第57話 同属現る?モウモウがやって来る!
朝目が覚めると胸元が寂しい……昨晩ルナはサーベラスと一緒に部屋の隅で眠っていたので、いつものルナの場所は昨日ルナが拾ってきた子供が眠っている。まだ少し早い時間みたいで皆の寝息が聞こえてくる。
それにしても何か熱い気がする? 寝息がかなり近くで聞こえてくる。
目を開けて周囲を確認すると……押し競饅頭状態で皆が集まって眠っていた。ルナが部屋の隅で眠っている為、ボクの近くで眠ろうと他のクラン員達が押し寄せたのだろう。
それは良いとして、問題はこの子供だ。ボクの右手に抱きついて眠っている……昨日はあの後すぐ眠ったので何も着ていない。ボクが動くと色々まずい事になりそうなくらいガッシリつかまれていた。
「おはようございます、そろそろ朝ですよ~」
「あと五分だけ寝かせて……」
「むにゃむにゃ」
定番のうわごとを言う子供、メアリーは朝に弱いのでご飯が出来るギリギリまで起きない。周囲では次々と起床し朝の自主訓練へと向っていく。皆こちらに遠慮しているのか小声で『おはようございます』と言い素早く部屋の外に出て行く。
別にあちらの世界から来た事など色々な事情を隠しては居ない、一度ルナとメアリーに話そうと思った事もあるけど『カナタはカナタでしょ?』と言われて必要無いと止められた。レイチェルはあちらの世界の商いについて聞きたがっていたけど、メアリーがそれを止めた。理由は自分達の力でカナタを助けるとの事だった。メアリーは戦闘ではあまり活躍出来ていない様子で、レイチェルと一緒に商いをしている方が向いてるのかもしれない。
左手で肩を揺すり子供を起こす、目を覚ました子供は慌ててボクから離れて自身の体をまさぐっている?
「おはよう……しなかったの?」
「ナニを! ボクは女だよ! それに無差別に子供を襲ったりしないよ!? ルナが嫁にするって言ってたけど嫌なら拒否してくれていいからね?」
予備の天使御用達の服をスマホから取り出すと子供に渡す、取り合えず服を着てゆっくり落ち着いてからお話しする方が良いだろう。子供が元から着ていた服はお世辞にも綺麗とは言いにくく、あちらこちらに破れが広がっている。何か魔物と戦った後なのかもしれない。
渡した服を着てその着心地に驚き何故かその場でゴロゴロ転がり始めた子供に、昨日の話の続きを促す事にする。
「名前が分からないけど、あなた日本人だよね? どうしてここへ?」
「交通事故で5tダンプに正面から……気が付いたら赤ちゃんになってて焦った焦った。体が動かないし声が出ないし目もあまり見えないし、思わず命は助かったけど全身麻痺で寝たきりとか想像して絶望しそうになったわ! ――でしないの? 見たところ貴女結構裕福な暮らししてるみたいだし、安全を保障して養ってくれるなら嫁になっても良いわよ? それにレベル1001なんて……ヒィッ!」
余程日本語で話すのが嬉しいのかノリノリで話してくれるけど、何故か最後に引きつった悲鳴を上げて壁際まで後ずさる子供。取り合えず誤解? を解かないといけない。
「一八歳未満の子供と色々したりしないからね! それにそんなに簡単に自分の人生決めて良いの? 後レベルが高いのは無理過ぎるパワーレベリングしちゃったからだから気にしないで……取り合えず名前教えてね?」
一瞬惚けた顔でこちらを見てくる子供、次の瞬間何故か笑いながら話し始める。
「もしかして勝手に見るのはマナー違反だ~とか言っちゃうわけ? それにその考え青いわね。この世界で一四年生きてきた私から言わせて貰うとこれはチャンスよ? 力を持つ者にすがるのは弱者の知恵、カナタって呼んで言いのかしら? カナタはこの世界の事を知らなさ過ぎる。子供の頃夢描いてた事を大人になって成し遂げれる人がどれくらい居るか知ってる? 一〇〇人居たら何人くらいだと思う?」
「二五人くらい?」
「答えはゼロよ! 普通に過ごしていたら夢描いた事なんてそのまま夢の中よ? こんなチャンスをつかまない人はこの世界には居ない……この世界には恋愛なんて甘いモノは存在しない、生きれるのなら……力を手に出来るのなら何だってするわ! 私は崎守彩夏、アヤカって呼んでね? 下種野郎の嫁になるのは御免だけど――カナタならむしろ歓迎するわね~ふふふ腐」
ヨダレを垂らしそうな笑みを浮かべ、こちらの様子をうかがい始める子供。何かタメ口は良いとしても印象がガラッと変わった。もしかしたらあちらの世界じゃボクより年上だったのかもしれない、一四年の歳月がこの子を変えてしまった可能性も……? これは感だけどこの子から同属のニオイがする!
「アヤカ~攻めの反対は?」
「はい? そんなの受けに決まって……ハッ!」
こんな簡単な質問で釣られるとは一四年の歳月は感を鈍らせたようだ。こちらを見て顔を青ざめさせる子供に優しく話しかける事にする。
「大丈夫、ボクも同属だから! あちらの世界では一七歳で高校生してました。残してきた唯一の心残りが連載中だった小説と漫画にアニメですよ? ちなみにそういう事は一八歳になってからでお願いします」
「お、脅かさないでよ! アヤカは~二四歳で~OLやってました~って感じ? まさかこの世界で腐女子に合えるとは思えなかったわ。あの事故にあった日オンリーイベントの帰りでさぁ……戦利品が詰まったキャリーバックがどうなったのかだけ心残りだったんだよね~事件とかになってた? まさか新聞に載ってたりしないよね!?」
ボクの記憶が正しければ……新聞の一面を飾ってしまった可哀相な人が居た。オタクの間で伝説となっていた気がする。一冊10万円もする超プレミア本を親友の為に三日徹夜で並んで手に入れた帰りに、交通事故にあった三〇台女性かもしれない。
でも二四歳? 何か怪しい……喋り方に無理がある、目をそらして答えたアヤカに疑惑の目を向ける……視線に気が付いたのかビクリと体を震わせ謝り始めるアヤカ。
「ごめんなさい……丁度三〇歳になったばかりの独身OLやってました。それで! 私の事故ってどうなったか知らない?」
「多分該当する事件の事は知っていますけど……こちらの世界で一四年も生きてきたアヤカとは多分違う人かも?」
「アー多分それ私よ? この世界時間の流れが違うとか何とか神様が言っていた気がするし。で? どうなってた?」
「安心してください、キャリーバックは運良く弾かれて中身が溢れたり本が汚れたりはしなかったみたいですよ? 親友に頼まれていた10万円の超プレミア本もアヤカの親友が無事受け取りました。新聞に遺影の横で大泣きするふとましい女性が写っていましたよ?」
ボクの言葉を聞いたアヤカは突然――夜叉の仮面の如く表情を変えた。
「あの雌豚が……誰がアヤカの親友だぁ? 最後の一冊を私が買ったからって遺品にそこまでするかぁ? 呪い殺してやりたいわ……」
「まさか……? そんな事までするの? 無い……」
どうやら美談は美談じゃなかったらしい、恐ろしい世界だ。
「今の言葉は聞き捨てられないわね……カナタも腐女子なら分かるでしょ? 反対の立場なら多分私もやっていたわよ?」
コロッと意見を変えるアヤカに寒気が走る。そして勘違いされているので訂正しておこうかな?
「今はこんな姿ですけど……あちらの世界では男だったのでヨロシク! まぁ多分アヤカがボクを見たらヨダレ垂らして拉致しそうな気がしますけどね」
「そう……オタクだったのね、まぁ仲良くしましょうね?」
その一言で全て察してくれたのかじりじりとにじり寄って来るアヤカ、手の動きが怖い。
「ちなみに、私可愛ければどちらでもいけるかもしれないわ……ここは法律なんて無いしね」
「他の子に手出したら怒りますよ? あと相思相愛は良いですけど無理矢理はダメ絶対!」
ボクの肩にすがりつきながらカミングアウトするアヤカを放して朝食へと向う準備をする。聞き忘れていた事を思い出したのでついでに聞いておこうかな?
「ボクのステータス見ましたよね? 目光ってなかったですけど何のスキルですか?」
「私も見たからカナタも見ていいわ。【簡易鑑定】と言うのがそれでしょ? 冒険者リングで見る?」
左手を出してくるアヤカを手で制して左目で見る。
名前:彩夏=崎守
種族:半妖精人 年齢:14 性別:女 属性:勇
職業:狩人・魔法剣士 位:無し 称号:【期待の新人】 ギルドランク:D
レベル:56[42+14]☆
HP :319/319[200+56+63]
MP :219/219[100+56+63]
攻撃力:43[42+1]
魔撃力:63[63]
耐久力:67[63+4]
抵抗力:5[3+1]
筋力 :56[42+14]
魔力 :77[63+14]
体力 :77[63+14]
敏捷 :56[42+14]
器用 :77[63+14]
運 :NORMAL[3]
カルマ:480[3206]
UNS
:【動物親交】
EXS
:【強靭な身体】【鋭敏五感】【第六感】
スキル
:【鑑定S】【アイテムボックスS】【精霊魔法】【生活魔法】
:【近接戦闘E】【中距離戦闘E】【耐性:病F毒F】【暗視E】
:【遠見F】【隠蔽E】
Aスキル
:【ヒール】【カウンター】【ソードバッシュ】【回転切り】
:【魔法剣】
装備品
武器 :黒鉄杉の剣[攻+1]
盾 :無し
兜 :無し
仮面 :無し
服 :天使御用達の服[耐+1抵+1]【浄化S】【自己修復S】
鎧 :レザーベスト[耐+1]
腕 :レザーアンクル[耐+1]
腕 :無し
靴 :フォレストウルフの靴[耐+1]
その他:冒険者リング
:布のバックパック
強い……! それに魔法剣士とかカッコイイ!! カルマが異様に低いのが気になるけどさすが一四年の歳月で磨いてきた力は段違いみたいだ。後は種族と前提スキルが無いのにEXSが有るのが気になる。
「普通鑑定したら今みたいに目が青っぽく光ったりするんですよ? アヤカの目は光らないみたいだね」
「? 今カナタの左目は赤黒く光ってたわよ? アヤ……私見たからね?」
「私に直さなくても良いですよ? 人それぞれだし、その体は一四歳なんでしょ? 歳相応です」
「ありがと……」
アヤカは自分の事を名前で呼ぶ人のようだ。無理に私と言っている感じがするので問題無いと答えておく。三〇歳独身OLが自分の事を名前で呼ぶのはどうかと思うけど……
「今思ったけどアヤカ人生初の嫁ゲット!? この世界に来て良かった!」
ダンプに轢かれてこちらの世界に来たのに何か嬉しそうなアヤカ。そろそろご飯の時間なのでボクはアヤカとメアリーを連れて食堂へと向うのだった。
ちなみにルナはサーベラスと一緒にまだ眠っていたので、後でご飯を持って来てあげよう。
食堂の上座……自分の席に座り、朝食がてらの報告会が始まった直後ルナが食堂に現れる。無言になる皆……サーベラスが居ない?
「うちはもう大丈夫や! それにサーベラスも強くなったで!」
外から食堂の扉越しにこちらを見る四つの目……気のせいかサーベラスの顔が二つあるような?
「進化したサーベラスはうちと契約してん! サーベラスを召喚できるねんで! ワンワンウォー!」
ルナがそう良いスキルを使った? 扉からこちらを見ていたサーベラスが消えルナの足元にサーベラスが現れる!?
「召喚のスキル? ワンワンウォー? おめでとうルナ!」
「「「「「「ボスおめでとうございます!」」」」」」
「【一匹の犬の戦い】ってスキルやねん! サーベラスはうちの相棒や!」
昨日アレだけ落ち込んでたとは思えないテンションではしゃぐルナを撫でると、席に座らせてご飯を食べ始める。
ルナの足元には一つの小皿を二つの頭で奪い合うサーベラスが居る……ん!?
「サーベラスの頭が増えてるよ!!」
「「「「「「本当だ!」」」」」」
「もう一個お皿用意しないと……」
メアリーは冷静にもう一個お皿を用意して朝ご飯を入れる。食べてる物は皆と同じ物で、最初は塩分やらなにやら心配になったけど魔物なので問題無いそうだ。取り合えず簡易鑑定してみるしか!
『オルトロス(サーベラス)Lv55』
どうやらガルムから進化したようだ。親はガルムのままなのに……? サーベラスの才能なのか、それとも父親の血?
「うちの眷属になったんやで? サーベラスはいつかスコールを叩き出すって言ってるねん!」
ルナが眷族化を使ったようだ。ルナの眷属となったサーベラスは何かしらの力をルナから貰って進化したようで、スキルもその関係で手に入れたのだと思われる。
「そのスコールの事なんだが……宿の方から苦情がきている、泣き声が五月蝿いとの事だ」
「昨日全然気が付かなかったんですけど、鳴き声なんて聞こえました?」
「泣き声なんだ……カナタからガルワンに言ってやってくれないか? スコールは今朝方……俺の部屋に逃げ込んできた」
ニャンニャン五月蝿いのかと思ったけどどうやら違うようだ。ロッズは言いにくそうに言いなおす。
ロッズさんの部屋に逃げ込む? 泣き声? 訳が分からないよ?
「分かりました、夜は静かにするように伝えときます」
ロッズさんはそれだけ言うと宿を改築する作業へ戻っていった。
ご飯を食べ終えた皆は、昨日のマーガレットさんが言っていたお風呂会議の為に準備をしている。ボクは先にガルワンに今朝の事を注意しに行く事にした。
食堂を出ると何かを探すような仕草で歩くガルワンが、丁度食堂前を通り過ぎようとしていたので今朝の事を話し夜は静かにするように言い含める。ついでにスコールはロッズさんの部屋に居る事を伝えてあげる。
「ワン~ワン~♪」
「ガルワンが凄くご機嫌だね~。気のせいか毛並みが前より良くなってたし」
「何かロズマリーお母さんみたいだったかも? 時々あんな感じにご機嫌になるんだよね~」
誰しも機嫌が良い時は体調が良くなるみたいだね。ガルワンの小屋に向う必要が無くなったのですぐに最上階にある展望露天風呂へと向う事にする。食事の前にエルナが『今晩はカナタ芋料理』と言っていたので朝からテンションが上がる!
お風呂で行なわれた作戦会議は、セクハラ魔人と化したマーガレットから逃げるボクを放置し滞りなくおこなわれたみたいで。お風呂で汗まみれになりながらなんとか一時間逃げ切ったボクは、マーガレットが出勤して行くのを見届けてから湯船にゆっくり入る。マーガレットは展望露天風呂禁止にしないといけないかもしれない。
作戦会議で話し合われた事はメアリーがまとめてくれているので今から聞くところだ。
「朝から体力の消耗が酷い……でも逃げなかったら色々大変な事になりそうだよね」
「カナタはモテモテだね~それにしてもこの露天風呂凄いわね。もう何時間でも入っていられそうだわ」
アヤカはこちらの世界ではお風呂に初めて入るとの事なので、やはり一般的にはタライにお湯なのだろう……
「一から聞く? それともマトメで説明する?」
「じゃあマトメでお願い~」
メアリーはあまり長湯が好きじゃないみたいだ。一人用の水風呂に入ったまま説明を続ける。
「帰らずの森に亜種か変異種と思われるモウモウが出現したので緊急討伐依頼が出ています、基本参加資格というかギルドランクD以上は強制参加になってるよ? 相手が相手だからランクが低い人でも実力者はギルドから召還状が届いてるから、私達は強制参加だね~」
「ふ~ん、いつ開始なの? その強制依頼」
「三回目の鐘が鳴ったあとだから約五時間後だね~」
「えっ? 何それどういう「グゥモォォォォ!!」こと?」
聞き返すボクの言葉を遮るように町に響き渡る牛に似た魔物の雄叫び。北門の方から聞こえてきたと思う。湯船から出て転落防止用の竹網から北門の方角を見ると木が飛んできていた。
「空飛ぶ木なんて魔物が居るのか……結界に当たってるのかな? 弾かれてるけど空にヒビが入ってきてるような気がする!」
「どう見ても魔物が木を飛ばしてきてるんだと思いますよ? それにしても町まで攻めてくるとか……どんだけ狂った魔物なのか、私このままお風呂入ってても良いですか?」
「行くで! カナタ先に用意が出来た者を連れて行くから、残りはまとまって来てや」
冗談に冷静な突っ込みを貰う、突っ込んだ本人は湯船に肩まで使って目を閉じている。容赦の無いルナがそんなアンナを頭上に抱え上げ走って出て行く。ちゃんと服は着て行ってくれるよね?
「冒険者ギルドから依頼自体受けてない気がするけど強制なんだよね?」
「もう受けてます、昨日の帰りにルナが二つ返事で……」
「私も実力を見たいし見せたいから頑張るわ!」
残りのクラン員も召集してフル装備に着替えるとガルワンに少し頬がこけてゲッソリしたスコールも呼んで北門へと全力疾走する。武器庫が開いていたので硬皮の盾をちょろまかし……借りる事にする。
ロズマリーが玄関で『ロッズは先に出たよ! あたいはマリアンの側に居るからね!』と言っていたので最悪の事態にはなっていないはずだ。
守りのエキスパート【舞盾のロッズ】が本気を出す所を見れるかもしれない!
どうやって皆に自分の戦い振りを格好良く見せるか、新しい魔法も使って怪我人も治療してパーフェクトな勝利を目指そうと、ボクは色々考えていた。
心に有った余裕と油断は、北門へと向った先で粉々に砕かれる事になるとは思いもせずに……




