖細工の様にモウモウの頭が簡単に潰れ、肉の壁へと変わっていく様子を前にして一網打尽にする魔法を考える。
アヤカの方がこちらで生きてきた年月は長いので、参考にこんな場合の対処方法の意見を聞いて見た方がいいかな?
話しを聞く間もフレイムウォールでモウモウの進行方向を制限する事を忘れない、アヤカもモゴモゴと口を動かし何か唱えて火の矢を空へとばら撒いている。
ここでボクは失態に気が付く。アヤカにPTを渡していない……今回後方に居て戦いと関係無いマーガレットを抜くとすぐにアヤカにPTを出す、これでMPが大分マシになるはず。
「アヤカPT入ってね? MPの回復速度が速くなるから、後アヤカならこの場合どうする? ボクは大規模な魔法で大穴あけてそこに突っ込んで殲滅しようと思うんだけど」
「回復速度UP? あぁ、あのスキルにそんな効果あるのね……それにさすがは【魔王の花嫁】言う事が違うわね~」
「うちらはもう少し立て直すのを応援するで! カナタ、もうちょっと待っててな?」
ルナが成長している! 前までのルナだったらボクの元に真っ先に走ってきたのに、今は周りの味方の事も考えれるみたいだ。感動した!
「アヤカなら第一に逃げる、第二に遠距離から魔法で狙撃してひたすら数を減らす、第三に奥の手を使って戦力を増強して現状維持を続けながら交代で粘る、のどれかね。ちなみに第三の場合アヤカの属性がバレル可能性があるからカナタが一生守ってくれないと死んじゃうわよ?」
アヤカの目は真剣そのものだ。多分第三の戦力増強は【魔法剣】スキルの事だろう、今の言い方から察するに他人の武器にもかけれるタイプで持続時間が短い? のかもしれない。アヤカの属性は勇つまり勇者で女だ。もしどこぞの悪い王様とか貴族に捕まったら……人の尊厳を散らされる事間違い無しだ。
「ボクも同じタイプのスキルを持ってるから、取り合えずクラン員全員に使って。あと何が有っても絶対に守るから安心してね!」
ボクは安心させる為にアヤカにキスをし、装備に超硬化をかけるとクラン員に交代でここに来る様に伝えてもらう。交代で来たクラン員にボクが超硬化をかけ、顔を真っ赤にしたアヤカが魔法剣を付与していく……槍でもちゃんと付与出来る様で安心した。ルナは素手と自前の爪で攻撃しているのでスキルも魔法もかける必要が無い、少し寂しそうだったのでキスをして頭を撫でてあげる。
「命大事にや! 倒れた冒険者は町の中で待機しているリトルエデンの者に治療してもらってや! 無料やから安心して良いで!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
減る気配を見せない敵、それでもボク達が来てから確実に押し返し始めていて、士気は下がる事無く上がっていく。ついでに街中で解体を行なう見習い冒険者の士気も鰻登りだ。今回の依頼は緊急過ぎたので報酬がまだ決まって無いらしく、明確な報酬が決まってない以上このモウモウの素材や肉が分配される事になり、後で依頼報酬が決まるらしい。
「【絶壁】さんが居るからには大儲け確実よ! 皆頑張って解体するわよ!」
「オレこの依頼が終わったら黒鉄杉の槍を買うんだ! あのリトルエデンの勇姿をいつか自分も!」
「リリー達がどんどん運んでくるから休む暇なんて無いんだからね!」
「馬鹿野郎がぁ! モウモウの角は短剣の素材だ。折るんじゃねえぞ!」
街中も怒声や皆を鼓舞する声が響き渡っていた。
「こんな時に愛姉はどこに……」
北門に着いた瞬間リリーに聞いたところ愛姉は新たな物資を補給するため、自分の家に帰っているとの事で連絡する方法が無い。
まさかとは思うけどこれ愛姉の仕業じゃないよね? ビックWARビーを飼っている愛姉の事だからまさかとは思うけど……もし他人に迷惑をかける様な事をしているのならさすがに怒るよ。
「ちょっとカナタ! こっちにいっぱいモウモウが流れてくるんだけど!? アヤカ一人じゃ無理! 火に弱いみたいだから火の広範囲魔法お願い! あれ? でもカナタのスキルに精霊魔法なんて無かったよね? どういう事?」
ちょっと考え事していた隙にフレイムウォールを迂回したモウモウがアヤカの分担している箇所へと詰め寄ってきていた。顔を青くして火の矢を放つアヤカに何故範囲魔法を使わないのかと疑問に思いつつ牽制に火花を飛ばし援護する。
「おかしい? これ生活魔法だよ? 全ての魔法のオリジナルが生活魔法に詰まってるらしいよ?」
「生活魔法からオリジナルの魔法を作れるのは知ってるわよ? オリジナル魔法は同じ火の矢を放つだけで倍はMPを消費する非効率な魔法よね? イメージがしっかりして無いとそもそも発動すらしないし……あぁ、そのためのスキルにこの盾なのね! 自動で盾が守ってくれて自分はMP消費気にせず魔法打ち放題とかカナタ何気に強いじゃない!」
何か色々勝手に理解してくれて凄く助かる。一を聞いて十を知る事が出来るアヤカはボクより賢いかもしれない? そもそもあっちは元三十路に入った独身OLさんだしボクの倍近く生きていたのならそれなりに……ん!?
いつの間にか隣に移動してきていたアヤカが、笑顔でボクの胸を鷲掴みにしていた。何故?
「今失礼な事考えてなかった? アヤカはピチピチの一四歳だからね? 余り舐めた事考えてたら……独り身で三〇年過ごした記憶がカナタの体に火を噴くわよ?」
「何の事かな――それより遊んでる場合じゃな、はぁん、んっ!?」
アヤカの手が胸をまさぐったと思うと、くすぐったいシビレがボクを襲う。言葉が勝手に出たと言うよりアヤカの手で言わされた!?
「乳繰り合うのは後にしろ【絶壁】! こっちは必死なんだよ! テンション上がるからもっとやれ!」
「おっさんの言ってる事、意味分からんで? うちもうカナタの方に行くな!」
「お、おう、すまんな助かったぜ。これでこの周りは少し落ち着きを取り戻した感じだな!」
ルナにおっさん呼ばわりされたオルランドはちょっとショックだったみたいで、顔に動揺が見て取れる。
そしてボクは女性に年齢はタブーだと改めて考えさせられた。
「大きい魔法一発行くからアヤカとルナでボクを守ってくれる?」
「アヤカ逃げるのと守るのは得意だから任せて!」
「やったるで! 【一匹の犬の戦い】! サーベラスは火を吐いて牽制や!」
「ワンワン! オッェオッェ」
アヤカが自慢げに逃げ足を誇りながら盾を構え魔法を準備している、気絶してルナに拾われてきた者とは思えない。
ルナは召喚スキルを使用し別の場所で戦っていたサーベラスを回収して、牽制に火を吐かせている。可哀相なくらい涙目で火を吐いているサーベラス……無理させないで! 多分まだ慣れてないのだろう。
早い所魔法を完成させてぶっ放すよ! ここは一つ火の広範囲を薙ぎ払える系で見た目カッコイイやつを作るしかない、位置関係の都合上ボクの前方から効果範囲が広がる必要がある。火炎放射を帯状に広げる?
燃料となる魔力を巡らせ燃焼に必要な空気を上空からどんどん集め前方に向けて放つ、魔法の明確なイメージを製作して一気に火種で着火する。一応ボクを含む後方へと結界を張り魔法を遮断、万が一の被害が出ない様に配慮。
「フレイムスロワー!」
初めチョロチョロとした火炎放射だった物が、上空から集めた空気を得て爆発的な燃焼を可能とし、凄まじい勢いで前方へと火炎の舌を伸ばす。
見た目に反して音が静かだったので案外火力が足りないのかと思い魔力を倍にして流す。どんどん伸びる火炎の舌は気のせいか帰らずの森の端っこを焼いている気がする……
静まり返る戦場……何故か味方だけではなくモウモウも静かにその場に立ち尽くしている。
「「「「「「……」」」」」」
皆の反応が無い、取り合えず倒せる時に倒す方が良いよね? 呆然と立ちすくむモウモウへとフレイムスロワーを横薙ぎにすると当たったモウモウが白い灰になり消えていく……
前方の一角に地面すら溶け出し焦土となった空間が生まれる。
「やりすぎちゃったかもしれない?」
「「「「「「ブモォォォォ!?」」」」」」
凄まじい雄たけびを上げながら森へと引き返していくモウモウ達。ボクを見るモウモウの目には涙すら浮かんでいた。
「【絶壁】……素材も何も回収出来ないわけだが?」
「命大事にだよ! 多分……やりすぎちゃったよ!」
「カナタ……いまの何? 今夜じっくり聞かせてもらうわよ?」
呆れ顔で溶けた地面を剣で突いているオルランド。何を思ったのか溶けた地面を剣で掘り起こし欠片を回収している?
アヤカは『疲れたもう動きたくない』とボヤキながらボクの左手に抱きついてくる。当たっていると言うか当てているのか柔らかい感触が肩に!
「おかしいな~うちが見た大きいモウモウはどこ行ったん?」
「大きいモウモウ?」
ルナの呟きに静まる皆と嫌な予感がするボク。アルファベット持ちなら上位固体が居てもおかしくない、この数で北門を攻めてきたって事は……
「まずい! 西門か東門が上位固体に襲われているかもしれない! オルランドは多分大丈夫な西門へロッズと数名はここの見張りお願い。我らが敵を拒めフル・アースウォール!」
「何て壁だ……まさに【絶壁】だな」
魔力をかなり大目に消費して北門の外、町の壁を囲うように高さ10mほどの土の壁を生成する。ちゃんと外を見渡せる様に窓も所々に付けて念のために超硬化も使っておく。
「ルナ、アヤカ、あとジャンヌも東門に付いて来て。他の者は負傷者の手当てと西門の様子を見てきて!」
「こんな経験値稼げるイベント滅多に無いからアヤカ張り切っちゃうわよ!」
手早く指示を出すと一般の冒険者達や新人冒険者も行動を開始する。残って北門を見張る者と西門へ行く者、東門へ走り出す者の三通りに分かれ動き出す。
クラン員を引き連れて町に入り東門へと向うボク達の耳に、町を覆う結界が壊れる嫌な音が聞こえてきた。続けて聞こえてくる町の壁が軋む酷い音、方角はやはり東門。
「こんな事なら東門にも人数振り分けとけば良かった……」
「まずいですカナタ! 東門は四人組みが守りに行っていたはずです……」
「まずいわね……突破されてると見た方が良いわ。最悪の事態にはなってないと思うけど急がないと!」
守りに行ったはずの東門が今攻撃を受けている、町も心配だけど四人組みの安否の方が心配だ。焦る気持ちを押さえつけ走るボク達。
待っててね……名前も知らないうちにボクの前から居なくなるとか許さないよ!




